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一章28話 異世界五日目 ユリアと資料探し①


 ユリアは昨日と同じように黒いローブのような服をきちんと着ている。着崩したスイとは対照的だ。そして何より、彼女の特徴と言えば、その髪色だ。彼女を見ると、ついつい、その特有の髪色――ピンク色が混ざったような金髪に注目してしまう。


「……ああ、えっと、ユリアさん、でしたっけ?」


 先ほどまで人の気配はしなかったと思ったが、大きな本棚に気を取られていたからか、声をかけられるまで気付かなかった。


「はい。『フェムトホープ』所属のユリアです。昨日、昇級審査を受けていたフジガサキさん……ですよね」


「ええ、そうです。えっと、何か、ありましたか?」


「その……何か困ってるみたいに見えたので……私に手伝えることが、あったりしますか……?」


 確かに困っている。本棚が高すぎるということに関して。ただ、これは酷かもしれないがユリアでは手伝うのは難しいだろう。ユリアの身長は俺よりも低い。見た感じ俺がこちらの世界で会った女性でたとえると、ルティナよりも一回り小さく、スイと同じくらいだろうか。数値にすると、だいたい155cmくらいじゃないだろうか。


「あー、えっと、実はこの本棚の上の方にある本を確認したくて……こういう場合ってどういう感じで取ればいいかってユリアさんはご存知ですか? 脚立みたいなのを借りる感じなんでしょうか?」


「えっと、上の方の……手に取りにくい本は、出来がわる……じゃなくて、あまり読む人がいない本だったと思いますけど、気になるものがあるんですか?」


 今、出来が悪いって言いかけた?

 

「えっと、ちょっと本を探してて、この図書館って多分、本を新しいか古いかで本棚に入れてますよね。それで、自分が探している系統の本がどこにあるか分からないので、一通り見て回っているんです。それで、この辺りは本棚が高くなってて、上の方が確認できなかったので、気になって……えーっと、上の方って不人気なものを集めているんですか?」


「不人気というか……その、何というか……これ言っちゃっていいのかな……? あの、この図書館の本は基本的に写本なんです」


「写本ですか?」


「はい。聖堂や修道院での教育や修行、儀式の過程で作られた写本が、この聖堂図書館に保管されているんです。それで、フジガサキさんの言う通り奥の方から古い順に写本を収めていって、新しいものほど入口の近くに置かれているんです。ただ、写本ですから、全部が全部、完璧なものじゃなくて……上手くいかなかったものもあって、そういう写本は、こういう背が高い本棚の上の方に押し込め……収納されているんです。なので、上の方の本は読みにくいと思いますよ」


 今、押し込めって……


「なるほど……ただ、ちょっと探している系統の本は中々いいものが見られなくて、個人的には読みやすさよりも知識の幅というか深さと言うか、そういう点で読みたいと思っているので……あー、つまり、上の本がやっぱりまだ少し気になってて? ええっと、ユリアさんは図書館のことを詳しいのでしょうか?」


 なんか、上手く言えなかったので、別の質問をしてみた。


「えっと、前にも言ったかもしれませんが、私は一応、聖導師なので……聖堂内の施設のことでしたら一通りは覚えてます。あ、えっと、聖導師って知ってますか……?」


 なんか、人の事言えないけど、この少女は『えっと』っていっぱい言うな……なんて言うんだろうか、手探りに話を進めていると言えばいいのだろうか。なんか上手く話題を進められないところに、シンパシーを感じる。こうもっと、人と話をするときにスバっと切り込めるといいんだけど、なかなか上手くいかないのだ。難しいなー。


「はい。一応。聖なる術を使える方のことですよね。国でも有数の方だと聞いています」


 俺の言葉を聞くと、ユリアは少し焦ったように両手を前に出し、首を小さく横に振った。


「い、いえ……そんな大したことでは……」


 ふむ。謙遜だろうか。実際、凄い技術の使い手だとは思うのだが……


「技術の活用性や、使用者の貴重性を考えると、かなり凄いとは思いますが……」


 本音で喋ってみたが、それでもユリアは手を横に振って否定の仕草をした。ルティナと違い褒められると嬉しくない、または緊張してしまうタイプだろうか。


「いえいえ……えっと、それで……あ、あと、その、私、いつもではないですが、探索が休みの時は、この図書館で本の整理を手伝っています。なので、フジガサキさんが探している本も、特徴を教えて貰えれば、分かるかもしれません」


 ユリアはどこか恥ずかしそうにしながらも話題を変えるように、そんな言葉を口にした。ん? 聖導師かつ図書館の手伝い……スイの言っていた怖い司書か。というか、そもそもスイはクリスク遺跡街には二人しか聖導師がいないと言っていたのだし、消去法で怖い司書はユリアに決まりだったな。


「それは、ありがとうございます。自分が探しているのは魔術とか聖なる術とか、そういった特殊な技術に関する本です」


「魔術と聖なる術……ですか。聖なる術の本は奥の方にいくつかあったと思います。魔術の方は色々な本がありますが、特にどういった分野のものを探していますか? やっぱり二重詠唱関係ですか?」


 ……? やっぱり? 何のことだ……?


「いえ、そのどちらかと言うと、専門的な事ではなく、もっと、何と言いますか、魔術や聖なる術のような特殊な技術に関する総論みたいな話が読める本を探しています。もっと言うと、こう、聖なる術のように触媒とかを使わずに行使できる技術が書かれた本を探しています」


「……え?」


 ユリアは驚いたようにこちらを見た。なんだ……?

 俺がユリアの驚きに対して上手く反応できずにいると、ユリアがさらに声をかけてきた。


「あ、いえ…………その、フジガサキさんは、何で、そんな本を探しているんですか?」


 ユリアはじっと何かを確かめるようにこちらを見てきた。そういえば、初めて会った調査の時も、こんな感じの目で俺の事をじっと見ていたな。なんか、変な事言っただろうか。うーん、ある程度客観的に見ても、そうおかしな事は言っていないと思うんだが……


「知的好奇心って要素もありますが……やはり遺跡で活動するにあたって、色々な技術を知っておくと便利かと思いまして」


 とりあえず、嘘にならない感じで説明する。実際、遺跡での活動は本来は命がけなのだから、おかしくはないはずだ。ゆえにこの説明は探索者として遺跡で活動しているユリアには、より納得感を与えるのではないだろうか。

 しかし、俺の思惑とは裏腹にユリアはまたしても、疑問を感じているような顔をした。


「それは、そうですけど……でも、フジガサキさんでしたら、そんな心配はいらないと思いますけど……」


「……? 遺跡での活動は危険なものですし、心配や準備はいくらしてもしたりないぐらいだと思っているんですけど、あれ、すみません、これなんか変ですかね?」


「い、いえ……そんなことは、無いですけど…………あのフジガサキさんって………………あ、いえ……何でもないです」


 そういう風に意味深に止められると、凄い気になるんだが……

 俺が困っていると、ユリアは気を取り直したのか、また言葉を発し始めた。


「それで、確か、聖なる術のような技術でしたよね……えっと、そういうのは………………この図書館には無かったと思います。他には何か探している本はありますか?」


 ユリアは何か考えているからか、妙に言葉と言葉の間が長かった。

 それにしても、これだけ広い図書館にも俺が探している情報は無いのか……うーん、俺の『感覚』は本当によく分からないな。


「とりあえず、今探しているのは……ええっと、そうですね、聖なる術に関する本の場所を、もし知っていたら教えて貰ってもいいですか?」


 スイからは、『聖なる術』は俺には使えないと聞いているが、一応、目を通しておきたい。現状、最も俺の『感覚』に近いのは『聖なる術』だ。だから、それについてはスイからの意見だけではなく、書物などからも情報を得て、多面的に調べていきたい。


「はい。こっちです。付いてきてください」


 そう言って、ユリアは歩き出した。どうやら、案内してくれるようだ。お言葉に甘え付いて行くことにした。


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