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一章55話 異世界十四日目 ギルドにて


 遺跡を出てから宿に戻る時、少し足が重く感じた。最初は疲れてしまったのかと思ったが、それにしては遺跡を出た途端に重く感じたので、違うと気付いた。

 おそらく、これは逆で遺跡にいた時が足が軽かったのだろう。思えば、遺跡を歩き回っていた時、なんとなくだが、足運びがいつもよりスムーズに感じた。『適合の塗料』が効いたのだろう。消耗品だが、中々良い効果だったようだ。というか、準備した品で活躍したのは『適合の塗料』と『軽量化のバックパック』だけだったな。まあ、戦闘は避けるという方針だったし、むしろ方針通りになった事を喜ぶべきだろうけど。


 宿の部屋で休みつつ、今日のギルドへの報告について考える。本来なら遺跡から出た後ギルドに報告に行くところだが……まだ、ちょっと時間が早い気がした。これだと昼組と大差ない。15層前後の戦利品を持ち込むにはちょっと微妙な時間だ。個人的には夕方組が帰ってくる少し前くらいに行きたい。だから宿で時間調整と思考の整理だ。


 まずは今日の戦利品だが……『ライソラ石』と『ジキラルド結晶』は保持しておこう。腐らないし、植物系に比べれば後からでも換金しやすいはずだ。『フェニルス』は植物だし売ってしまおう。というか、今日の戦利品はこれだけということにしよう。


 次に、一番重要な能力についての考察だが……ちょっと難しいな。とりあえず、情報を纏めよう。


 俺の『感覚』は遺跡に入った時、より厳密に言うと、おそらく『層を跨いだ時』に発動する能力だ。

 この能力は希少品の場所が分かるだけ……のハズ、今のところは。ただ、この希少品って、本来ならその層では入手できないものなのだ。これが個人的には凄く変だと思う。

 もし、俺が希少品の場所だけが分かる能力者なのならば、俺以外にも、一層や二層で活動している探索者がたまたま何かの拍子に見つけるはずだ。ただ、今まで入手した希少品が一層や二層で出現したという話は聞かない。


 そこで、ここから先は仮説……というか、妄想っぽい話なのだが、もしかして、俺の能力って、層を跨いだ時に『希少品を遺跡内で生み出す能力』なのでは無いかと夢想してみる。それで、ついでに生み出したものの場所が分かる能力だ。

 そして、もしこの妄想が成り立つならば、さらに次なる妄想として、遺跡内で発生した希少品は回収されないと一定時間後、または俺が遺跡から出た時に消えるということがあるのではないかと考えている。理由は二回目の探索で消えた『ペクトーンクリスタル』だ。これが消えた理由は分からなかったのだが、あの時、一度遺跡から外に出ている。だから、それで消えちゃったじゃないかと思ったのだ。実際、あの時の消失の仕方は明らかにおかしかった。忽然と、まるでそこに何もなかったかのように消えたのだから。まあ、妄想みたいな仮説だが、今後の二層以降の探索で余裕があったら検証しよう。


 次に、発生頻度に関してだ。これも結構謎だ。

 今までの発動は、合計6回。うち3回は今日だ。

 一回目から四回目は遺跡に潜った時に発動。これはまあ分かりやすい。遺跡に潜った時は二回目の再突入時を除き必ず発動している。たぶん遺跡に潜った時は確定と考えていいだろう。

 五回目は二層に潜った時、これは一度しか無いけど、たぶん一定条件下で層を跨いだ時にも発動するのだろう。今後の何度か二層に潜る事ができれば再現性の確認ができるだろう。

 問題は六回目だ。六回目は二層から一層に戻った時に発動したのだ。その後、何度も一層と二層を往復したけど発動しなかった。一層だけは一日二回発動する……? だが、二回目に一層に再突入した時は発動しなかった。

 いや、そもそも、分母は一日であってるのか? 俺が勝手に一日区切りで考えているが、もしそうだとしても一日の基点ってどこだ……? 二十四時間経過ではないよな。一回目と二回目の間が二十四時間より短い……だから、もしクールタイムがあるならば最長でも二十時間くらい、または特定の更新時間を経過する事が条件のはずだ。例えば、深夜零時とか、お昼とか。

 ん? 待てよ。

 もしかして、このクールタイムの間隔って俺が想像しているよりも遥かに短いのかもしれない。

 これは仮説に仮説重ねるような話だが、『感覚』のクールタイムは一時間に一回とかだったりしないだろうか。それならば、今回の現象にも説明がつく。

 今回二層に入って、『フェニルス』を採取した後、魔獣ダンタルトと遭遇した俺はだいぶ時間を無駄にしてしまった。二層に入ってから一層に戻るまで、一時間くらいは経っていた気がする。クールタイムを過ぎたため、一層に戻った時に『感覚』が発動した。そして、その後、『ジキラルド結晶』を取ってから二層に戻った時は、まだクールタイム中だったから発動しなかった。そして、以前の『ペクトーンクリスタル』の再突入の時もクールタイム中だった。

 一応、今まで起きた現象に全て合っている。まだ仮説だが……今度探索をするときに、これも検証しよう。クールタイム説の検証は時間がかかりそうだから、次の探索は軽食を持って行っても良いかもしれない。発生頻度に関してはこんな感じだろうか。


 あと、地味に気になるのが、発動時の採取物の法則性だ。探索の結果と本来入手できる層を並べて考えてみる。

 一回目の探索は『ルカシャ(二十五層? 詳細不明)』『ルカシャの灰(十八層から二十七層)』『ジキラルド結晶(十四層)』『トーライト鉱石(七層、十七層、二十七層)』。

 二回目は『ペクトーンクリスタル(十六層)』。

 三回目は『リィド(十一層から十五層)』。

 四回目は『ライソラ石(十五層前後)』。

 五回目は『二層入手のフェニルス(十二層)』。

 六回目は『ジキラルド結晶』だ。フェニルスは二層で、他の物は一層で入手している。なんとなく、二層の方が豪華なものが出るかと思ったが、そうでも無さそうだ。

 というか、一回目だけやけに豪華だな。いや、二回目も採取はできなかったが、大きさ的にかなり豪華だ。うん……? もしかして、少しずつ価値が下がってる……? 単調減少では無いけど……要注意かもしれない。まあ、これらの事柄はもう少し検証してデータを集めつつって感じかな。


 最後に一番重要な、回数制限に関してだが、現在は不明だ。もしかしたら、もう上限なのかもしれない。こればっかりは探索では分からないかもしれないな。

 まあ、採取物の法則性で、このままだんだん得られるものの価値が下がっていくような事があれば、それはもしかしたら能力の限界の兆しなのかもしれないが。どちらにしろ、そういった結果になったとしても確信は持てないし、ユリアとの調べ物に期待だ。


 一通考えを纏めると、時間もちょうど良い感じになってきた。俺はギルドに向かい今日の収穫物である『フェニルス』の売却に向かう。ギルドの買い取りカウンターは、夕方組が帰ってくる前なので、手持ち無沙汰といった感じだ。

 俺は『フェニルス』をバックパックから取り出し、ギルド職員に話しかける。


「これの買い取りをお願いします」


「かしこまりました。こちらにどうぞ」


 カウンターの上に『フェニルス』を三株置く。


「『フェニルス』ですか。しかも三株も……! それに状態が良いですね」


「頑張って採取しました」


 植物系は採取が結構大変だ。油断すると根や茎に傷が入ってしまいそうになる。


「お疲れ様です。でもその甲斐はありますよ。十二層の中でも特に希少な『フェニルス』で、こうも状態が良いものになりますと……」


 そう言って職員は道具を取り出し、『フェニルス』の近くにかざす。


「やはり魔力流出も少ないです。これ程の質になりますと……一株、デリウス金貨六枚と銀貨三枚で買い取りになりますが、よろしいでしょうか? よろしければ、ギルドカードの方もご提出お願いします」


 事前に調べた相場よりも高い。採取を丁寧にやったことが功を成したようだ。


「はい、お願いします」


 ギルドカードを言葉とともに渡す。


「では、三株でデリウス金貨十八枚と銀貨九枚になります。カードの方に記録いたしますか? それとも現物で受け取られますか?」


「現物でお願いします」


 そこそこのお金になった。これだけでも『軽量化のバックパック』を買った分くらいは取り戻せた。


「かしこまりました……こちら、金貨十八枚と銀貨九枚です。それと、フジガサキ様、昇級審査の結果が発令されております。フジガサキ様は当ギルド及び提携ギルドでB級の探索者に認定されました。おめでとうございます」


 爽やかなスマイルとともに、祝福の言葉を職員は口にした。


「あ……はい、ありがとうございます」


 こんなあっけなく昇級するとは思わなかった。以前の審査は色々と答えられない事があったから、ダメかと思っていたが、なんか大丈夫だったみたいだ。

 ちなみに、B級っていうのは結構凄いランクだ。一応、一流と名乗れるレベルだ。クリスクで言うと夜組の中でも安定して稼げる人で、パーティーでも引く手あまたといった感じだ。二十層に行くのは厳しいが、十五層ぐらいまでなら行けるみたいな感じだ。一応、俺は二十層に行ったことになっているので、そう考えると、納得できるような気もする。


「余談になりますが、当ギルドでのソロB級昇級の最速記録というのがあるのですが、フジガサキ様は歴代二位の快挙になっております。今後もギルド一同ご活躍を期待しておりますので、よろしくお願いいたします」


 そう言って、ギルド職員は深々と頭を下げた。

 …………な、なるほど。思ったよりも高評価みたいだ。うーん、嬉しいような、そうでも無いような。たぶん『ルカシャ』の件が尾を引いているのだろう。別にそれだけ見れば悪い事では無いのだが。なんか気になってしまうのだ。

 いや、たぶん、別にギルドとしては、商売である以上、希少品を持ち込む俺に対して『今後もよろしく』っていう意味なのだろう。そこはまあいい。でもなんか変に悪目立ちしないかは心配になってしまう。こう、強盗とかにあったりしないかな? みたいな。まあ、今の時間は人も少ないし、大丈夫だと思うけど。

 まあ、身辺には気を付けよう。一応、宿は安全なところにしているし、普段の移動も治安の良さそうな所を通るように心がけている。敢えて言うと遺跡に中が一番危険かもしれないな。一応、遺跡では人にも気を付けよう。


「ええっと、ありがとうございます。頑張ります」


 とりあえずギルドでの売却は終えた。買い取りカウンターを離れながらも、先ほどの職員の言葉について考える。歴代二位か。さっきは嬉しくないとか思ったけど、でも、やっぱり改めて考えると、ちょっと嬉しいかも。あんまり取り柄とか無い方だったので、何かで二番目っていうのは普通に嬉しい気がする。欲を言うなら一番の方が良いけど、まあ、世の中凄い人はいっぱいいる、そこは二番でもいいか。二番でも十分凄いだろう。

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