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一章3話 異世界初日 ギルドの買い取り窓口にて



 そして昼過ぎにギルドの買い取り窓口にで職員さんに換金をお願いしようとして、大変なことが起きた。なんか、非常に珍しい植物のようだったのだ。それも、おそらく低層では絶対手に入らないような貴重品だ。1層で見つけたと正直に言うのは、何だか不味いような気がしたので、思わず嘘をついてしまった。ごめんね。

 少し待つと、若手の職員が、年配の人を伴って戻ってきた。おかえりなさい。


「灰になってないルカシャが出たって聞いて来ました。こちらですよね。ちょっと触って確認してもいいですか?」


 どうぞ、と俺が言うと、年配の職員はカウンターの上に置いてある不思議植物の検分を始めた。


「損傷あり、色は紅蓮、状態は解放、魔力等級25~26相当……魔素の指数は7ってところか。含有率は90%か? でもこれ少し抜けてるな。損傷部から流出あり……」


 年配の職員が呟く度に、隣にいる若手の職員が紙に記録をしていく。紙一面に情報が記載されたあたりで、年配の職員の検分が終わり、植物から俺の方に視線を持ってきた。なんか緊張する。


「いや、素晴らしい素材を持ってきましたね。どちらでこれを?」


 またこの質問が来てしまった。1層だけど、絶対にコレ1層で取れるヤツじゃないだろうなー。困ったな。


「すみません、さきほど、そちらの方にも言ったんですが、夢中になってて、階層数えてなくて……」


「階層を覚えてない? 失礼ですが、ルカシャは灰の形態のものでも深層でしか入手は不可能です。その領域まで行ける方で、覚えていないという方は見たことがないのですが……一応、魔力等級から考えると25層前後で入手されたものかと思われますが……」


 あ、やっぱり皆、潜ってるときにちゃんと数えてるんだ。いや、まあ、今何層にいるか知っておくことは、命が係わる迷宮では重要だから当然なのかもしれないけど……どうしよう……? 正直に言った方がいいのかな……? でも不思議な『感覚』の事もあるし……


「いや、恥ずかしながら、このあたり初めてで……あと、ちょっと自分色々と抜けてて、お役に立てず申し訳ないのです……」


 俺が答えると、年配の職員は素早く口を開いた。


「私は情報担当も兼任しているので、情報料が心配という事でしたら、ギルドの方で適正価格で取引いたしますが」


 うん……? ああ、なるほど! ボケてるんじゃなくて、金目当てで秘密にしてるんだと思われてるのか。いや、ちょっと後ろ暗いところがあるから言えないんだ……


「まあ、今はちょっと……ええっと、とりあえず、換金の方ができたら換金したいのですが」


「わかりました。情報の件はまた後日教えて頂ければと思います。買い取りの件は、『生きた』ルカシャですから、状態の悪さを差し引いても……デリウス金貨で730枚といったところでしょうか」


 デリウス金貨730枚。小銭ではない。かなりの大金だ。

 ギルドに来る前に親切な水の人から、デリウス銀貨1枚で安宿なら泊まれると聞いている。

 金貨と銀貨の交換レートがよく分からなかったが、市場によく出回っていたのが、デリウス銅貨とデリウス銀貨であった事を考えると、おそらく価値的にデリウス銀貨よりもデリウス金貨の方が高価なはず。というか、銀よりも金の方が価値が高いはずだ。少なくとも俺が元いた世界の歴史の大部分では金貨の方が銀貨よりも価値が高かった。もし、こちらの世界で金と銀の価値が同じで1対1レートだとしても、銀貨で730枚。

 つまり、しばらく、というか1年以上は働かなくても何とかなりそうだ。幸先が良いと思うべきか、大変なものを拾ってしまったと考えるべきか。

 とりあえず、衣食住に困る事は無さそうという点は素直に喜ぼう。


「では、それでお願いします。あとできたら、デリウス金貨2枚分をそれぞれ銀貨と銅貨で貰えたりってできますか?」


 銀貨と銅貨の方が流通してるみたいだし、昼飯や宿のことも考えると、いくらか崩しておきたかった。あとレートも気になる。


「銀貨と大銀貨ならできますよ。ただ、銅貨は数が多くなりすぎるので、できません。金貨2枚をそれぞれ、大銀貨と銀貨に替えますか?」


 年配の職員に問題ない事を伝えると、若手の職員が奥の方から大きな袋を持ってきて、中から金貨や銀貨を取り出し、カウンターの上に並べた。

 金貨728枚、大き目の銀貨5枚、銀貨20枚だ。金貨1枚=大銀貨5枚=銀貨20枚か。結構分かりやすいレートだな。しかし、全部持つと嵩張るし重そうだな。思っていたことが顔に出たのか、若手の職員がある提案をしてきた。


「もしよろしければ、ギルドの方で財産の預け入れも可能です。上位の探索者の皆様は活用されていますが、いかがいたしましょう」


 保管……銀行みたいな感じかな? 確かにこれだけジャラジャラ持ってたら強盗とかに襲われそうだし、単純に重いのも嫌だな。直近で必要そうな額以外は預けちゃってもいいかな。一応引き出し方法は聞いておこう。


「保管の手数料と引き出し可能な場所や時間について教えて貰えますか?」


「保管の手数料はかかりませんが、引出し・預入の際に銅貨1枚を手数料として頂いています。場所と時間は、ギルド2階の専門窓口で一日中、深夜も含めて対応しています、こちらの買い取り窓口では預け入れのみ、7時から20時まで対応しています」


 結構良さそうだ。一旦預けて、後で2階で引き出してみて、ちゃんとできたら追加で預けるか。


「ありがとうございます。では、とりあえず、金貨100枚ほど預けたいと思います」


「かしこまりました。では、ギルドカードをお願いします」


 少し前に作ったばかりのカードを渡すと、若手職員の手が止まった。


「え? Dランク……? ああ、登録したばかりの方でしたか? 以前は別の国で活動されてたんですか?」


 驚きと困惑に満ちている若手職員の顔を見て、俺は気まずくなった。

 ギルドはランク制を採用していて、一番最初はDランクから始まるのだ。今回のように納品をしたり、またはギルドからの依頼に答えたりするとランクが上がり、ギルド内での施設が格安で利用できたり、探索に必要な貴重な装備や備品の購入権を得られたりするらしい。つまりは特権を得られるようだ。小銭を得る事を目標としていた俺にはあまり関係の無い事だと思っていたが……


「…………まあ、そんな感じです」


 なんか、ノリで嘘ついちゃった。でも、初めてって言う方が、変な気がするので仕方がない。


「ソロで25層近くまで行ける方でしたら、すぐに昇級になると思いますよ。というより今回のルカシャの納入だけで、昇級になるんじゃないですかね」


 年配職員にも高評価を付けられ、さらに気まずくなってきた。だって1層しか行ってないのだし……

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