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一章54話 異世界十四日目 二層②


――さて、どうするべきか。


 分かりやすい手段はここから『風刃のスクロール』で攻撃し、ダンタルトを仕留めることだ。

 二層と一層を繋ぐ階段に向かうための道はダンタルトに阻まれている。そしてダンタルトは人を見ると襲い掛かってくる。安全性を考えるならここから攻撃し排除するのが良さそうに思える。だがしかし、色々な事を考慮に入れると、それが正解がどうかは分からない気もする。

 スクロールの使い方は一通り、店で学習した。その感じから言えば、ここから攻撃すれば当たる気がする。だが、それは絶対ではない。それによくよく考えると動く的に当てるのは難しいような気がしてきた。最初の攻撃はほぼ動かないから動かない的相手と似たような感じで攻撃できるだろう。

 しかし、おそらく初撃を外すと気付かれるだろう。そうすれば二撃目は走ってくるダンタルトに攻撃することになる。仮にダンタルトとの距離を60メートルと仮定すると、ダンタルトがこちらが冷静に射撃できる距離――俺の臆病な性格からして30メートル以内に近づかれたら上手く攻撃できない気がする。ダンタルトが30メートルまでに近寄るまでにかかる時間は、人間の足よりも少し遅いことを考えると6秒くらいだろうか。6秒の間に予備の『風刃のスクロール』を使って攻撃するのはギリギリできるかもしれない。

 つまり、最初の攻撃を外すと、動きまくる二撃目を当てる必要があり、そしてもしそれも外すと、その後が続かない。というか予備が無い……こんなに悩むならもう少し買っておいた方がよかったかもしれないな。

 まあ、一応、初撃・二撃目の両方を外してしまった場合は、全力で逃げるという手もあるが、方角的に逃げる場合は出口である一層への階段とは逆方向になってしまう。ここまで考えるとちょっと攻撃をするのは悩むところだ。ああ、いや、転移結晶を使って脱出すればいいか。二回と攻撃が失敗したら、転移結晶で脱出。悪くない気がする。


 別のアイディアとしては交戦を避けて、大きく迂回して一層への階段へ向かうという手段だ。

 最初に二層進出を準備していた時に考えた戦闘を限りなく避けるという方針に沿ったものだ。迂回しながら二層を巡ることで、色々と情報を得られるという利点もある。

 まあ、その利点は攻撃案だとしても、ダンタルトを仕留めた後に二層を巡れば良いので、利点と言えるか微妙だが。それに、こんなに一匹の魔獣相手でさえ警戒している俺が、動き回るということを上手くできるかどうか分からない。ここで試しにダンタルトと交戦したほうが得られる経験や情報が多いかもしれない。


 さらに別のアイディアは、待機して様子見だろうか。ダンタルトを観察し、向こうが動くのを待つ。ダンタルトの生態を直接観察することで情報を得つつ、より良い選択を探る手だ。特に制限時間とかも無いので、ある意味一番安定かもしれない。


 あとは……もう転移結晶使って脱出してしまう、とかだろうか。何も考えず安全重視という選択だ。あと、これは情報秘匿の面でも良い。なぜならスクロールやアミュレットを隠して脱出できるからだ。遺跡を出た直後に誰かがいたとしても、俺が貴重品を持っていることを知られずにすむ。情報や経験を得られないが、そのほかの面では優れた案だ。

 まあ、そもそも情報や経験を求めて遺跡に二層に来たのに、それを捨てるのはどうかとも思ったが。ああ、いや、『感覚』の情報を得るためだから、もう必要な情報は得ているか。


 ダンタルトを観察しながらも、どう行動するかに迷う。優柔不断だから、こういう時は本当に難しい。ズバッと決められる人は本当にすごいと思う。うーん、どうしよう、どうしよう……あ! ダンタルトが視界外に消えた。通路の構造上、俺からは見えない位置に隠れてしまったようだ。しまった。どうしようか? 近寄って攻撃という選択肢はダンタルトとの距離感や様子が分からないので駄目だ。とりあえず、もう少し待とう。少ししたら戻ってくるかもしれない。


 それから待つ事、十数分。ダンタルトは姿を現すことは無かった。

 これは、もしかして、別の所に行っただろうか。さっきから唸り声が聞こえない。近寄って確かめるべきか……? いや、近寄った時、鉢合わせになったら嫌だな。たぶん音からして、既にいなくなっていると思うが……でも魔獣の生態はいまいち分からないからな。まあ、ダンタルトは音を隠すとか、そういう習性は無さそうだから、近寄っても大丈夫だと思う。というか、九割方、もう別のところに行ってしまったと思う。いや、だが、しかし……こんなに悩むならば、さっき攻撃しておけば良かったかな? 


 それから、決断にさらに数分を要し、俺はゆっくりと『風刃のスクロール』を持って、ダンタルトが消えた通路へと向かった。作戦としてはこうだ、『消えた通路を確認する。ダンタルトがある程度離れた場所にいれば攻撃。鉢合わせてしまったら全力で逃げて、転移結晶を起動する。いなかったら再び一層への階段を目指す』。これで行く。

 ゆっくりと時間をかけて進み、ダンタルトが消えた先を覗き見る。

 そこには何もいなかった。どうやら、別のところへ行ったようだ。


 何と言うか、無駄に時間を使ってしまった。まあ、これも一つの経験だろうか。とりあえず、悩み過ぎないようにしよう。次、ダンタルトを見つけて、それが進路上の障害になるようなら、攻撃しよう。突然遭遇したら全力移動の後に転移。こんな感じで考えておこう。

 ある程度魔獣に対して方針を決めた後、十分ほどで一層へ繋がる階段に戻ることができた。さて、とりあえず戻ったが……少し気になることがあるので、一層への階段を上ってみよう。まあ、無いとは思うが……もしかしたら、一層に戻ったら『感覚』がするかもしれない。

 まあ、無いだろうなーという気軽な気持ちで階段を上り終えると……なんと、『感覚』が反応した。


「あれ……れ? そうくるか……?」


 とりあえず、地図を見ながら、『感覚』が反応する方向へと進む。十分程度歩いたところで、青色に光る石が落ちていた。うん、これは見たことがある。こちらに来て初日に見つけた植物『ルカシャ』――その近くにあった石の一つでもある、『ジキラルド結晶』だ。本来は14層で極稀に手に入るものだ。前に入手した『ジキラルド結晶』はまだ売却していなかったので、これで二つ目だ。拾って一度、なんとなく触り心地を確かめた後、バックパックにしまう。そして思う。なぜ、また『感覚』が発動したのかを。

 いや、本当になんでだろう。以前、一層に短時間で再突入した時は反応しなかった。それどころか、その時はあったはずの『ペクトーンクリスタル』が消えてしまって驚いたのをよく覚えている。うーん、一度二層に行ったことが何かのトリガーになったのだろうか……? 謎が深まるばかりだ。


 俺は、少しでも謎に対して答えを得るために、また階段を下りて二層へ向かった。今度は『感覚』はなかった。ふむ。無いか……これで『感覚』が反応すれば、『層を跨ぐ度に感覚が発動する』という仮説を立てられたのだが。となると、一日三度まで発動するだろうか……? でも、以前一層に二回入った時、二回目は発動しなかった。うーん、なんだろう……? 

 なんとなく、再び階段を上り一層に戻る。『感覚』は発動しなかった。


「まあ、流石に無いよな」


 念のため再び階段を降り、二層の地を踏む。

 なんか一層と二層を行き来する生物になりつつある。


「所持重量が関係してる……? いや、それはちょっと違うか……タイミング、時間は……確かあの時も昼の後だったか。やっぱり二層に一度入ったのがトリガーか? まさか……今回ので発動回数の上限とかだったりして……もしそうだと少しマズイか?」


 収入的な意味で。まあ、『ルカシャ』の儲けと、さらに他の採取物の売却分を考えると、今の生活を続けたとしても、五年くらいは大丈夫だと思う。生活のグレードを落とせば10年以上は持つだろう。その間になんらかの儲けの手段を見つければ何とかなるか……? いや、今回のが上限と決まったわけでは無いか。

 とりあえず、もう少し調べるか……? やはり三層に行くべきか……? 危険度としては二層よりあるが……三層に行ったら色々と分かりそうだ。それにもう一度魔獣と遭遇する経験を味わっておくのも良いかもしれないし……うーん。


「いや、止めておこう。初志貫徹」


 最初に二層と決めて準備をしたのだ。どんなに簡単に、危険無く達成できたとしても、自分の『感覚』に対して不安ができたとしても、最初に決めた安全重視の決まりを破るべきでは無い気がする。

 その後再び階段を使い一層に戻ったが、特に『感覚』を感じることも無かったため、一層を歩いていき、遺跡を出て、宿へと戻った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 導きくんホントぶっ壊れ性能 代償は聖女系ヒロインを惹き付けですかね(
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