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一章34話 異世界五日目 ユリアと資料探し⑥


 一通りの質問を終え、ユリアとの間に僅かな沈黙が流れた時、彼女はおもむろに口を開いた。


「すみません。私、この後、日没の礼拝があるので、今日はこの辺りで……」


 ユリアの声はどこか残念そうに聞こえた。


「ああ、そうだったんですか、それはお忙しいところ、すみません」


「い、いえ。フジガサキさんはどうしますか? まだ読みますか?」


 うーん、どうするか。難解な本を読み終え、疲労が溜まってきた。あと一冊あるが、正直ちょっと手が出にくい。


「正直に言うと、自分も疲れてきたので、今日はこの辺りにしようと思います」


「あ、疲れてたんですか……すみません、私、疲れさせちゃったかもしれないですよね……」


 あえて言うと、ずっと見られてたのは少し気になった。いや、まあ、それ以上に親切にしてもらったから、別にいいんだが。


「あー、いえ、そんなことは。むしろユリアさんには今日一日お世話になって……色々とありがとうございました」


「い、いえ。大したことはしていませんから……あ、その、まだ一冊読めてないと思いますが、それはどうしますか?」


「ええ、一応明日読もうかと思っています」


「なら! 明日も一緒にいてもいいですか?」


 少し食いつき気味にユリアは声を上げた。


「え、ええ? 大丈夫ですが……あー、すみません。聖導師の方って結構お忙しいと思いますが、大丈夫でしょうか?」


「え! あ! それは……あの、私は、聖堂所属ではないので、探索日以外はそこまででもないんです。治療院の急患が入ったときとかは忙しいですけど、最近は安定してますし、このクリスクには癒し手も多いですから……えっと、その、ダメですか……?」


 不安そうにユリアは尋ねてきた。


「いえいえ。全然大丈夫ですよ。むしろ、有難いくらいです」


 親切で知識もある人が勉強を教えてくれると考えると、とても有難いと言える。


「それなら……明日は何時頃こちらに来ますか?」


「朝の礼拝が終わって少ししてからだと思います」


「ああ……スイさんの話し相手ですか……えっと、では、この辺りで待ってますね」


 つまり、明日も、この読書テーブルでユリアと読書だ。


「はい、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。じゃあ、私は――あ、あの、フジガサキさんはこの後の日没――いえ、何でもないです。また、明日」


 ユリアは途中で何かを言いかけた後、最後まで言うことなく別れを告げた。俺もそれに返事を返し、そうしてユリアと別れた。

 

 日没間際に図書館を出ると、行列ができていた。列の先は図書館の隣の隣の建造物――つまりは『ティリア礼拝堂』へと伸びていた。先ほどユリアが言っていた日没の礼拝に参加する人だろうか。それにしても、かなりの人数だ。多すぎると言ってもいい。朝の礼拝も結構人がいたが、ここまでの行列はできなかったはずだ。

 それに、何と言うか、行列を構成する人の感じもどこか朝の礼拝組とは違って見える。細いというか、服がぼろぼろというか、少し汚れているというか、まあ、直接的な表現をすると、朝組よりも収入に困っていそうな人達に見えた。うーん、なんだろう? 何かあるのだろうか。

 遠巻きに見ていると列が動き始め、人々が『ティリア礼拝堂』へと入っていた。なんとなく眺めていると、十分とかからずに礼拝堂は人々を飲み込んだ。なんか凄いなー。


「そこの人、もうすぐ始まります。途中からは入れませんから、参加するなら入って下さい」


 ボケーと眺めていたら、礼拝堂の入口にずっと立っていた若い男に声をかけられた。俺の記憶が確かなら彼は、人々が礼拝堂に入るときにずっと入口の横に立っていて、入る人に何か声をかけていた。たぶん門番みたいな人だろう。


「ああ、いえ、大丈夫です。何となく見ていただけですから。お仕事中にすみません」


 少し若い男に寄りながら、声を上げる。それにしても人の良さそうな人だ。門番だとすると、やはり宗教関係の人だろうか。やっぱ親切な感じがするな。


「一応知ってるかもしれませんが、日没の礼拝に参加しないと『恵み』は受けられませんよ。今からならまだ参加できますよ」


「恵み……?」


「日没後の配給のことです。あと、今日のスープは肉がいつもより多いですよ」


 配給……ああ、なるほど。炊き出しみたいな感じか? で、日没の礼拝の参加者だけが受け取れる仕組みか。なるほど。だから、人が多かったのか。それに貧困者みたいな人の割合が多かったし……よくできてるな。個人的には礼拝に参加していない人も受け取れるような制度の方が好きだけど……まあ、そこは仕方がないか。


「あー。いえ、特には、その、大丈夫です。ご親切にありがとうございます」


「そうですか……主の話はいつでも聞くことができますから、気が変わったらいつでも参加して下さい」


 笑顔で手を振る彼に、軽く礼をして別れた。

 そうして、日が沈む中、聖堂を後にした。帰り際に見た、赤く染まった聖堂がとても美しかった。

 

 結果としてみると、直接的な成果は少ない日だった。しかし、図書館という知識の宝庫を知れたのは大きかった。明日も朝からスイとユリアと会う約束があるから、教会に行く事になるだろう。

 俺は明日に成果を期待しつつ、宿の快適ベッドに横になった。ふかふかしていて気持ちいい。やはり金は大事だ……


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