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一章48話 異世界八日目 贖罪日の後日談④


「恐ろしい……?」


 つい気になったワードを拾ってしまう。


「ええ……その――、あ、いえ、本当に怖いわけじゃなくて……あんなに上手く聖なる術が使える聖導師は中々見た事が無くてっ……! その、私の師匠は、私から見て凄く強い聖導師だったんです。今の私と同じように探索者もやってた時期もあって。それで、その師匠から色々と教わって、私も聖なる術を一通り使えるようにはなったんです。ただ、師匠は少し怖いところがあって……スイさんはそんな師匠と同じくらいか、もしかしたらもっと上の技術の持ち主だったみたいで……だから、なんとなく師匠の面影が被って、怖いって思っちゃったんだと思います。別にスイさんのことを本当に怖いって思ったわけじゃないですよ」


 ユリアの話が謙遜でなければ、スイの聖導師としての技量はユリアを大きく超えているようだ。正直どちらも超人的な能力を見せているので、俺には違いは分からないが、まあ、関係者しか分からないということもあるのだろう。


 しかし、『怖い』か。それを言うなら、一般人の視点で見ればユリア、というか聖導師全般は怖いと言えるような気がするけど。なんたって、人間離れした身体能力と、僅かな動作で物体を瞬時に熱する力、他にも話を聞くと怪我や病気を癒す力もある。もしかしたら、前の世界で例えると拳銃や警棒で武装した警官よりも強いかもしれない。あ、いや、流石に拳銃の方が強いか……? 

 どちらにしろ一般人からすれば十分脅威だろう。それに昨日の儀式を見るに、宗教的な権威も持ち合わせている。またユリアのように、その力を遺跡探索などで莫大な富に変えることもできる。社会的にも非常に強い。決して敵対してはいけない存在だろう。

 まあ、ユリアは人格者だし、スイもマイペースなところがあるが、根は親切な少女だ。だから俺が敵対するようなことは無いだろうし、それに、もっと言うと、基本的に一般人と敵対するというケースが稀だと思う。むしろ、そのあり方や歴史的な背景を見るに、力の無い一般人を直接的、または間接的に助ける存在だろう。

 だから怖がる必要は本来は無いのだが……うーん、筋肉ムキムキのマッチョが包丁握りしめていたら、たとえそのマッチョが人格者だと知っていても怖いと感じるみたいな……? いや、これは全て言いがかりだな。


 良からぬ方向へと向かおうとする思考を戒め、ユリアとの会話に集中する。


「ユリアさんの師匠ですか。スイさんの師匠は個性的な方だと聞いていますが、ユリアさんの師匠はどんな方なんですか?」


「ええっと……明るくて優しい人です。私が聖なる術を覚えるとき、いつも傍で見守ってくれました。上手くいかないときも、丁寧に教えてくれて……ときどき怖い時もありましたけど、たぶんそれも含めて師匠の魅力なんだと思います」


 良い人らしい。聖導師の育成制度に関しては詳しくは無いが、徒弟制度みたいな感じなのだとしたら、師匠の影響は大きいだろう。そして、もしそうならば、ユリアの人格を見るに、その師匠もまた人格者というのは十分に『らしい』という気がする。


「立派な方なんですね。でも、なんだか凄く納得できます。ユリアさんはそういう点でも師匠の志を受け継いでいるんですね」


「えっと、……ありがとう、ございます。そう言ってくれて嬉しいです。まだ師匠にもスイさんにも及びませんが、いつかは、そうなろうって思っています」


「ユリアさんなら成れると思います……こんなことを言って良いか分かりませんが、自分の視点では、スイさんよりはユリアさんの方が真面目な感じがして、その、追いついているような気がしますよ。まあ、何をもって聖導師と定義するかにもよりますけど……」


 俺の言葉を聞くと、ユリアは少し笑った後、再び話し始めた。


「スイさんは個性的な人ですけど……でも聖導師としての技量――少なくとも聖なる術の技量は、私よりも遥かに上です。聖導師の定義は私も色々あるとは思っていますが、聖なる術の技量はかなり重要だと思います。私の師匠も、『聖導師としての力量を計るには聖なる術の熟練度を見るのが一番早い』と言っていましたから」


「なるほど……ちなみに、スイさんの方が技量が上だと言うのは……さっきの話しぶりからして、贖罪日の儀式で知った感じですよね……? それ以前にスイさんの聖なる術を見たりとかはされなかったんですか?」


 スイはよく『力』を使ってじゃれてくる。あれはユリアにはやらないのだろうか。それとも聖なる術の中でも『力』は『聖導師としての技量』の判定外なのだろうか。


「はい……スイさんは滅多に聖なる術を使いませんから、あそこまで精確に扱えるとは思っていませんでした。それに、聖具の使い方もかなり熟達していました。儀式の執行者としてあれ程の聖導師は中々見ない……いえ、たぶん私の知る限り一番の執行者だったと思います」


 それほどまでか……というか、スイは滅多に聖なる術を使わないのか。ユリアの前だと使わないのか、俺の前だと濫用してるのか、判断に迷うな。前者な気がする。たぶんユリアに何か言われるのが嫌で使わなかったんだろう。ユリアの今までの言動からして、高い技量を持っている聖導師には真剣さを求めそうだ。それに、高い技量の聖導師が身近にいると知ったら、ユリアはその聖導師に教えを乞う気がする。どちらにしてもスイは面倒と思ったのかもしれない。


「スイさんって結構、聖なる術を使ってる気がしますが……」


「え……そうですか? それは……えっと、もしかして、フジガサキさん、何か病気を抱えているんですか?」


 病気……な、なるほど。ユリアはできるだけスイの行動を好意的に解釈したいのかもしれない。なんだかスイと対照的だ。彼女はユリアの事をあまり良くは言わない。まあ、それはスイなりの冗談のつもりなのかもしれないが。


「いえ、『癒し』の術ではなくて、『力』の術とか『光』の術をよく使ってますね」


 言いながら気づいたが、これはもしや『チクリ』なのではないか。また後で怒られそうだな。言わない方が良かっただろうか。いや、たぶんユリアの方が正しいように思えるし、言ってしまっても良いか……? まあ、のんびりしたいって言うスイの気持ちも分かるから、微妙なところだが。


「そ、そうですか……それは…………今度、スイさんに聞いてみますね」


 そう言って微笑むユリアからは、怒気のようなものは感じられなかった。だから、きっと別にスイが怒られたりはしないだろう…………いつもユリアからは怒気のようなものは感じたことなどないから、俺の感じ方とスイの怒られの間に相関性があるかは分からないが。

 なんとなく気まずくなってしまい、言葉に詰まってしまった。

 えっと、何か違う話をした方がいいかな……?


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