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一章6話 異世界二日目 情報収集②


 一通り調べたら時間はお昼前になった。

 丁度良かったので、ギルド1階の買い取り窓口まで移動し、他の探索者たちを観察することにした。探索者たちは朝から遺跡に潜り、夕方から夜にかけて帰還するが、低層で活動するパーティーなどは昼に一度戻ることがある。

 そのため、昼と夕方から夜にかけての時間帯で買い取りは活発に行われる。よって昼頃に待ち伏せすれば、低層で活動する探索者たちの様子や構成、採取物などを観察できるはずだ。


 買い取りカウンターが見えるベンチに腰かける。もうカウンターには50人くらいの人が並んでいた。また、俺の他にもベンチで腰かけている探索者が十数人は見える。並んでいる人の中には明らかに一人という感じの人もいるが、数人で固まっている人たちもいるし、中には二人がかりで大きな動物の毛皮を運んでいる人たちもいた。

 周囲のベンチ組の話し声が聞こえたので、耳を大きくする。


「今日は思ったより取れたな。てか、ルカビ草の群生地が当たったのがデケェ。あれ全部で大銀貨15枚はいくだろ」


 金髪の男が、近くにいる長身の男に話しかけていた。ルカビ草。確か1層でも取れる植物だ。これは昨日遺跡に入る前に一生懸命だったから覚えている。1層だと結構珍しく、拾えたらラッキーといった物だ。2層以降では深くなるごとに発見率が上がり、逆に6層を超えると見られなくなるものだ。主に薬の材料に使われるらしい。しかし、大銀貨15枚――金貨3枚分となるとかなりの量だ。


「そんないかないんじゃないか? 全部で大銀貨5枚を超えるくらいだろ。途中で仕留めた魔狼の牙と爪を合わせて、ようやく大銀貨10枚いくかどうかだ」


 魔狼というのは分からないが、たぶん遺跡で見られる魔獣の一種だろう。魔獣は1層では発見されない事を考えると、この二人は2層より深い場所で活動できるタイプか。


「そんだけか。やっぱ心臓も抉って皮も剝いだ方がよかったんじゃね」


「4層から戻る時間を考えると心臓は腐っただろ。皮は回収するのは時間的に不可能だ。牙と爪だけでも十分、というかむしろ危ないくらいだった」


 おっと4層だった。結構深いな。それに『腐る』か。まあ、深い所に潜れば潜るほど、帰還するのにも時間がかかる。魔獣の心臓の劣化速度は分からないが、やはり深部で活動するとそういった問題も付きまとうようだ。


「なあ、やっぱ冷却具買わね? それか氷の魔術師だ。どっちかあれば心臓を回収できるようになる。金回りはかなり良くなるはずだ」


 冷却具……文脈からすると保冷バッグみたいなものか? それとも冷却スプレーみたいなものか? ちょっと興味あるな。


「駄目だ、高い。あと魔術師は貴重だ。俺らみたいな弱小に入るやつはいない」


 冷却具は高い、と。ふむ。それと魔術師ってやっぱり貴重なのか。そういえばまだ魔法って直接的には見てないな。どんな感じなのか、いつか見てみたいな。


「レグは入ってくれただろ」


 んん? この2人以外にも仲間がいるのか。ああ、でもそっか。さっきから値段が確定金額じゃなくて予想だったし、たぶん残りの仲間が今買い取りカウンターに並んでいて、この二人はそれを待ちながら雑談しているのだろう。


「レグは変わり者だ。あと、やっぱり4層は危険だ。レグがいなければ、俺らは死んでた可能性が高い。やはり3層での探索に注力すべきだ」


 3層と4層で結構違う感じなのかな。まあ、1層と2層で魔獣の有無があるから、かなり危険度は違うし、そう考えると1層の違いは大きいのかもしれない。


「おいおいおい、ちょっと嚙まれそうになったぐらいでビビるなよ。せっかくレグが入ってくれたんだ。大丈夫だって俺ら4人ならやれるって」


 4人構成だったか。ということは、二人がカウンター前か。いや、一人が売却担当で、もう一人は昼食の席を取っているとかも有り得るか。そう考えるとパーティーって便利かもなー。


「駄目だ。……レグたちの方は終わったみたいだな。まあ、今後のことは4人でメシでも食いながら決めよう」


 長身の方が金髪に言うと席を立ち、買い取り窓口の方から歩いてくる男二人の方へと向かった。金髪の方は一度舌打ちしたあと、長身を追いかけて行った。なるほど、これが異世界パーティーってやつか。なんか、雰囲気あるな……


 その後もいくつかのパーティーの会話に聞き耳を立ててみたが、やはり2層から5層で活動しているパーティーが多かった。各パーティーの構成人数は2人から6人とまちまちであったが、4人が多いように感じた。恰好は全体的に革鎧などの軽装が多かった。そして、どのパーティーもある程度は戦闘をしてきたからか、防具や武器は汚れていたり、傷が入っていたりしていた。

 あとはカウンターの方にも目を向けてみたところ、一人で活動している人も少数見かけたが、彼らは俺と同じで植物や鉱物などを扱っており魔獣からの戦利品は無さそうであった。安全な1層か、または魔獣が少ない2層での探索がメインなのだろう。見た目も、普通の服に近いものが多く、武器も携帯していない人もいる。ただ1層では得られるものが少ないからか採取してくる量は少なく、当然その中に貴重そうなものも見当たらなかった。やはり昨日の俺の出来事は極めて特殊なケースだ。


 まとめると、ソロ活動者は1層か2層で、稼ぎは少な目。そして武器や防具を持たない人が結構いる。たぶん収入が関係しているのだと思う。まあ、単純に重くて動きにくいから武器や防具を持たないという可能性もあるか。

 逆にパーティー活動者は基本的に武装しており、5層までで活動している。こちらはソロよりも一人当たりの平均稼ぎが大きく見える。まあ要求される技量や危険性も高くなるから当然なのかもしれない。昼に帰還するタイプのパーティーはこんな感じだ。

 あとは夕方から夜に帰還するパーティーを確認すればクリスク遺跡で活動している探索者たちのおおよその傾向は掴めるだろう。


 一通りラッシュの時間が終わると、探索者たちは買い取り窓口から離れ、各々のパーティーで動き始めた。大部分がギルドに併設された飲食店で昼食を取るようだ。一部、併設店以外で飲食をするのか、ギルドの外へ出たパーティーもあった。

 さて、どうしようか? 朝が遅かったから、気分的には昼飯はもう少し後でも良いのだが……ん、待てよ、低層組の殆どは、今の時間、昼飯を食べている。より深い階層で活動しているパーティーはまだ潜っていると思われる。ということは、今、低層に人は少ないんじゃないか……? そういえば、昨日は昼過ぎに1層で探索したが、人に会わなかったな……昼過ぎは1層には人がいないのかも。ならば、今はチャンスだ!


 俺はギルド内の探索者用の雑貨店で精度の高い1層の地図を素早く購入した。そうして、今日の目的の一つでもある探索――昨日の出来事の調査をするため、遺跡へと向かった。


 遺跡の1層は思った通り、人は見当たらなかった。時間的には昨日入った時間よりは早い時間だ。

 そして、俺の予想通り……いや、正しくは期待通り、遺跡に入ると惹きつけられるものを感じた。不思議な感覚に従い、遺跡の奥へと進んで行く。時折、迷わないように地図を確認する。

 そうして30分くらい歩いたところで、光を放つ小部屋を発見した。恐る恐る近づき、内部を見ると、そこには大きな水晶が4つ鎮座していた。周囲に発光する蔦があり、その光を水晶が反射させ、部屋の外まで届いていたようだ。

 しかし、コレ、デカイな。水晶の1つ1つが俺よりも大きい。少し触ってみたが、重くて動かすのは無理だ。削ったり割ったりできないかと思い、少し叩いてみたが、反動からしてかなり堅い。なんとなく身軽な恰好できてしまったが、採取道具を街で買って来るべきだった。次回はもっと準備してから来よう。だが、これはかなりの収穫だ。この水晶はギルドの資料にあったやつだ。名前は確かペクトーンクリスタル。16層で入手可能なものだ。二度もあったのだ。偶然ではないだろう。

 おそらく俺は遺跡の中で貴重な採取物の場所が分かる。なぜだか理由は分からないが、まあそもそもこの異世界の来た理由や原理が分からないので今更だろう。まあ、何で深層のものが手に入るのか、他の人はなぜ見つけられないのか、など疑問は沢山あるが、とにかく、この世界で生きていくのにあたって有利な強みを持っていることは分かった。

 これは大きい。いやもしかしたら、就職全部落ちた元の世界にいたときに持っていた強みよりも、こちらの世界での強みの方が大きいかもしれない。


 喜びと、安堵感を一通り嚙み締めた後、目の前のペクトーンクリスタルに向き直る。採取は難しいな。仕方ない。一度ギルドに戻って、採取道具を買ってきて、また来よう。そして一部を採取したら、もう一度戻り勝利の昼飯を食べよう。うん。完璧だ。俺は、背中に惹かれる感覚を感じながらも、来た道を引き返し遺跡を出てギルドへと向かった。遺跡を出たときに、惹かれる感覚は消えた。やはり、遺跡内部でのみ有効な感覚なのだろう。


 それから、素早くギルドでハンマーとナイフを購入した。採集道具は他にも斧や鋸、鋏、鎌など色々とあったが、とりあえずは直近で必要なハンマーと多様な使い方ができるナイフにした。購入後、逸る気持ちに従うまま、遺跡へと入った。しかし、不思議な事にあの惹きつけられる感覚は感じなかった。疑問に思ったが、地図を頼りに先ほどの小部屋へと向かう。30分ほど歩いたが、小部屋から光は無かった。中を除くと、大きなペクトーンクリスタルは無くなっていた。


――え??? どういう事?


 辺りを探してみたがどこにも見当たらない。他の探索者が持って行ってしまったかと考えたが、それはそれでおかしい。小部屋の出入口の大きさから考えて、そのまま持ち運ぶことはできない。この部屋から持ち出すには、必ず砕く必要があるのだ。しかし、砕いたならば破片が地面に散らかっていないとおかしいが、地面は破片一つ無い。まるで最初からペクトーンクリスタルなど無かったようだ。駄目だ。謎すぎる。さっきまで確かにあったのだが、なんで消えた?

 うーん……まあ、小部屋を出たときは、惹きつけられる感覚はあった。でも買い物をして再度1層に入ったときには感覚は無かった。昨日のルカシャの時は確かルカシャを採取してから感覚が消えたな……そうすると、たぶん俺が遺跡を出てから買い物をする間に無くなったんだろうけど……誰かが採取したとすると、それはそれで不自然なのだ。駄目だ。わからん。まあ、昨日の分のルカシャでしばらくは金に困らないし、そう悲観することではないのだが……こういうの何て言うんだっけ獲得機会損失? ちょっと悲しいな。

 いや、まあ、しょうがない切り替えていこう。とりあえず、もう感覚は無いし、一度ギルドに戻ろう。昼飯も食べたいし。まあ、次からは遺跡に入るときは採取道具を持とう。


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