三章幕間 ミーフェとサラ②
「へ~、そうなんだ~。ところで、クランっていうと、もしかしてミーフェちゃん探索者になれたの? 確かAランクの探索者になるとか言ってたよね~、どう? なれた?」
サラはミーフェの気持ちを知ってか知らずか、急に話題を変えた。
「はー、とっくの昔になったけど? んで、今は一流クランのリーダー。てか、話逸らさないでカイについて知ってること答えてよ。知らないの?」
「ん~、そのカイ君って子は知らないな~。まあ、見かけたら覚えておくよ。ちなみにミーフェちゃんは今Aランク? それともA+ランク? どっち?」
「は? ミーフェ、一流クランのリーダーなんだけど?」
サラの問いかけにミーフェは答えずに威嚇した。褒めてもらえると思ったのに予想外のことを言われたので、咄嗟に威嚇が出たのだ。あの時、Aランクになるのがどっちが速いか競争という話だったのだ。
ミーフェが先にAランクになったんだから、サラは褒めるべきなのに、A+ランクとか話が違うとミーフェは思った。
「うん、うん、なるほど、Aランクなんだね~。あ、ち・な・み・に~、私はAA+ランクだよ~、凄いでしょ~」
「はい、嘘。てか、サラみたいな雑魚がAA+ランクとか盛りすぎ。吐くならもっとまともな嘘にしなよ。Cランクになれたとか」
ミーフェから見て、サラはあの時と変わらず弱いままだ。探索者になることすら難しい。せいぜい盛ってCランクが限界だとミーフェは思ったのだ。
「嘘じゃないよー。昔、ミトラ王国で活動してたんだ~」
「は? ミーフェもミトラ王国で活動してたんだけど? サラって名前は聞いたことない。やっぱり嘘じゃん。はい、嘘雑魚確定」
「ん~、いやいや本当だよ~。少し……三年くらい前だったかな? 当時のクリスク遺跡の最下層の開拓とかしたんだよね~。あ、当時はサプラトって名乗ってたよ~、知ってる?」
サプラト――ミーフェはその名前に聞き覚えがあった。有名な鞭使いの探索者の名前であった。
「はい嘘。有名人の名前出せば、ミーフェがビビる思ってるでしょ? そのくらい分からないとでも思った?」
「嘘じゃないもーん。ほらほら私って聖導師だからさ、あんまり暴れるのは駄目だったから偽名で遺跡潜ってたんだ~。無許可営業ってやつだねー」
「遺跡に潜ってる聖導師……」
サラの発したある言葉をミーフェが呟いた。
「ん? ミーフェちゃん、どうしたのー? なんか聖導師と揉めたりしたー?」
ミーフェの持つ雰囲気の変化にサラは素早く気付いた。
「してないけど?」
内心の怯懦を隠してミーフェが答えた。
「そーなの? まあ、いいや。それで、そんな感じで聖導師としての決まりや仕事がたくさんあってねー。今も、行きたくもないのに、テチュカに行かなきゃなんだよねー。こわーい人にテチュカに行きなさいって命令されちゃった、しくしく。あ、テチュカって言えば、ミーフェちゃんと初めて会ったのもあそこだねー。まさかテチュカに行く途中でミーフェちゃんに会うっていうのは、なんか主の導き的な感じなのあるよねー」
「ミーフェ、その主とか言うのよく分からないんだけど?」
「主っていうのはねー、まあ、なんか偉い人のことだよ~」
サラの言葉は、あまりにも適当なものだった。
「じゃあ、ミーフェが主なんだけど? てかさ、ミーフェ、一流クラン作ったしさ……いや、まあ、これはサラのために言ってるんだけどさ、サラもミーフェのクラン入らない? その主とか言うのより、ミーフェに仕えてた方が絶対良いから。あー、これ一応、サラのために言ってるから、これ断ったら、もう誘わないから、今しかチャンスないんだけど? ミーフェのクラン入りたい? いや、まあ、ミーフェは入れなくてもいいんだけど、サラがどうしてもって言うなら入れてもいいけど? まあ、サラは雑魚だから、下っ端だけど、でも入れてやってもいいよ?」
「ミーフェちゃんのクランか~。ん~、ちょっと興味あるなー」
少しわくわくしながら、サラが答えた。ミーフェの心は嬉しさでいっぱいになった。勿論、それは表には出さないように努めた。
「ん、じゃあ、まあ入れてやるかな。言っとくけど、これ特別だから。普通の奴は土下座してミーフェの靴を舐めても、普通に入れないから。サラはもっとミーフェのクランに入れること感謝した方がいいよ」
嬉しさを隠し、横柄に、まるでしょうがないとでも言いたげにミーフェは、サラに入団の許可を出した。
「あ、ごめんね、ミーフェちゃん。勘違いさせちゃったかな~。いや、本当はね、私も、ミーフェちゃんとはもっとわちゃわちゃしたいし、入りたい気持ちは沢山なんだけどー、やっぱり、メヘラ様からは離れられないしね。師匠からの使命もあるし……! 残念だけど、ミーフェちゃんと一緒に遊ぶのはまた今度かな~」
サラは残念と言う割には、全く表情を変えなかった。明るく、どこかふわふわしているような、そんな雰囲気で、ミーフェの誘いを断ったのだ。
「は? ミーフェのクラン、最強クランなんだけど? 入るなら今しかないんだけど?」
一方でミーフェは慌てた。折角再会できたのだ。入ってくれるに違いないと思っていたのだ。ミーフェにカイ、そしてサラ、これで完璧な布陣であった。なのに――
「最強か~。実はさ、ミーフェちゃん、私、もう最強の人に仕えちゃってるんだよね」
サラはどこか遠い目でミーフェを見た。何度か見たことがある目だった。カテナ教とかいうわけのわからないやつらがする目だ。主とか何とかを敬う時の目だ。ミーフェはすぐに察した。
「主とかいうのは、ペテンだから、最強じゃないから。最強はミーフェだから」
だから、ミーフェはサラの呪いを解くための言葉を放った。しかしそれは無駄であった。
「いやいや、そっちのペテンの最強じゃなくて、本当の最強ね。メヘラ様に仕えてるんだよね~。メヘラ様は、たぶん師匠よりも強いだろうし、私が見た中では最強。使徒四人の中でもきっと一番強いだろうし、この大陸で一番強いかもね。殴り合ったら主より強いんじゃないかな? まあ、いっか。だからごめんね~。ミーフェちゃんがメヘラ様より強くなったら、また誘ってね~」
「は? もうミーフェ、そのメヘラとかいうのより強いんだけど?」
「うーん、それはないかな~。今のミーフェちゃんは……うーん、ミーネちゃんよりは強いかもだけど、ティアちゃんより弱いかな。あ、これティアちゃんぬいぐるみの試作品なんだけど、いる?」
そう言って、サラはぬいぐみをミーフェに見せた。
手作り感溢れるそれは、ミーフェにとっては不吉な色合いをしていた。ピンクの髪を纏ったぬいぐるみが、鋭い視線でミーフェを見た。そのぬいぐるみは、どこか、あの怪物を思い出させるような見た目であった。敢えて言うならば、目つきが違った。あの怪物とは違い気持ち悪い目はしていなかった。鋭く、一点に睨むような目からは、不思議と強さを感じた。頭がピングでなくて、顔があの怪物に似ていなければ、もらってやってもいいかもとミーフェは思った。
「いや、色合いが変だから、いらない」
あの化物を思い出す色合いだ。不吉な物に違いない。
「えー、そんなこと言わないでよ~。珍しくて、いいじゃん。私もまだ、ピンクブロンドの子なんて二人しか見たことないんだよ。貴重品だよ~」
押し付けようとするサラにぬいぐるみを突き返しながら、ミーフェはさびしい気持ちを抑えた。
「いらない。てか、ミーフェ、カイのこと探さないといけないし、もう行くから。いや、まあ、サラがミーフェのクランに入るなら、もう少しいてやってもいいけど……」
寂しい気持ちを抑えながらも、ミーフェは自分のやるべき事を向かうことにした。サラがクランに入ってくれないのなら、もうここにいる意味はないのだから。
「うーん、ごめんね、ミーフェちゃん。メヘラ様の下を勝手に離れたら、メヘラ様に殺されるかもしれないし、師匠にもボコボコにされるかもだし、ミーフェちゃんのクランには入れないかな~」
「そう……じゃあ、いいや……。ミーフェ、カイを探しに行くから」
「うん、じゃあね。ミーフェちゃん。また何かあったら一緒にお話しようね?」
「ん。まあ、今度は、そのメヘラとかいうイキってるのも連れて来て、ミーフェが2秒でボコっておくから。サラは気にせず、ミーフェのクラン入れるから」
「……うん。そうだね~。期待しておくね~」
その言葉を最後に、ミーフェはサラと別れた。
数少ない恩人との再会、本当であれば、ミーフェももっと話したかった。でも、カイを探さなくてはいけない。それに、サラは結局、クランには入ってくれなかった。カイとは違う。また別れてしまうならば、悲しくなる前に別れるべきだ。大丈夫だ。ミーフェには、カイがいるから。
――まずはカイと合流しよう。そして、本当に最強のクランを作ろう。そして、最後はメヘラとかいうのを倒して、サラも仲間にいれるのだ。
ミーフェの偉大な計画がまた一つできた瞬間であった。
そして、ミーフェは東へ進んだ。テチュカからどんどん東へと離れてしまう。
ミーフェは知らない。藤ヶ崎戒が、テチュカから南へ向かったことに。