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# 二


「オール・リスク・カバレッジ! 略奪被害もお任せください!」


銀河系の公共ホログラム放送で流れる映像は、スーツ姿のヨーダが優しく微笑みながら保険証書を掲げているものだった。背景には真っ赤な海賊旗。ただし、ドクロマークの目にはインテリ風の眼鏡が加えられ、交差した骨はモップとホウキになっている。


「当海賊団では、略奪行為の前後で徹底的な清掃を実施。防塵対策もバッチリです」


「船長、いくらなんでもモップとホウキは...」マリアが渋い顔で言う。


「いいえ、清潔な略奪こそが保険海賊の真髄です」会議室でCMの確認をしていたヨーダは、眼鏡を直しながら断言した。


「なお、当海賊団フルサービスプランでは、略奪品の買取オプションも!」


ホログラムのヨーダの横に、デビッドが電卓を叩きながら現れる。「減価償却を考慮した適正価格で、その場で現金化!」


マリアは机に突っ伏した。あの真面目すぎる経理担当を放送に出すというアイデアを承認したのは誰だったか。...ああ、そうだった。保険勧誘CMなのに海賊が出演することへの倫理的是非について、ヨーダが六時間のプレゼンをした末の全会一致だった。


「さらに!今なら春の新生活応援キャンペーン実施中!ご契約者様には、非略奪時の記念撮影を無料サービス!」


「...社内稟議を通さずにサービスを追加しましたね?」マリアが氷のような声で指摘する。


「あ、いえ、その...」ヨーダが焦って書類を探り始めた。「企画書なら作成済みで...」


突如、会議室のドアが勢いよく開く。


「船長!大変です!」新人海賊のジェニーが飛び込んできた。彼女は先月、宇宙海賊保険の通信営業から転職してきた期待の新星だ。「CMの反響が凄すぎて、コールセンターが悲鳴をあげています!」


「なに!?」


応接フロアに駆けつけた一行を出迎えたのは、鳴り止まぬ通信着信音と、パンクしかけた予約管理システムだった。


「略奪予約が殺到して、向こう三ヶ月分のスケジュールが埋まりました」システム担当のタカシが報告する。「しかも、ほとんどがフルサービスプランです」


「これは...予想以上の反響」ヨーダが眼鏡を光らせる。「よし、シフト表を組み直します。まず略奪効率化プロジェクトチームを発足させ...」


「船長」マリアが静かに言う。「このCM、他の海賊団の目にも触れていますよね?」


一瞬の静寂が会議室を支配した。


「まさか、あいつらが...」デビッドが絶句する。


銀河テレビのニュース速報が流れ始めた。


『老舗海賊団「荒くれ無法者」が緊急記者会見。「保険なんて気の利いた真似をする連中は、海賊失格だ」と、保険完備海賊団に宣戦布告...』


「船長、彼らの保険料率、調べましたよ」情報分析官のサエコが報告する。「超過危険率が跳ね上がってる無保険者集団です」


「なんと...」ヨーダは立ち上がった。「皆さん、我々には使命があります。彼らを、保険の正しい在り方に導かねばなりません」


「はい!」全員で声を合わせる。「労災保険!積荷保険!船体保険!我らの誓い!」


歴史に残るであろう保険海賊戦争の幕が、こうして切って落とされた。ただし、最初の戦闘は、予約スケジュール調整という泥臭い作業になるのだが―。


その頃、敵の親分は自分のCMの企画会議で激怒していた。「なんだこのキャッチコピー!『荒くれ無期保険・共済』って、ダサすぎるだろ!」

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