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一章74話 お別れ会③


「文句でもあるのかね?」


 思った事が顔に出たのかスイが責めるようにこちらを見た。


「あ、いえ、文句ではないのですが、なんで兎なんですか?」


「スイちゃんは、うさぎが好きです」


 真顔でスイがこちらを見た。

 ……いや、説明になってないような。


「では、話を続けます。お兄さんがうさぎだとすると、ユリアはライオンだよー。怖い怖いライオン。うさぎなんて一噛みで仕留めちゃうよー。だから、お兄さんはもっとユリアを警戒しないと、ダメだよ!」


 俺が反応に困っているとスイは、スイは話を戻し、熱心にユリアの危険性を説いた。

 分かりやすくという点に疑問を少し感じたが、それはおいておこう。

 つまり、ユリアが超人的な力を持っているから気を付けろということだろうか? でも、もしその理論で話を進めるならば、同じ超人的な力を持つスイもまた警戒の対象になるのではないか、と思うのだが……それに仮にユリアが超人だから危険だとしても、彼女の性格から考えて、その力を人に向けたり、ましてや悪用するとは、とてもじゃないが思えない。


「とてもそうは思えませんが……根拠みたいなものってあります? 自分から見るとユリアさんて凄く優しくて親切な感じがするんですが」


「ほらっ! それだよ、それ。詐欺師のユリアに騙されてるよー。あの優しそうな見た目にコロっとやられちゃってるのー。このままだとお兄さんはユリアにガブリとやられちゃうよ~。ユリアは容赦ないからね~」


 スイは言葉に熱を込め、さらに身振り手振りを駆使し、こちらを考えを覆そうとしてくる。


「とてもそうは思えませんが……」


「むー。お兄さんは頑なだな~。みだりのユリアとスイちゃんなら、もうこれはどっちを信じるかなんて明らかっ! 明らかだよっ! ユリアはみだりなんだよー」


 スイは喋るたびにヒートアップしていき、ついには言葉の途中で、テーブルに身を乗り出した。今日は一段とユリア落としに力が入っている。しかし、口ではユリアを悪く言う一方で、スイは少し楽しそうに見える。本当にスイとユリアの関係はよくわからないものだ。


「なるほど? まあ、その、気を付けますね」


 ただ、スイの言葉をそのまま全てを鵜呑みにするわけにはいかないので、一旦線引きをする。本来ならばスイがユリアをどう思っているか聞きたかったのだが、それは今回も叶わなかったようだ。


「むむむ~。この言い方。適当に流そうとしてるお兄さんだ! せっかくのスイちゃんの慈愛に満ちた助言を適当に流すとはー、お兄さんがユリアに滅茶苦茶にされても知らないからね~」


 楽しそうでありながらも、不満そう。そんなちぐはぐな雰囲気でスイは捨て台詞のような言葉を吐いた。ユリアが俺に何か悪い事をするとは到底思えないので、知らないもなにもないだろうけれど。


「まあまあ、スイさん、別に適当に流しているわけではないですよ。貴重なご助言だと思っていますよ。ああ、そう言えば、今日は魚介って言ってましたけど、魚介系は好きなんですか?」


 拗ねるスイを宥めつつ、話題を変える。


「露骨に話題を変えたね、お兄さん。まあスイちゃんは優しいので許してあげよー。で、魚介の話ね。うん、まあまあ好きかな~。お兄さんは?」


 それから、魚介の話や食べ物の話など、色々な話を跨ぎながらもスイと談笑した。

 そうして少し時間が経つと、料理が運ばれてきた。どれも美味しそうで、香りを嗅いだだけでも、涎が出てしまいそうだ。


「うむ、なるほど、なるほどー。お兄さんが自信満々に選んだだけあるね。美味しそ~」


 スイが並べられた料理を見るや否やそう声を上げた。


「んじゃ、まずは一杯」


 スイはまず葡萄ジュースを口にした。ごくごくと喉を鳴らし、飲み終えると、満足げな表情を見せた。次にパンを一口齧り、ほおを緩めた。どうやらお気に召したようだ。

 さらにエビのアヒージョを口にすると、これまた笑顔を見せた。普通に可愛らしい笑顔だ。邪悪さは無い。見ていてこちらも暖かくなるような、そんな笑顔だ。


「美味しいね~、お兄さん。スイちゃん大満足だよ。こう、ぐぐっと美味しさが広がるというか、それで一緒にぐぐっとお兄さんの評価も上がったよ。プラス五十点くらいかな~」


 スイは葡萄ジュースをぐぐっと飲みながらも、謎の採点を口にする。


「なるほど? 今持ち点いくらくらいですか?」


「マイナス二千点くらいかな~」


 低い!


「想像より遥かに低かったんですけど、内訳を聞いてもいいですか?」


「ん~。細かいのは覚えてないなー」


 相変わらず気まぐれで決めているようだ。


「大幅減点の理由を聞きたいです」


「いいよ~。お兄さんがリデッサス遺跡街に行くって言ったからマイナス千点くらい。しばらく礼拝をサボるみたいだから、さらにマイナス千点くらいかなー。あと、これから毎日、朝の礼拝をサボる度に100点ずつ減点していくし、他にも一杯減点するから、クリスクに戻ってきた時には、マイナス一万点くらいにはなってるんじゃないかな」


 この店の料理はかなり美味しい。それがプラス50点であることを考えると、朝の礼拝に参加しないことによる減点が大きすぎる気がする。しかも、スイも納得済みの件でも減点していくというのは、少々採点基準に問題があるのではないだろうか。

 いや、まあ、そもそもガバガバルールみたいだし、特に減点されてもデメリットなさそうだから、拘る必要はないけれど。


「厳しくないですか? クリスクに戻ってきてから礼拝に参加したら一日二百点くらい貰えませんか?」


 拘る必要はないが、一応加点してもらえないか聞いてみる。なんとなく点数をプラスにしたい気持ちがある。いや、別に拘っているわけではないが。


「うーん、朝の礼拝の参加はプラス五点くらいかなー。お話が面白かったらもう少し加点してあげよー」

「参加の加点に対してサボリの減点が大きすぎるような……」


「それだけ罪が重いってことだねっ。来年の贖罪日にちゃんと贖おうね。お兄さん」


 スイはニヤリと笑った。ちょこっと邪悪さが入っている笑みだ。贖罪日の儀式はスイを相手にやるのは少し恥ずかしいので、ちょっと贖いたくない気持ちがある。ユリア相手にやらせてもらおうかな……ああ、いや、こんなアホっぽい罪を贖うのにユリアの時間を使ってもらうのは悪いか。


「考えておきます。ちなみに、マイナス一万点とかいくと、なんか特典とかありますか?」


 プラスにすることが不可能そうなので、マイナスを突き詰めた場合の効用を聞いてみることにした。


「特典か~。マイナスはないけど、プラス一万点になったら、スイちゃんが一日デートしてあげよー」


 デートか。プラス一万点というのは不可能だけれど、デートか。なんとなく、スイの顔を見る。スイは俺と目が合うと、小さく首を傾げた。可愛い。相変わらずの美少女フェイスだ。こんな美少女とデートできるというのは、ある意味非常に価値があることなので、不毛な一万点集めも『やりたい』と思う人はいるかもしれない。

 ……ん?! 

 あれ、今、俺はスイと美味しい飲食店で夕食を取っている。これは見方によってはデートしているような気がする。一万点集めなくてもデートできてるような……


「なるほど……? 頑張ります」


 疑問が言葉に出そうになるが、それを抑えて、話を打ち切る方へ流す。この疑問を口にすると、スイのことだから、『そうだよ~、今デートしているから、お兄さんはあとで一万点集めないといけないんだよ~』と邪悪に笑いながら言いそうな気がする。

 ただでさえ、リデッサス行きで大幅減点が約束されているのだ。そこから一万点稼ぐのは少し大変そうなので、ここはスイが気付く前に話題を流す方が良いだろう。


「頑張りたまえ~」


 気が抜けたようなスイの返事に満足しつつ、俺も自分の分の葡萄ジュースを飲む。美味しい。こういう時、お酒とかの方がきっと雰囲気が出るんだろけど、俺は酒が実質飲めないので、できない。残念。

 それから、スイと一緒にテーブルに並べられた料理を食べていく。お互い、味について講評しながら、時折、料理に関係ない雑談を挟みつつ、皿を空にしていく。量はあまり頼んでいなので、ほどほどの時間で食べ終わった。

 スイと次は何の料理を頼むか相談し、いざ、オーダーしようとした時、隣のテーブルに人が入る僅かに視野に入った。ふと疑問に思う。今、視野に入った人数は一人だ。連れはいなかった。しかし、隣のテーブルは広く席が六人分あった。それ故か、なんとなく、その一人の客の方を向いてしまった。


「あ……」


 客の姿を確認し、声が漏れた。そして、俺の声に反応して、スイもまた、その客を見る。


「げ!」


 美少女が出すには少しだけ品が悪い声を、スイが出した。そして、その音に気づき、その六人用のテーブルを占拠する一人客――ルティナはこちらを見た。


「っ! スイ! それにカイ! 何やってるの二人してっ!」


 第一声から、お怒りが伝わってきた。今日もぷりぷり怒ってらっしゃる。いつも怒ってるな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 修羅場かな?
[一言] さあ面倒もとい盛り上がってまいりました!ww
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