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三章幕間 ■■■■


 二人を追った先は広間になっており、中には大きな暖炉にソファー、他にもほのぼのとまったりと過ごせるような家具や生活用品が所々に置いてあった。スイは想像以上の『ほのぼのぱわー』を感じ、たじろいだ。


「ロランさん、最近は■■■■様と、どうですか?」


 白と黒の髪を持つ少女の朗らかな声――ただし、一部が掻き消された声を聞き、再びスイは眉をひそめた。


「さっきから、ネタバレ防止してるだろっ!」


 二人の会話に割り込むようにスイが声を出す。


 ネタバレ防止――これはスイが時々遭遇する異常事態の一つだ。

 大儀式を用いた『導き』は、本来であれば繊細な予知を可能にする。未来の情報を五感で正確に知ることができるのだ。しかし例外はある。極稀に存在する、未来予知への耐性を持った人・物・事象に対しては不正確になるのだ。不正確になったモノやその周辺では、思念体の五感が朧気になり、情報を掴みにくくなる。

 スイはこの現象を『ネタバレ防止』と呼んでいた。そして、今現在、戒と白黒の少女が時々口にする人名のようなモノが、まさしくネタバレ防止を引き起こしていると、スイは推測していた。 


「どう、というと……?」

「どうっ、どうっ……!」


 戒の言葉に合わせて、スイが弾むような声を出す。


「■■■■様のこと、好きになりましたか……!」


 白黒の少女が身を乗り出し、戒へと迫った。スイは素早く両手を延ばし白黒の少女を押し返そうとするが、その手は白黒の少女を貫通する。過去にいるスイは未来に干渉できず、白黒の少女は過去のスイへ干渉できないのだ。


「それは、まあ、友人としてはとても好ましい人だと思うよ。穏やかで、凄く優しくて、それに何だか、自然と人を惹き付ける魅力を持った人だと思う」


「ふむ? スイちゃんのことかね?」


 戒の言葉を聞き、スイは「うんうん」と頷きながら、ソファーに腰かけた。当然と言った風に戒の隣を確保した。


「こ、恋人としては……?」


 白黒の少女の期待するような瞳が戒を捉えた。スイは素早く両手を動かし、戒と白黒の少女の視線の交錯を妨害した。勿論、二人にはスイは見えないので、まったく無意味な行動であった。


「ええっと、それは……前にも言ったけど、今は、まだ心の整理がついてないから、ごめん……」


 戒の言葉を聞くと、白と黒の少女はしゅんと肩を落とした。


「むー、ダメですか~」


 ソファーに背を預けて脱力する少女を見て、スイはニヤリと邪悪に笑った。


「うむうむ、振られおったな……! よしよし……」


 スイが満足そうにする一方で、白と黒の少女は再び脱力を解き、背筋を伸ばして、きりりとした顔で戒に向き直った。


「ロランさんにも事情があるみたいですし、それならしょうがないです! 残念ですけど、しょうがないです! 残念ですけど!!」


 白黒の少女はそう宣言すると、急に立ち上がり、ソファーの後ろにある大きな箱へ手を突っ込んだ。そして、中からボードゲームをいくつか取り出し、それを素早くテーブルの上に並べた。


「今日はどれで遊びますか? どれでもいけますよ……!」

「なんだ……! スイちゃんはボードゲームの達人だぞ……!」


 スイは威圧するように少女を見た。


「それなら……まあ、二人だし、これにする? まだ、ルミとはやってなかったよね」


 そう言って戒は二人用のボードゲームを指差した。


「ふむ? 二人用か……ならば、『お兄さんとスイちゃんの合同チーム』対『拷問官の足が臭い偽ユリア』だなっ……! 偽ユリアなんかに負けないように頑張るぞ、お兄さん……!」


 スイがぺちぺちと戒を器用に叩いた。勿論、現実には干渉していない。ただ、戒の触れるか触れないかのギリギリで叩く手を寸止めし、口で「ぺちぺち」と音を出して、叩いた気分に浸っただけであった。過去にいるスイでは未来にはどうやっても干渉できないのだから。


「わかりました! やりましょう!」

「いいだろう、かかってこい! 偽ユリアっ!」


 スイの宣言と同時に、白黒の少女と戒が一生懸命に駒を並べた。なお、並べている最中、スイは戒の応援をしていた。

 全ての駒を並べ終えた二人が向き合った。


「ロランさん……! 負けませんよ……!」

「だから、その『ロラン』って何だ……!?」


 白黒の少女の宣言に対して、スイが苛立つような声を上げた。





 二人の戦いはほとんど一方的な展開で終わった。


「ボードゲームの腕はまだまだだなっ 偽ユリア。本物のユリアはもっと強かったぞ……!」


 そう宣言するスイを無視して、戒と白黒の少女は感想戦を始めた。


「スイちゃんの話を聞かんか! まったく……! 偽ユリアはスイちゃんに負けたので、明日までに何で負けたか一人考えてください……! お兄さんといちゃいちゃ感想戦しないっ! それと、お兄さんはスイちゃんの応援パワーで勝てたので、もっとスイちゃんに感謝するようにっ……! うむ……『スイちゃんパワーで勝利したのに、スイちゃんにお礼を言わなかった罪』も追加だなっ……! これでお兄さんの懲役は色々足して1億年くらいです……! ぐへへ、現実世界に戻ったら覚えておくんだぞ~」


 スイは再び器用にぺしぺしと戒を叩くふりをした。

 それから、二回戦を始める二人を見て、「負けて懲りない偽ユリアは成敗っ!」とスイが念を込めた。しばらくして、再び戒が勝利したのを見て、スイは己の『応援パワー』と『成敗パワー』の凄さを二人の前で語るのだった。勿論、スイを認識できない二人に対してはまったくの無意味であったが。

 二回戦が終わり、感想戦も終わった後、玄関の方から音が響いた。


「■■■■様です……!」


 白と黒の二色髪の少女が駆けだした。それを見て、慌てたように戒も駆けた。そして、それを見たスイも動いた。


「お兄さん、まてまてー」


 スイが、戒を玄関まで追い回したところで、ちょうど、白黒の少女が扉に手をかけた。戒の隣に立つスイは状況を理解した。


「さてはネタバレ防止のヤツだろっ! 正体をしっかりと確認だ~」


 ニヤリと笑うスイの宣言とともに扉が開かれた。


「おかえりなさい! ■■■■様!」


 玄関の外には尋常でないモノがあった。

 スイは、その■■■■の姿を見て、驚愕と恐怖から固まった。

 なぜなら、■■■■はあまりにも悍ましい姿をしていたからだ。全身は黒く、シルエットは流体だ。ぐじゅぐじゅと表面が醜く蠢く。さらに、全身から、黒いうねうねとした触手のようなものを震わせていた。


「縺溘□縺?∪縲√Ν繝溘■繧?s窶ヲ窶ヲ繝ュ繝ゥ繝ウ縲∽サ頑律繧よ擂縺ヲ縺上l縺溘?縺ュ窶ヲ窶ヲ窶ヲ窶ヲ」


 黒いぐずぐずの怪物が奇声を上げた。スイには理解できない言葉――いやもはや言語とは思えない。邪悪な怪物から漏れる不気味で醜く耳障りな音の羅列であった。


「なにこれ知らん、こわ……」


 スイは恐怖で半歩後ろに下がりながら、ごく自然な感想を口にした。

 ネタバレ防止という現象は時々あった。そしてその現象となる人が朧気に見えることもあった。だが、こんな体験は初めてであった。

 このような不気味で悍ましい怪物の存在などスイは知らなかった。遺跡にいる魔獣の中で最も醜いものでも、ここまで醜くはないだろうとスイは思った。


「ゆ、ユリアに聞くか……?」


 スイがやや現実逃避気味に化物の醜さについて考えていると、さらに恐ろしい事が起こった。


「あ、うん、今日もお邪魔しちゃってます。おかえり、■■■■」


 藤ヶ崎戒――つまりはお兄さんが、まるで当然のように怪物と会話したからだ。


「縺溘□縺?∪縲√Ο繝ゥ繝ウ窶ヲ窶ヲ菴輔□縺九?∝℡縺乗ー怜?縺瑚憶縺?o窶ヲ窶ヲ」


 怪物は悦びを現したかのように、全身から出る黒いうねうねとした触手を震わした。

 何となく感情が分かったとしても、耳障りな音の羅列の意味はスイには分からない。なのに――


「そうなの? それは良かった」


――藤ヶ崎戒は全てを理解したかのように会話していた。


「縺?s窶ヲ窶ヲ縺?縺」縺ヲ縲∫ァ√′蟶ー縺」縺ヲ縺阪◆譎ゅ↓縲∝、ァ蛻?↑莠コ縺御コ御ココ繧ょ?霑弱∴縺ヲ縺上l縺溘s縺?繧ゅ?窶ヲ窶ヲ縺??縺オ縲∽サ頑律縺ッ迚ケ蛻・縺ェ譌・縺ュ」


 戒の言葉を聞いてか、再度ぐずぐず怪物が黒い触手を震わせた。スイは、訳の分からない状況に対する恐怖で体を震わせた。


「私はいつだって出迎えますよ!」

「あー、そこまで喜んでもらえるなら、なによりだよ。そこまで喜んでもらえるなら、こっちも凄く嬉しくて光栄な気分。俺もこの屋敷にいて、■■■■を出迎えるような状況になったら、これからもずっと出迎えるよ」


 ほのぼのとした戒と白黒の少女の姿は、スイにとって完全に場違いなモノであった。悍ましい化物と相対した態度ではない。それ故、スイは混乱した。


「う、……う、うむ。これは、これは……一体……? お兄さんと偽ユリアには、これが分からないのか……? もしや普通の人間……? 普通の人間が凄いネタバレ防止を身に着けている……? いや、そんなことは……?」


 うーむ、うーむと悩まし気な態度を取りつつも、思考を巡らせることで、恐怖は徐々に落ち着いてきた。あまりにも醜い異形の化物は、恐怖を誘発させる。しかし、あくまで、それは見た目による恐怖だ。直接的な脅威ではない。

 なぜなら、スイがこの未来の世界に干渉できないのと同じように、この未来にいる化物も過去のスイに干渉することはできないのだから。直接的にスイに危害を加えることは不可能なのだ。

 勿論、スイにとって大事な人物が、この未来の世界で化物に襲われる危険性はあるが……仮にそうであっても、それは未来の話であって、確定した過去・現在ではない。それゆえ、スイは少しずつ精神的な余裕を取り戻していた。


「縺ェ繧薙□縺九?√Ο繝ゥ繝ウ縺後♀螳カ縺ォ菴上s縺ァ縺上l縺溘∩縺溘>縺ュ窶ヲ窶ヲ窶ヲ窶ヲ」

「窶補?輔≠縲∽サ翫?縺ッ縺ュ縲√Ο繝ゥ繝ウ窶ヲ窶ヲ螟峨↑諢丞袖縺倥c縺ェ縺??繧遺?ヲ窶ヲ縺溘□縲√◎縺ョ縲√Ο繝ゥ繝ウ縺ェ繧我ス上s縺ァ繧り憶縺上※窶ヲ窶ヲ窶ヲ窶ヲ縺昴?縲∵怙霑代?∝℡縺丞ッ偵>縺九i窶ヲ窶ヲ縺昴?縲√h縺九▲縺溘i縲√?窶ヲ窶ヲ」


 黒い怪物が次々と醜い音を羅列した。スイは両手で自身の両耳に手を当てつつも思考を巡らせた。


「もしや、これは……悪魔憑き……? いや、悪魔そのもの? だとしたら……でも、お兄さんと偽ユリアにはたぶん人間に見えてるはず……仮にこの偽ユリアが頭がおかしくて黒いぐずぐずと仲間だったとしても、お兄さんなら流石に黒いぐずぐずを化物認定するはず。それをしないということは、お兄さんにはこの黒いぐずぐずが人間っぽく見えてるはず……やっぱり悪魔憑き? うーむ、でも悪魔憑きはこんなヤバいネタバレ防止してこないんだと思うんだよな~。やっぱ悪魔か! スイちゃんも悪魔は見てないからな~。実は人間っぽい見た目なのかもなー」


「えっと……」


 スイが考察する最中、未来の戒が声を漏らし、それに対して白黒の少女がとんとんと突いた。スイはそれを見逃さなかった。


「こらっ! 偽ユリア! こっそりお兄さんとイチャイチャするなっ! スイちゃんが真面目に考察してるんだぞっ! お兄さんもデレデレするなー! スイちゃんが真面目に心配してるんだぞっ!」


「■■■■様、外はどうでしたか?」


「縺昴≧縺ュ窶ヲ窶ヲ縺溘?繧灘ッ偵°縺」縺溘o縲ゅ≠縺ィ縲∝コ??エ縺ョ譁ケ縺瑚ウ代o縺」縺ヲ縺?◆繧上?縲ゆサ頑律縺ッ螳壽悄蟶ゅ□縺」縺溘°縺励i窶ヲ窶ヲ?」


「そういえば今日でしたね!」


 スイが憤る一方で、白黒の少女と黒いぐずぐずが言葉を交わす。


「ぐぬぬ……まあいいか……、でも悪魔のネタバレ防止がこんなにびっくりさせるものだったとはな~。まあ謎は解けた。後は、この場所を調べてから、お兄さんを偽ユリアとネタバレ防止悪魔からパクれば完璧だなっ!」


 うむうむと頷くスイを他所に白黒の少女と黒い怪物の会話は続く。


「縺?s窶ヲ窶ヲ縺昴l縺ィ縲√Ν繝溘■繧?s縲√%繧後?∬イー縺」縺ヲ縺阪◆繧」


「ありがとうございます。■■■■様。では、さっそくお昼の準備に入りますね……! ロランさん、あとはお願いします……!」


 そう言うと、白黒の少女は素早く別の部屋へと向かった。


「だからその『ロラン』って何だっ!」


 スイが立ち去る白黒の少女の方を威嚇した。


「■■■■、お疲れ様。ここは寒いし、暖炉の方はいつも通り、火が入っているから、もう広間に――」

「ロランっ! ロランっ――」


 それは一瞬のことであった。

 戒が黒いぐずぐずに向かって話しかけ、一方で、スイは戒の方へ煽るような言葉を投げかけていた。

 そして、黒いぐずぐずは飛翔した。

 くずくずと体を崩しながらも、多数の醜い触手を伸ばしたその黒い流体がスイへと襲い掛かった。

いつもご評価、お気に入り、感想、いいねなどなどありがとうございます!


皆さまの応援のおかげで、今度は分野別週間ランキング3位に入ることができました!

ありがとうございます! 凄く嬉しいです!


今後も頂いた順位を励みに、更新がんばります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 事態はすぐに興味深い展開を見せました! 作者は最後の10章くらいで本当に頑張った!文体もずっとかっこよくなった。うれし涙がこぼれそうになったよ T.T そうは言っても、黒い怪物とは何で…
[良い点] 更新が速くて嬉しいです! と思ってワクワクで見たら叩き落とされました… [気になる点] えぇ…不意打ち過ぎる… さっきまでほのぼのだったものが辺り一面に転がっていますね… やはりほのぼのは…
[一言] 流石にコズミックホラーすぎてコメントせざるをえませんでした! 後で感想文提出します!
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