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一章61話 過ぎ行く日々 スイ③


「え、あ、はい」


 急な真面目な態度に気圧されてしまう。


「では、いきます。まず、お兄さんが奴隷だったとします。いいですかー? 奴隷です」


 もう、前提からツッコミを入れたいんだが……


「よくない前提です」


「よくなくないです。話を続けます。お兄さんが奴隷だったとして、ご主人様は誰がいいでしょうか? 三択です。いちっ、スイちゃん。にー、ユリア。さんっ、リュドミラ。さあ、誰がいいでしょーか?」


 どこからツッコムべきか……まず前提がおかしいし、あと何で三人から選ぶんだ。しかも一人知らない人だし。


「一人知らない人混じってるんですけど、共通の知り合いってことで、三人目はルティナさんでいいんじゃないですか?」


「……え? お兄さん、もしかして、ルティナの奴隷になりたいの? それは止めた方がいいよ。ルティナの奴隷は疲れるよ」


 スイは急に真顔でこちらを諭してきた。いや、別になりたくはないけど。でもそもそも質問が変なので修正したかったというか……もっと根本的なところを突っ込んだ方がいいのかな。


「いや、そういうわけではないですけど。というか、聖書をチラリと見た感じ、奴隷制と相性悪そうですけど、聖導師様が奴隷制っぽいこと言って良いんですか?」


 質問全否定って感じだけど、細かいところを突っ込むと、なぜか真顔で諭されるので、いっか。


「おー、お兄さんちゃんと聖書読んでるんだ。えらい、えらい。確かにお兄さんの言う通り教義では非推奨というか、ほぼ禁止だね。実際、国教になってる国だと奴隷制は禁止されてるよー。なってない国も殆ど禁止かな? 人を物のように扱うなんて良くないからねー。まあ、それはそうと、質問は質問なので、お兄さんには答えて貰います……! これで、お兄さんの心理が分かります」


 ああ、やっぱり禁止なんだ。まあ、奴隷制ってどっちかっていうと戦争と相性が良さそうだし、クリスクで暮していて戦争って話を聞かないから、奴隷制が禁止というのは、なんかしっくりくる気がする。一瞬、宗教と奴隷制も相性は悪くなさそうって思ったけど、まあ、どっちかというと博愛っぽい宗教みたいだから、奴隷制は禁止なのは分かる。

 しかし、スイの謎質問は心理テストみたいな感じなのか。心理テストだから知らない人が混じってるのか? よく分からないな。


「うーん、まあ、仮定の話ですよね? でも、その三択だと……いや、まあ、でも、ユリアさんになるんじゃないですかね?」


 消去法だ。知らない人は知らない人だし、スイは根は良い人っぽいけどなんか個性的だし、じゃあ、優しくて誠実なユリアを選ぶのがベターかな、といった感じだ。仮に奴隷になるなら、だが。まあ、このあたりは奴隷制は採用されてないし、そもそも有り得ない仮定の話だが。一応、心理テストらしいので、思った事を答えてみた。


「えー、そこはスイちゃんでしょー。なんでー?」


「え? いや、まあ、ユリアさんは優しい方ですし、仮に奴隷になってしまったのだったら、主人は優しい人の方がいいんじゃないですか? あ、ちなみに、そのリュドミラさんって人は優しい方なんですか?」


 まあ、知らない人なので、仮に優しくても実際に直接見たユリアの方を選ぶだろが。


「リュドミラはとーっても意地悪な女の子だよー。もし、お兄さんがリュドミラの奴隷になったら、きっと毎日虐められちゃうよー。だから、スイちゃんにしなよー。今なら変更可だよー」


 なぜ、そんな地雷を三つの中に入れたんだ。それならルティナでいいじゃん……あれか? 敢えて選ばれない選択肢を入れておくことで、他の選択肢を輝かせるみたいな作戦か?


「なんで、そんな人を選択肢に入れたんですか。絶対選びたくないやつじゃないですか。なぜ、ルティナさんでなく……?」


「んー、なんとなく? というか、お兄さんルティナを推しすぎだよー。そんなにルティナの奴隷になりたいのー?」


「いや……違うんですけど。でも、共通の知り合いですし、なんとなくで知らない人を入れるよりは質問としていいような気がして……」


「まあまあ、いいじゃん。とにかく、三択だよお兄さん。スイちゃんか、ユリアか、リュドミラか。もしかして、リュドミラがいい?」


「その方はまあ普通に止めておくとして……まあ、ユリアさんで」


「ユリアはとーっても意地悪な女の子だよー。もし、お兄さんがユリアの奴隷になったら、きっと毎日虐められちゃうよー。だから、スイちゃんにしなよー。今なら変更可だよー」


 さっきとほぼ同じことを言ってないか? そしてまたしてもユリアへの悪しき評価だ。


「毎回思うんですけど、ユリアさんと仲悪いんですか?」


「いやー、悪くないよ? でもでも、ユリアはきっとお兄さんとは相性が悪いんじゃないかなー。だから、ユリアじゃなくて、スイちゃんにしなよー。ユリアの奴隷は大変だよ~」


 悪くないのか……まあ、悪く言えるぐらい仲が良いって事なのだろうか? 

 いや、むしろ冗談としてなのだろうか。ユリアを見れば彼女が意地悪な少女ではなく、優しい少女というのは殆どの人が分かる事だ。だからこそスイのユリア評は正しくないというのは、はっきりと分かる事だ。もしかしたら、誰にでもはっきりと分かるからこそ、それが冗談のつもりなのかもしれない。

 あとは、聖導師としてはスイの方が先輩らしいので、スイなりの優秀な後輩に対する照れ隠しといった面もあるのかもしれない。

 とすると、後半の俺とユリアの相性が悪いというのも冗談なのだろうか。


「ユリアさんとはそんなに相性が悪くないと思ってますよ」


「いや、悪いよ。んー、何て言えばいいかな~。難しいなー。とにかく相性が悪いから、ユリアじゃなくて、スイちゃんを選ぼうよ、お兄さん」


 スイは悩みながら歯切れ悪く言葉を口にした。どうも、冗談ではなく本気で言っているように見える。はて?

 俺とユリアは相性はそんなに悪くないと勝手に思っているんだが、スイから見ると悪く見えるようだ。まあ、俺もスイがユリアのことを微妙に悪く言ってるというだけで『仲が悪い』と思ったから、同じように、もしかしたら、俺かユリアが何らかの仕草をしていて、それを読み取り『相性が悪い』とスイは判断しているのかもしれない。


「なるほど。まあ、分かりました。でも結論はユリアさんでお願いします」


 ユリアの方が優しいので。いや、スイが優しくないというわけではない。だが、ユリアの方が『分かりやすく優しい』のだ。


「ユリアは……ユリアは、頭がピンクなんですよ……! いいんですか、お兄さん」


 俺の回答が気に入らなかったのか、スイが真剣な表情を作り迫るように問いかけた。


「髪色の話ですか? ユリアさんは金髪のように見えるんですが……いや、まあ少し色合いが薄いというか、ピンクブロンド、みたいな感じなんですかね?」


「違います……! 頭の話です……! ユリアの頭はピンク……! つまりエロユリアってことです……! お兄さんがユリアの奴隷になったら、アレですよ、アレ、アレされますよ……」


 スイは少しだけ声を潜めた。お得意の『アレ』だ。アレとは……?


「アレ、とは……?」


「アレとはな……つまり、アレだ…………! つまり、エロ調教ってことだ……! 言わせるな……!」


 スイは少しだけ頬を赤くしてから、恥ずかしそうにばんばんと俺の肩を何度か叩いた。ユリアの名誉がどんどん低下していく……


「言わなきゃいいのでは……というか、流石にそろそろユリアさんへの名誉棄損では?」


「違います。事実陳列です……! ユリアはエロユリアです……! だから、お兄さんはスイちゃんを選んでください……!」


 もう無茶苦茶になってきた。恐らくスイを選ばないことが彼女の不満であり、そしてそれがユリアのネガキャンに繋がっているのだろう。そして、長所があっても短所が少ないユリアのネガキャンが思いつかず、『頭がピンク』といった訳の分からない事実無根の言いがかりになっているのだろう。


「なるほど。まあ、分かりました。でも結論はユリアさんでお願いします」


 正直、適当に嘘を言ってスイを選んでも全然良いのだが、ここでスイを選ぶと何だかユリアへの誹謗中傷を認めたような気分になるので、先程と同じ言葉を一言一句変えずにスイへと告げた。


「ぶーぶー。ユリアはみだりだぞー、みだりー、みだりー、ぶーぶー、エロユリアー、みだらー、みだらー、ぶーぶー」


 即座にスイから抗議の声が飛んできた。

 そろそろ流して次の話題へ行くか。


「なるほど? ちなみにユリアさんを選んだ場合の心理ってどんな感じになりますか」


 心理テストとかの結構気になるタイプなので、答えを知りたい。


「みだりのユリアを選んだお兄さんは教えませーん」


 気になるんだけど……


「え、それは、ちょっと」


「スイちゃんを選べば教えてあげよー」


「え、それは、ちょっと」


「もう、そんな事言うお兄さんはどうなっても知らないからね。後でやっぱりスイちゃんが良いですって言ってもダメだよ~」


 スイは少し拗ねたような声を出した。


「うーん、ユリアさんで」


 だが俺の中で結論は変わらなった。

 そして、そんな俺の回答に何を思ったのか、スイはふっふと暗く笑い出した。


「だがしかし、この時のお兄さんは知らなかった。この先、お兄さんはスイちゃんに『ユリアは嫌です。スイちゃんがいいです』と言うことになろうとは……」


 スイは可愛らしくも邪悪な笑みを浮かべながら、世迷言を吐く。


「変なモノローグ入れないで下さい」


 こんな感じで、スイとの雑談はたまに不思議な話が入る。まあ話が不思議になろうが、脱線しようが、またすぐ別の話が始まるので、深く意味を追求することでは無いのかもしれない。マイペースなスイとの会話だと思えば、別にそんなにおかしいことでもないが。

 


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