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一章39話 異世界六日目 ユリアと日没の礼拝①


 店を出た後は、再び聖堂図書館へ戻った。昼飯前に話したように、二人で図書館内で本を探索した。巨大な本棚を一つ一つ調べていったが、聖なる術に関する文献は少なく、一冊見つけるだけでも時間がかかってしまった。そうして、時間をかけて見つけた本も、少し読んでみれば、今までのものと同等か、それ以下の内容のものばかりだった。ユリアとともに時間だけを浪費していき、時刻は日没近くとなった。


「いや、中々無いものですね……」


 疲れからか、そんな言葉が出てしまった。


「はい。聖なる術の本は少し珍しいですし、特にフジガサキさんが気になっているジャンルは不人気というか……書く人も少ないんだと思います」


 確かにユリアの言う通り、聖なる術の歴史や役割、他の技術との比較などの本は中々無い。俺の『感覚』を知るのには、似たような技術のように思える『聖なる術』から探すのが良いと思ったが、これだと少し難しいのかもしれない。


「難しいですね……」


 俺が呟くと、なぜかユリアはこちらをチラリチラリと窺ってきた。そして少し間を置いた後に何気ない風を装い口を開いた。


「あ、あの~、フジガサキさんは、日没の礼拝とか、興味があったりしますか? あ、いえ、全然無かったら良いんですけど……でも、朝スイさんの相手をしていて礼拝に参加できてないみたいですし、それに元々、興味があって聖堂に来たんですよね? それなら、あの、この後の礼拝に参加したりとか、してみませんか……?」


 恐る恐るといった感じでユリアは礼拝に誘ってきた。ふむ。なるほど。まあ、確かに興味はあるが……あれ? 俺、ユリアに礼拝に興味があるなんて話したっけ?


「ええ、確かに興味はありますが……あ、すみません、どうでも良い事ですけど、ユリアさんにその話ってしましたっけ?」


「え……? ああ、その、スイさんの相手をしてもらってるんですよね? えっと、たぶん、朝の礼拝に来た時にスイさんに捕まって、それで相手をしているのかと思ったんですけど、違いました?」


 ……ああ、そっか、なるほど。『俺が元々礼拝に興味があった人だけど、スイに捕まった』って思ってたのか。要素要素は合ってるな。


「あー、なるほど。それは、確かに、合ってると言えば合ってますね。ただ、スイさんと会ったのは街の中で、そのとき朝の雑談に来るように誘われてって感じですね。まあ、実際礼拝にも興味がありましたが……」


「そうだったんですか……それは、何と言うか……その、お疲れ様です」


 ユリアは気まずそうに俺から目を逸らした。スイが如何に問題児だと思われているかが良く分かる。


「あー、いえいえ。それで、日没の礼拝ですよね。飛び入り参加が許されるのなら、参加したいです」


 俺はユリアに参加の意思を伝えた。興味があるということ以外にも参加したい理由があった。それは、少しはユリアの頼みを聞きたいという気持ちだ。今まで、色々な彼女の願いを断ってきた。一つくらいは、ここらで聞いておきたいところだ。じゃないと、俺が後で気まずくなりそうだ。


「ありがとうございます。さっきの話からすると、本物の礼拝は初めてですよね?」


 スイのアレは偽物の礼拝と言いたいようだ。いや、全くもって、その通りだが。


「スイさんの礼拝しか経験したことないです」


「――! あ、いえ、別に、スイさんのが偽物ってわけじゃないんですけど……一応、手順とか、流れとか、本当は色々あって……」


 どうやら、さっきの本物発言は思わず出てしまった言葉のようだ。


「と、とにかく! 司祭が行う礼拝にはルールがあるので! やり方は後で説明するので、とりあえず、礼拝堂に行きましょう!」


 ユリアはそう言うと、自然と俺の手を引いて、聖堂図書館を出て、礼拝堂へと向かった。彼女の足取りは自信を反映しているのか、確かなものだった。ユリアと歩くときはいつも、俺の少し後ろをユリアが付いて来たが、今はユリアが前を歩き俺の手を引いている。何だか珍しいものを見た気分だ。

 礼拝堂の入口にいた若い男は俺とユリアを不思議そうに見ながらも、とても感じの良い挨拶をしてくれた。俺とユリアは彼に挨拶を返しつつ、二人で中へと進む。まだ、少し早いのか、中にいた人は十数人程度だった。しかし、皆、ユリアを見ると、軽くお辞儀をした。ユリアは一人一人に軽く頭を下げながら、歩みを進めて、長椅子へと腰かけた。俺もユリアと同じようにペコペコと頭を下げていき、ユリアの隣へと座る。


「流れを説明しますね。あ、今はまだ、喋っても大丈夫です。礼拝が始まった後は、私語は基本的には禁止されているので、しないようにしてくださいね」


 ユリアに了承の意を伝えると、彼女は小さい声で、礼拝の流れを一つ一つ丁寧に説明してくれた。幸いな事に、中身は難しいものは無かった。讃美歌を歌ったり、聖書を皆で読んだり、司祭の話を黙って聞いたりするらしい。学生時代の朝礼みたいな感じだろう。

 唯一の問題点は俺は聖書の中身を知らないってことだったが、これはユリアが聖書を持っていたことからすぐに解決した。彼女は暗記しているようなので、今日は俺に貸してくれるらしい。一瞬、何で暗記してる本を持ち歩いているんだと思ったが、まあ、彼女は聖職者みたいなものなので、きっと持ち歩くのがデフォルトなのだろう……スイは持ち歩いてるのだろうか。なんか持ち歩いていない気がする。


 ユリアから貸してもらった聖書を読んでいたら、礼拝堂内に鐘が鳴り響いた。隣にいたユリアが立ち上がったので、俺も少し慌てて立ち上がる。周りにいる人たちも続々と起立していく。結構な人が礼拝堂の中にはいる。少なくとも百人以上はいるだろう。俺と同じように聖書を手に持つ人もいたが、半分以上の人は聖書を持っていないようだった。暗記しているのだろうか?

 そんな事を考えていると、パイプオルガンの奏楽とともに、日没の礼拝が始まった。


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