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一章27話 異世界五日目 聖堂図書館にて


 『ヘルミーネ礼拝堂』でスイと別れた後は、彼女の言葉に従い聖堂図書館を探した。『ティリア礼拝堂』――始めて教会に来た時に入るか入らないか悩んだ建物を目印に、その近くにあった大きな建物が図書館であった。

 聖堂内の施設全体に言えることだが、この図書館も堅牢そうな外見をしていて、それでいて、どこか厳かな雰囲気を醸し出している。こういうところが、なんというか、こちらを緊張させる。なんだろうか、俺みたいなちゃんとした信仰を持っていない人が入っていいのだろうかと不安にさせるのだ。まあ、今回は探し求めていた知識の貯蔵庫ということもあり、勇気をもって中に入りたいところだ。

 俺は、一度握りこぶしを作り、それから手を緩めた後、おっかなびっくり図書館の中へと入った。


 図書館の内部からは礼拝堂と同じく神秘さと静けさを混ぜたような空気を感じた。あえて言うと、礼拝堂の方が煌びやかな装飾があり、そこから神々しさを感じられたが、こちらの図書館の方は全体的に質素で、それが図書館が持つ静けさを強調しているように感じられた。

 ゆっくりと音を立てないように歩き、辺りを見回す。人の数は少ない。礼拝には結構な人が来ていたと思うが、図書館に来る人はあまり多くは無いようだ。さて、どうしようか。早速、資料などを調べて回りたいが、作法がよくわからない。普通の図書館みたいな感じで、調べまわっていいのだろうか。スイに聞いておけば良かったな。

 どうしようか。いや、まあ、司書っぽい人に聞くか? ああ、でも今日の司書は怖いんだっけ。どうしよう。明日に出直すか。うーん。

 悩みながらも、周囲を窺い、図書館利用者の仕草を確認する。見た感じ、受付などで特別な事をしている雰囲気はない。入ってすぐに奥の方に見える本棚に一直線に向かい、本を手に取っている人もいる。やっぱり普通の図書館と同じように見える。

 試しにゆっくりと、奥の本棚に向かい、本を眺めてみたが、咎める人はいなかった。この本棚は受付から視界が通っている。受付から見えるようにゆっくりと適当な本を手に取り、表紙をめくる。タイトルは「レイル通りの歴史」だ。それから数ページ立ち読みしてみたが、特に怒られることはなかった。うん。大丈夫そうだな。


 本をもとにあった場所に戻し、自分が見たい資料を探すことにする。所々、「貸出はしていません」とか「読み終わったら元の場所に戻して下さい」など書かれた張り紙が本棚に貼ってあった。うん、普通の図書館だな。

 魔術や聖なる術などの技術に関する本を探す事、数十分。結果は芳しくなかった。いや、この図書館広すぎるのだ。まあ、外観から分かっていたことだが、それにしても広すぎる。しかも、資料の並び方が独特で、分類で分けられているのではなく、「新しさ」順になっているっぽいのだ。おそらく入口に近い本は新しく、そして、入口から遠くなるほど、古い本が置いてあると思われる。

 なぜそう感じたかというと、奥の方ほど本の紙質が古く、全体的に古書の特有の匂いがするからだ。一応、受付の人に探している系統の本の場所を尋ねたりもしてみたが、受付の人も、あまり詳しくはないようで、新しい本は受付の近くにあるからそこから探しみたらどうか、としか答えてはくれなかった。ちなみに探してみたが、あまりそれらしき本は無かった。


 それでもめげずに少し奥に入って捜索を続けたが、良さそうな本は無かった。厳密には魔術っぽい本とかもあるにはあったが、専門的過ぎたり、局所的だったりで分かりにくい本が多かった。聖なる術に関する本に関しては全く見つからなかった。

 とりあえず、一度息を吸い、図書館内に設置されている小さなベンチに腰かける。今調べた範囲は、図書館全体からすると、数百分の一か、下手したら千分の一以下だ。単純計算で、図書館全体をざっくりと見るだけでも500時間くらいだろうか……一日五時間かけたとしても、百日かかる。


「これは、時間がかかりそうだ……」


 思わず、呟いてしまった。まあ、幸い、時間はあるし、ゆっくりと調べていくか……

 現在の時刻は十時を少し回ったところだ。昼飯まで少し時間があるし、もう少し調べてみるか。

 気持ちを新たにし、ベンチから立ち上がり、本探しの作業へと戻る。既に受付からだいぶ奥の方へと入ったためか、この辺りには人が全くいない。元々、図書館には人がいなかったが、数少ない来館者も新書に興味があるの為か、受付近くに人が集中している。人の気配が全くしない本棚の中で黙々と、並べられている本の背表紙を読み込んでいく。


 判別作業を続けていき、本棚にある本を調べ終わると、また次の本棚へと向かう。それを繰り返していき、ある時、僅かに体が硬直する。

 なぜかと言うと、新しく目に入った本棚の大きさが今までのものよりも飛び抜けて大きかったからだ。今までが2メートルくらいの大きさだったが、この大きな本棚は4メートルくらいはありそうだ。不思議に思いあたりを見回すと、ここが境界線になっているようだった。この本棚よりも奥の方の本棚も背が高い本棚だ。4メートル級が奥の方までぎっしりと鎮座していた。

 思わずげっそりとしてしまう。単純に調べる量が増えたのもあるが……これ、上の方はどうやって手に取ろうか。最上段など目で見るのも難しい。あれ、そもそも上の方の本をどうやって本棚に収めたんだ……

 とりあえず、中段あたりまでは今まで通りに背表紙を見ていき、さらにいくつか気になるものは手に取り中身を確認する。

 そうして、中段、おおよそ2メートルくらいの高さまで処理したところで、そこから先に悩んでしまい手が止まる。いや、どうしよう。脚立とから借りる感じか……でも、ここ結構狭いから脚立は難しそうだな。


「あの……何か、困ってますか……?」


 ふと、そんな声が近くから発せられた。ふとそちらを見ると、昨日、昇級審査で出会った聖導師の探索者、ユリアがそこにいた。


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