一章77話 お別れ会⑥
「本当に分かってるか分からないけど……まあ、聞く気があるなら教えるよ。私のところは四人構成。あ、私も入れてね。前衛三枚、後衛一枚。ただ、まあ全員前衛も後衛もできるけどね。カイもパーティーを作るなら始めは四人くらいが良いよ。あんまり多すぎても足を引っ張られるし、報酬で揉めるから。四人構成なら、前衛は三枚か二枚ね。一枚だとバランス悪いし、四枚だと通路の幅次第で戦力が浮くからね」
なるほど。ごもっともな意見だ。実際昼組も夜組もそのくらいの人数構成が多いみたいだし、その通りなのだろう。
思うに、低層組も深層組も構成って意味では特別に変わったりはしないのかも。まあ、今の話を聞くに、ルティナのパーティーは四人全員万能型みたいだし、それに同じ深層組のマリエッタもメンバーの万能性については説いていたから、そのあたりが低層組との違いなのかもしれない。
「四人構成ですね。分かりました。ちなみに前衛、後衛って言いますけど、具体的にはどんな方なんですか。確か、ルティナさんのパーティーってエースが凄く強い人なんですよね。あと、ルティナさんは魔術を使えるようですけど、後衛なんですか?」
言っていて、ルティナのパーティーのエースについて思い出す。確か、指で人を捻り潰せるほどの凶暴なやつって話だ。その人がこの後、隣のテーブルに来るのか。ちょっと怖いな。
「私は前衛。魔術よりも剣の腕の方が上手いからね」
え、剣士だったんだ。その割には、剣を持っていることを見たことは無いが。
「剣士なんですか……初耳です」
俺の言葉に対して、ルティナは少し固まった後に口を開いた。
「…………剣士ではないよ。槍の方が上手く使えるし、ただ、遺跡の中だと、槍は少し使いにくいから剣を持ってるの」
探索者なのに、遺跡の中で使えない武器が上手いって変わってるな。もしかして、ルティナって元々探索者ではないのかな? 別の仕事をしてて、後から探索者になったとか? まあ、これ聞くと、また話題が逸れるし、聞かないでおこう。
「なんか、探索者で武器を使う人って、いつも身に着けてるイメージがありますが……」
昼組なんかはよくギルドで身に着けてるし、なんなら大通りでも武器を身に着けている人を見かける。夜組もそんな感じだったかな……?
「それは武器持つのが好きな人でしょ。クリスクは大通りの方は治安が良いし、店によっては武器を持ち込み禁止のところもあるから、遺跡に入るときくらいしか武器は身に着けないんだよ。まあ、私の場合、チンピラ数人くらいなら素手で倒せるっていうのもあるけどね」
ああ、確かに、お店の中では武器を持っている人はあんまり見かけなかった気がする。
それにしても、ルティナは素手でチンピラ数人倒せるって、結構凄くないか? 暴力関係は疎い俺でも、数の差は大きいというのはなんとなく分かるぞ。やっぱり、深層探索者ともなると暴力関係も強い人ばかりのようだ。まあ、中層から深層にかけての魔獣脅威度合を考えると、暴力に強いというのは自然か。
「なるほど……確かに、言われてみるとそうですね」
「カイって肝心なところで抜けてるね。まあいいけど。それで、私のパーティーのエースの話だっけ」
ルティナは呆れたように息を吐くと、気になっていた話題を口にした。怖い人の事は知っておいて損はない。いや、まあ、不安になるかもしれないというデメリットはあるが、危険を回避できるというメリットの方が大きいだろう。
「ええ、凄く力が強い方なんですよね。あと舐めた態度を取ってはいけない方とも以前言ってましたよね。自分とスイさんはたぶん気付かぬうちに舐めた態度を取ってしまうみたいですので、いらっしゃる前に注意点があれば教えてほしいのですが……」
言いながらも、スイは狙って舐めた態度を取っているのかもしれないので、聞いてもふざけたことをするかもしれないとも思った。まあ、スイは超人的な力を持ってるから、舐めた態度を取っても問題は無いかもしれないけれど。
「んー、んー? お兄さん、もしかして……」
ルティナへの質問だったが、彼女よりも早くスイが口を開いた。なんだか不思議そうな顔をしてこちらを見ている。