一章76話 お別れ会⑤
「あ、えっと。ルティナさんは、今日はパーティーでこの店に?」
とりあえず、憎しみの気配も薄れたので、話題を探すための言葉を振る。
「そうだよ。それがどうかしたの?」
先ほどよりは怒りの感情が薄れているためか、今度はスムーズに答えてくれた。良かった。
「確か、ルティナさんと同じで、熟練者揃いの方々なんですよね」
俺の言葉にルティナは僅かに嬉しそうな表情を浮かべた。やっぱり褒められると嬉しいのかな? あれ、でもさっきは駄目だったな。何が違うんだ……?
「まあね。もう少しで皆来るんじゃないかな」
「よくよく考えると、ルティナさんのパーティーって熟練の方々ってことしか知らなかったですけど、せっかくですし、どんな感じのパーティーか聞いてもいいですか?」
二十層に行けるという事は知っている。なんとなくだが、クリスクに四つしかないAAランクパーティーの一つなのかなと思ってはいるのだが、前聞いたときは話が逸れてしまったので、これに関しては俺の推測でしかない。
「まあ、このあと来るから、隠してもしょうがないし、教えてもいいけど、カイは何を聞きたいの?」
何って聞かれると難しいな。一応、今自分がやってることの目的は、ルティナを宥める事と、場の少し悪い空気を入れ換えたいということだ。なので、実はそこまでルティナのパーティーには興味はないのだが……まあ、全くないわけではないし、彼らがここに来るのが決まっているのなら、夕食を隣で食べていても気まずくない程度に人物把握でもしておくか。
どういう人が来るか予め知っておけば、何かあった時にも困らなくてすむだろう。まあ、いきなり変な事をしてくる人はいないと思うけれど。一応。
「えっと、構成とかでしょうか? 自分はまだ未熟ですが、将来もしかしたら、パーティーを組んだりすることがあるかもしれませんし、熟練の方がどんな風なパーティー構成なのか気になります」
とりあえず、構成から聞き、そこから話を掘り下げ個人についても聞いていくことにする。
「相変わらず、自分がすぐにでも深層に行けるような言い回しだね。本当に生意気なんだから」
まだ三層までしか行けてないし、将来的にも、そんな深く潜ることは無さそうだが……
「ええっと、そんなつもりはないのですが、そう聞こえましたか……?」
「聞こえるよっ。中層までソロで行けるのは普通に凄いけど、そこから先は一層分進むだけでも大変なんだからね。舐めてると、本当に死ぬよ」
ルティナは真剣な声で告げた。たぶん心配してくれているのだろう。どう答えていいか悩んでいると、先にスイが口を開いた。
「ん~。お兄さん中層まで行ったの? 危ない事しちゃダメだよ~」
いつものように悪戯気な顔だが、少しだけ不安そうに見える。
「いや、危ない事はしてませんが……」
「本当かな~。ずっとソロで活動してるみたいだし、危ないんじゃないのー。やっぱり、リデッサスに行くのは禁止にしようかな~」
いや、それは困る。
「それは――」
「――リデッサス?」
俺が話そうとすると、ルティナが言葉を重ねて遮った。そして、彼女は俺の方を鋭く見た。
「聞いてないんだけど、カイ」
言ってないからね。
「近々、というか明日リデッサス遺跡街に行く予定なんです」
なんとなく怒られる気配を感じたが、嘘を吐くとバレた時もっと怒られそうなので正直に話す――話しながら、どうせ明日にはリデッサスに旅立つのだし、ルティナとの接点は切れるのだから、嘘を吐いても良かったのでは? とも思ったが、スイが嘘に合わせてくれるか分からないし、この店にいる間のどこかで嘘が露見する可能性の方が高い気がした。
それにスイに『俺が嘘を吐くやつ』だと思われるというデメリットもある。やはり正直に話して正解だと思う。
「それって、観光で行くの?」
「そういった要素もあります」
正直に遺跡に潜るって言うとまた怒られそうだと思ってしまい、なんとなく微妙な返事になってしまう。視界の端でスイがクスクスと笑っていた。
「そういった要素って何! 北方遺跡群に潜る気でしょ! 分かるんだからねっ」
結局、怒られてしまった。
「そ、そういった要素もあります」
「相変わらず、人の事を馬鹿にしてっ! 言っておくけど、北方はクリスクみたく甘くないよっ!」
またぷんぷん怒り始めた。スイの余計な一言から話がどんどん飛び火してしまった。
「肝に銘じます……あ、ところで、話を戻しますが、ルティナさんのパーティー構成ってどうなってるんですか。北方ではルティナさんの言う通り、クリスクでのやり方が通じないかもしれませんし、パーティーについて知りたいです。良ければ教えて欲しいのですが……」
完全に噴火する前に話題を修正することにする。スイもルティナも話題がよく逸れるタイプであるだけに、二人もいると、話が全然進まない。