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11【夏休みの終わり】

今回はちょっとずつのつもりだったけど 少し長くなっちゃった。

 私は、避暑地のお父様の執務室で、もう一つのお願い事をしていた。

「冒険者登録を許してください」

「ならん」

 この世界では八歳から冒険者ギルドに登録して、討伐をはじめ、採集や護衛などの依頼を受けることができる。


「そもそも、将来王后になるものが、なぜ冒険者などをしなくてはいけないのだ」

「それは、より豊富な人生経験を得るためですわ」

「八歳の女の子が人生経験の意味を分かっているのか?」

「もちろん、私はすでに人生経験が豊富なんですよ」

「ぐっ、たしかに」

「でも、この国での人生経験が足りないわ。それに、私の治療魔法は、登録した冒険者としてなら使い道もあるし、もうフェルゼン殿下と婚約したのですから教会を跳ね除ける事が出来ますよね」

「そうだな」

「そうすれば、一人でも多くの民を救う事が出来ると思うのです。そして、その経験はもっと私の治療技術を向上する事が出来るはずなのです」

「たしかに」


 そばにはお母様もいらっしゃいます。

 私の味方としてご一緒してもらっているのだ。

「ほほほ、あなた、あきらめなさいな。マリーには口では勝てないわ」

「むぅ」

「それに、マリーは私より魔法が得意だし、剣術も馬術も私より素晴らしいわ」


 そう、辺境伯令嬢だったお母様も魔物から領地の民を守るために、剣術を習得し、冒険者活動をされていたの。Cランクのライセンスをお持ちなのよ。

 そんな私も、剣や馬の稽古は国民を守る王族の嗜みとして積み重ねてきたわ。もともと、体を動かすのも好きだしね。踊ってるだけじゃなかったのよ。そして多分、悪役令嬢のスキルがあるのかもしれないわ。


「ありがとうございますお母様。それに私が結婚するのはまだまだ先の事。それまではお父様のために動きたいわ」


 するとお父様は少しウルウルして、私を抱きしめてきた。

「わかった」

 ちょろいですわ。


「だが、約束しておくれ。お前は大事な娘なんだ。

 決して危ない依頼は受けない事、必ず冒険者ギルドか王城が勧めてきた女性のいるパーティーに所属して活動する事。

 そして何より、花嫁修業の方を優先する事。

 沢山あるように思うだろうけど、すべて守りなさい」


 数日後、私は朱金色の髪をポニーテールにし、シンプルで地味な革鎧を着て、フェルゼンと避暑地にある冒険者ギルドに来ていた。無事にGランクのライセンスカードを貰って。でも八歳の体格だから子供のコスプレみたいなのよね。


「それにしても、お前も前世の名前で登録するなんて。豊子って漢字で書くと少し古風だけど、カタカナでよむとひよこみたいだな。うん、冒険者のヒヨコちゃん」


 私のカードを撫でながら変なことを言わないで!


「あんたこそ、ケンイチで登録していたんじゃない!考えることは一緒ね!」

「夫婦は似るっていうからな」

「今回はまだ夫婦じゃなーい」


 もともと同級生だから対等に会話しているけど、周りから見たら十二歳と八歳の会話なのよ。ちびっ子がお兄ちゃんにぎゃんぎゃん言ってるみたいだったりして。

 それを自覚してピタッと動きを止める。


「ごめん、からかいすぎた?」

「ちがうの、そうじゃないから気にしないで」


 フェルゼンが学園の夏休みが終わるから、たぶん、今日限りのパーティーだけど、一緒に組んでくれるのは、この間隣のボートに乗ってた、フェルゼンの護衛のイガニスっていう人。どこかで見たなーって思ったら、この人も攻略対象だった。がっちり系の脳筋のひと。もちろん顔良し、ガタイも良しのAランクライセンス冒険者兼爵位のある騎士。


 そして、私の侍女のミミ。この人もBランクの独身冒険者で、護衛も兼ねて私の侍女になっている。


 ちなみに、ケンイチ(フェルゼン)のランクはD。

 12歳でDって、学園行きながら何しているんですか?


「さて、薬草採集に行きましょう殿・・」

「トヨコですミミ先輩」


 今日のメンバーで薬草を採集するのに丁度良いランクは私だけ。みんな私の付き合いなのよね。


 さて、今滞在している避暑地は、標高が高めで山や森も多い。だから涼しいのでしょうけど。

 ケンイチの案内で、魔物が出ないような街道からほんのちょっと入り込んだ森で薬草を探す。私たちは、冒険者ギルドで貸してもらった、薬草採取用の鋏と、箱のようなカバンを持っている。 四人で一つずつ。一つのカバンには一種類の植物しか入れてはいけないそうだ。それとは別に個人で持って帰る植物を入れるかばんも私は持った。


 私は隈笹を取るように言われている。これは確か胃炎に良かったんだっけ。お父様にお茶を作ってあげようかな、それから、子供の日によくこれであれを太一に作ったわね。お米は無いけど強力粉ならあったはず。考えたら私、太一が赤ちゃんだった時は専業主婦だったのよ。異世界で通用するスキルがあるんじゃない?


 思わず自分用のカバンにも大きな葉を沢山いれてしまう。


「トヨコ、自分でも持って帰るのか?」

「そう。ケンイチは明日朝出発するのよね」

「ああ、そうだよ」

「じゃあ、朝、別荘に寄ってくれない?」

「ああ、分かった」


 そして、私は無事に沢山の隈笹を採集して、冒険者デビューを果たした日の夜、厨房のシェフにお願いし倒して、料理を開始した。


「マリー殿下、なにをしているんですか?」

「ごめんなさいほんと、でも遊んでいるのじゃないから許して。後で説明するから!」


 私は製パン用にあった、強力粉を水を加えてこねてパン生地のようなものを作った後、布でくるんで水洗いをして、休ませて、など、シェフが驚く動きをひたすら繰り返していた。そして、砂糖を加えて・・・細長い餅のようなものが出来た!それを蒸して、採集して来た隈笹を水洗いしてそれで包んでまた蒸し上げる。


 途中で休ませている間に、自分も睡眠をとって、最後の仕上げは翌日の早朝だったけど。


「できた!」

「これは何ですか?」

「生麩ちまきよ。沢山作れたから、一つ食べてみて」


  子供の日に何度か作ったことがあった。生麩もマイブームで作ってみたことがあったしね。


 お城と違って、この保養施設に来ているシェフは一人だけだ。夕食のときはミミも手伝っている。

 蒸している間に私は朝食の準備もお手伝いした。

 卵を上手に割ったり、卵白と卵黄を分けられることも知られてびっくりされたけどね。


「なんか、初めての食感です」

「そう言うのを、もちもちするというのよ」

「それにしてもマリー殿下がこんなにお料理が上手なんて」

「上手って程でもないけど。料理が出来ることを、忘れていたわ。嫌いじゃないし。

 今度なにか作ってみるわね」

「おお、楽しみです!」


 そして、沢山出来た生麩ちまきを陶器の箱に入れていると、ケンイチが挨拶に来た。


「おはようございます、王后陛下」

「おはよう、フェルゼン殿下。昨夜からマリーがなにやら厨房でごそごそしているのよ」

「王女殿下はお料理が上手ですからね」

「今朝まで私も知らなかったのよ。今朝のオムレツをあの子が作ったなんてびっくりしたもの。

 そしてマヨネーズとかいう不思議なソースも出してきて。生卵で出来ていて怖かったけど、浄化魔法をかけたから平気だと言われて。食べたらあんなにおいしいなんて、気が付いたらキュウリを二本ほどぺろりと食べてしまったのよ」

「なるほど、マヨネーズか!俺はレシピを知らないからなー」


「お母様、なにの話をなさっているのですか?

 おはようございます、フェルゼン殿下」


「いえ、あなたが料理上手で、花嫁修業の項目が減りそうな話よ」

「それはいいですね。ちなみに私は刺繍だけじゃなくて、ちゃんとお裁縫も出来ますわよ」

「まあ」

「そうだね、よく太一の幼稚園のカバンとか作ってたな」

「ここは、ミシンがないから手縫いでやっていくしかないけどね」

「そうだな、ここはなんでも手間がかかるさ」

 眩しい金色の瞳の中に懐かしい表情も見つかっていく。


「ふふ。それで殿下、昨日隈笹を採集していたでしょ?」

「うん」

「それでこれを」

「あ、ちまき?すごい。作ってくれたの?」

「うん。ほら、お米とかがないから、小麦粉からグルテンを取り出してね」

「ああ、生麩!あれもうまいよな」

「これを太一じゃなかった、陛下に。あと消費期限は今日中で」


「わかった!絶対に渡す。というか俺の分を残して渡す」

「あはは」


 フェルゼン殿下は昨日一緒に冒険者活動をしてくれた護衛に箱を馬に取り付けたカバンに入れるように指示した後、

 振り向いてササっと近寄ったと思ったら、


 チュッ


「!」

 お母様が見ている前で私のファーストキスを奪う?しかも八歳の女の子の!

 まあ、今世のファーストキスだけど。


「まあ」

 お母様のそれは何だろう。振り向くのが怖いわ。


「じゃあ、また学校が連休の時に、王城の図書館に行くよ」

「もう・・・わかったわ。お待ちしています」

 私は一応のカーテシーをして送り出す。


 今度はちょっとの期間だけの別れだと分かっているのに、寂しいわ。

 って思ったら、振り向いて投げキスをしてきた。


 ・・・だからそんなキャラだったっけ。



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