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一章47話 異世界八日目 贖罪日の後日談③


 スイと別れた後、聖堂図書館に向かうと、いつもの場所のユリアがいた。

 軽く彼女と話をして、二人で聖なる術に関する本を探す。二時間ほど探し回ったが、俺の求めている知識が書いてある本は無かった。やはりユリアが言っていたように、珍しい領域の知識だからか、中々見つからない。ただ、この巨大な図書館の中で、現在調べた箇所は、全体の1割にも満たない。だからこそ、どこかにはありそうな気もするが……やはり時間がかかりそうだ。

 幸い、ユリアが手伝ってくれているため、かなり早いペースで本を調べることができている。彼女は図書館の手伝いをしているというだけあって、本棚の傾向を知っているし、聖導師の身体能力から高すぎて手に取れないような本もすぐに調べてくれる。毎度見る超人的な跳躍も、回を経る毎に動きのキレや美しさが増してきている気がする。


 いつも昼飯を食べに行く時間よりも少し前の時間になったあたりで、聖堂図書館を出る。向かう先は、一昨日約束していたユリアが知っている美味しい店だ。彼女のセレクトがどんなものか気になるが、今まで彼女が食してたものを見るに――サンドイッチしか食べているのを見たことは無いが……まあ、美味しそうなサンドイッチを美味しそうに食べていたことからして、そう悪い店ではないだろう。

 むしろ、『フェムトホープ』での活動で高収入が予想される彼女が選ぶ店だから値段も味も通常のものよりもグレードが高いものが予想される。手持ちの金で足りるだろうか。ギルドカードが使える店なら問題ないが……いや、手持ちの金だけでも金貨10枚以上ある。なので全然問題ないな。


 ユリアと一緒に大通りを東に進んで行く。今日のユリアは俺の前でも後ろでもなく横を歩いている。なんだか新鮮だ。横を歩きながらも、こちらを退屈させないようにか、雑談をところどころで挟んでくれる。彼女の話し方が穏やかだからか、なんとなく心が落ち着くような気分になる。やはり聖導師というのはそういった技量も求められるのだろうか。


 そんな穏やかな気分になり、ほどよく歩き、精神的にも肉体的にも何かを食べるのにちょうどよい感じになったあたりで、目標となる店にたどり着いた。『キーブ・デリキーエ』という店だ。見たところ外観の雰囲気は良さそうだ。グレード的にはちょっと値は張るけどオシャレで美味しそうな店って感じだろうか? あんまり、そういう店に入ったことがないので、いまいち感覚が分からないところだ。

 店に入り席につき、注文を終えたあと、雑談の続きを少ししたあたりで、ユリアがゆっくりと口を開いた。


「そういえば、昨日は贖罪日には参加しましたか?」


「ええ、参加しました。ユリアさんは探索だったので不参加、でしたよね?」


「その予定だったんですけど、パーティーメンバーにお願いして少し早く探索を切り上げたので、日没の清めの儀式には間に合いました。フジガサキさんは、その、どうでしたか、清めの儀式の方は……?」


「清めの儀式……日没に南の広場でやってたやつですよね。実はそっちには参加しなかったんです」


「え……? そうなんですか? その、贖罪日の中でも一番重要な部分だと思うんですけど……あ、いえ、もちろん絶対に参加しなくちゃいけないわけじゃないんですけど……」


「ああ、いえ。スイさんに、朝、南の広場には行かないように言われて」


「……? それは、どうしてですか……?」


 淡い赤の瞳が不思議そうにこちらを見た。


「いえ、理由は教えてくれなく。何度聞いても、アレとしか言ってくれなくて。もしかしたら、聖導師の方の専門用語かもしれないんですけど。分かります? スイさんは自分がアレだから参加しない方が良いって言ってたんですけど」


「アレ……ですか。理由は…………、…………! …………いえ、ちょっと分からないです」


 ユリアは一瞬何か思い浮かんだかのような表情を見せたが、閃きがすぐ消えてしまったのか、はたまた言葉にするのが難しかったのか、とにかくアレの正体は分からなかった。


「ユリアさんにも分からないと難しいですね。ちなみにユリアさんって…………スイさんとは、……どんな感じなんですか?」


 『仲が悪いんですか』とは聞けず、遠回しな表現になってしまった。


「どんな……ですか。その、聖導師としてはスイさんの方が経験が豊富なので、色々と教えてもらってます。スイさんは、その、賑やかな方なので、色々と気にかけてもらってます」


 スイの方が先輩だったか。まあ、今までの言動から、何となくそうかなと思っていたが。マイペースな先輩と真面目な後輩か。ちょっと相性が悪いって感じなのかもしれないな。いや、これは少し穿った見方か? ユリアの言葉だけ纏めると全然スイの事は悪く言っていない。むしろスイがユリアを悪く言っている。いまいち分からないな。


「な、なるほど。ええっと、あ! 南の広場には行きませんでしたが、お昼前に本堂には行きました。凄く、何と言うか、荘厳な感じがして、惹きつけられるものを感じました。もしかしたら、前日にユリアさんに礼拝について教えて頂いていたから、より深く感じられたのかもしれません。ありがとうございます」


 逸れていた話を無理やり軌道修正し、感謝のゴリ押しで、微妙な流れの打開を試みる。


「い、いえいえ! そんな。私の方こそ、一昨日は日没の礼拝に付き合ってくれて、ありがとうございます。フジガサキさんは真面目な人で、真剣に礼拝に取り組んでくれるから、その、私としては凄く嬉しいです…………それに、…………聖導師としても、…………聖導師としても、フジガサキさんみたいな人が礼拝に来てくれて、良かったって、そう、思っています」


 最初は謙遜気味に、そして言葉が進むと真剣な表情でユリアは俺に語りかけてきた。『俺が真面目で真剣な人である』というユリアの言葉は最初はリップサービスかと思ったが、どうも途中から見せた彼女の真剣な表情を見ると、リップサービスでは無いように思える。

 ユリアのような人に言われると、純粋にとても嬉しいが……うーん? 俺はユリアみたいに立派な感じな人じゃないから、少し恥ずかしいかも。普段は褒められても普通に嬉しいだけで流すんだが……やはりユリアの人徳故だろうか。


「あーいえいえ、自分の方こそ、って、なんか、同じ感じのこと言っちゃってますね……あー、えっとユリアさんはどうでしたか? 自分は行けなかったですけど、ユリアさんは日没には南の広場の方に参加できたんですよね。まあ、ユリアさんのことですし、初めてって訳じゃないでしょうから、どうも何もないかもしれませんけど……」


「あ、いえ、そんなことは……私も何度かは清めの儀式は見ていますけど、何度見ても……やっぱり忘れられないです。特にスイさんが執り行う儀式は、洗練されてたと思います。一連の流れが……聖導師としての力をあそこまで的確に、恐ろしいほどに使える方は滅多にいないと思いました。もしかしたら、スイさんの力量は私の師匠よりも上かもしれないです」


 ユリアは最初の方はゆっくりと頭の中で整理するように、そして後半は半ば独り言のように言葉を発した。



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