強行手段
『街に迫りくる溶岩!そして街から逃げ惑う人々!ああ……!救いの手は刻一刻と近づいているのに……!』
「オッケー!カット!次、タクトの番だな」
「いやいや、何呑気にドキュメンタリー番組にしてんだよ。ラスタもチェックも避難指示の方に回ってくれって」
「えー……でもタクト、俺達が言っても街の人達聞いてくれねえじゃん」
「……まあな。バルとラドゥは城に置いてきたけどさ。お偉いさん達が動かねえと何ともならねえからなぁ……」
「アレ?イアン君は?」
「ああ、イアンは街の兵士達に混じって門を閉じようとしてるみたいだな」
「……反発起こってるみたいだけどな」
ラスタとチェックを相手に、待ち時間の焦りを誤魔化そうとす
る俺。
そう、俺達は最速で竜人の国ハジャフールに到着はしていたんだ。今は、王宮の庭に着陸させた魔導ポッツ内で待機中の俺達。
でも外では依然火山からマグマは溢れ出し、あと数時間後に到着しそうなのにも関わらず、今、軍で会議が開かれているらしい。
「正直、国だから面倒なのはわかっていたけどさ……危ないのに
悠長だよなぁ」
「ほっほっほ、タクトや。いざとなったらここに植えてしまえばいいじゃろ。あやつらの都合なんぞ、命と比べれば大した事はあるまい」
「確かに……[万物の樹の盾]と言われた部族が、すぐに守り人であるタクトを迎えに来ないとはなにをやっているんだか……!」
「まー、強攻派や中立派が居るって言ってたっすからねぇ。こう言う時、国が一枚岩じゃないってのは面倒っすよ」
ガロ爺、笑顔で言っていたけど結構実は怒っているんじゃないかと思う程だ。エランは厳しい表情をしているし、クーパーも呆れている表情だし。
「案外、力任せに防ごうとしていそうだよなぁ」
「竜人達の魔力でか?まあ、それで何とかなるならみてみたいよな」
「やってみろって感じっすわ。あ、ケーキできたっすよ」
「きゃー!ケーキぃ!」
「ラスタ食い過ぎんなよ!」
「グーグっ!」
「リーフ早っ!もう席に着いてる!」
俺の予想に腕を組みながら竜人達を見下すエランに、なんだかんだ言いながら手を動かしケーキを作っていたクーパー。
ラスタは目をハートマークにさせてケーキしか見ていないし、チェックもまた機材を急ぎ片付けている。
……俺達も大概だよなあ。
俺もケーキを食いながらそんな事を考えている中、ガチャっと扉を開けて入ってくるバル。
「あーーーックソっ!頭の硬い爺ィ共め!」
頭をくしゃくしゃにして怒りのまま入ってきたバルに、タタっと近づきケーキを差し出すリーフ。
「グーグゥグーグ♪」
「『気分転換にどうぞ』だそうっすよ?」
口の周りにクリームをつけたリーフに、肩の力が抜けたのかそのまま一口で食べ切るバル。
「ん!んまい!」
「大変っすねー。団長といえどすぐには意見が通らないんすね」
「うちの元老院は強硬派が多くてな。今更万物の樹に頼らんでも乗り切ってみせるわっていう馬鹿どもばかりでよ……参っちまったぜ」
ケーキを食べながら器用に言うバルにクーパーもお代わりを持って労っている。
「アレ?バル、ラドゥはどうした?」
「俺よりあいつの方がこう言う事得意だからなぁ。任せてきた。タクト、マグマの到着は後どれくらいだ?」
「あー……さっき見たらあと2時間あるかないかって感じだな」
「なら、魔導ポッツの移動を頼む。ラドゥにも言ってあるんだ。時間が押しているから強行手段に出るとな」
ニヤリと笑うバルは心底腹が立っていたのか、腕を組みながら王宮を睨む。
「良いけどよ。どこに行くんだ?」
「まあ、今よりは良いとこだな」
そう言ってバルが指定したところはーーーーーー
「あ!バル様!バル様だよ」
「やっぱりきてくれたんだ!」
「バル様僕達きちんと待ってたんだよ?」
「街の人達いう事聞かずに逃げちゃったの」
「大丈夫なんだよね。万物の樹が僕らを守ってくれるんでしょ?」
街の外れにある建物の敷地に着陸した魔導ポッツ。魔導ポッツから一番に出たバルが、様々な獣人の子供達に囲まれて質問攻めにされている。
身体大きなバルにも物おじせず登ったり、抱きついたりする小さな獣人達はとても可愛い。が、子供の数が圧倒的に多いし、こんな事態なのに親の姿は見えない。
「バル、……ここは孤児院か?」
「ああ、俺が出資している孤児院だ。コイツらには、万物の樹や守り人の事もよく言い聞かせているから、動きやすいぜ」
「……てっきり兵士の塔にでも行くのかと思った」
「あそこも色々派閥があって動き辛いからな。街が救われるならどこでも良いだろ」
もはや、バルも相当頭に来ていたのか「あいつらに目にもの見せてやる!」と怒り気味だ。
「それにここの孤児院には土地だけはあるからな」
子供を抱き抱えたまま、バルが俺達を連れてきたのは孤児院の裏の森。
バルは今までの戦いの褒章を土地でもらっていたらしい。この森には木ノ実や森の恵みが豊富な分、魔物も良く訪れるという厄介な面もある為、直属の兵士達に訓練という名の間引きを行わせていたらしい。
俺達は、森の匂いにも癒されつつも風が運ぶ草や木の燃えた匂いに、目視でもマグマが見え始めてきた為これ以上は時間をかけるのは危険だと誰もが感じていた。
「タクトよ。そろそろ良いじゃろう」
「驚かしてやるっすよ!」
「力を見せつけるには良い時間だ」
『間もなくタクト様による、竜人国救出劇が始まります!我らはその貴重な瞬間に立ち会えるのです!』
「よし、カット!次、タクト!」
ガロ爺やクーパーとエランも腹に据えかねていたのか、いい笑顔でやってやれと俺に合図を送ってくる。
……ラスタとチェックに至っては、どんな状況でも報道するプロ意識が高すぎて口が空いたままになるけどな。
子供達や孤児院の大人達もこんな状況なのに落ち着いているのは、万物の樹の力に対する思いをしっかり培っているからだろう。
うん、植えるならこの場所がいいな。
素直にそう思った俺は、弱い[エアジップトレース]で地面に穴を開けて、リーフに持たせていた赤い胡桃をその場所に植えて貰う。
この作業はリーフは誰にも譲らないんだよ。
丁寧に丁寧に土を被せてしっかり固めて、ポンポンと叩く姿はしっかり育てと願いを込めているようだ。
「グッ!」
リーフが立ち上がって俺の側まできたら、俺が言うのはこの言葉。
「グロウアップ!」
すると、息吹の樹の種を植えた場所を中心にシュンと風が起こり、森の木を取り込みつつ一気に大樹へと成長した息吹の樹。
更に枝を伸ばし葉を広げ、大樹の色全体が真っ赤に染まった時ーーー
爽やかな風と共に空を覆い広がっていく虹色のドーム。
街を国を逃げた人々を飲み込み、触れたマグマを消滅させていく様を、誰しもが息を止めて見守っていた。
そして、息吹の樹がやり終えたと言わんばかりに自ら光を放ち、光が収束した際に人々が目にしたのは、真っ赤な大樹に黒い立派な土台の様な円形の建物。
その場にあった孤児院も吸収されたのか、もはや周囲には何もない。
あるのは水色の透明のドームに守られた竜人の国。
その圧倒的な力に、目の前で起こった奇跡に、人々は次第に我を取り戻し、自分達が助かった事を理解し始める。
そして徐々に上がりだす歓喜の叫び。
家族と抱き合い、恋人と抱き合い、同僚と抱き合い、竜人の兵士達と獣人の街人が抱き合い喜びを共にする。
そして、人は息吹の樹を見上げて讃えだす。
「万物の樹に祝福を!」
「我らを守り支える万物の樹に、感謝の祈りを!」
波紋の様に広がっていく歓喜の歌は、その日一日収まる事はなかったというーーー
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1日置きにまた更新開始します。最後まで走りきりますのでよろしくお願いします。