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夢は現実になるものらしい

 ーーー小さな頃から夢を何度も見る。


 それは断片的な夢じゃなくて、継続的に見る夢。


 ん?自分の願望だろうって?


 いや、願望だったら、好きな女性や推しのアイドルや女優さんの出て来る夢を見たいだろ?


 でも、夢に現れるのは植物なんだ。


 ーーー始めに夢を見たのは五歳の時。


 地面からニョキッと芽が出てきたんだ。


 夢の中の俺の目線の高さは、その芽の高さと同じだった。


 そして夢なのに妙に現実感があったんだ。


 肌に感じる爽やかな風とどこまでも続く青空。森の中にいる様な森林の匂いと大地の匂いと陽の暖かさ。


 (……おかしいなぁ?)


 そう感じている当時の俺の目の前に、何かが立ち塞がったらしい。


 (なんか動いている?)


 黒と茶色の蠢くものから青いモノが俺の目の前いっぱいに広がり、何かが自分から抜けた感覚がしたんだ。


 すると、襲いくる急激な眠気。


 (夢なのになんで⁉︎)


 薄れゆく視界の中、蠢くものだけでも判明させようとしたけれど、その時は結局わからなかった。


 そして誕生日毎に、見る植物の夢。


 同じように蠢くものが現れ、視界いっぱいに青いものが広がると襲いくる眠気でその夢はいつも途切れる。


 そんな中でただ一つ気がついた事がある。

 それは、年毎に植物が成長している事だった。


 ーーーそして、はっきり蠢くものがわかったのは、それから10年経った15の誕生日。


 その頃には、すぐ視界が暗くなる事が無くなっていた。


 そして、初めて見えた動くモノの全貌。


 (頭に葉っぱが生えたミーアキャット?)


 そう。視界に映ったのは、何故か頭に双葉が生えた小さなミーアキャット。


 前足で小さな青いバケツを持ち、二足歩行で歩いていた。


 眠くなる正体は、どうやら『俺』からバケツで何かを持っていっていっていたからだった。


 『俺』から『採った』らしいキラキラした物体をバケツの中いっぱいにして、それを抱えたミーアキャットが歩いて行く先には、瑞々しい葉を多く携えた若木へと成長していた植物。


 その木の周りの空気は、清浄で爽やかでとても気持ち良い。


 俺が空気を堪能している中、幹の根本まできたミーアキャットが、ゆっくりと木の根本にバケツの中の液体を注いでいったんだ。


 バケツの中のキラキラしたものが水の様に根本に注がれ、注ぎ終わると……


 急激に枝を伸ばし、葉を増やしていった不思議な木。


 夢の中の視界も高くなり、ミーアキャットを見下ろすところまで成長すると、毎年記憶がなくなる。

 

 ーーーそんな夢が毎年恒例となり、今年で22歳を迎える俺こと羽崎はざき 拓人たくとの誕生日の夜にも夢で現れた。


 (……相変わらず、見事な木だよなぁ……)


 大木に成長したあの不思議な木は、今回の夢の中でも葉と葉が会話するようにサワサワと音を出し、枝葉の隙間から柔らかい陽の光が足元を照らしている。


 最近忙しくて公園にも行ってないよなぁ、と呑気に思っていた俺だったけど、今回はいつもの夢と何か違う事に気がついた。


 (っ⁉︎足元……⁉︎)


 アレ?今日は夢の中に俺の足が映っている?と不思議に思っていたら、足元にはいつのまにか葉っぱ頭のミーアキャットが居て、俺のズボンの裾を引っ張っている。


 (葉っぱ頭……お前、俺の膝ぐらいの大きさだったのか……!)


 ちょっとした驚きもあったが、葉っぱ頭に促されるまま連れて行かれたのは木の根元。


 葉っぱ頭は俺の手を不思議な木の根元に置くように、小さな前足を使ってジェスチャーしている。


 (なんか和む)


 「ここに手を置くといいのか?」


 微笑ましいものを見た俺は葉っぱ頭に確認すると、頷く葉っぱ頭。その場に屈み、俺の手が根元に触れると……

 



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!




 轟音と共に足元の大地が揺れ、次々と地面から現れてきた太く大きな根。


 「ちょっ!葉っぱ頭‼︎」


 急激に現れた太い根に、体勢を崩してしまった葉っぱ頭。


 葉っぱ頭が木の根の巻き込まれそうになるのを、俺はなんとか手を伸ばして抱き寄せ保護する。


 そして、揺れが収まるまでしっかり木の根と葉っぱ頭を抱きしめてその場で蹲っていると……


 いつしか揺れが収まっていた。


 (葉っぱ頭は無事か……?)


 そう思って腕の中の葉っぱ頭を見ると、「クウ」と鳴いて俺の腕に頭をすりつけていた。


 (コイツ、懐っこいよなぁ)


 ほのぼのしながら頭を撫でていると、急に何かに気づいたのか、後ろ足で立ち上がる葉っぱ頭。


 ピョンっと俺の腕を飛び出して、葉っぱ頭が歩き出す。


 俺もとりあえず、葉っぱ頭の後を付いていく事にした。


 (……随分太い根だな)


 そう思って、木の根をトコトコ歩く葉っぱ頭の後を付いて行くと、目の前に木の根の不恰好な階段があり、葉っぱ頭が階段をピョンピョン飛んで降りていく。


 俺も気をつけながら降りて行ったんだけど……


 「うぉあっ!」


 ツルっと足を滑らせて、そのまま下まで滑り落ちてしまった。


 幸いにも地面に近かったおかげで、腕と足の軽傷ぐらいですんだがここでも違和感が拭えない。


 (痛みまではっきりしてる……?)


 腕と足の怪我具合を確認しながら考えている俺の側に、いつの間にか来ていた葉っぱ頭。


 「クウ?」と後ろ足で立ちながら、俺の腕に前足でペタペタ触ってくる。


 その様子が心配しているように見えて、思わず喉を撫でると「グーグー♪」と嬉しそうな鳴き声を出す。


 「悪い。心配させたか?大丈夫だ」


 ひとしきり葉っぱ頭を撫で立ち上がってみると、痛みはあるが動けそうだ。


 そんな俺の様子を見て「グーウッ!」と鳴き、また歩き出す葉っぱ頭。


 「付いて来いって事か?」


 途中、振り返りながら歩き出す葉っぱ頭に先導されて着いて行くと、葉っぱ頭が立ち止まってペタペタ前足で触っているところには、木の根なのにガラス窓が付いた扉があった。


 「グークウ!」


 開けろと言われているような気がして、恐る恐るドアハンドルを手に取る。


 押して引いてみてもと開かなかった為、横に移動させると扉が開き、隙間からスルリと中に入って行く葉っぱ頭。


 「あ、ちょ!待てって」


 俺もドアから中に入ると今度は10段位の直階段があり、葉っぱ頭はその階段の上の扉の前に既に立って待っていた。


 「そこにも扉があるのか……」


 今度は慎重に階段を登り扉の前に来ると、葉っぱ頭がこの先に何かあるかのように前足で扉をペシペシ叩いている。


 (ハイハイ、開けろってか?)


 葉っぱ頭の上からドアノブを回し、今度は扉を押して中に入ると……


 「すっげぇ……!秘密基地みてえ……!」


 木の中の秘密基地の内部は、フローリングの床に、壁と天井には大きくガラスが嵌め込まれ外から光が満遍なく入る仕様で、室内はとても明るい。


 それに面白いのは家具だ。


 部屋の真ん中にある大木の周りを囲むように、円形カウンターテーブルと椅子がある。


 しかも椅子は切り株の上に、草木染めのふわふわクッションが置いてある。


 「へえ!なんか良いな、この感じ!」

 

 テーブルや椅子を確認しながら周りをみると、奥はロフトになっていて、二階部分に木の根で囲われたベッドがある。


 テンションが上がった俺は、ハシゴを上り、木の根で囲われたベッドの入り口から寝台の様子を見ると、中は程よく高さもあり、173cmの俺でも余裕で手足を伸ばせる広さがあった。


 勿論フカフカの布団まで用意されている。


 光取り用のベッドサイドの窓は出窓になっていて、そこにはクッション入りの大きなカゴが置いてある。


 そしてその中には、いつの間にかカゴに入っていた葉っぱ頭。


 「クウウ♪」と鳴きながら、上機嫌にコロコロ転がっていた。

 

 「ここはお前の寝床か」


 コロコロ転がっていた可愛い姿の葉っぱ頭を撫で、俺はもう一つ気になっていたベッド横の階段を見る。


 ロフトから天井に向かって伸びる直階段。その先には踊り場ともう一つ扉がある。


 気になって階段を登りドアに手をかけると……


 目の前には不思議な大木の立派な幹があり、その幹の周りをぐるっと手すり付きの通路が作られていた。


 俺は誘われるように、通路に出て上を見上げる。葉と枝の間から光が差し込み光のシャワーを浴びている感じがして、とても気分が良い。


 そして何気なく木の幹に手を触れた途端、俺の頭の中に映像が流れ込んで来た。


 「え!なんだこれ!」


 俺が驚いて声を上げたはずみで手を離すと、映像が途切れたけど。


 「これ……木に触ると見える仕組みなのか……⁉︎」


 そう確信し、覚悟を決めて手を触れると……


 人だけじゃなくファンタジーの定番の獣人やエルフ、ドワーフに獣頭の動物が、服を着て二足歩行で過ごしている姿が頭の中に映像で流れる。


 それが切り替わり、高い山、湖の底、火山の近く、樹海、空に浮かぶ島が映し出され、全ての映像に種が植えられる映像が加わる。


 そして映像が途切れ、パアアッと目の前の大木全体が光を纏い出したんだ。


 (ま、眩し……!)


 目の奥がチカチカするも、なんとか目を開けるようになった時ーーー


 気がつけば、俺の手にアンティーク調の丸い方位磁石が握られていた。

 

「ええ!どうなってんだ⁉︎」


 驚く俺がパカッと蓋を開くと、方位磁石から青い光が飛び出して、その光の中でタブレット型の薬のような物が一つ浮かんでいた。


 触れるのかと思い指を近づけると、触った途端に光が消え、方位磁石の上にコロンと転がり落ちる薬。

 

 (どうすんだ?これ)


 そう思っていると、くいくいとズボンの裾を引っ張っている葉っぱ頭が足元にいた。


 前足でコップを持ち、俺に飲めとばかりに突き出している。


 「お、水くれるのか?ありがとうな」


 頭を撫でてコップを受け取ると、葉っぱ頭は「グーウ!グ!」と薬を前足の指で指さし、何かを口に入れてコップで飲む動作をする。


 「俺にこれを飲めって言っているのか?」


 「クウウ♪」


 俺の言葉を理解しているのか、頷く葉っぱ頭。


 (でもなあ……こんな怪しいもの飲むの怖えよ)


 俺が飲む事を戸惑っていると、足元で一生懸命飲む動作をする葉っぱ頭。ウンウン言いながら飲むそぶりを見せる葉っぱ頭をずっと見ていた俺は、その動きが面白くてつい吹き出してしまった。


 「ぶはっ!お、お前、面白すぎ!」


 笑う俺に気分を害したのか、ペシペシ前足で俺の足を叩く葉っぱ頭に、どうせ夢だし、と考えた俺。


 「わかったって。飲むよ、飲みますよ」


 葉っぱ頭に見せるように、薬を口に入れてコップに入っていた液体を飲み干した俺。


 薬を飲んだ途端にドクンッと心臓の音がして、目の前の映像が三重に見えたんだ。


 俺はなんとかフラフラと幹のところまで行き、木を背にしてズルズルと屈み込んだまでは良いものの……その後は、真っ暗になり意識がなくなったらしい。

 

 ーーーこの時の俺はまだ知らなかったんだ。夢だと思って見ていた事が現実になっていた事を……


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