一章51話 異世界九日目 二層突入準備
こちらに来て、もう九日目になった。
俺はいつものように朝食を食べ、準備を済ませたたあと、教会へと向かい、いつものようにスイの話し相手をこなした。それから後は、今日の本題である、二層突入用の道具集めに勤しむことにした。
二層は少ないとはいえ魔獣が存在する。それに対抗する手段が必要だ。故に、主に必要な道具は対魔獣を意識している。用途としては離脱用、防衛用、そして念のための攻撃用の道具だ。
基本は戦闘にならないのが好ましい。なんたって目的は魔獣と戦うことではなく、『感覚』の調査だ。そのため、離脱用の道具を中心に買いそろえる。次に、もし、戦闘になってしまい、直ぐには離脱できないなどの状況になった時のために防衛用の道具も買う。これはそこそこ買っても良いだろう。そして、一応攻撃手段を持っておいた方が良いと思うので、使わないと思うが攻撃用の道具も少しはあっていいだろう。
一応、既に数日前に購入した転移結晶があるので、離脱用は最低限持っている。他にも魔獣との戦闘を避けるもの、遺跡からの脱出を出すけるものを離脱用の道具として確保したい。
防衛用は命を守るものだ。魔獣の接近や攻撃を防ぐものや、傷を負っても回復する手段などを考えている。
攻撃用は魔獣を殺傷するものだ。見た事もない生き物に攻撃できるかは正直なところ分からないが、選ぶことができる手段としてはあっても良いはずだ。
大通りを中心に、魔道具店を三店、スクロール専門店を二店、それと武器店を一店ほど巡り、何となく良さそうなものを買っていく。午前中だけで、特殊な道具を2点を購入した。一度昼休憩を取ったあとに、さらに数店巡り、追加で魔道具を購入した。最終的な内訳は離脱用2、防衛用2、攻撃用1だ。
詳細を述べると、離脱用は『軽量化のバックパック』、『適合の塗料』、防衛用に『衝撃吸収のアミュレット』、『生命のスクロール』、そして攻撃用に『風刃のスクロール』を購入した。
『軽量化のバックパック』は特殊な魔力が込められており、中に仕舞ったものが軽く感じられるようになるらしい。
実際に身に着けて自分の元々持っていたものと重りを入れて比較したが、確かに軽くなっていた。今後は採取道具や魔道具や採取品など色々と持ち運ぶようになるので、あると便利だろうと思い購入した。体力温存にもなるし、何かあったときに身軽の方が逃げやすいと思ったので離脱用に分類した。まあまあな値段がしたが、他の魔道具に比べると安い方だ。
『適合の塗料』は靴に塗る特殊な塗料だ。これもやはり特殊な魔力が込められているようで、塗料を塗ると靴が一定の環境に最適化され、非常に動きやすくなるらしい。
これは試しようがなかったが、店員さんがとても親切に対応してくれたのと、低層活動者にはぜひお勧めしたいという言葉に従い購入に踏み切った。
あと、この『適合の塗料』は色々な種類があり、今回購入したのは、クリスク遺跡の1層から4層までの魔力パターンや地形を考慮して作られているものだ。なので、クリスク遺跡の低層以外では効果はない。一度塗ると1日経つと効果が落ちはじめ、三日で効果が完全に切れるので、遺跡に入る前に毎回塗る事をお勧めされた。塗料の量は靴のサイズにもよるが、だいたい探索10回分くらいはあるらしい。また、他の種類の塗料を使用する場合は、三日経過して効果が完全に落ちた後に使用するように言われた。複数の塗料を塗ると魔力が混ざってしまい、思ったような効果が出なくなってしまうからだそうだ。
まあ、しばらくはクリスクの1層から4層までで十分なので、特に気を付けることはないだろう。あと余談になるが、低層探索者向けなためか、他の魔道具に比べてかなり安く買った。いや、勿論、金貨1枚もしたので、物価から考えるとなかなかの値段だが、俺の手持ちから考えれば問題の無い額だ。
『衝撃吸収のアミュレット』は身に着けているだけで、文字通り、身体が受ける衝撃を少なくしてくれる魔道具だ。魔獣の攻撃をある程度和らげてくれるそうだ。また高所からの落下などにも効果があるらしい。
本来は10層から15層クラスの探索者が対象のようで、そのあたりの層の魔獣の攻撃によるダメージを40%程度カットできるらしい。2層レベルでの運用は想定されてなかったようだが、少なくとも2層の魔獣は10層よりかは弱いはずなので、これはある程度期待しても良いだろう。というか、結構高価だったので、期待に応えてくれないと悲しい。
『生命のスクロール』は一回だけの使い捨ての道具だ。先日勉強したように、こいつだけは魔道具ではなくスクロールという分類だ。魔術が使えない人でもお手軽に魔術的高価を得られる道具だ。このスクロールは傷を癒し生命力を高める効果があるらしい。使い捨てにしては、結構な値段がしたが、安全のため2枚購入した。
最後の『風刃のスクロール』は攻撃用のスクロールだ。これは風の魔術の一つである『刃』の力が込められているようだ。
これに関しては購入に少し迷った。元々、『風刃のスクロール』を見つける前には、剣や槍などを攻撃手段として考えてはいたのだが、武器店で少し触らせてもらったところ、かなり扱いが難しいと分かった。というか、武器として扱うには重い。俺は非力な上に不器用なので、使えば体力の消耗は激しいだろうし、最悪、振り回したら自分を切ってしまいそうだとも思った。
なので、攻撃用の道具に関しては悩んでいたのだが、そんな中、スクロール店で『風刃のスクロール』を見つけた。扱いやすく、携帯性に優れ、射程に優れた武器というのは便利そうに思えた。ちなみに威力も低層ならば十分のようだ。欠点はスクロールであるため使い捨てである点だ。そして値段も高い。何枚買うか悩んだが、こちらも2枚購入した。
色々と購入した結果、中々イニシャルコストがかかった。消費した金貨の枚数を、物価から考えると…………ちょっと使い過ぎたかもしれない。いや、俺の手持ちから考えると、問題はないが……前の世界ではあまりお金は持っていなかったので、なんだか感覚が狂う。貧乏癖ってわけじゃないけど。
いや? これはむしろこっちに来て浪費癖がついているのか……?
うーん、まあ、安定の追及のために『感覚』の把握があって。その『感覚』の把握のために、遺跡での実地調査が必要で、遺跡での実地調査を安全に行うために初期投資が必要で……一応、今回のは必要なコストだと思うので、やはり浪費ではないと思いたい。
――うん、これからの為にも、こういう投資は慣れた方が良いのかもしれない。
それに今日買った魔道具は『適合の塗料』以外は全体的に燃料となる魔石を消費する必要があるのでランニングコストがかかる。なので、探索に出る毎にお金がかかる。勿論、探索に出れば『感覚』によりお金を得られる可能性が高い……よく考えると、まだ『感覚』って三回しか発動してないんだよな。そう思うと次も発動する確実性はない訳で……そう考えると、今回の初期投資は少し賭けの面があったかもしれない。無駄になるかもしれない可能性もゼロではないのだ。いや? それはそれで、『感覚』の使えるタイミングなどを知れるし、そもそも実際に二層に行くともう決めているので、危険な二層に行くための備えが必要なわけで……なんか、思考が堂々巡りしてる。整理しよう。
『二層行くから、初期投資必要』……よし! 近いうちに二層に飛び込もう。そこで『感覚』がどうなるかを調べれば良い。そしてその結果に応じて次の計画を立てる。
悩みを払い、新しく買ったバックパックに探索に必要なものを試しに詰めてみる。『生命のスクロール』と『風刃のスクロール』はすぐ取り出せるようにポケットの中に1枚入れて、もう一枚はバックパックの中で良いだろう。探索用の採取道具一式、水筒などもバックパックに詰める。『衝撃吸収のアミュレット』は少し目立ちそうなので、遺跡の中に入ったら身に着けるのが良さそうだ。
試しにバックパックを担いでみたが、かなり軽かった。中身の重さをほとんど感じない。これは良い。正直、採取道具を一式入れて移動するのは結構重かったのだ。これだけでも今日魔道具店に行った意味があったと感じられほどだ。『衝撃吸収のアミュレット』や『風刃のスクロール』にも期待したい。ああ、でも、『衝撃吸収のアミュレット』や『風刃のスクロール』が役立つ状況って結構危険な状況だから、むしろそんな状況に陥らないように期待した方が良いか。
あとは、もう少し準備をできたらして、ギルドで二層に資料を再確認し、出現する魔獣の情報も調べて……うん、まだもう少し時間がかかるが、数日以内には二層に突入できそうだ。