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三章幕間 ミーフェ、東へ


 ヒストガ王国の厳しい冬の中、凍てつく大地が広がる街道を一人の少女が馬に乗って駆けていた。

 少女の目には決意の光が宿り、その唇は固く結ばれている。雪と泥が混じる道は凍りつき、馬の蹄が地面を叩くたびに冷たい雪が飛び散る。寒さが容赦なく襲いかかってくるが、少女はそれを無視し、ただ前を見つめていた。強気で勝ち気なその姿は、まるで風そのものを従えているかのようだ。風とともに、特徴的な赤いツインテールが強く揺れる。

 少女は鞭を鋭く振り、馬の速度をさらに上げた。馬は息を荒げ、吐く息が白く凍りつく。全力で駆ける馬の体力は限界に近づいていたが、少女の表情に迷いはなかった。彼女は街ごとに馬を乗り換え、疲れ果てた馬を次々と置き去りにしながら、ひたすら東へと進んでいた。雪に覆われた風景が目まぐるしく後ろへと流れていく。


 街に辿り着くたび、彼女は聞き込みを行い、成果がないと分かると、次の馬を手に入れるために行動する。馬屋に乗り込むや否や、少女の強い口調とその気迫と暴力によって、馬主たちは強制的に馬を提供させられた。馬の手綱を取り、少女は再び街を飛び出す。乗り換えたばかりの馬も、彼女が手綱を握るとすぐにその鋭い気迫を感じ取り、命じられるまま雪道を全速力で駆け出すのだった。


 曇り空の下、冷たい風が彼女の頬を切り裂くように吹きつけるが、彼女は顔をしかめることもなく進み続けた。道沿いの森や丘が彼女の視界の端で次々と消えていく。

 まるで時間そのものを追い越しているかのように、彼女の走りは止まらない。大切な使命を抱え、彼女は一刻の猶予も許されないという焦りと使命感に突き動かされていた。


 少女――ミーフェ・ホフナーは大切なクランメンバーを助けるためにヒストガの大地を東へ東へと進んでいた。





 ミーフェ・ホフナーがミトラ王国からヒストガ王国に入ったのは、運命のあの日――藤ヶ崎戒がいなくなった翌々日のことだった。

 偉大な家族(クラン)の一員の突然の消失に、ミーフェは驚愕した。信頼していた副首領が突然いなくなったのだ。最初は『裏切り』という言葉がミーフェの中で想起した。

 しかしすぐにそれはありえないと気付いた。ミーフェにとって藤ヶ崎戒は互いに信頼できる関係、親子のような関係なのだ。勿論、ミーフェが偉大な父で、カイは子だ。当然ミーフェが上なのだ。

 いや、今それはいい。とにかく、子であるカイが父であるミーフェを裏切るなどありえないだろう。そして、あの時の状況、ミーフェがリデッサス遺跡街でカイと一緒に偉大な記録を示し、リデッサスに最強のAランク探索者ありとこの世に示した翌日に起きた悲劇、それを思い出したのだ。


 二重の意味で頭がおかしい怪物が、カイの部屋を荒らし、そして、ミーフェからカイの情報を奪おうとしていたのだ。ミーフェは真の賢者であり、暴力しか取り柄が無い怪物など軽くあしらった。怪物は今頃、ミーフェから情報を引き出したと勘違いしているが、ミーフェは最も重要な情報を怪物には話さなかった。それは『カイがおそらく東のヒストガ王国に行った』ということだ。

 これは以前カイがヒストガに興味を持っていたことや、そこを探索する拠点にしたいみたいなことを言っていたことを賢いミーフェは覚えていたからだ。だがそれを怪物には隠し通したのだ。ミーフェの賢者としての立ち回りの上手さに、思わずミーフェ自身も唸った。

 なお、ユリアに尋問されていた時のミーフェは戒との会話を忘れていて、あとからいなくなった戒を探すために必死になって戒との会話を思い出そうとした結果、なんとか思い出した朧気な記憶から、『カイは東にいる』という推測を立てたのが真実である。もし藤ヶ崎戒がミーフェの行動を知ったら、『ホフナーの妄想と現実がたまたま合致するとは……』と驚いただろう。


 ミーフェはカイを助けるためにヒストガ王国に向かうことを決意した。

 間違いなく、カイはあの化物に狙われている。そしてカイもその事を理解していたのだろう。恐らく、カイはミーフェをあの怪物の脅威から遠ざけるために、敢えてミーフェには言葉を告げず、ヒストガの地へ逃げたのだろう。ミーフェのために、偉大な父のために、子であるカイが自らを犠牲にしようとしたのだ……

 ミーフェの目元は熱くなった。思わず、雫が頬を伝った。


――それほどまでに、カイはミーフェのことを……!


 そして、自分を少しだけ恥じた。カイを疑ってしまったことを。ミーフェが弱くなったらカイはミーフェから離れると思っていた。だが、現実は違ったのだ。ミーフェが負けてしまってもカイはミーフェを見捨てなかった。それどころか、ミーフェを少しでも助けるために命を賭して、囮になったのだ……!

 いや、違う。ミーフェは本当は負けていない。勇者であり、賢者であるミーフェは負けていないし、あの怪物は頭がおかしいから、実質勝負のカウントに入れるべきではない。ミーフェは負けていない。だが、それでも、カイの献身をミーフェは忘れないだろう。


 そして、素早く荷物をまとめたミーフェはリデッサス遺跡街を飛び出し、ヒストガ王国へと入った。


 なお、ミーフェは、予約もせずに乗合馬車に横入りし、周囲に迷惑がられ、道中で揉めた乗客一人を当然のように馬車から突き落としたことをここに記しておく。





 そうして無予約での乗合馬車の乗車を繰り返して、ミーフェは、ヒストガ王国の中央街道を東へと進んだ。途中の街々で、ミーフェは『カイ・フジガサキ』について聞き込みをしたが、一切情報は得られなかった。これは当然であった。なぜなら、この時、藤ヶ崎戒は偽名を使っていたからだ。ミーフェはめげることなく、中央街道を東へ進み続けた。

 なお、ミーフェが中央街道を使っているのには訳があった。それは思い出の中で、カイが中央街道に興味を持っていたからだ。恐るべき直感であった。しかし、偽名までは読めなかったミーフェはカイの情報を得ることは無かった。


 そうして、情報が無いまま、東へと進み、ヴィアテラの街でミーフェは足を止めた。季節外れの大雪がヒストガ地方を襲ったからだ。


 交通網が停止し、ミーフェはヴィアテラの街に閉じ込められた。最初ミーフェは無理にでも乗合馬車を動かそうとするが、それは叶わなかった。舐めた発言をした商会員とその護衛数人に暴力を振るった後、しかたなくミーフェは馬を確保しようとするが、こちらも馬屋が強く拒否したため叶わなかった。

 しかたなくミーフェは、ヴィアテラの街で情報収集を行った。カイを探すために、商会員や行商人、情報通などに聞き込むが、有用な情報は得られなかった。情報収集の際、愚かな浮浪者が、ミーフェに向かって「男に逃げられた」などといった茶々を入れることがあった。カイとの神聖な関係を侮辱されたと感じたミーフェは、路地裏で、その浮浪者に容赦なく暴力を振るい、足腰が立てなくしてやった。


 大切な仲間の情報を得られず、雪で足止めを食らったミーフェは非常に不機嫌であった。

 そして、不機嫌なのはミーフェだけではなかった。突然の雪で予定や商売、生活が狂った者は多くいた。彼らもまた非常に不機嫌であった。

 結果、柄の悪い傭兵崩れやチンピラなどが、すれ違いざまに肩がぶつかり、喧嘩になることが、ヴィアテラの街の下層部では頻発した。


 そして、彼らの中で運が悪い者がミーフェとぶつかり、騒動になった。機嫌の悪いミーフェは当然のように雪の中での全裸土下座での謝罪を求めたが聞き入れられず、衝突した。


――結果は数秒でミーフェが勝利した。実力差も分からない傭兵崩れ相手に、ミーフェは無慈悲な鉄槌を下した。金品・所持品・衣類を全て没収し、全裸土下座させ、頭を踏みつけ、靴を舐めさせた。ミーフェは執拗に、力の差も分からない雑魚を痛めつけた後、得意げな顔で、路地裏を凱旋した。なお没収した物品は全て売れるものは売り、売れないものは火にかけた。


 ミーフェはこのような事を数度繰り返し、以後、ヴィアテラの街の下層部ではミーフェはアンタッチャブルな存在になった。





 雪が止み、交通網が回復するや否や、ミーフェは駆けだした。乗合馬車が動かなかったため、馬屋を金貨で殴り、無理やり馬を使った。

 途中の街で、情報収集と補給を済ませ、馬を替えながら無理やりな東進を繰り返した。


 やがて、また一つの街がミーフェの前に現れた。馬の息は荒く、脚が震え始めている。馬はもう限界に達していたが、ミーフェは再び馬屋へと向かう。冷たい風に髪が乱れ、額にはうっすらと汗が浮かんでいたが、ミーフェの眼差しは鋭く、疲労を見せることはない。

 新たな馬を得たミーフェは、一瞬の休息も取らずに、すぐさま街を後にする。街道はさらに寒く、雪が深くなっていくが、ミーフェはその困難を意にも介さないかのように、ひたすら東を目指して走り続ける。その姿は、あたかも冬の嵐の中で一筋の光が風を切り裂いて進むかのような勢いだった。

 テチュカという大きな街でも聞き込みをし、成果がないと分かると、ミーフェはさらに東へと進んだ。


 そうしてミーフェはフスホドグという街にたどり着いた。

 この街で、ミーフェは予期せぬ人物と再会を果たすことになる。


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あけましておめでとう
作者様、こんにちは!私は中国からの読者です!本作品はAI翻訳を使用して読んでおり、評価していますので、不自然な文法があるかもしれませんが、どうぞご了承ください。 タイトルにミーフェの名前を見たとき、…
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