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二章4話 北方遺跡群での立ち回り


 カーテンの隙間から入る光を感じ、ゆっくりと目が覚めた。普段と違う雰囲気の宿、そのことに違和感を感じた後、今の自分の状態を思い出す。そう、リデッサスに来たのだ。そして、夜が明けたのだろう。カーテンを開け朝日を浴びる。だいたい朝七時くらいだろうか。八時になる前に教会に行かなくては――と、思ったところで、気付く。今いるのはリデッサスだ。クリスクではない。

 ずっとスイと朝会っていたからか、体も頭もすっかり朝の礼拝(ざつだん)に染まっていた。

 一度頭を振り、今日の予定について考える。絶対にやらなくてはいけない事はないが、まあ、順当に考えて、遺跡探索を行おうとしているのだから、それに関わることをするべきだろう。

 リデッサス遺跡街の周囲七つの遺跡、その情報の入手や、潜っている探索者たちの行動の把握、午前中のギルドの混雑具合、ギルド付近の宿屋や飲食店のさらなる調査などなど、やれることは沢山ある。


 とりあえず、朝食を食べてギルドに向かおう。そしてギルドに着いたら、まずは混雑具合の確認だ。ギルドに着くまでの間は、リデッサス遺跡街での振る舞い方、漠然とした行動計画についてでも考えるか。身なりを整え、宿に併設されている店で朝食を食べる。悪くはない味に満足しつつ、考えを巡らす。


 昨日も思った通り、リデッサス遺跡街はとにかく人が多い場所なので、犯罪に気をつけよう。そのため、金目のものは、見せびらかさないように注意だ。そう考えると、素材売却が少々難しそうだ。遺跡で入手してからギルドに向かう間はバックパックの中に隠せば良いが、ギルドの売却コーナーで『どのように立ち回るか』が問題だ。あれだけ混雑しているのだから、クリスクの時のように『人がいない時間』というのは無いような気がする。

 一応、この後、ギルドに行けば午前の混雑具合が分かるが……昨日見た昼過ぎから夜にかけての混雑具合を見るに、望み薄だろう。少量ずつ売却するか? あんまり効果的ではなさそうだ……というか、今思い出したが、俺はそもそもクリスクでも素材は全部売っていない。

 なぜかと言うと、価値あるものが多かったので、ギルド側に不審がられるのでは無いかと思い、劣化しにくく見えるものはリデッサスに持ち込んでしまったのだ。クリスクにいるときは、リデッサスでも入手可能な素材なので、売却場所を分散できると思っていたが、裏目に出た。まさかここまで混み具合に差があるとは思っていなかったのだ。

 一応、今日ギルドに行くときに一部の素材を持って行き売るという手もあるな……比較的低めの層――とはいっても中層だが、中層由来のものを少しだけ持って行き、売却できそうか確認しよう。あまりに人が多いとか、売価カウンターの近くに不審者が多いとかの場合は見送ろう。


 次に全体の行動計画の再確認だ。

 このリデッサス遺跡街に来た理由は、金儲けと『感覚』の検証、それと手持ちの余った素材の処理だ。そして、そのためには遺跡や情報や探索者の動向を知る事が大事だ。

 ただ、まずは、七つの遺跡の区分けをしたい。分け方は、『安全地帯がある遺跡』かどうかという点だ。安全地帯がある遺跡は、俺にとって他の遺跡よりも優先度が高い。安全地帯を利用すれば、文字通り魔獣に危険にさらされることなく安全に活動できるのだ。『感覚』の検証、金儲けともに相性が良い。遺跡を区分することで、全体の計画のバランス――たとえば、どの遺跡の情報を優先するか、そこは探索者の数は多いのか、などを整えながら行動していきたい。


 朝食を終えた後、まっすぐに大通りを通りギルドへと向かう。やはり人通りが多い。クリスクの大通りも人通りは多かったけど、朝の時間帯ではここまで多くはなかった気がする。

 寒さを肌に感じながら数十分ほど歩いたところで、ギルドに到着した。そして、やはりと言うべきか、普通に混んでいた。人がごった返している。クリスクと同じように考えるならば、今の時間帯は色々な人がいる時間だ。低層から深層まで、色々な人がいる。クリスクでは、特にギルドでは即席パーティーメンバー募集とギルド側が出す依頼の取り合いが行われていたが、こちらも似たようなもので、ギルド内では様々な人が声を出し合い、それぞれの利益のために努力しているのが見て取れた。中々大変そうだ。

 それにしても、どうしたものか。昨日の情報と照らし合わせるに、おそらく、リデッサス遺跡街のギルドは常時混みあっている。これは、どんな活動をするにしても、気を抜けそうにないな。まあ、人が多いからこそ、自分の行動が他の人に紛れて薄まるというメリットもあるにはあるが……


 悩みつつも混雑するギルドの中を少しずつ動き、目当ての場所である売却コーナーに向かう。ときおり、飛び交う声が耳に入る。どの遺跡に向かうかとか、報酬の割合だとか、戦い方の確認などといった実務的なことが半分ほどで、あとは半分は、俺は強い探索者だとか、昔素材の群生地に当たって大金を得たとか、あそこの飯屋が美味かったとかといったコミュニケーション的なものだ。

 それらをなんとなく頭に入れ、人をかき分けていくと売却コーナーに着いた。人はいる。だが、昨日よりは少ない。売っている人たちの顔ぶれや装備を眺める。装備はあまり詳しくは無いが、軽装の人もいれば重装の人もいた。全体として使い込んでいる感じの人が多い。どこか場慣れしたような雰囲気も感じる。

 だが、一方で、その疲労具合に関しては二通りに分けられた。元気そうな人と、疲れて見える人だ。半数程度は元気そうだ。しっかり睡眠を取って、朝食を食べてきたという感じだ。そしてもう半分は疲れている感じがした。どこか眠そうで、気合で売却コーナーに並んでいるという感じだ。


 おそらくだが、これは夜勤組と調整組ではないだろうか。どちらも今考えた名前だ。

 夜勤組というのは、深夜に遺跡で活動している組だ。人がいない時間帯に遺跡に潜り、開く早朝に戦利品をギルドに卸す。メリットはあんまり思いつかないが……なんらかの事情で昼帯に遺跡に潜れなければ選択肢としては有り得る気がする。一応、探索している時に他の探索者に会いにくそうなところはメリットか……? ん……それって俺のメリットにもなりそうだな。ああ、でも、俺は体があまり強くないし、深夜に活動とか難しそうだな。一応アイディアには入れておくか。

 えーっと話を戻そう。調整組というのは、売却コーナーを利用する時間を調整していると思われる人のことだ。おそらく前日以前に遺跡で素材を入手し、それを朝に売却するのだろう。劣化しにくい素材ならば、混んでいる時間帯を避けるというメリットがある。ふむ。昨日の昼帯よりも明らかに売却コーナーの人は少ない。よし、俺も調整組になってしまおうか。丁度、クリスクで入手した素材がある。今ならそんなに人目にはつきにくい。売ってしまおう。


 あれ、でも今売るのって、なんか変かな? 大したことでは無いんだが…………このリデッサスに来て、まだ一日。それで素材を持ち込むのは変な気がする。

 いや、まあギルド側がそもそも俺がいつリデッサスに来ているかなんて把握しているとは思えないので杞憂でしかないのだが……ん? あ、でも、あれだな。俺の動き方、性格からして、遺跡の情報や探索者の動向をこれから調べて回るのだから、その様子は周囲からも見えるはず。

 もしかしたら、ギルド職員の中には俺の行動を見て、『遺跡に入る前に準備している人なんだな』と思うかもしれない。そうなった時、俺が定期的に素材を売っていたら、『準備中なのに、探索したのか?』と思われるかもしれない。

 いや、分かっている。たぶんギルド職員はそんなに俺の事見てないし、仮に見ていたしても、その職員が売却コーナーでの俺の行動を把握しているのかという点もあるし、それにたとえその二つが結び付いたとしても、準備中とかそんなこと気にしないような気がする。だから、これは完全に気にし過ぎで……うーん、やっぱり昨日の迷惑少女ホフナーの件がまだ尾を引いているのだろうか? いつも以上に神経質になっている気がする。


 うん。売ろう。どうせいつかは売らなくてはいけないのだし、それに今持ってきているのは少量だ。それを金に換えるだけだ。調整組もいるし変ではないだろう。俺は売却コーナーの列に並ぶ。少し待つと、順番が来て、ギルド職員が対応してくれた。丁寧な感じだがテンポが速い。クリスクよりも人が多い分、一人当たりに時間をかけたくないのだろう。お仕事お疲れ様です。

 あまり負荷をかけても良くないので、バックパックから素早くいくつかの素材を取り出し売却をお願いする。ギルド職員は手慣れた様子で素材を確認し、売却額を告げる。クリスクとそう変わらない額だ。うん。素材の価値や物価に関してはクリスクとほぼ同じと見てよいだろう。まあ、同じミトラ王国の都市だし、そう大きく変わることはないとは思っていたが、確認できて良かった。

 金貨十数枚、銀貨数枚を周りから見えないようにバックパックの中の財布に隠す。そして、焦らないように、普段通りの足取りを意識し、売却コーナーから離れる。売れた。周りも、担当した職員も不審がっている様子は無かった。どうも色々と気にしすぎているようだ。


 軽く息を吐きながら、次にやるべきことである各遺跡に情報を探すためギルドの資料室に向かう。資料室も人が多かったが、人が溢れかえる入口やホールほどではなかったため、資料探しには支障はなかった。お昼を少し過ぎるまでの間、資料を漁り、優先している事柄を中心に情報を集めた。

 その後は、一度、売却コーナーを確認しに行ったが、朝とは比べ物にならない程混んでいた。どうやら、クリスクと同じで、昼に一旦ギルドに戻り売却を行う探索者は多いようだ。やはり売却を行うならば朝にするべきだと確認しつつ、ギルドの近くの飲食店に入った。


 朝よりも美味しい昼飯に頬を緩めつつ、資料室で手にした情報について考える。リデッサス遺跡街を構成する七つの遺跡――リデッサス遺跡、ニノウォ遺跡、クラツェフカ遺跡、ポドロサクリス遺跡、ギ遺跡、インキシト遺跡、ドロズル遺跡の概要についてだ。

 まずは中核となっているリデッサス遺跡だ。

 これは七つの遺跡の中でも最も深く、そして大きい遺跡だ。現在、三十八層まで存在が確認されている。クリスク遺跡よりもだいぶ深い。また、この遺跡は二層まで安全地帯になっている。俺の『感覚』がクリスク遺跡と同じように機能するならば、安全地帯が一層だけではなく二層まであるというのは、メリットが大きい。ぜひ活用したいところだ。

 また同じように安全地帯という視点から見ると、ニノウォ遺跡とドロズル遺跡も一層は安全地帯となっているようだ。七つの遺跡のうち三つが安全地帯を持ち、それ以外の四つは持たないという事が分かった。『感覚』の検証では、まずはこの三つの遺跡を利用することを考えると良いだろう。

 ああ、そうだ、それと、金儲けに関してだが……まあこれは、そこまで深く考えなくても良いだろう。『感覚』が使える限り、遺跡から富は次々と出土されていくのだ。安全地帯で活動すれば危険も無いので、リスクがほぼ無い状態で富を入手できる。北方遺跡街が噂通り、非常に難しいところならば安全地帯に籠って金貨を増やしていけば良いだろう。

 ただ、現状、装備もだいぶ整っているので、より詳しい情報を得たうえで、さらに場数をこなした後であれば、クリスクと同じように三層くらいまでは突入できるのではないかと考えている。もちろん、本当に突入する前に魔獣の情報や遺跡の構成などを入念に調べる必要があるだろうけれど。

 あとは特記すべきこととしては、一応、各遺跡の地図を購入した。必要性が薄いものもあるかもしれないが、お金に余裕もあったので、七つの遺跡全ての地図を三層分まで購入した。潜らない遺跡もあるかもしれないが、遺跡同士を比較したりすることで得られる情報もあるかもしれないので、無駄にはならないのではないかと思っている。まだ、そちらには目を通せていないが、宿に戻った時や隙間時間などで少しずつ読み込んでいきたいところだ。


 考えを整理したところで、お腹も膨れたので、会計をすませて店を出た。それから一度ギルドを見に行き、やはり混雑していることを再確認した後、リデッサス遺跡の入口へと足を運んだ。

 今日の午後は各遺跡の入口の確認を行いたいと思う。ついでに出入りする人の数などの確認もしておきたい。まあ、今は昼過ぎなので、クリスクでの経験を考えると出入りは少ないと思うが。

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