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一章60話 過ぎ行く日々 スイ②

 スイの言葉に従い礼拝堂の中に入ると、暖かな空気に出迎えられた。外との温度差に少し驚く。


「あったかいでしょー。最近は寒いからちょっと出力を上げたんだ~。どうこの調整? ここまで聖なる術を巧みに扱える子はそうそういないよー」


 自慢げにスイが話しかけてきた。相変わらず、コロコロ変わる機嫌だ。いや、まあ、串焼きの件は色々言ってはいたが、特に怒っている感じはしなかったし、それどころか、どちらかと言うとスイも楽しんでる感じがしたので、むしろ始終機嫌が良いのかもしれないが。

 ああ、ちなみにスイの言葉通り、礼拝堂の中は快適な温度に調整されている。暖かくて気持ち良い。


「確かに、暖かいですね。そういえば、以前、スイさんは聖なる術はかなり上手と聞いたんですが……もしかして、寒い日に対応できるように上手くなったんですか?」


 このサボリ聖導師がユリアがしていたように真面目に修行しているというのは考えにくい。だが、快適に過ごすために練習したというのならば納得しやすい気がする。


「ふっふっふ、スイちゃんは天才なので、ちょっと練習すればだいたいのことはできるんだよー。分かったかな~、お兄さん」


 冗談なのか本当なのか分からない事をスイは言った。


「なるほど?」


「あ お兄さん、信じてないでしょー。世の中には凄い天才っているんだよー。まあ、スイちゃんほどの天才は中々いないけど……そうだねー、たとえば、知り合いの聖導師の話だけど、修行して一週間で鉄を溶かすほどの威力の『光』を創った子もいたかな」


 鉄を……? 鉄って融点何度だっけ? かなり高かったよな。本当ならば凄い話だ。


「その『光』って言うのは、今スイさんがこの礼拝堂を温めた技術ですよね。鉄を溶かしたっていうのは凄い熱量ですけど、たぶんお話からして凄いのはそっちじゃなくて、一週間って方ですよね。普通はどれくらいかかるんですか?」


「いやいや、鉄を溶かしたことも凄い方だよ。殆どの聖導師は溶かすことはできないからね。勿論お兄さんが言うように修行の期間が短いっていうのもポイントだね。普通は、まあ、年単位でかかるからね。ちなみにスイちゃんは神童なので、三日で覚えました~」


 本当かな?


「凄いですね。お話を聞くと、その一週間の方が通常より飛び抜けて凄くて、さらにその上にスイさんがいるって感じですか?」


 本来は年単位でかかるものを三日というのは本当ならば凄い習熟速度だ。


「当たりです……! 流石お兄さん、理解が速いね~」


「ちなみにスイさんは鉄を溶かせるんですか?」


 興味本位で聞いてみる。


「んー、まあ、できなくもないかな。出力を集中させるのに時間がかかるけど」


 できるのか……


「溶かせるんですか……ちなみに、礼拝堂を温めるのって、そのコントロールとかは大丈夫ですか。眠くて間違えて、余計に加熱したり、とかはないですか……?」


 鉄をも溶かす熱源、それが今この空間に使われている。そしてスイは朝が弱い。聖導師がどうやって聖なる術をコントロールするか不明だが、眠かったりするとコントロールが乱れたりしないだろうか。そう思うと、なんだか危険な気がしてきた。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ、お兄さん。私は覚えるのも速いけど、それ以上に細やかな調整が得意だからねー」


「そうでしたか。それなら安心です。ところで、ユリアさんは鉄を溶かしたりできるんですか? なんか、ユリアさん曰く、スイさんの方が聖なる術が上手いって話でしたが」


 いまいち、スイとユリアの差が分からないので、話の流れから質問してみる。


「ユリアかー。あんまり聖なる術を使ってるところは見ないから分からないけど、たぶんできないんじゃないかな」


 否定か。ふむ。ユリアも俺から見たらだいぶ超人だが、鉄は溶かせないのか。まあ、さっき殆どの聖導師にできないって言ってたからな。


「なるほど? あの、素人目線で恐縮ですが、スイさんとユリアさんって見た感じ身体能力に差が無いように見えるんですけど、これって『力』の力は同じなのかと思ってるんですけど、もしそうだとすると『光』に関しては二人に差があるってことですか? それとも前提が間違ってます?」


 どっちがより超人なのだろうか。まあ、ユリアの話や今までの情報を纏めると、スイの方が超人らしいが。


「むむむ……? お兄さん、ユリアが『力』使ってるところを見た事あるの? うーん、うん? ちょっと良くない傾向だなー」


 スイは困ったような表情を浮かべた。はて?


「良くない、ですか?」


「聖導師はみだり(・・・)に聖なる術を使ったらダメなんだよ~、お兄さん。ユリアはみだりだよー、みだりー」


 ……? ひょっとしてこれはツッコミ待ちなのだろうか?


「今、礼拝堂が暖かいのは……?」


「これは主がスイちゃんとお兄さんを暖かく包んでくれているんだよ~。必要な事だよー」


 悪びれることもなく言ってのけた。まあ、じゃあ、それに関しては百歩譲るとしてもさ……


「あの、よくスイさんが『力』を使うのは……?」


「あれはお兄さんと距離感を縮めるためにやったんだよー。主も言いました、信じぬ者にも親しくあれー、と。必要な事だよー」


 距離感、縮まってるかな……?


「なるほど? まあ、でもそうすると、ユリアさんのやったことも必要な事だった気がしますが」


 スイの必要の条件が甘いので、棚から本を取ったり戻したりというのは、十分必要の範囲と言える気がする。


「むー。お兄さんユリアに甘い! これは特別ルールが必要かな~」


 100点稼ぐやつは大変なので勘弁してほしいところだ。というか、本当にユリア関係は厳しいな。なんかあるのかな? 気になるな……


「ちょ、ちょ、まだネタが溜まってないんで。それはまた今度で」


「えー、じゃあ、そうだなー。では、お兄さんにこれから大事な質問をします。思ったままを答えてください」


 そう言うと、スイは急に真面目そうな顔を作った。

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