一章57話 異世界十四日目 夕食②
そうこう話をしている内に、マリエッタが注文した料理群がテーブルの上に置かれはじめた。彼女はまず飲み物を口にした。グラスを傾けるようにゴクゴクと飲み、そして、叩きつけるようにグラスをテーブルへと置く。なんか、荒い。ある意味探索者らしいのかもしれないが。
マリエッタは今ので、喉が潤ったのか、また俺に話し始めた。
「カイさんって前衛、後衛、どっち?」
話ながらもマリエッタは料理を手にし口に運んでいく。食べながらでも喋るタイプのようだ。
「難しいですね。パーティーを組んだことがないので、どっちとも言えないです」
ちゃんと戦ってないので前衛も後衛もないというか……
「え! 一回も無いの? 十層まで行ってるのに?! 珍しいね! 初めて見たかも!」
フォークで肉を力強く突き刺し、それを口にしながら、マリエッタは俺の言葉に驚いていた。食器の音が少し大きく感じた。話し方だけではなく食べ方にも力があるようだ。
「偶に似たような事を言われるんですけど、そんなに珍しいんですか?」
「珍しい、珍しい! 十層までソロで行けるってことは、パーティーなら十五層以降に行けるってことだから、それならパーティー組んだ方が稼ぎもいいし、生存率も高いし!」
なるほど……? 個人的には深部に行けば行くほど危険ってイメージがあるんだけど、単独でいる方が危険ってことなのかな? まあ、未だ二層までしか踏み込んでいない弱小探索者とは感覚が違うんだろうけど。
「ん-っと、まあ、ソロの方が性に合っているというか、たぶん協調性があんまり無いので」
「いや! あるでしょ! 協調性! カイさん良い人っぽそうだし! 十層まで行けるなら引く手あまただよっ! なんなら私がどこか紹介しようか?」
十層ソロをだいぶ強調するな……やはり中層以降でソロはかなり珍しい存在のようだ。
「ああー、それは大変ありがたい話ですが……しばらくはソロで活動しようと思っているので……」
まあ、『感覚』の性能的に、他に人とは一緒に探索するのは難しいと思うので普通に断る。
「そっか! 変わってるね! まあ、気が変わったらいつでも言ってよ! 入りたかったら、うちのパーティーでも良いよ!」
マリエッタのパーティーってAAランクなんだよな。流石に、ニュービーにとってはレベルが高すぎるのではないだろうか。
「ご厚意ありがとうございます。でも、流石にAAランクのパーティーはそうそう入れる人はいないのでは?」
「うちは基本的には少数精鋭だから、実力がある人なら歓迎かな。あと、戦闘面はすっごい強い子がいるから、戦闘力よりも安定した技術がある人がどっちかって言うと欲しいかも。ソロで安定して十層まで行けちゃうカイさんならたぶん相性良いと思うよ!」
なんかマリエッタから見て俺が安定して十層行く人になってるな。ちょっと修正しないと。
「いや、たぶん買い被りがあると思いますよ。あんまり深く潜らない日も多いですし、上手くいかないことも多いです」
「いや、いや! 買い被りじゃないよ! 実際、かなり稼いでる人でしょ! そのバックパックとか、結構高価な魔道具だよね。それに食べ方も豪遊してるし!」
あー、良くない良くない。俺の資産情報が推測されるのは良くない。というか、分かる人には分かるんだな。俺にはバックパックの違いとか全然分からないけど。
「ああ、えっと、このバックパックは便利そうだったので、少し奮発して買ってしまって……身の丈に合わないものだったかもしれないです」
「似合ってると思うよ!」
力強い肯定の言葉が返ってきた。
「あー、ありがとうございます」
会話の最中もマリエッタは料理を食べていく。ナイフやフォークが忙しなく動き、次々と料理を口へと運び込んでいく。そうしていくうちに、俺が説明した料理も食べ終えてしまった。
「これ、美味しかったよ! 言った通りの味だった。今度仲間にも勧めるよ!」
満足してもらえたようで、何よりだ。
「気に入ってもらえたなら、良かったです」
「他にオススメはある?」
「えーっと、どれも美味しかったですから……特にと言われると難しいですね」
「わかる! ここの料理はどれも良いよね!」
そう言って、彼女は店員を呼び、追加の注文をした。ついでに俺も料理を頼む。ずっと頼もうと思いタイミングを逸していた肉料理だ。他にも、思ったより会話が長引きそうなので飲み物も追加で一つ頼んだ。
「良いの頼んだね! あれはこの店の人気料理だよ! 私もパーティーで来るときはよく注文するよ!」
人気料理か、結構期待できるな。
それから、マリエッタと雑談しつつ料理を待った。肉料理は時間がかかった。その上、マリエッタが食事中にもかなり喋るものだから、相槌を打つだけでも喉が渇いてしまい、飲み物が足りなくなり、さらに追加で一本頼んでしまった。
しかし、待った甲斐があったと言うものか、テーブルに出された肉料理の味は、格別なものだった。それまでの料理も十分に美味しかったが、この肉料理の味はさらに一段上を行っているように感じられた。肉が舌でとろける。その時に舌の上を走る絶妙な味。美味い。舌がとろけそうだ。一緒に付いているパンも美味い。ペッパーブレッドだろうか。合間合間に挟まる胡椒の味がとろける肉の味を強調してくれる気がする。いや、本当に、ただただユリアに感謝だ。こんな美味しい店を紹介してくれるとは……
それからさらに一品、締めの料理を食べた。俺が食べる速度が遅いからか、それとも会話中も食べることができる分マリエッタが有利なのか、後から食べ始めたはずのマリエッタと俺が食べ終わるのほぼ同時だった。
お互い会計を済ませつつ、店を出た。
「今日はありがとう! 相席もそうだけど、話も楽しかった! カイさん良い人だね!」
マリエッタの力強い言葉は相変わらず胸に響くが、一時間以上は彼女と話をしたので、少し慣れてきた。
「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます。お話の方も面白かったです」
社交辞令っぽいことを適当に話す。
「私、この店によく来るから、また会ったらよろしく! あと、パーティーに入りたくなったら、いつでも言ってね! リーダーに話通しとくから!」
なんか、だいぶ買ってくれているようだ。まあ、普通に嬉しいけど、たぶん入ることはないだろう。
「お誘いありがとうございます。その時がきたら、よろしくお願いします」
「うん! じゃあね!」
「ええ、また」
そう言って、マリエッタと別れた。なかなか嵐のような、とまではいかないかもしれないが、力強い少女だった。裏表や隠し事も無さそうな感じの人だし、そういう意味では俺とは結構対極の人かもしれない。
まあ、感じの良さそうな少女なので、接していて不快ってことは全然無かったし、これからもし店で会うとしても、問題は無いだろう。……一人で静かに食べたい時には、少し困るかもしれないが。
あと、なんか俺の事をだいぶ高く評価してくれているのは、純粋に嬉しい気もするが、大局的に見ると、少し良くないかもしれない。『感覚』という不思議能力を持つ俺が、あんまり目立つのは良くないと思うからだ。いや、気にし過ぎか……? 別にマリエッタが大声で俺の稼ぎとかをギルド中に言いまわしたりしなければ問題でも無いし、実際しないだろうか、大丈夫だろうけど。
それから腹ごなしに少し夜の大通りを歩いた後に宿に戻った。
今日はかなり良い一日だった。遺跡での探索により『感覚』について色々分かったし、飯も美味しかったし、僅かだか探索者としての縁も得た。あえて言うと、飯代は高かったが……まあ美味さには十分釣り合いが取れているだろう。それに今日売却した素材で十分以上に元が取れている。『軽量化のバックパック』の値段と、今日の飯代、あとなんなら宿代を足したとしても、『フェニルス』三株の売却益の方が上だ。やはり『感覚』は重要だ。俺がこの世界で生きていくのあたり、最も頼りになる存在になるだろう。だから、もっと理解を深めていきたい。
明日も良いことがあるように願いながら、眠りについた。




