第9話 護衛任務
俺は馬車から降りると、行者台へ登る。
「サトウ殿、あちらです。」
マルクスさんはこれから進む方向の街道から外れた草原を指差す。
大体300〜400mほど離れた所に緑色の小人が見える。
「全速力で横を駆け抜けることも考えたのですが…」
マルクスさんは全速力で駆け抜ける事も考えたそうだが敵の攻撃が馬に当たって、何も無い街道で立ち往生してしまう可能性を懸念したのだそうだ。
「任せて下さい!」
俺は20式のスコープを覗く。
周りを確認しつつ、ゴブリンの人数を数えてみると3体いるようだ。
マルクスさんと話してる間に150mほどまで近づいて来ていた。
2体は棍棒、1体は木の弓を持っている事を確認し、まずは弓を持っているゴブリンに照準を合わせる。
息を止めながら引き金を引く。
手元の20式が大きな音をさせながら火を吹き、ゴブリンの胸に弾が当たり後方へ血飛沫が飛ぶ。
発射音の大きさに隣で様子を見ていたマルクスさんは思わず耳を塞いでいた。
そのまま倒れ込むゴブリンを確認して残りの2体へも引き金を引く。
乾いた発砲音が辺りに響く。
「マルクスさん、終わりましたよ。」
倒れたゴブリンが起き上がらない事を確認し、思わず耳を塞いでいた様子のマルクスさんへと話し掛ける。
「いやー、近くだと、とても大きな音がするのですね。驚いてしまいました。」
耳を塞ぐ様に伝えれば良かったと思っていると
「しかし、サトウ殿の魔法は素晴らしい。軽々と遠距離のゴブリンを倒してしまうとは。。。
やはり護衛をお願いして正解でした。」
驚きの顔と子どものような笑顔をコロコロと入れ替えながらマルクスさんはそう言う。
「そう言ってもらえると嬉しいです。目的地までは力になります。」
マルクスさんに目的地までの所要時間を聞くと、今夜は途中にある要塞都市イルミエンナで宿をとって明朝早くに出発。目的地の王都エリンダムは明日の夕方頃に到着予定だそうだ。
城塞都市イルミエンナまであと数時間の所まで来ていると説明を受けてから再び、馬車へ乗り込んだ。
何かあった時の為に、撃った分の弾薬を取り外した弾倉へカチャカチャと詰めていく。
一応無限収納に30発入りの弾倉を6本ストックしているが、用心するに越したことはない。
ついでに20式とSFPの空弾倉もバックから出すふりをして無限収納から出して、弾を込めていく。
「それがサトウ様がお使いになる魔法の素ですか?」
不思議そうな顔をしながらアンナ様が手元を覗き込んでくる。
俺は弾薬の一つを摘みながら話し掛ける。
「そうです。この塊一つ一つに魔力が込められているので必要な時に魔力切れを起こさずに使う事が出来るのです。」
俺は魔法と信じているならそのままにしてしまえとそれっぽい理由を伝える。
だってさー、この世界って雰囲気的に、地球でいう中世くらいの文明発達具合かなって思うし、魔法があると、火薬とかの化学が発達しているのか疑わしいと思ってる。
「この小さなものがゴブリンを一撃で…
やはりカズマ様は偉大な魔法使いです!今日、出会えたのも運命ですわ。」
アンナ様はそう言い、ニコニコしながら俺が弾倉に弾を込めていくのを見ていた。
ジーっと見られていると気が散るので、情報収集として話題を振ってみる。
「アンナ様、今夜は要塞都市に泊まると聞きましたが、どんな所なのでしょう?」
「そうですね。我が王国に要塞都市はいくつかありますが、そのどれもが王都エリンダムへ続く、街道の要衝に建設されています。隣国との戦争時には王都防衛の要となる都市ですわ。中でもイルミエンナは隣国であるアルガーラ帝国との戦争で幾度となく、攻められていますが、1度も陥落した事は無く、難攻不落の要塞とも呼ばれています。
我が国では通常の都市は貴族や文官出身の行政官が国王の代理として治めています。が、要塞都市だけは、その性格上、軍部出身の軍人が治めています。イルミエンナの行政官は我が国最強とも言われる、ジークフリード・アイゼンシュミット将軍。10年前のアルガーラ帝国との戦争時に一騎当千の活躍をし、叙爵されて、平民から伯爵位まで上り詰めた英雄です。」
ほぉ~、叙爵される程だ。恐らく、最強と言われるのも冗談では無いのだろう。
「街道を行き来する商人や旅の者の休息場所として。また軍人や、その家族へ商売をする為に住んでいる人も多く、王都の次に賑わっているとも言われる都市です。」
「大きな都市なのですね。人の多いところには、久しく寄っていないので今から楽しみです。」
この世界に来て大きな都市は初めてだ。日本とは違うからな。本当に楽しみにしている。
「ふふふ、カズマ様は旅のお方ですから、是非とも我が国も楽しんで下さい。本当は後顧の憂い無く楽しんで頂きたいのですが。。。
王都では観光を我が家の者に手配させますので、そちらは楽しみにして下さい。」
「ありがとうございます!」
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そんなこんなでアンナ様とこの国の事を話しつつ、弾薬の補充を済ませていると、馬車が止まり、マルクスさんが声を掛けてきた。
「失礼します。お嬢様、イルミエンナに到着しました。」
やっと着いたようだ。
外ではマルクスさんが、衛兵相手に都市に入る手続きをしているらしい。
少しの時間で再び、馬車が動き出す。
そうして、俺はこの世界に来てから初めての都市に入るのだった。
私生活がバタつき過ぎて、久しぶりの更新になってしまいました。
少しづつ書いていきます。
よろしくお願いします。