一章4話 異世界初日 今後の戦略
一通り売却の処理が終わり、ギルドカードを返された。
それから、若手職員に、ギルド内の施設やギルドと提携している施設では、このギルドカードを使い、ギルドに預けているお金で支払うことができるらしい。デビットカードみたいな感じか。
売却をすませた俺は、バックパックに硬貨を詰め込み、少し遅い昼飯をギルド内の飲食店で食べた。パンにシチュー、揚げたポテトに焼いた鳥料理と色々食べてみたが、どれも結構おいしかった。
支払いは手持ちの銀貨で済ませた。ちなみに、銀貨1枚で済んだ。いや、済んだどころかおつりの銅貨まで貰ってしまった。このクオリティの料理で銀貨1枚未満で済むのなら、しばらくは満足度の高い生活を送れそうだ。
それから、ギルドの二階へと向かい、金の引出しを確認したが、問題なくできたので、残りの金貨600枚も預けることにした。
預けた理由は安全性以外にも純粋に重かったからだ。体感だが、金貨1枚の重さは日本の100円玉より重いような気がする。もしかしたら500円玉よりも重いかもしれない。大きさは500円玉よりも小さいんだけどな……いや、金貨って名前通り金でできているのならば、密度的に考えて500円玉よりも重かったとしても小さくなるのはおかしくはないか。あ、ちなみに、大銀貨は金貨よりもさらに重かった。大きさもたぶん500円玉より大きい。まさに『大』銀貨だ。大きな硬貨だ。ちょっと嵩張ってしまう。
まあ、何はともあれ、これで手持ちの金貨は28枚になった。ちょっと預け過ぎかな……? なんか色々なことがあって脳が疲れていて判断に自信が無い。
その後、午後の時間はギルドの周辺や大通りに面した店を調べて回った。つまりは街歩きだ。1つ1つの店を深くは見ず、全体の街並みの観察にとどめた。
ただし、例外的に予備の服と生活用具や消耗品は必要だったので、数点購入した。あとは魔法雑貨店や錬金術師の店などいくつか興味深い店もあったので、そういった店は後日調べてみたい。そして宿屋の確認も行った。いくつか候補があったが、金もあったので、清潔感や安全性の高い宿に泊ることにした。水の人が言っていた格安の宿よりも高く1日銀貨5枚もしたが、安全性には代えられなかった。勿論、この判断を下した理由は、今は運よくお金を沢山持っていたという点も大きいが。
宿屋は、高価なだけあり綺麗でよく整っていた。部屋も一人部屋にして少し大きく、雰囲気も良かった。というより、転送前の自室よりも何だか良い部屋のように感じられた。
ベッドに横になりながら、これからの事を考える。
最初はいきなり転送(?)されてどうしたものかと思ったが、結果的には一日で生活の目途が立った。
やはり金というのは大事な要素だ。それがあれば衣食住は何とかなる。そういう意味では就職全落ちした就職前よりも状況が良くなったと言えないこともない。いや、まあ、この世界の治安とかはそんなに良くも無さそうなので、そういった面も考慮すると、たとえ就職全落ちでも日本の方が良いのかもしれないが。
まあいいか。とにかく今後の事だ。まず、地球に帰れるかという事と帰れる機会があったら帰るかという点だが……これは結構難しいな。
まずよく分からずにこっちに来たから、そもそも帰還方法がまったく分からないし、仮に帰れたとしても……うーん、これはもう少し後でもいいか?
どちらかというと直近の出来事やありそうな事を洗った方が良い気がする。やっぱり直近としては遺跡とギルド、あとあの不思議な感覚だよな。あれって何なんだろう。惹きつけられたからルカシャの元に行ったが……遺跡に入る前は感じなかった。遺跡に入った瞬間ぐらいから惹きつけられた気がする。それでルカシャを摘んだら、感覚が消えた。俺が、というよりルカシャの性質なのかもしれないな。後者なら本当に運が良かっただけだが、もし、俺に何かあるなら、それは今後この世界で生きていくにあたって重要な要素になりそうだな。
あとルカシャだ。あれはギルドの職員の反応を見るに絶対に1層で取れる物じゃない。その辺りも調べた方が良さそうだな。
生活に関してはまずまずだ。食もおいしかったし、この宿も良い場所だ。服も現代日本とは違った感じの服だが、不便なく着れそうだ。
金はまだだいぶある。最悪5年くらいは無収入でも何とかなる。まあ、明日の調査次第では、追加の収入源も確保できるかもしれない。仮に失敗しても、5年以内に何らかの食い扶持を確保すればいいから、そこまで深刻に考えなくても良さそうだ。その辺は明日に期待だな。
あとは……ちょっと目立ってたかもしれない事か。ギルドの買い取り窓口はあの時間はほとんど人がいなかった。ただ対応したギルド職員2人は俺がルカシャを持ち込んだ事を知っているし、もっと言うと、俺がDランクであることも知っている。そして、俺がギルドカードを発行したときに対応した職員は俺が完璧に素人だと知っている。これらの情報を組み合わせると、俺はとても不思議な人に見えるだろう。
うーん、あんまり良くなさそうな流れだ。とりあえず強盗には気を付けよう。あと、できれば普通の探索者がどんな感じに生活してるか知りたいな。出る杭は殺されるってこともあるかもしれないし、上手く馴染めるようになりたい。
明日やる事はルカシャをはじめとした遺跡の採取物の確認と、他の探索者の状態、あとは『感覚』について調べるためにもう一度遺跡に入る、そんなところかな。ああ、一応残りの硬貨の枚数でも数えておくか。一度立ち上がりバックパックを見ると、硬貨の他に光る石が数個入っていた。うん……? ああ、そういえばルカシャが置いてあった場所にあったやつだ。色々あってすっかり忘れていた。これの価値も調べておかないとな。
その後、硬貨を数え、夕食を宿屋に併設された店で食べた後、ゆっくりと休んだ。ベッドの質も高く、良い眠りが期待できそうだった。