10【真夏の昼の夢】
とうとう俺は再び豊子いやマリー姫と婚約をする事が出来た。
前世でも俺は緊張しながら、彼女の親に挨拶しに行ったよな。
今回はコブいや太一いや父王付きだったが。
俺は前世で、祖父が見ていた時代劇にあこがれて、サムライがかっこよくて、近くの文化教室でやっていた剣道に通っていた、柔道や空手などと違って、成長に合わせて防具を買いなおしたり、竹刀が摩耗して買いなおしたりと、少し経費の掛かる武道だったが、若いころに同じく剣道を嗜んでいた祖父の助けもあって、長く通っていた。
進学した中学にも剣道部があったが、俺は文化教室に通うのも目的だったので、部活には入らず、帰宅部員だった。
文化教室の剣道の前の時間はたいてい、女の子達が通っているバレエ教室だった。本当は男子も参加できるそうだが、一人もいなかったのと、俺は剣道がやりたかったので、ときどき見る専門だった。
レオタードが好きという事では・・・まあ見るのは好きだったけどね。
おれはその、バレエ教室でいつも一生懸命に取り組んでいた豊子をコッソリ見ていた。
スリムな体に長い手足を伸ばして、ハッとするほどきれいな動きにいつも見惚れていた。
他にもたくさんの女子が踊っていたけど、俺はついつい豊子を目で追ってしまっていたんだ。
中学校まで、学校では全然かかわりのない生徒同士というスタンスだったけど、ときどき目で合図をしたり、口パクでなにかメッセージをやり取りするのがとても楽しかった。何かがあいつと繋がっている感じがしていた。
それでも俺は将来、医療の道に進むと決めていたから、帰宅部のまま必死で勉強もしていた。ただ、中三のある日、豊子の希望進路先を知ってしまった俺は、どうしても同じ高校に行きたくなって、同じ医者をしていた父にお願いした。
大学は医学部のある一流の大学を目指すから、どうしても高校はそこに入試と入学をさせてくれと。
お互い剣道もバレエもやめて文化教室に通うという共通の繋がりを無くしたところだった。文化教室の建物も取り壊さる予定になっていたからな。
そして、高校の入学式で豊子を探した後に見つけた俺は、次の日すぐに交際を申し込んだのだった。
俺は父との約束を果たすため、昼は豊子と高校生活を楽しみながら、放課後は予備校に通って夜は勉強するという忙しい学生生活をしていた。それでも、将来の目標がはっきりしていたから充実していた。
俺が医大に進むと、豊子は看護の専門学校に進んだ。なんでも俺に影響されて医療の世界に興味が出たのと、看護士にならなれるかもしれないし、職場も同じになればいいねと言ってくれた。それでも恋人同士だったから、二人の時間が合えば定期的にデートもしたりしていた。
医師になるには時間がかかる。豊子の方が先に看護士になり、病院へ勤めだした。
その後しばらくして長かった医大生を卒業し、研修医になった俺も忙しくなってデートなどで会うことが難しくなったので、一緒に暮らすことになった。お互い夜勤などもあってすれ違う日々だったけど、一緒に暮らしていると絶対に顔を会わせられたり、寝顔に声を掛けられたり出来たのが良かった。
晴れて、研修医も卒業して正式に医師としてのスタートを切った俺は、すぐに豊子にプロポーズをして、彼女の親にも申し込みに行った。
小学校からの幼馴染でもある俺たちは、もちろんお互いの親も参観などでみかけたり、母親同士もPTAなどで逢っていたから、多少は緊張していたけど、すんなり婚約することが出来た。
そうして俺たちは長い長い道のりを経て、中学校の同級生をいっぱい呼んだ結婚式をして、新婚旅行に行った。
だが、その新婚旅行先で豊子に告げられた。子宮がんを患っていたことを。
いつも、天真爛漫な明るい豊子が泣きながら俺に謝ってくるんだ。
「ごめんなさい。私にはもう子供が生めないの」
ずっと一緒に暮らしていたのに、なぜ彼女のことが分からなかったのだろう。
「大丈夫、大丈夫だから、帰ったらすぐに治療に入ろう」
「うん」
そして、旅行から帰ってすぐに豊子は入院した。
なんとか治療は間に合って、半年ほどで新婚生活を仕切りなおす事が出来た。
でも、子育てを夢見ていた豊子が、外で幸せそうな赤ちゃん連れを見て俺に出来るだけ悟られないように悲しそうな顔をするのが辛かった。俺も、子供が好きだと言ってしまっていたし、なおさら辛かったかもしれない。
そんなある日、俺は先輩の医師に里親制度のことを教わった。何でもその人も一人育てていて、もうすぐ特別養子縁組をするそうだ。その先輩医師は本当に幸せそうに、里子との生活を教えてくれた。
夕食のテーブルで、俺は豊子に里親の話を切り出した。
他人の子の世話なんてどうなんだろうと半分不安になりながらも話していると、豊子はたちまち笑顔になって、
「うちにも迎えましょう!私はほら、病気が治ってから近くのクリニックのパートのナースになっているんだし、迎え入れた子供が大きくなるまでは専業主婦でもいいしね」
夫婦そろって、里親になるための研修をしたり、ファミリー向けのマンションに引っ越ししたりして、子供を迎える準備をした。
里親を世話してくれる機関に紹介されて、初めて訪れた施設で、初めて目が合った赤ん坊が、太一だったのだ。
そんな前世の思い出を掘り起こすように、俺は、マリーが滞在している別荘のすぐそばの宿に夏休みいっぱいまでの宿代を前払いして、図書室を訪れた時のように、良いところの平民の格好で、マリーとのデートに勤しんでいた。
マリーも商家のお嬢さんという平民の服装で、侍女と一緒に付いて来てもらってた。
俺が連れてきている護衛とマリーの侍女を湖のボートに乗せ、俺たちも二人きりでボートに乗った。
護衛と侍女はどちらも独身だし、うまくいくといいよな。
「昔もデートでボートに乗ったな」
「あのときはこういう手漕ぎじゃなくて足で二人でパタパタする」
「そうそう、スワンの形の」
「懐かしいわ~」
マリーちゃん、普通八歳児は懐かしいという言葉は使わないんだよ。
「俺、こっちで赤ん坊の時に部屋に置かれていたオマルが白鳥の形でさ、それをついこの間まで末の弟王子が使ってたよ」
「ははは、私のもスワンのオマルだったわ」
「オマルを見るたびに豊子を思い出しててさ」
「えーなにそれ!ひどい」
「ははは、ごめんって。でもしょうがないだろう!」
「なんちゃって、あたしは自分の部屋にあったオマルで思い出してた」
ほぼ生まれてすぐに前世の意識を取り戻したマリーは、かなり早くにオムツ離れできたんだって。トイレを使うには小さすぎてオマルだったらしい。
オマルにまたがる赤ちゃんマリーの姿をつい・・・いかんいかん。俺は変態じゃないぞ!
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