第7話 異世界の住人との出会い
ゴールデンウィークが忙しくて更新遅くなりました。
俺は丘を下り、馬車の近くまで歩いて行く。
件の剣士は、こちらを警戒して剣を構えている。
剣士の後ろには、先ほど倒れていた剣士へ駆け寄っていた少女が、守られるように立っていた。
やはり護衛の剣士とお嬢様のようだ。
近づいてみると2人の風貌も分かる。
少女は燃えるような赤い髪をツインテールで纏め、目の色も髪と同じ赤い瞳をした美少女だ。服装も派手では無いが上品さを感じさせるので良いとこのお嬢様なのかもしれない。
一方、剣士は金髪、青い瞳の整った顔立ちをしたイケメンと言っても差し支えない青年だった。
「そこで止まれ!見慣れぬ格好をしているな。何者だ!」
まぁ、緑色の迷彩服姿だし怪しいよね。
雰囲気が貴族とか高貴な人達みたいだし、出来るだけ丁寧にいくか。
「私は旅の者で、サトウ タケルと申します。たまたま魔物に襲われている皆さんをお見かけして助太刀した次第です。」
「ほう、では先ほどの遠距離魔法は貴殿が?」
魔法では無いんだけど……
まぁ、ややこしいから魔法ってことにしとくか。
「そうです。」
すると、言葉が通じる相手と分かったからか、剣士はホッとした顔をして、警戒を解いてくれた。
「命の恩人に対して失礼な対応をしてしまいました。申し訳ありません。なにぶんこちらは二人しか居ない護衛が一人やられてしまっていて余裕が無くなっていたのです。」
後ろの中年剣士はやはり助からなかったようだ。
「お気になさらないで下さい。それよりも怪我の治療をしましょう。」
この人もゴブリンの矢を受けてしまっているからな。
背嚢から救急セットを取り出す。
傷に触れないよう、鎧を脱がせて傷を見てみると幸い、動脈を避けて矢じりは貫通していた。
篦の部分を折って抜く。
消毒の為に傷薬をかけたら、驚く事にみるみる傷が塞がった。
え……?
かけたのは普通の傷薬の筈だ。
俺が驚いていると、剣士も驚いていた。
「おぉ、魔法使いというだけでなく、薬術師でもあられるのか!?こんな高い効果のある薬、さぞ高価な薬なのではないですか?」
「え……いや、ははは。大丈夫ですよ。とにかくお二人が無事で良かった。」
俺が使ったのは使用ポイントも全然高くない、なんてことない傷薬なのだから、俺も驚いている。
「申し遅れました。私はエアハルト・マルクス。こちらに有らせられる、リピリア王国ハイゼンベルク公爵令嬢 アンナ・リーゼロッテ・ハイゼンベルク様の護衛です。改めて、この度は危ない所を助けていただき、ありがとうございました。」
そう剣士が言うと、少女は先ほど襲われていたとは思えない、優雅な所作でカーテシーをしてくれた。
「ハイゼンベルク公爵家 長女、アンナ・リーゼロッテ・ハイゼンベルクと申します。タケル様には危ない所を救っていただき感謝の念に堪えません。」
上品さを感じさせる人達だと思っていたが、公爵家か…。
地球の知識だと公爵を叙爵されるのは王族やその血縁とかだったか?
それが当てはまるとすれば、この国でかなりの上級貴族な筈だ。
そんな貴族様のご令嬢が居るのに護衛2人とは少しばかり少ないと思うが……
それに、タケル様?
もしかすると、ここの国では地球の欧米と同じく名+家名で名乗るかもしれない。
「ハイゼンベルク様、お目にかかれて光栄です。私の出身地では家名+名で名乗りますので、つい癖でそのように名乗ってしまいました。よろしければサトウとお呼び下さい。」
少女は少し顔を赤らめながら…
「あら、そうだったのですね。それは失礼しましたわ。でも、危ない所を颯爽と救っていただいて、私は感激していますの!よろしければ親しみを込めてタケル様とお呼びしても?」
胸の前で軽くガッツポーズみたいに手を握りながら、グイグイとお嬢様はこちらに寄ってくる。
公爵様のご令嬢がそういうなら、まぁそれでいいか。
不敬とか言われても困るしな。
「ええ、ハイゼンベルク様。ではタケルとお呼び下さい。」
するとお嬢様は首を横に振りながら
「よしてください!恩人のタケル様に堅苦しく呼んで欲しくはありませんわ。私のことはアンナとお呼び下さい。タケル様。」
「しかし…」
「私が良いと言っているのです。」
「分かりましたアンナ様。」
そう呼ぶと、アンナ様は少し嬉しそうな顔をする。
「それにしても、サトウ殿は優秀な魔法使いなのですね。あの距離からゴブリンを倒せる者は、この国でも数える程しかおりません。」
「本当ですわ。あの凶暴なゴブリンをあっという間に倒してしまうのですもの。」
「ははは、たまたまですよ。私の魔法が効いて良かったです。」
本当に5.56mm弾がゴブリンに効いて良かった。
効かなかったら対物狙撃銃を持ち出さなければならないところだ。
「しかしサトウ殿は不思議な杖をお使いですね。」
マルクスさんが俺の持っている20式小銃を指差して言う。
「あー…これは故郷で私専用にカスタムして貰った特注品なんです。」
銃がこの世界にあるか分からないしな。
杖だ、杖。
「なるほど!魔術師にとって杖は、剣士の剣と同じ。使用者が最適に使いやすいよう、特注する事も珍しくはありませんからね。」
よし、上手く誤魔化せたな。
心の中でガッツポーズをする。
「黒くて、ゴツゴツした、なんてカッコいい杖でしょう!さぞ、高名な職人の品なのでしょうね。タケル様はどちらの国からいらっしゃいましたの?」
出身か……なんて答えようか?
まだこの世界の事もよく分かってないからなぁ。
取り敢えず東へ向かってただけだからな。
「出身はここから南に行ったとても遠い所です。」
うん、嘘は言ってない。
言ってないぞー。
この世界に来た時はここから南で生まれたからな。
「南というとレミリス王国ですかね。あそこは有能な魔術師が多い国と聞きますし。」
都合良くそんな国があったんだな。
本当にツイてる。
「そうです。田舎の出なのであまり地理には詳しくなくて。」
取り敢えず勝手に勘違いしてくれたようだ。
なんとか銃の事も、出身も上手いこと誤魔化せたようだ。
「マルクス!こんなところで長話をしていますと日が暮れてしまいますわ。それに屋敷へ帰らないとタケル様へのお礼もままなりませんし。タケル様、よろしければこのまま我が屋敷へおいで下さいませ。相応のおもてなしをさせていただきますわ。」
「お嬢様の仰る通りですね。かしこまりました。サトウ殿、お嬢様もこう仰っておりますので、宜しければこのままお屋敷へお越し下さい。それとサトウ殿の強さを見込んで、ご相談なのですが、屋敷まで護衛の仕事を請け負って頂けないでしょうか?お礼もまだなのに不躾とは思いますが、アンドレが死んでしまい、私一人ではお嬢様をお守りすることに不安が残ります。もちろん報酬はしっかりとお支払いさせていただきます。」
確かにマルクスさん一人だと不安だろう。
俺としても現状の目的は人の居る所での情報収集だ。それに報酬として現地の通貨も得られそうだし、願ったり叶ったりだ。
「分かりました。護衛はお任せ下さい。」
「そう言っていただいて助かります。」
亡くなったアンドレさんは布で包み、御者台へ安置している。お嬢様は「私を守る為に亡くなったのです。しっかりと弔いを行わなければ。」と言っていた。
部下思いの良いお嬢様だと思った。
「では出発しましょう!」
準備も終わり、マルクスさんがそう言うと、お嬢様は馬車に乗り込む。
「サトウ殿はお嬢様のお側へ。窓から周りの警戒をお願いします。」
「御者台で見張ったほうが良いのでは?」
「ああいう事があった後です。特にアンドレさんはお嬢様が小さい頃から護衛として共に過ごしてきた方です。お嬢様と色々と話して少しでも気を紛らわせて上げて下さい。何かあればお呼びしますので。」
マルクスさんなりに考えてのことなんだな。
「分かりました!何かあればすぐに教えて下さい。自分も何か気づいたらお知らせします。」
そう伝え、俺は馬車に乗り込んだ。
「それでは出発します。」
マルクスさんが言うと馬車が動き出した。
俺はこうして異世界の人と出会ったのだった。
仕事の都合で急遽、引っ越しをしなければならなくなったので、次話は少し時間がかかるかもしれません。
よろしくお願いします。