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一章52話 異世界十三日目 二層突入前日


 それから三日間は探索の準備を中心に過ごした。

 ちなみに、朝の礼拝(ざつだん)は欠かさず行った。スイは贖罪日が終わり一段落ついたからか、これまで以上に眠そうに欠伸をしていた。この前など、礼拝(ざつだん)中に本当に眠ってしまい少し困ったほどだ。

 一方で、ユリアとの図書館探索は最近は午前中で切り上げている。理由としては、あまり成果は出ていないことと、探索の準備を重視したいからだ。ユリアとはお昼を一緒に食べた後に別れて、午後は探索の準備という形だ。

 おかげで、この三日間でだいぶ準備ができたので、今日の午後は休憩として休み、明日の午後から二層に突入したいと思う。突入するのが午後なのは、低層組との遭遇を避けるためだ。彼らは基本的に午前中に活動し、午後にはギルドに戻ってくる。だから、俺は彼らが戻ってきたのをギルドで確認した後に遺跡に向かいたいと思う。

 そんな事を考えながら聖堂図書館でいつものように聖なる術に関する本を探していたが、成果は出ず、時間がだけが過ぎていき、お昼となった。そしてユリアと一緒に聖堂を出る。これが、ここ三日間にできた流れだ。

 三日前に『午後は予定が入るようになったので、お昼ごろには聖堂を去る』ということをユリアに伝えたのだが、その時、ユリアからお昼を一緒に食べたいという提案を受けて、特に断る理由が無かったため、一緒に昼飯を取るようになったのだ。そのため、昼食はユリアが紹介してくれる店を巡っている。以前紹介してもらった店をはじめ、彼女のオススメのお店はどこも味が良かった。個人的には最初に紹介してくれた店が一番良かったが、他の店も普通に美味しい。今日の店も始めて来る店だが、これまでのユリアの実績からして味には期待できる。


 注文を済ませた後に雑談をしていると、ユリアから恒例となってきた、ある質問が投げかけられた。


「……ところで、フジガサキさんは午後はいつものように探し物ですか?」


 穏やかさと明るさのバランスがとても良い笑顔だ。しかし、どうしたものか……実はこの類の質問を最近、ユリアによくされるのだ。俺が何をしているのか気になるらしい。

 まあ、理由はなんとなく分かる。おそらく、数少ない熟練の同業者が何をしているか気になるのだろう。そして、たぶんユリアは『こちらが遺跡探索のための準備をしている』とあたりをつけている。だから、その中身が気になるのだろう。

 俺もお世話になっているユリアの質問には正直に答えたいが、こればかりは、答え方によっては非常に不思議な状況になってしまうため、慎重にならざるを得ないのだ。

 まあ、今日はたいした予定ではないし、今までと違い正直に答えられるが。


「いえ、今日はこのあと休みにしようかと思っています。最近ずっと調べ物とか探し物ばかりで、なんというか疲れてしまって。体力があまりないもので」


 本当は明日の午後の探索のために英気を養うためだが、それは言わなくても…………あー、ちょっと待てよ? 明日の午後から探索して、その結果によっては午後にギルドで売却を行うわけで……ユリアはギルドとは結びつきがあるということを考えると、明日はお昼までユリアと一緒にいるのは、ちょっと良くないな。

 たぶんギルドとユリアに視点を混ぜると、俺は昼から探索に出て深層まで行って夕方前に戻ってきたことになってしまう。ちょっと他の探索者たちと比較するとおかしなことになってしまう。

 うん。明日はスイとの雑談を終えたら一度宿に戻って時間調整のために待機して、そのあと人目に付かないようにしながら午後に探索かな。そうすると、むしろユリアには明日は朝から忙しいと伝えた方が良いのかな? うーん、今までのユリアの言動からして理由聞いてくるよなー。どうしようか。


「体力ですか……結構大変な調べ物をしているんですか……?」


「いえ、そういうわけではないのですが……気疲れみたいな感じですかね?」


「それは、それで大変そうですね…………あのっ! もし良ければ私も手伝えるかもって思ってて……クリスクの街は結構知ってますから、役に立てると思います。ダメでしょうか……?」


 ユリアは少し不安そうにしながらも親切な申し出をしてくれた。実際、これまでのユリアの言葉や性格、そして実際の行動を見ていると、たぶん手伝ってもらえたらとても助かるだろう。だが、やはり俺としては受け入れがたい。


「ああ、いえ、それはちょっと悪いですから。それに昨日で、一段落したので、しばらくは探し物に悩むことはないと思っています」


「そ、そうですか……えっと……ではっ! 今日の午後は大通りの宿にいるんですね」


 ユリアは少し気まずそうにした後、話題を変えるためにか少し語調を変えながら言葉を発した。確かにその通りなのだが……はて? 俺はユリアに大通りにある宿に泊まっているなどと話したことがあっただろうか?


「ええ、そんな感じです。あれ、ユリアさんに宿が大通りに面しているって話はしましたっけ……?」


「はい。その、以前、宿に入っていく姿を見たので、それで……良い場所ですよね。少し値は張りますが、ギルドに近いですし、清潔でサービスも良いですから、フジガサキさんみたいな熟練の方で泊っている人は多いみたいですよ」


 なるほど。普通に入っているところを見られたのか。

 まあ、そうだよな。話してないんだったら、直接見るか、あとはまあ言動から泊っている場所を推測するくらいしかないよな。あれ……でも、なんだろう。なんかおかしいような。うん? 分からんな。まあ、いっか。別にそんなに気にすることじゃないだろう。

 それにしても、やはりユリアもあの宿について知っていたか。その上、彼女からも高い評価を貰えるということは、やはり良い宿なのだろう。実際使っていて、不便は感じない。


「やっぱり良い宿なんですね。最初に入った時から、気に入っていて……ああいう感じになれると、中々、他の宿に移れなくなってしまいますね」


「ちょっと分かります。ところで、明日も図書館には来ますか?」


 笑顔で尋ねてきた。たぶん歓迎されているのだろう。ユリアみたいな親切な少女に歓迎されるのは普通に嬉しいが……相変わらずなぜ歓迎してくれるのかが、いまいち分からないのだ。


「いえ、明日は…………明日は遺跡に潜る……かも、しれないです」


 正直に言うか非常に悩んだが……遺跡で何かを手に入れた後、それをギルドで売却する可能性がある以上、嘘を吐くのは整合性に問題があると思い真実を話した。

 一瞬、何か手に入れても売却せずに保持すれば良いのではとも思ったが、前の『ルカシャ』のように植物系だとすると、枯れたりしてしまうかもしれない。折角、『感覚』を使い金銭を得られるチャンスなのだ。無駄にするのは良くないだろう。

 それに最悪の場合、保持した植物から臭いや色がバックパックや宿の部屋に移ったら困る。単純に嫌だという以外にも、その『植物特有の臭い』が周囲に移って、特殊な植物を保持していると周囲の人に思われたくないという面が大きい。なんだか、違法植物を扱う人みたいな気分だ。まあ、そのような理由から、できるだけ遺跡で入手した変化しやすいものは保持はせずに直ぐにギルドに売却したい。


「遺跡に……! あの…………、私も、一緒に行ったりとかは……?」


 やはりというべきか。なんとなく予想していたことをユリアは言い出した。この少女、意外と頑固な面があるような気がする。


「それは、ちょっと……すみませんが、しばらくは一人でやっていこうと思っているので……あと、なんなく明日潜ろうかなって思っているだけで、明日になったら中断するかもしれないですから……」


「そ、そうですよねっ。何度も、すみません。フジガサキさんクラスの実力者は見たことが無くて、私も遺跡に関してはまだまだですから、できれば色々と学びたいと思っていて……その、いつか、フジガサキさんが良いって思える日が来たら、その時は一緒に行かせてほしいです」


 穏やかだが、どこか真剣な表情でユリアは話してくれた。

 なんだか、騙しているみたいで、とても悪い気分だ。正直に、まだ一層しか行っていないと言うべきだろうか……? だが、そうすると、色々な事に複雑な説明をする必要があり、それをするのは、少し、危険な気がする。勿論、ユリアの人格面から考えて、そうそう問題にはならないが……人の口に戸は立てられぬ、と言うべきだろうか。いや、誠実な彼女なら、俺が秘密にしたい事は黙っていてくれるとは思うが……うーん、やっぱり、俺は根本的に人を信じていないのだろう。


「ええ、まあ、その、その時が来たら。そうですね……自分も、きっと誰かと一緒に探索をするなら、ユリアさんみたいな誠実な方と組みたいですから、その時は、こちらからお願いするかもしれません。まあ、それをするには、もう少し、自分も準備というか、協調性とか高めないといけませんが」


 俺の言葉を聞くと、ユリアはどういうわけか、少し悲しそうな表情を浮かべた。しかし、それは一瞬ですぐ気を取り直したように、優しそうな笑顔を浮かべた。はて?


「フジガサキさんは協調性が高そうな人に見えますけど……えっと、私もいつ呼ばれても良いように準備しておきますね」


 その後もユリアと雑談を続け、料理を食べた後、別れた。今日の昼飯も美味しかった。今のところ、ユリアの紹介した店は全て美味しい。以前言っていたように、彼女はクリスクの街についてだいぶ詳しいようだ。他の街にも詳しいと言うし、もし別の街に行く事になったら、前に言われた通り彼女に相談するのが良いだろう。

 以前、別の町に行くなら教えて欲しいと言われた時は、少し不思議に思ってしまったが、ユリアの知識量を知っていると、なるほどなと感じてしまう。こういった情報を共有してくれるという意味で言ってくれたのだろう。やはり、彼女はとても親切な人だ。


 そして予定通り、午後に休息を取りつつ、探索道具の最終確認をする。ひさびさの探索なので、ちょっと緊張するが……まあ、一層は安全だし、二層もこれだけ準備をしていれば怪我をすることはないと思う。

 実際二層で死んだという人はそこまで多くない。多くないだけで、いないわけではないのだが……まあ、午後に探索をするし、魔獣の数も昼組が少しは倒しているだろうから、少ないだろう。武器も防具もある。離脱用の道具もある。たぶん大丈夫だ。


 明日のコンディションを整えるため、その日は夕食をバランスよく摂取し、早めの就寝を心がけた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 遺跡探索と日常のバランスが悪い 探索が読みたいのに人間模様ばかりが続くとつまらない
[一言] ぐいぐい来るねユリアさんw しれっと宿を特定されてる件はまあうん
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