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10話 要塞都市

 イルミエンナへ入った馬車は都市の中心へと延びる道を進む。

 さすが大都市と呼ばれるだけあって、道路は石畳で舗装されている。

 俺たちが乗る馬車は石畳の道を規則的な音と振動をたてて進む。

 正確な時刻は分からないが、陽も水平線に沈み、辺りは薄暗くなっていた。

 日本ほどでは無いが、道の所々に街灯もあり、淡い光を放ち道路を照らしている。

 夜道に明かりを灯せるということは、国力のある国なのだな。

 しかし道を歩く人々の活気は少なく、みんな足早に帰路についているようだ。


「何と言うか、少し寂しい感じですね。」


 思わず俺は呟いていた。


「そうですね。イルミエンナは宰相の手が伸びていない場所ですが、人の口に戸は立てられません。王都の政変が商人等を通じて、イルミエンナでも噂が流れているのでしょう。」


 アンナ様は唇の端を噛み締めながら寂しそうな顔で話し続ける。


「イルミエンナはアルガーラ帝国との最前線に一番近い都市です。国の揺らぎは虎視眈々と我が国を狙う帝国へ付け入る隙を与えてしまいます。ここに住む住人としては安寧の日々を過ごしたいからこそ、戦争に繋がるかもしれない今の状況に怯え、恐怖を感じているのです。民の事を考えれば、王族や貴族が身内で争っている場合では無いのです。」


「アンナ様はお優しいのですね。自国の民の事をそれ程までに考えておられる。その様な方々が王族の血筋にいらっしゃるということは、この国の国民はとても幸せだと思いますよ。私利私欲に(まみ)れる者達によって統治されると苦しむ国民が増え、国力が落ち、やがて国が滅びるという運命を辿る事は歴史が証明していますから。」


 昔の地球でも皇帝や貴族が欲に走った結果は歴史の授業で習った通りだしな。


「優しいとは違いますわ。我々貴族は民の納める税で生活していますから、その代わりに民が、この国で幸せな生活が出来るように、私達は責任を持たなければなりません。お父様や国王陛下は常にそう仰っておりましたの。それと良くないことに最近アルガーラ帝国が国境沿いに兵を集めているとの情報もあります。国の上層部が混乱している今、攻められてしまうとかなり不味い状況なのです。」


「それはあまり良い情報ではありませんね。イルミエンナはそのアルガーラ帝国との戦争時に防衛拠点となるのですよね?」


「そうですわ。我が王国の長い歴史の中でもアルガーラ帝国は幾度も侵略戦争を仕掛けて来ている隣国です。

 前回は10年前に大規模な戦争があり、我が国の犠牲も大きかったですが、アルガーラ帝国へも大打撃を与える事が出来て、停戦する事が出来ました。

 ただ、こちらの諜報部の計算では、帝国が大規模な戦争を仕掛けられるほど、兵士の回復と兵站の準備の為には、少なくとも20年は掛かると言われていたのですが…。当然、我が国も兵士や物資は回復しきっていません。もし大規模な戦争になってしまうとかなり不利な状況になってしまいますわ。」


「非常に不味いですね。しかし、帝国も回復していない筈なのに、なぜこの国を攻めてくるのですか?」


「ミスリルですわ。帝国は我が国で産出されるミスリルを狙っているのです。」


「ミスリル?」


「タケル様ほどの魔法使いの方が、ご存知無いのですか?」


「はは、故郷ではミスリルという鉱石を聞いたことが無くて。」


 危ない危ない。ゲームとかでは聞いたことがあるけど、現実には見たことないからな。


「ミスリルとは武具の素材や魔法の媒体として非常に有効な鉱石ですの。そして、この大陸でミスリル鉱石を産出する鉱山はリピリア王国にしかありません。決して国土の広くはない我が国が、大国と呼ばれる近隣国と対等に外交を行えている理由は、大陸唯一のミスリル鉱山があるからですの。ミスリルで作られる剣は鉄をサクサクと切り、防具はミスリル以外の素材の武器では傷をつける事も難しい。魔法の杖等の素材としてもミスリルは伝導力が秀でていて、過去に大魔導士と呼ばれた英雄達の使用した杖もミスリルで作られています。つまりミスリルがあれば自国の兵士を大幅に強化する事が出来るのです。」


「帝国はミスリルを狙って攻めてくると。」


「そうですわ。もちろん我が国も始めは他の国同様に帝国へもミスリルを販売しておりました。しかし帝国は自国の兵士の強化を進めるうちに、小国へ侵略戦争を仕掛け始めていきました。この大陸全土を帝国の下に統一すると。そして我が国と同盟国はそれを許さないとして、同盟国と共に経済制裁を行いました。我が国はミスリルの流通を、同盟国は小麦等の食糧品、金属、あらゆる物資の帝国への流通を制限しました。すると追い込まれた帝国は我が国へ宣戦布告してきました。それからは度々、イルミエンナ付近で開戦と停戦を繰り返してきました。かれこれ30年になります。」


 なるほど、経済制裁で追い込まれた帝国はこの王国へも宣戦布告せざるを得ない状況になってしまったんだな。それとなく、昔の大日本帝国が欧米各国に経済制裁をされて米国へ宣戦布告をした事に似ているな。


「30年も戦争を続けていると終戦を考えることは無かったのですか?」


「もちろんありましたわ。前回の戦争の際にはお互いの国もかなり損耗しました。

そして今から数年前、帝国側で一番の強硬派だった皇帝が崩御、その後は講和派の第一皇子が実権を握りました。

帝国も早く戦争を終わらせたかったのでしょう。リピリア王国や同盟国に使者が派遣され、講和の条件や終戦の着地点を模索しておりました。

やっと条件がまとまりかけた時に帝国でクーデターが起こり、前皇帝の意志を継ぐとした第二皇子が軍を率いて第一皇子を反逆の罪で拘束してしまったのです。

第二皇子は帝国臣民から人気の高い第一皇子を処刑することは良くないと思ったのか、処刑はされず、帝国の何処に幽閉されている様です。」


 帝国も一枚岩では無いということか…


「帝国も長く続く戦争の影響で国民生活もかなり苦しいと聞いています。

街道の国境地帯は封鎖されてますが、森の中などを通って、命がけで越境してくる難民も多いです。」


「難民を受け入れているのですか?」


「ええ、イルミエンナ近郊に受け入れた難民を集めた村がありますの。

一応敵国ですので、間諜や工作員を警戒すると都市へおいそれと入れられませんから。」


 その辺りはしっかりと考えているようだ。

 難民に紛れての浸透作戦は常套手段だものな。


「我々としても帝国が拡大主義を止めるのであれば、仲良くとはいかなくても、敵対することはないのです。

しかし帝国でクーデターが起こってしまったので、また振り出しに戻ってしまいました。」


 そんな時、馬車がゆっくりと停車した。


「お嬢様、宿に到着しました。」


「分かりました。ありがとう。」


 馬車のドアをマルクスさんが開ける。

 アンナ様が降りた後に続いて降りると宿の入り口に兵士とハルバードを持った厳つい老紳士が立っていた。


「ハイゼンベルクお嬢様、イルミエンナへようこそおいで下さいました。」


 老紳士はそう言うと最敬礼の姿勢で跪く。


「アイゼンシュミット将軍、出迎えありがとうございます。」


「道中、モンスターの襲撃を受けたと聞きましたが、ご無事で何よりです。護衛騎士の件はお悔やみ申し上げます。

お亡くなりになられた騎士殿のご遺体を一晩丁重にお預かりさせて頂ければと思いますが。」


「ありがとうございます。アンドレの事はとても残念な出来事でした。

こちらのカズマ・サトウさんに危ない所を助けて頂きましたの。」


 将軍は周りに居た部下へアンドレさんの遺体を丁寧に運ぶように指示を出すと、こちらへと顔を向ける。


「お嬢様を助けてもらい、感謝する。ありがとう。」


 将軍はそう言うと頭を下げる。


「顔を上げてください!たまたま通りがかった所をお助けできただけにすぎません。」


 俺は思わず手をワタワタさせながらそう言う。


「いや、今の王国にはハイゼンベルクお嬢様が必要なのだ。貴殿が居なければ、最悪の結果が待っていただろう。私自身、今回のお出掛けには反対していたのだ。ただ、内容が内容だけに、送り出さざるをえなかった。救ってくれて、本当にありがとう。」


そう言うと、将軍は俺の手をガシッと握り、握手してきた。

手を触れただけで分かる。

ゴツゴツと武器タコのある手は歴戦の戦士の手だ。

見た目は老紳士だが、最強と言われるだけあるな。


「サトウ様はとても優秀な魔法使いなのですわ。遠距離から襲いかかってきたゴブリンを一撃で倒してしまったのです。」


「ほぅ…それは気になりますな。まぁ、本日は色々とあってお疲れでしょう。今晩はゆっくりお休みいただき、明日は早朝より出発なされるのでしょうから、また今度イルミエンナにお越しの際にゆっくりお話を聞きたいものですな。中で食事も用意させてます。どうぞ。」


 将軍はそう言うと宿のドアを開けて、中へ誘い入れてくれた。

ゆっくりとですが、更新していきます。

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