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3章32話 リーシアと紅茶と秘密のアレ


 そうして、時々にやにやするリーシアを眺めたり、献身的なルミの姿を見つつも、三人で広間の暖炉で温まりながら過ごした。

 ボードゲームで遊んだりして、時間を進ませ、そして、ある時、リーシアがうずうずとしながら、口を開いた。


「ルミちゃん、そろそろおやつの時間ね……」


 相変わらず、透き通った美しい声だが、しかし、どこか、うきうきとしたものを隠せていなかった。

 その上、リーシアは俺の方をちらちらと見てくる。今までの流れからして、これは『おやつ』に秘密がありそうだ。


「はい! リーシア様、今用意しますね……!


 リーシアの言葉に黒と白の二色髪の少女――ルミは素早く、それでいて愛想よく反応した。


「うん。それでね、今日はロランに紅茶を出そうと思うの。それと『アレ』をロランに食べてもらおうと思うの……」


「紅茶と、『アレ』ですね! ……? 『アレ』って何ですか……?」


 うずうずとしているリーシアにはきはきとルミは答えるが、途中で不思議そうな顔になり、リーシアに問いかけた。


「秘密の『アレ』よ。ロランをびっくりさせる『アレ』よ……」


 なんか、リーシアがだいぶハードルを上げてくるな……そんなにびっくりするような食べ物があるのだろうか……?


「! 『アレ』ですね! 分かりました! 用意します!」


 ルミは、はっと気づいたような表情になり、台所の方へ早歩き気味に向かった。


「ロラン、びっくりするわよ……」


 悪戯リーシアがこっちを見た。可愛い。これは驚く準備をしなければ……

 しばらく待つと、ルミが紅茶と、そしてある物を運んできた。おお、これは確かに珍しい物だ。


「ロランさん、紅茶です。そして、これが……!」


 そう言って、ルミがリーシアの方を見た。肝心なところをリーシアに説明させるようだ。リーシアは待ってましたと言わんばかりの得意げな顔をした。可愛い。


「うふふ……ロラン、紅茶と一緒にルミちゃんが持ってきた……これはね、食べ物なのよ」


 リーシアがまるで『初めて見ただろう』という風に、茶色い固形物を指した。

 そう、チョコレートだ。

 

 確かに、非常に珍しい。元の世界では何度も見た物だが、こちらの世界では初めて見た気がする。

 何でだろう……? ああ、アレか、チョコレートってカカオからできてるからかな? カカオってかなり暖かいところじゃないと栽培できないはずだし、どっちかというと寒い感じのこの世界(少なくとも俺が足を踏み入れたミトラ王国・ヒストガ王国は寒い)では、珍しいのかもしれない。

 いや、まあこっちの世界にも南国はあるだろうし、そういった場所で栽培するんだろうけど……あれ? でも、そうだとしても、それはそれで凄いか。南国由来のものを雪国のヒストガ王国まで持ってきたのだから。紅茶も、もう少し暖かいところで栽培するものだろうし、そう考えると、紅茶とチョコレートの組み合わせって、凄いな、かなりの贅沢だ。

 何でそんなもの持ってるんだと思わなくも無いが、リーシアの財力や権力はなんか凄そうだから、気にしても仕方が無いか。


「チョコレートって言うのよ。甘くておいしいのよ」


 俺が考え込んでいると、リーシアは、『俺が困惑している』と思ったのか、うずうずとした顔で解説を始めた。知識お披露目リーシアだ。小動物以外ではレアケースだ。


「凄いね。チョコレートなんて久しぶりに見た」


 なので、俺は正直に感動を伝えることにした。一瞬、すっとぼけて、『ナニコレ、ナニコレー』と騒ぐか迷ったが、俺は演技とかあんまり上手じゃないだろうし、滑っても良くないので、正直に言う事にした。


「え……? ロラン、チョコレートを知ってるの……? どうして……?」


 リーシアは衝撃に打ち震えた。しまった、ショックを与えてしまったようだ。


「あ、いや、その、ちょっと知識として知ってて……何かの本とかで見たような気がする……」


 昔、カカオってどんな植物だろうとネットでざっくり調べたような気がするから嘘ではない……


「本……? そんな本があったのね……そう……知ってたのね……」


 残念そうにリーシアが呟いた。しょんぼりモードになってしまった。


「あの、リーシア、その、知ってるけど、でも驚いてるよ。なんか、この辺りだと凄く珍しいし、嬉しいよ」


「そうね。この辺りだと…………あら……?」


 リーシアは何かに気付いたような顔になり、そして黙った。ぼーっとしたような顔で俺の方を見ている。これはぼーっとしているように見えて、何かを考えている時のリーシアの顔だ。何だろう……?


「……? …………? 私、本なんて出してないわよ……?」


 不思議そうにリーシアが呟いた。

 はて?


「え? ええっと……?」


「誰かが書いたのかしら…………? ああ、でも、そうね……別に禁止したわけじゃないものね……」


 ぶつぶつとリーシアは呟き、最後には納得したような顔になった。

 はて……?


「ええっと、ごめん、リーシア、何か、悪かったかな……?」


「ううん、いいのよ。何でも無いわ……でも、ロランがチョコレートを知ってたのはびっくりしたわ。びっくりさせるつもりだったのに、びっくりさせられちゃったわね……」


 ぼんやり4割、落胆3割、感心2割、恨めしさ1割のような複雑な表情でリーシアはこちらを見た。許して……


「ご、ごめんね。えっと、でも、その、素直に、嬉しいのは本当だよ。美味しそうだし、それに紅茶とも合うだろうし……」


「そうね。チョコレートは紅茶と一緒に食べると美味しいのよ。食べましょう……」


 そうして、リーシアとルミと一緒に久々の紅茶とチョコレートの味を満喫した。

 味は大変美味しかった。ルミの淹れてくれた紅茶は、香りも味も非常に良いもので、ユリアのそれと同程度か、それ以上に美味しかった。そして何よりチョコレートの方は絶品だった。地球にいた時に食べたどのチョコレートよりも美味しかったような気がする。

 何と言うか、味が上品というか、甘くもあり苦くもあるというか。ビターチョコレートの完全体みたいな味だった。リーシアもルミも嬉しそうにしていたし、俺も大満足である。



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リシアはクーデレですか?? この章を読んでチョコレートが食べたくなりました…著者の好きなチョコレートの種類は何ですか? また、章が進むにつれて、リシアがもっと怖い人に見えたり、主人公が大物を相手に…
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