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一章82話 お別れ会⑪


 とりあえず、上手い事、話しをまとめたい。そのためにはできるだけ自然で、嘘が無い形で発言し、それでいて全員の情報量と矛盾が無いようにしたい。完璧には難しいが、ある程度収束させることはできるかもしれない。

 そのためには、まずは、流れを考えよう。俺の最近の行動だ。どのような流れにすれば自然だろうか。


「ああ、いえ……えーっと、ルティナさんには色々とご助言を頂いていて、助かっています」


 おざなりに返しつつ、流れを考える。まずはクリスクで行き倒れた。理由は金欠。それから探索者として活動する。最初は低層で、そして慣れて行って中層、深層へと手が伸びた。ギルドでもてはやされて調子に乗って経験者の振りをしたが、ビキナーズラックで深層に到達しただけで、普段は中層で活動している。

 これは、一番簡単な流れだが、ユリア視点だとちょっと厳しい気がする。あと現実的に一か月で中層から深層で活動できるというのが可能かどうか怪しい気がする。


 いっその事、以前から深層で活動しているが、安定性を考えて中層で活動している事も多いといった形にするか? そちらの方が現状にも近い気がする。

 アストリッドの持つ情報との整合性が今度は厳しくなるが……『深層探索者が金欠で行き倒れてしまった』と言うのはプライドの問題でできなかったとかにするか……? 感情面の問題ならば多少嘘があっても『見栄を張ってました! すみません!』でゴリ押しできる気がするし、矛盾点を突かれにくい気がする。


「関係が良好みたいで良かったわ……さて、とりあえず何か頼みましょう」


 アストリッドがそう言うと、『フェムトホープ』の三人はそれぞれが了承の意を示した。立っていたアストリッドとユリアがそれぞれ着席する。アストリッドは先ほどと同じようにマリエッタの隣の席に座り、ユリアはルティナとスイの間の席に座った。俺もそれに合わせて元の席に戻る。俺・スイ、マリエッタ・ユリア、アストリッド・ルティナがそれぞれ向かい合う形だ。

 斜め前にいるユリアがこちらを見てにこやかに笑った。その笑顔の意味を考えていると、視界が遮られた。スイが、俺とユリアの間で手を振ったからだ。スイの手がぱたぱたと揺れる。


「ダメでーす。お兄さんは『フェムトホープ』と話すのは禁止でーす。今日は私とお話するって約束したでしょー」


 スイの言動を聞くと、ユリアは困ったような表情をした後、『フェムトホープ』の面々と注文について話し出した。

 助かるような助からないような行動だ。今は情報量の関係で『フェムトホープ』の面々と話しにくい。いっその事、今日はスイと話すことに集中してしまおうか……? どうせ明日にはいなくなるし、俺がちょっと変な人だという事が『フェムトホープ』に分かったとしても問題は無い気がする。

 そう、別に俺の言動が多少変でも問題は無いはずだ。ちょっとあの人変だったな、って思われる程度だろう。そうだ。別にそこまで問題では無いのだ。慌てるようなことではない。ただ、なんというか、できるだけ『他人が持つ自分の情報』はコントロール下に置きたいと言うか、あんまり俺が不思議な人だと思われたくない……いや、正確に言うと不思議な人程度に思われるのは別にいいのだ、ただ、非常に特殊な力を持っていると思われたくないのだ。

 だって、それは少し危ない気がするから。


「それじゃ、お兄さん、次はこれと、これと、あとこれも頼もっか」


「そうですね、その辺りが取り合わせ的にも良いと思います」


 思考を回している間にもスイと一緒にオーダーを決め、店員に追加の料理を注文した。チラリと横のテーブルを見ると、『フェムトホープ』の面々も料理を決めたようだ。


「それで、それで、ルティナたちが来たせいで終わっちゃったけど、さっきの続きから~、んー? あれ? どこまで話したっけ。まあいっか。それじゃあ、今度の話は~」


 料理を店員に頼み終えるや否や、スイがまた雑談を始めた。嬉しそうに口を動かす彼女に、少し癒されながらも、頭の中では、『フェムトホープ』について考える。

 まあ、最悪の場合は明日には縁が切れると思えば、そこまで深刻に考える必要はないけれど。まあ、『フェムトホープ』の面々は親切そうだし、何より探索者として俺などでは到底到達できないレベルに達している人たちだ。そういう意味では、縁を持っておいた方がいいし、あまり嘘つき野郎だと思われないようにしたい。そうすると、この後、話題が怪しくなったのなら、上手く情報を出す必要がある。

 『未経験者だったが深層まで行けるようになった』パターンと、『深層経験者だが行き倒れてしまった』パターン、どちらの方が良いだろうか……? いや、もっと良いパターンもありそうだ。とりあえず、スイとこのまま雑談をしつつ、上手い考えを出したい。


「なるほど、相変わらず、何と言うか独特ですね……」


 スイの言葉に相槌を打ちつつ、考え事をしていると、ふと視線を感じた。視線の先を見ると、ユリアがチラチラとこちらを見ていた。俺が視線をユリアの方へ向けたのが気に食わなかったのか、スイは手で再び妨害を始める。


「ダメでーす。余所見は禁止でーす。というか! お兄さん、さっきからちゃんと聞いてないでしょ! 考え事してないで、話に集中してよ~」


 スイは不満そうに唇を尖らせた。考え事をしているのがバレてしまったようだ。


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