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深緑祭後の変化

 あの後、チェックのやらかしが発覚してから、《万物の樹》空港が騒がしくなった。


 深緑祭の日から一週間後の現在、《万物の樹》空港ターミナルビル2Fではーーーーー


 「クーパー!遅い!」


 「わりぃ、ププカ。でも、今日の万物様の酒は凄いぞ!大量のウィスキーと日本酒が入荷したんだ」


 「おおっ!流石万物様!売れ筋商品わかってらっしゃる!」


 レインタクシーを使ったミニコロボックルのクーパーの輸送を心待ちにしていたのは、『リカーショップタクト』の店主のフォレストドワーフのププカ。


 このププカという男。『リカーショップタクト』を任せられるだけあって仕事が早く、誠実・頑固・職人気質・愛妻家というフォレストドワーフの中のフォレストドワーフと言われる人物。


 そのププカも先日のコラルド人とのやりとりを視聴するまでは、他の人種を格下に見る生粋のフォレストドワーフだった。


 「タクト様の名を背負ってる俺が、この波に乗り遅れちゃならねえ!」


 視聴後、気合いをいれて吠えたこの男。次の日から『リカーショップタクト』店を開店させ、押し寄せるお客を捌きつつ、ある準備をするようになった。


 そんなププカの店の入り口には、注意書きとしてこんな張り紙が貼っている。


 『商品は支給式の為、全てのお客様には行き渡らない事をご了承下さい。その為、当店ではコラルド人との交易再会後、コラルド人製作のエールを販売する予定です。販売時期は追って詳細をお伝えします』


 そんなププカの『リカーショップタクト』の横には、物々しい警備体制の兵士達が集う兵士の詰め所がある。


 あの場にいた兵士達は勿論、他の兵士達もあの映像を見たが、一見普段と変わりないように見える。


 ただ、警備をより厳重体制にしたのが周囲に明らかになってきた。


 例え人が少なくとも巡回を強化し、怪しい動きをする者にはすかさず対応出来る様に各所に兵士を配置し、魔導監視カメラ前は常に目を光らせた兵士達がいるようになったらしい。


 そして気合いの入り方がわかるのは、あの日以降変わった交代の合図だ。朝番の兵士の元に昼番へ交代する兵士が近づくと、互いに敬礼しながら……


 「常に平等に!」


 「考えは柔軟に!」


 という受け答えが聞こえてくるようになった。


 そんな警備体制の向かいのテナントでは、今日も大勢のドワーフが押しかけて雇ってくれと叫ぶ人達で溢れかえっている。


 「あー、はい!今日は紫の服の貴方!後は皆さんお帰り下さい!」


 受付のフォレストドワーフの女性が、まだまだ押し寄せてくる人達に向かって叫んでいる。


 「ええ!ちょっと!毎日私来てるのよ⁉︎ それなのにどうして⁉︎」


 「俺だって何日も前に求人票に書いて置いていってるんだぜ!そりゃねえよ!」


 一見気弱そうなフォレストドワーフの受付女性に、なんとかならないかと押し寄せる諦めきれないドワーフ達。


 すると、にっこり笑った受付女性が群衆に向かって啖呵を切る。

 

 「お黙りなさいっ!報道において必要なのは、自身の弁護をせずに事実を語り、どんな意見も公平に考える事が出来る人ですっ!自らの好きな時間にきては様子を見て諦めて日を改める人達に、この神聖な職場の床を踏ませる事は、私の名に置いて許しませんっ!ラスタ局長に会う前に、私に誠実さをお見せなさいっ!」


 自らの名に置いて、というこのフォレストドワーフの女性の名は、ハガネ。どんな状況でも粘り強く、強かで、それでいて人を見抜く目を持ったスキル【観察眼】を持つ。


 彼女の目に敵わなければ、幾ら毎日来ようと採用はされない、という強引な手段がまかり通る職場に変わった『フォレスト報道局』。


 そんな『フォレスト報道局』には人が足りているのか?と言えばそうとも言えない。何せ始まったばかりで試行錯誤の状態の職場だ。


 「祭りの後の住民達の様子のデータ上がりました!」


 「更にガロ様とタクト様の言葉を切り取ったデータも上がっています!」


 「了解!なら急いで街の意思とガロ様守り人様サイドの事実を流して!」


 「魔導機材チェック完了!次、映像の最終チェック入ります!」


 「リーン!最新の映像がラスタ局長とチェック副局長から届いているわ!映像を確認して!」


 「ああー、もう!手が足りないわ!誰か、『今日のフォレスト空港』の取材行って来て!」


 先輩に言われてバタバタと走り出す新人達。そんなフォレスト報道局本部に総勢12人、フォレスト空港支部に総勢7人とまだまだ人手は足りない。


 今後もハガネの出番が必要になりそうなフォレスト報道局。


 だが走り出したばかりでも、技術者の多いフォレストドワーフの街では、視聴率は常に90%を叩き出す。


 『フォレスト報道局』は、すでに街の人の憧れの職業になりつつある。


 そのきっかけを作った当人達は……


 『さあ、皆さん!本日も『エバーグリーン』の時間がやって来ました!見て下さいこの立派なお姿!今日も万物様は瑞々しく青々としていらっしゃいます!さ、今日はタクト様が出発の準備をしているところです!さーて、どちらにいらっしゃるでしょうか?』


 リポーターがすっかり様になったラスタと、もはや名コンビ役にもなったチェック。


 二人がいるのはタクトが拠点としている万物の樹の屋敷、通称[エバーグリーン]。


 万物の樹を今度こそ永遠に存続する為に守り抜く、という意味を込めて街の人が呼ぶようになった呼称である。


 そこを住人のように堂々とドアを開けて入っていくラスタの映像を、当然のように映しながら入って行くチェック。


 『あ、シーラさん、おはようございます!タクト様どちらにいます?』


 『ああ、なんだい?撮影だったら私を映さないでおくれよ。掃除中のところは見苦しいからね。タクトはリーフと一緒にルーフバルコニーに居るはずだよ』


 『あ、わかりました!ありがとうございます、シーラさん!』


 それでもカメラを向けると笑顔で映ってくれるシーラも人がいいが、仕事中の為道案内まではしてくれない。


 『あ、どうしよう?チェック。道順聞くの忘れた』


 『だから、昨日のうちに地図を書いておくよう言ったろ?……ほら、コレ』


 画面下からチェックの手が映り、四つ折りになった紙をラスタに渡すと、受け取ってその紙を広げるラスタの胸には[フィトンチッドの雫]が光っている。


 コレは放送されていないが、タクトが二人に滞在許可証を発行すると同時に、二人の胸元に[フィトンチッドの雫]が現れたのが先日。


 どうやらタクトが滞在許可証を発行した人物もまた、[フィトンチッドの雫]を手に入れる事が可能らしい。


 最終的には、万物の樹が許可するのは変わらないみたいだが、今回の二人は万物の樹に気に入られたようだ。


 『あ、分かった。こっちね』


 チェックお手製マップを見て、ルーフバルコニーの位置を確認したラスタが向かった先から、ババババババ……‼︎ と金属が高速回転をしている音が近づいて来た。


 『〈ラスタさん、どちらへ向かうのですか?〉』


 『あ、キース君。巡回お疲れ様。タクトさんのところに取材に行こうと思っていたの』


 映像に映ったのは、ミニコロボックル専用魔導ヘリコプターを操縦しているキース。助手席には妹のレナの姿もある。


 『〈了解!巡回を一旦中止して、案内致します!〉』


 『〈どうぞこちらへ!》」


 万物の樹から魔導ヘリコプター貰った小さな二人が、屋敷の巡回という責任を任された為、最近はこの音が屋敷内に響いている。


 『ありがとう、お願いするね』


 ラスタからお願いされたキースは窓越しにサムズアップをして、旋回して階段へと向かう。


 『あれ、いいよなぁ……』


 『ああ、チェックって魔導具オタクだものね。しかも乗り物系が好きなんだっけ?』


 『ああ。まあタクト様の乗り物の方が実際良いけど』


 『あの時のチェックは見ものだったわねぇ』


 ラスタがくすくすと思い出し笑いをしながら魔導ヘリの後をついていくと、階段を登りきった三階の通路の窓が自動でシュッと開く。


 すると、窓を通り抜けて『〈フォレスト報道局長と副局長が到着しました!〉』と機内マイクでキースが先行報告をしているのが聞こえてきた。


 ラスタ達は通路の扉を開いてルーフバルコニーへと進むと、万物の樹の下で優雅にお茶を飲むタクトとリーフとガロの姿がある。


 『おはようございます!タクト様!ガロ様!リーフ様!』


 『おはようございます!』


 ラスタがタクト達に声をかけて、チェックもまたカメラを回しながら挨拶をする。


 『〈案内任務完了!巡回に戻ります!〉』


 そしてキース達がラスタに一声かけて、また屋敷の巡回へと戻って行く。その様子に『頼むなー』と呑気に声をかけるタクトにラスタは近づき問いかける。


 『タクト様、今日は出発の準備という事でしたが……?』


 『ん?ああ、準備は済んでいるぞ。ただ、万様の胡桃マーケットから面白いものが出て来てな。それで今設定してたところだ』


 そういうタクトは胸元のコンパスガイドを開き、空中の青い画面に向かって指で何かを選択していた。


 勿論、ラスタ達には何をしているかはさっぱりわからなかったが、リーフとガロは何やら横から口出している。


 『ほっほっほ、型が選べるとはのう』


 『グーグー!グッ!』


 『タクトや、リーフがコレは必要だと言っておるぞ?』


 『リーフ……要らないだろ、それ』


 『グーグッ!』


 『ハイハイ、分かったって』


 その様子を首を傾げて見ているラスタに気づいたタクト。


 『あ、悪い。万様から朝コレ貰ってさ』


 そう言ってラスタの手にタクトが乗せたのは……


 『黄色い種……?』


 『だな……?』


 カメラの映像に映る黄色い種に、疑問符が浮かび上がるラスタとチェック。


 『これ当てられたら、ワイン3本ってどうだ?』


 ニヤッと笑うタクトからの思わぬ提案に、盛り上がる二人。


 『それいいですね!』


 『待て!それじゃ一旦撮影中止!』


    ーーーーーーーーー


 ラスタもチェックも上手く乗ってくれて、どうやら撮影は終わってくれたらしい。


 (……これ放送されるのは、さすがに思うところはあるからなぁ)


 俺がそう思うのも無理はないだろう。だって、コンパスガイドにこう表示されてたんだぜ。


 『[黄色の種(進化の種)]

  コンパスガイドに取り込ませて、タクトの能力をランクアップさせる種。今回ランクアップ可能な能力[エアポートガレージ]』


 (俺の能力は、全て公開する気はないからなぁ……)


 そんな遠い目をしていた俺の横では、必死に花や植物や建物の名前を出すラスタとチェック。


 ガロ爺は面白がって笑って誤魔化している前では、グーグー言いながらリーフが何やらボディランゲージでヒントを与えている。


 「え⁉︎リーフ様、それだと踊りにしか見えませんって!」


 「ちょっと待って、チェック!これ、リーフ様が大きくなったって言いたいんじゃないかしら?……とすると……?」


 ラスタの言葉にチェックも考え出して、しばらくすると「「ハイハイ!わかりました!」」と同時に言い出す二人。


 (ほんと……似たもの同士だよなぁ)


 二人揃った動きに笑う俺に向かって、自信満々に二人が告げた答えはなんだったと思う?

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