深緑祭
俺が疲れてリタイアし、ウーグラフ達も急ぎとんぼ帰りした後も、フォレストドワーフ達の勢いは止まらなかった。
万様空港もくまなく紹介した後、何と万様空港にもテナントが出せる事が判明。これにも興奮したリポーター達。
『職場からいつも万物様が見れるなんて……!最っ高!』
女性リポーターの素の感想が物語っていたこの後の盛り上がり。
戻ってきたウーグラフ達を待ち構えていた住民達。ウーグラフ達は兵士達に守られながらなんとか自宅へ戻ったらしい。
ウーグラフの自宅前のスクリーンでは、今もなお、万様エリアの映像が流れている為、大勢の人が自宅に詰め寄る騒動へと発展していたそうだ。
次の日に俺が顔出した時には、1日で更にげっそりしていたウーグラフとジュード。
「我が種族を舐めちゃいかんぞ、タクトよ……!職人気質はスイッチが入ると動きは早いのだ……!」
黙々と目の下に隈を作って書類を片付けるウーグラフに、更に隣で書類に埋もれながらチェックをするジュード。
そして部屋の真ん中で山になっているのが、テナントに立候補してきた住民達の書類。
「で、俺はコレのチェックをすればいいわけ?」
「ああ、アレはタクトの世界にあった施設なんだろう?だからお前が決めると問題は少ない」
「ウーグラフ様はタクト様を信頼してお任せするようですぞ。ああ、選別は明後日の深緑の宴の場で発表の手筈になっていますからの。遅れたら住民が騒動を起こすゆえ、期日はしっかり守ってもらいますぞ」
ウーグラフとジュードの言葉の裏に面倒くさいと守り人の決断なら文句ないだろう、という意図が見えているのは気のせいじゃないだろう。
(まあ、現状を見ると文句は言えねえよなぁ。……しかしこの量を捌くのか……)
山のような書類にやる前からげんなりしつつも、気合いをいれて執務室に籠ること2日。
結局、俺だけじゃ決めれなくてリーフやガロ爺、ついでにスーパー執事のフォーを駆り出して決まったのが、コレ。
[フォレスト]空港ターミナルビル テナント
大テナント(2) ドワーフ図書館(本好き有志団)
ヴェル魔導具工房
中テナント(2) 報道局(フォレスト支部)
ケイト食堂
小テナント(3) 革職人ヤレルの店
ツイード薬草店
クォーツ生花店
[万物の樹]空港ターミナルビル テナント
大テナント(3) リカーショップタクト
報道局本部
兵士詰め所本部
中テナント(3) オーダーメイド店マリーのお店
ピオール食堂
ギフトショップクィニー
[万物の宿]職員 …/…/…/…/…/…/…/…/…/…/…/…/…/…/…/…/ ………
本当に揉めに揉めたテナント候補。結局誰もが納得するテナントを呼ぶ事にしたんだ。
此処に名前が上がったのは街でも指折りの職人達。ピオールのライバルのケイト食堂。魔導具といえばこの人、ヴェル。
クォーツの生花店は、みんなが来ては花を埋めて帰るから。ツイードの薬はよく効くという事で万様の朝露も卸す事に。
報道局が広報をも担う事を期待して、二店舗分確保。兵士達からの進言もあり、万様側にも警備体制を敷く事に。
(万様いるから大丈夫だと思うけど、目に見える抑制も必要だもんな)
みんなの要望で万様に酒を卸してもらう事になり、俺の名前がついた酒屋が出来るが、此処はププカという店主に切り盛りしてもらう事になっている。
ギフトショップクィニーは、レインとリーフのぬいぐるみグッズを製作しているらしい。既に万様グラスやお皿まで用意する事を決定していた為、速決で決めた店だ。
後はマリーの店だな。どうせならマリーには服や靴を専属で作ってもらおうという事になってこの形に。
で、気づいただろうか?
万様空港ターミナルビル内に宿がある事に。
あ、因みに万様空港は現在こんな感じだ。
第一ターミナルビル
1F チケットカウンター(AI仕様)
チケットロビー
手荷物受取所(AI仕様)
到着ロビー
コインロッカー
男女別トイレ
中テナント(2)
2F 出発ロビー
搭乗待合室/男女別トイレ/ウィケットカウンター(AI仕様)
個人/特別待合室
大テナント(3)
中テナント(1)
3F [万物の宿]温泉大浴場/リラックスルーム/食事処/和洋室10部屋(各部屋トイレ・シャワールーム付き)/屋上庭園
木製の造りで樹の匂いが香る空港ターミナルビル内。それにエスカレーター付き(フォレスト空港は階段)の万様の空港。
そこに現れた経営マニュアル付き和風テイスト旅館。
流石に旅館スタッフの人事は、万様に選定してもらった。俺、面接してる時間なかったからなぁ。
そして、この発表は当然……
『はーい、皆さんこんにちはー!フォレスト報道局のラスタです!本日は皆さんが楽しみにしていた深緑祭!そして、気になっていたあのテナント当選者発表日です!ウーグラフ様よりその発表の権利を頂いた我が報道局ですら、未だ謎のままなんです!ドッキドキです!』
既に朝から始まっていた深緑祭。
住民全体で各家庭の料理でもてなし、屋台や食堂もこの日は大盤振る舞いの一日。
街中が花で彩られ、あちこちでいい匂いがする中、俺もリーフと共に街中を歩いていた。
「グウグー!ググウッ!」
「リーフ、お前詰め込みすぎだ。ほっぺが破れるぞ」
俺とリーフは歩くたびに捕まり、花や食べ物を渡されて歩いている為、俺は既に満腹。リーフに至ってはどこに入っていくんだと思うくらい頬に詰め込み、常にモグモグしている。
そして、祭りといえば……
「ほい、これはウィスキーっていってな。水で割ったりそのまま飲むのもオススメだぜ」
エランを肩に乗せて、今日の為に万様にお願いしていた酒をフォレストドワーフ達に配って歩いている。
おかげで俺の周りは、人集りがすごいすごい。
それでもウーグラフから注意をされていたのか、俺を力づくで引き留める住民はいない。基本俺が好きなように歩かせてもらっているんだ。
陽気なフォレストドワーフ達。
各家庭の優しくて美味い飯。
緑のドームに覆われて綺麗で安全な街。
(やっと異世界の街を感じる事が出来たぜ)
親しくかけられる声に手を上げて対応していると、各区域に配置された魔導スクリーンでは、リポーターのラスタが緊張の面持ちで、ウーグラフから当選者の名前が記入された紙を恭しく受け取る姿が映し出されている。
『さあ、注目の瞬間です!皆さん心の準備はいいですか?[フォレスト]空港ターミナルビルのテナント当選者から発表します!』
わざわざドラムロール(俺が提案)まで準備したラスタ達。
そして一つずつ挙げられる店の名前に、人々は歓声を上げて応える。
中には祈るようにスクリーンを見ているフォレストドワーフ達や、悔しいはずなのに当選者の店を讃える声も聞こえてくる。
そしてラスタ達、フォレスト報道局の名前があった時には、ラスタは滝のような涙を二回も流していたが、きっちり発表を伝え切って根性を見せていたのには笑った。
『ウッ……ウッ……グスッ。皆さん、お見苦しいところをお見せ致しました……!さあ、後は心置きなくこの祝祭を楽しみましょう!後ほど皆さんに突撃インタビューを……⁉︎」
映像の中のリポート中だったラスタが、何か異変に気づいたらしい。
『なんでしょう……?兵士の皆さんが[フォレスト]空港へ向かって行っていますね?……チェック(カメラマンの名前)!追うわよ!』
するとブレ出す映像。だけど、音声は二人が走っている音と、呟く声を俺達に伝える。
『ラスタ……!入り口で騒ぎが起こっているみたいだぞっ!』
『ええっ、わかってるわ!』
二人が言う入り口は[フォレストドワーフの街]へ入る入り口だが、今[フォレスト]空港ターミナルビルが[フォレストドワーフの街]に入る玄関口にもなっているんだ。
目的地に近づくと徐々に映像のブレが収まり、魔導ビデオカメラにはっきり映ったのは、緑のゲートに阻まれて何か騒いでいる人間達の様子。
(おいおいおい。なんで人間がフォレストドワーフの街に来てるんだ?)