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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「権兵衛狸」

作者: 霧夜シオン
掲載日:2025/03/07


落語声劇「権兵衛狸(ごんべえだぬき)」


台本化:霧夜(きりや)シオン@吟囁亭喃咄(ぎんじょうていなんとつ)


所要時間:約20分


必要演者数:2名

      (0:0:2)

      (2:0:0)【性別準拠人数比率】

      (1:1:0)

      (0:2:0)


※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。



●登場人物


権兵衛(ごんべえ):山のふもとに住んでいる。

    床屋を営むかたわら、農家もやってる。


狸(たぬき):山に住んでる狸(たぬき)。人の言葉を覚えているがいたずら好き。


吾作(ごさく):権兵衛(ごんべえ)さんの友達。

   狸鍋(たぬきなべ)大好き。


語り:雰囲気を大事に。



●配役例


権兵衛・枕:

友人・狸・語り:


※演者各位の故郷の方言でもって演じてみてもよろしいかと思います。



枕:狐七化(きつねななば)け、狸(たぬき)は八化(やば)けという言葉がございます。

  これは狐(きつね)より狸(たぬき)の方が化けるのが一枚上手(いちまいうわて)だという事なのですが、

  なぜ狸(たぬき)の方が上手(うわて)かと言いますと、狐は直(じか)に人を化かしますが、

  狸(たぬき)は物に化けることができるから、てのがあるんだとか。

  あとはイメージでしょうか。狐(きつね)はどことなくずる賢いという印象を

  与えますが、狸(たぬき)は信楽焼(しがらきやき)などに見られるように、どこかとぼけていて

  愛嬌(あいきょう)がある。そういった点も先の言葉に現れているんじゃないでしょ

  うか。

  昔は今と違って土地開発の技術も機械もあるわけじゃないですから

  、すぐそばに山がある、なんてのは当たり前でした。

  そうなると狐(きつね)だの狸(たぬき)だのと言うのは、当然身近な存在であったわけで

  すな。


語り:とある村の話でございまして、権兵衛(ごんべえ)さんてのがおりました。

   この人は床屋(とこや)の職人さんでして、そのかたわらで野菜などを作って

   日々の生計を立てていました。こういう所には日が暮れるってと

   若い者たちが集まって酒を飲んだり、渋茶(しぶちゃ)に菓子をつまむなどして

   四方山話(よもやまばなし)に花を咲かせ、夜がそろそろ更(ふ)けてくるってえと解散する

   、そういうまことにのんびりした時代だったそうです。

   その日も権兵衛(ごんべえ)さん家(ち)に集まって皆でわいわいわいわいやって、

   やがてぽつぽつぽつぽつ帰る者が出だして、

   最後には権兵衛(ごんべえ)さんひとり。


権兵衛:さあて、そろそろ寝るかねえ。

    【以下長くなりすぎなければ最近の時事を取り入れるのも可】

    …近頃は物価がずいぶん上がったなあ…。

    入って来る金は少ねえのに出て行く金が増えるってな。

    底の漏(も)る桶(おけ)に手で水汲(みずく)んで入れてるようなもんだぁ…。

    これからどうなるんだろうなぁ…。


狸:【戸を叩きながら】

  こんぺい、こんぺい。


権兵衛:ん?誰だ、こんな時間に?

    ?こん平(ぺい)?

    たしか裏山むこうのふもとの千谷沢(チャーザー)村にこん平(ぺい)っておったな。

    けどもう五年前に死んだって聞いたぞ。


    …家(うち)を間違ってねえかい!?


狸:【戸を叩きながら】

  ……。

  ごんべい、ごんべい。


権兵衛:…ぉ?言い直したぞ。

    まぁ言い間違(まちが)っただけかもしれんしな。

    誰だ? ただ権兵衛(ごんべえ)権兵衛(ごんべえ)言っててもわかんねえぞ。

    どれ、いま開けるからな。


    【二拍】

    【しまりを外して】

    はい、どちらさん?……おや、誰もいねえぞ。

    やっぱり間違(まちが)って訪(たず)ねてきたか?

    でもあんなに月明かりがあって間違うかね…?

    しょうがねえな…っと。【戸を閉めてしまりをする】

    …どっこらしょ。

    …寝るかーー


狸:【↑の語尾に喰い気味に戸を叩きながら】

  ごんべい、ごんべい。


権兵衛:なんだ、また来やがったぞ。

    やっぱりうちが目当(めあ)てなのか?


    【二拍】


    はいはい、どちらーーーんぉ?いねえじゃねえか。

    うーん……?

    村のもんが酔っぱらって来たのか…。

    ったく、悪さするなぁ…【戸を閉めてしまりをする】

    やれやれ…っと…。


狸:【↑の語尾に喰い気味に戸を叩きながら】

  ごんべい、ごんべい。


権兵衛:やっぱり村の若(わけ)え奴が悪(わる)さしに来たな。

    与太郎(よたろう)か?八五郎(はちごろう)か? 

    ったくしょうがねえ…。

    【戸を開けて】

    こら!こんな夜中にイタズラするでねえ!ーーって、おぉ?

    また誰もいねえぞ?

    うーーん…?

    何度も戸締(とじま)りするのも疲れてきたぞ…。

    【せんべい布団にもぐり込む】


狸:【戸を叩きながら】

  ごんべい、ごんべい。


権兵衛:おやっ、また来やがったぞ。

    【はたと膝を叩いてつぶやく】

    そういやさっき、空に出てたのは満月だったな。

    …ははぁ、こらぁきっと狸(たぬき)だ。

    野郎、おらを化(ば)かしに来やがったな。

    そうはいかねえ、あべこべに目にもの見せてやるぞ。


語り:余談ですが、この狸(たぬき)が戸を叩くというのが、

   【以下、好きな団体名と個人名を入れても良いです。↓は一例】

   だいぶ昔に落語協会内で議論になったそうで。

   立川談志(たてかわだんし)師匠は前足で叩いている、柳家小三治(やなぎやこさんじ)師匠はいいや、尻尾(しっぽ)

   で叩いている、てんでまぁ揉(も)めに揉(も)めたそうで。

   そこでお二方(ふたかた)の師匠である柳家(やなぎや)小(こ)さん師匠が、まぁ待て待て、

   尻尾(しっぽ)だとばっさばっさ音がする。

   かといって前足というのも、横を向いて低い位置で叩くことに

   なるからおかしな話だ。

   後ろ足で立って頭の後ろでドンドンドンドン叩いている、

   そうすればちょうど人間が戸を叩いている感じになる、

   と仲裁(ちゅうさい)したそうで。ほんとかどうかは分かりませんが。

   それはさておき。

   権兵衛(ごんべえ)さんこっそり起き上がると音を立てずにしまりを外し、

   戸に手を掛けて息をひそめました。


権兵衛:【つぶやく】

    ぉっ、ちいせえが足音がするぞ。

    やっぱり狸(たぬき)だな。


狸:【戸を叩きながら】

  ごんべい、ごんべーー


権兵衛:【↑の語尾に喰い気味に。戸を開けて】

    ッ!このッ!やろぉッ!


狸:ギャッ! ギァァッ!


権兵衛:【ドタンバタンするSEあれば】

    おっ、このッ、ひっかきやがったなッ!

    悪さしやがってこのッ、こんちきしょッ!

    このっ、このッ!!


語り:格闘すること十数分、ついに狸(たぬき)を捕獲した権兵衛(ごんべえ)さん。

   縄でぐるぐる巻きにされた狸(たぬき)、なんだか恨(うら)めしそうに見上げる。


権兵衛:~~~ッ、つぅ~っ、いててて…。

    この野郎、ひっかきまくりよって!

    腕も顔も、傷だらけになっちまったでねえか!


狸:…ごんべい。


権兵衛:なにが権兵衛(ごんべえ)だ。

    夜中にやってきて悪(わる)さしよって!

    今日はもう遅(おせ)えから、おめえの事は朝に決める。

    こうして、こうして…そこにぶる下がってろ。


狸:…ごんべい。


権兵衛:うるせえ、権兵衛(ごんべえ)権兵衛(ごんべえ)言いよって。

    これ以上騒いだら承知しねえぞ。


語り:権兵衛(ごんべえ)さん、狸(たぬき)を天井(てんじょう)の梁(はり)から吊(つ)り下げると、布団(ふとん)に潜(もぐ)り込んで

   やっと寝ました。

   やがてカラスカァで夜が明ける。

   朝飯(あさめし)ガサガサ食って渋茶(しぶちゃ)をズズッと啜(すす)って

   、狸(たぬき)を見上げます。


権兵衛:【茶をすする】

    さて…狸(たぬき)どうすべえ…。


吾作:よぉ、権兵衛(ごんべえ)さんいるかい!?


権兵衛:おう吾作(ごさく)でねえか、開いてるぞ!

    入って来い入って来い!


    今日はまたずいぶん早(はえ)えなぁ。


吾作:いやぁ寝てるとな、とっつぁまがうるせえだよ。

   早く行け早く行けってな。


権兵衛:まぁまぁまず座れ、茶ぁ煎(い)れるでな。

    もろみの漬(つ)けたのもあるぞ。


吾作:?権兵衛(ごんべえ)さんどうした?

   顔だの腕だの傷だらけでねえか。

   なんかあったのかい?


権兵衛:おぉ、ゆんべ来やがってな。


吾作:なにが来た?

   泥棒(どろぼう)か?


権兵衛:泥棒(どろぼう)じゃねえ。

    ほれ、おめえの頭の上(うえ)ぇ見ろ。


吾作:ぉ?

   おぉ!?狸(たぬき)でねえか?

   こりゃあいったいどうしたんだ?


権兵衛:いやあ、昨日の夜に来やがってな、

    戸(と)ぉ叩いて権兵衛(ごんべえ)権兵衛(ごんべえ)言って開けたら誰もいねえ、

    閉めるとまた権兵衛(ごんべえ)言いやがって悪(わる)さするもんだから

    頭さ来てな、計略でもってとっつかまえたんだ。


吾作:へえぇそうかい!

   じゃあこいつだな、四日ぐれえ前の夜に来て、

   吾作(ごさく)吾作(ごさく)言って戸(と)ぉ叩いてたのは!


権兵衛:なに、おめえのとこにも悪(わる)さしに行ってたか。

    ふーむ…今な、こいつをどうすべえかと思ってたとこだ。


吾作:食うべ、食ってしまうべ。

   狸汁(たぬきじる)、うめえだよ。


権兵衛:なに、狸汁(たぬきじる)?


吾作:おぉよ、なァにわけねえ。

   腹ァスーッと縦に割(さ)いて、はらわたァ取って肥(こ)やしにしてな、

   肉(にく)ァくせぇからぶつぶつ切って、鍋(なべ)に味噌(みそ)と根深(ねぶか)と一緒に

   ほうり込んでぐらぐら煮(に)てよ、村の皆さ食わしたら良(よ)かんべ。

   あ、皮は干(ほ)して売るべ。

   半分おらがもらうで。


権兵衛:なんでおめえに半分やらにゃならんのだ?


吾作:まあまあいいから、食うべ食うべ、食っちまうべ。

   皮ぁ売るべ。


権兵衛:ぁ~…けどなあ、今日はおらのかか様の祥月命日(しょうつきめいにち)でな。

    殺生(せっしょう)したら悪(わる)かんべえ。


吾作:悪くなかんべえ、この狸(たぬき)ァ悪い事したんだ。

   悪い事してねえんだったらそりゃあ良くねえ。

   悪い事してねえのを命とったらいけねえよ、そらぁ分かる。

   だけんどこいつは悪いことしたんだ。

   悪いことしたんだったら殺さなきゃなんねえ。

   悪いことした奴はみぃんな殺すのが一番だ。

   そうすると悪いことした奴はみんないなくなるでな。


権兵衛:でもなあ…


吾作:でもも何もねえ、許すからいけねえんだ。

   やんべやんべえ。

   鍋(なべ)にして食うべえよー、たまらねえよー、うめえべよー、

   皮剥(かわは)ぐべえよー、売るべえよー、

   なー、やるべえよー。


権兵衛:うーむ…。


語り:狸(たぬき)は生きた心地(ここち)もなく、吊(つ)り下げられた体を縮(ちぢ)こまらせた。

   そりゃあ無理もありません。

   目の前で自分を殺そうだの食おうだの、あげく皮を剥(は)いで売ろうだ

   のと残酷な事を言い合ってるわけです。


権兵衛:まぁまぁまぁまぁ待て、そう言うでねえ。

    それも分からねえではねえけど、おらに考えがあるでな。

    とりあえず下ろしてやるべ。


    【二拍】


    これッ、狸(たぬき)ッ!


狸:…ごんべい。


権兵衛:まだ権兵衛(ごんべえ)言いやがるか!

    おらがここでうんと言ったら、おめえの命なくなるぞ!

    さっきも言ったが、今日はおらのかか様の祥月命日(しょうつきめいにち)だ。

    命は助けてやるから、よくよくかか様に感謝せえ。

    吾作(ごさく)、その箱こっち持ってきてくれ。


吾作:なにが入ってるんだ?


権兵衛:床屋(とこや)の仕事箱だ。

    人間でも畜生(ちくしょう)でもな、悪(わる)さしたら坊主頭(ぼうずあたま)になるもんだ。

    だからおめえの頭の毛をな、刈(か)ってくれる。

    こんなに伸ばしよって、血がのぼったら悪(わる)さするようになるでな

    。

    吾作(ごさく)、しっかり押さえておいてくれや。


吾作:えぇ~、食うべえよ~。


権兵衛:おめえもまだ言うか。

    ったく、ちゃんとつかまえてろよ。


    【以下、一文ごとにハサミで切るSEあれば】

    ぁ~、動くでねえ動くでねえぞ~。

    刈(か)るのはうめえんだぞ~、

    おらァ床屋(とこや)だからな。

    村の子供の頭はみんなおらが刈(か)ったもんだ。

    どこさハゲがあって、どこさシラクモがあるか知ってるだよ。


    ん~そうだなぁ、いっそのことくりくり坊主にしてやろうかな。

    あぁ動くな動くな、水につけて…よいしょ、よいしょ…、


    こうあてて…


    こう剃(そ)って…


    よぉし、できたぞ。

    いいか、悪(わる)さしたくなったら自分の頭さ手ぇやってよく考えろ。

    なぜそういう事になったかてのを、よく考えなきゃいけねえぞ。

    わかったな?

    二度と人間に悪(わる)さするでねえぞ。

    ほれ行け、どこでも行け。


語り:解放された狸(たぬき)、しばし立ち去りがたかったのか、

   立ち止まってぺこっと頭下げ、

   また少し行っては立ち止まってぺこり頭下げます。

   心なしか涙が浮かんで見えた。

   しばらくそうやったあと、ふっときびすを返して藪(やぶ)の中に

   消えていきました。


権兵衛:生き物の命を助けるてのも、いい心持(こころも)ちなもんだなぁ。


吾作:まぁ…言われてみればそうかもしんねえ。

   四日ばかり前にゴキブリ一匹助けたが、そん時(とき)ゃあすがすがしかっ

   たなァ。


権兵衛:ゴキブリに自分の命を助けられたことが分かるもんかね…?


語り:権兵衛(ごんべえ)さんが狸(たぬき)を助けた話、狭(せま)い村なもんだから一気に広まりまし

   た。

   はじめ狸(たぬき)一匹だったのが、背丈(せたけ)が六尺(ろくしゃく)に伸びるわ、

   そのデカいのが二頭で襲ってきたとなるわで、

   まぁ話に尾ひれ背びれ胸びれが豪華について大きくなってる。

   果(は)てはちょっとした英雄みたいになった権兵衛(ごんべえ)さんだったが、

   夜が来ればいつもの通り若いのが集まってわいわいわいわい、

   みんなが帰った後は軽く寝酒(ねざけ)を一杯。


権兵衛:さあて…そろそろ寝るか…。


狸:【戸を叩きながら】

  権兵衛(ごんべえ)さん、権兵衛(ごんべえ)さん。


権兵衛:あっ、昨日の狸(たぬき)か!?

    この野郎、また来やがったのか!

    ゆんべは権兵衛(ごんべえ)権兵衛(ごんべえ)呼び捨てだったのに、

    助けられたからって今度はさん付(づ)けしてやがる。

    さん付(つ)けりゃいいってもんじゃねえぞ。

    どうするか見てろォ…!


    【二拍】

    【戸をガラリ開けるSEあれば】

    

    ッこらッ!また悪(わる)さしに来たかッ!?


狸:親方(おやかた)、今晩ヒゲやってくんねえ。




終劇




参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


立川談志(七代目)

古今亭志ん生(五代目)

金原亭龍馬


※用語解説


こん平(ぺい):言わずと知れた国民的演芸番組、笑点の最初期からのレギュラー

    メンバーであった故・林家(はやしや)こん平(ぺい)師匠。

    林家(はやしや)たい平師匠の師匠。

    笑点で見せる豪快さとは裏腹に繊細(せんさい)な人柄でもあったと伝わる。

    2020年12月17日没、享年77才。

    一度でいいから卓球を一手ご指南(しなん)願いたかった。


千谷沢村(ちやざわむら):なまってチャーザー村。こん平師匠の出身地。


根深(ねぶか):ネギの別名。


しらくも:頭部白癬(とうぶはくせん)のこと。髪の毛に白癬菌(はくせんきん)というカビが寄生して発症す

     る病気。


祥月命日(しょうつきめいにち):故人が亡くなった月と同じ月日のことで、故人の一周忌以降

     毎年訪れます。忌日(きにち)や正忌日(しょうきじつ)とも呼ばれます。


六尺:今の長さで1.8メートル。




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