表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/248

3章24話 輪投げにチャレンジ!


 それから、ルミに色々と教えてもらったりしながら、三人で市場を歩いて回った。

 ときどき、ルミが必要とするものを買ったりしたが、基本的にはリーシアが興味を示した出店を三人でわらわらと囲むということが多かった。


 そうして荷物が増えていく中……いや、違う。荷物はなぜか増えていない。必要なものや興味のあるものを買うと、すぐにルミが回収してしまうのだ。俺は荷物くらいは持とうとルミに提案するが、ルミは俺の申し出を断り、彼女の小さなポーチに無理やり荷物を突っ込んでいった。どう考えても入りきらないようなものも突っ込んでいく。そしてなぜかポーチの中へと荷物が消えていく。その上、ポーチの見た目の体積は変わらない。明らかにおかしかった。

 俺が気になり質問すると、ルミは「え、えーっと、これは~、その~、頑張って入れてるんです……!」と何かを隠しているような回答が返ってきた。ただ、ルミ自身もポーチの不思議な特性には気付いているのか、荷物を入れる時は常に周りから隠して荷物を入れていた。彼女なりに秘匿しているのだろう。

 これは俺の推測になるが、ルミのポーチは中に入れたものの体積を無視したりするような魔道具なのかもしれない。俺のバックパックは中の重さを減らすような効果があるので、ある意味似ている種類の魔法具だ。まあ、前の世界でもエルゴノミクスリュックみたいなのはあったし、俺のバックパックは科学技術で再現できそうではあるが、一方で、体積の影響を与えるルミのポーチの再現は難しそうだ。

 まさに魔法の道具だ。いや、まあ、魔道具じゃないかもしれないけど……ん? あれ、もしかして、ルミの持ってるポーチってリーシアが作ったのかな? ルミってリーシア関係のことは隠したりするし、そんな気がしてきた。それに魔道具職人っていうのはリーシアの神秘的な雰囲気に合っているような気がする。


 なんとなくリーシアやルミの職業について考えていると、ぐいっと腕を掴まれた。見ると、ルミが俺の手を掴んでいる。わりと力が強い。やっぱりルミは小柄な見た目によらず身体能力が高い気がする。

 ルミと目が合うと、彼女は背後――今まで歩いてきた方を指差した。その方向に少し離れたところにリーシアがぽつんと立っていた。俺が気付かないうちに落伍したようだ。いや、正確には俺とルミが気付かないうちに落伍したのだろう。そしてルミが気付いて慌てて俺の腕を掴んだようだ。

 リーシアは立ち止まったまま、視線を横の方へ向けている。ルミがリーシアの視線の先を指差す。俺もそれを見た。出店があった。どうやら、何かリーシアが興味を持ったようだ。歩いている最中に出店に興味を持ったリーシアが急に立ち止まり落伍したのだろう。ちょっと珍しいパターンだ。

 今まではリーシアは興味を持った時、口で指摘したり、指摘せずともふらふらと出店の方へ近づいていくので、俺とルミはすぐに察して出店を囲うことができた。しかし、今回は無言で立ち止まり、しかも出店には近づかずに距離を取っている。これは珍しいパターン。もしかしたら、出店の店主――太った中年のおじさんが怖いからかもしれない。


「ん? なんだ! 嬢ちゃん、やってくか?」


 店主さんがリーシアの視線に気づいたのか、少し大きめの声で声をかけた。ちょっと怖そうな声だ。店主さんの迫力のありそうな見た目もあってか、リーシアはびくりと震えた。それを見て思わず、俺は動き出した。


「リーシア! どうする? 少しだけやってみる?」


 ルミが手を放してくれたこともあり、すぐにリーシアの隣に駆け寄り、店主さんと対峙する。なんか強そうな店主さんだ。しかし、一方で、店そのものは平和的な感じだ。出店で扱っている商品は――輪投げだった。

 店主さんの近くにはいくつもピンがあり、さらに投擲用の輪もいくつかある。地面には線が引いてあり、そこから投げろという意味だろう。さらに出店には何種類もの商品が掲げられていて、おそらくそれが景品だろう。特に怪しそうな景品はないので、縁日の輪投げ屋さんといった感じだ。リーシアは輪投げをやりたかったのだろうか?


「え……ロラン――」


「お? なんだ、連れもいんのか! おう! 兄ちゃん、やってくか? 彼女にいいとこみせるチャンスだよ」


 リーシアの弱い声が店主さんの強い声にかき消される。どうも、リーシアから俺にターゲットが移ったようだ。

 うーん、どうしよう。リーシアはこれをやりたかったのなら、リーシアにやってもらうのが良いと思うが、もしかしたら、リーシアはただぼけーっと景色を眺めていて店主さん目が合ってしまったという可能性も僅かにある。後者なら俺が適当に遊んで、安全に離脱したいところだ。


「ん、あー、そうですね」


 ちらりとリーシアを見る。リーシアはじっと一点を見つめていた。いや、そういえば、リーシアはずっと同じ方を見ている気がする。気になり彼女の視線を追う。出店の中にいる店主さん、ではなく、出店の中にある小さな檻を見ている。檻の中には小さな生き物がいた。あれは……兎か……? 兎だ。リーシアはずっとこれを見つめていたのだ。

 兎の入った檻には30点と札が付けられていた。つまり景品だ。なるほど。そうか。リーシアはあの兎が気になっていたのか。輪投げをやりたいというより、兎が欲しいというのがリーシアの望みだろう。

 30点ってどのくらいの難易度だろうか。他の景品についている札をざっと見る。1点、3点、5点、10点、15点……あれ、30点が一番高い。ということは、あの兎が最上位景品か……?

 うーん、俺は身体能力が高いわけではないので、難しいかもしれないが……


「そうですね。やってみます。一回いくらですか?」


 たぶんリーシアがやるよりはいいだろう。今までの言動からしてリーシアは身体能力が高いとは思えないし、それに失敗したらショックを受けそうだ。ここは俺がやるべきだろう。

 あ、いや、待て。身体能力で決めるならルミがやった方がいいのでは? 俺は慌ててルミの方を見る。彼女はずっと無言を貫いていたが、はたして……ルミは両方の拳を握り、俺の方に『でかした!』とばかりに視線を送っていた。うん、どうやら、俺がやるべき状況のようだ。


「よしきた。一回銅貨五枚だ。銅貨五枚で三回投げれる。輪をピンに投げ入れれば得点だ。一番手前の行の輪なら1点、真ん中の行の輪なら5点、一番奥の行は10点だ。あ、そこの線より外側から投げろよ。線超えて投げたら入れても0点だからな。あと、大事なことだけど、同じピンに入れるのは無しだ。一度輪が入ったピンをもう一回狙うなってことな。分かったか?」


「わかりました。銅貨五枚です」


 銅貨を店主さんに渡し、代わりに輪を三つ受け取る。

 よし、あとは精神集中して投げるのみ……目標は30点。一番奥の行が10点で、輪は三つ…………いや、これは一番難しい行に全部入れないと駄目なやつじゃん。しかも一番奥の行は三つしかピンがないので、同じところがダメなルールを合わせると難易度が高い。その上、どれも微妙に傾いたりしてて入りにくそうだ。これ、兎回収するの、無理では……?

 リーシアの方をちらりと見る。リーシアは檻の中の兎と俺を交互に見ながら心配そうな顔をした。


 やるしかない……!


 集中、集中、集中……!

 考えられる限りの最高の投げ方を……!

 よし……!

 一射!

 二射!

 三射!

 おお!!!

 俺は驚くべき結果を見た。そして、すぐに店主さんの方をじっと見る。


「あー、兄ちゃん、残念だけど、1点だな」


 俺の投げた輪は一番奥のピンからだいぶ離れたところに一つ、中間のピンから少し外れたところに一つ、そして最前列のピンにはしっかりと入っていた。

 最初の一撃で一番奥のピンに入れることが不可能だと分かった。日和った俺は中間のピンに狙いを定め、それすら失敗して、さすがに0点は恥ずかしいという謎のプライドを抱き、最前列に狙いを定めた。幸いにして最後の作戦は功をなすが、よくよく考えなくても、1点じゃどうしようもなかった。30点など夢のまた夢だ。


「1点は、こっからここの景品から好きなやつを1個持ってってくれ」


「あ、はい」


 俺は少し落ち込みながらも、1点のものから景品を選ぶ。ちらりと30点の小さな檻を見る。兎がこっちを見ていた。絶対に気のせいだと思うが、兎が残念そうな表情をしているように見えた。


「あの、これって、もう一回銅貨五枚払えば輪を三つ貰えますか?」


「ん? いいぞ」


「じゃあ、今ある1点を使わないでおいて、次のゲームで獲得した点に足すのはアリですか……?」


 ゾンビ戦術だ。今1点取ったし、理論上30回ゲームをすれば兎を回収できるはずだ。銅貨百五十枚と兎をトレードしようという話だ。


「それは駄目だ。景品は選ぶまでは次はできない。景品を選び終わったら、もう一回やっていい。勿論、その時は0点からだ」


 はい。

 まあ、それはそうだよな……

 うーん、でもこれ難しすぎるから、どう考えても1ゲーム中に30点を獲得するのは無理そうだし……まあ、とりあえず景品を貰うか。


「じゃあ、えっと、リーシア、1点のやつだけど、何か欲しいものとかあったりする……?」


 質問をしながら恐る恐るリーシアの方を見る。

 リーシアは物欲しそうに兎を見ていた。ぐぅ。


「……ううん、私はいいわ。ルミちゃんは?」


「それなら、このハーブの小瓶をいいですか? 普段はあまり使わない調味料なんですけど、ちょっと使ってみたくて……」


「じゃあ、それで。これにします」


 前半はルミに後半は店主さんに告げる。


「おう、持ってっていいぞ。もう一回やるか?」


 店主さんの言葉を聞き、今一度、最奥のピンを見る。うむ。無理だな。

 そして、ちらりとリーシアの方を見る。心なしか寂しそうに見える。

 仕方がない。この手は使いたくなかったが……! やるか……!


「えっと、その前に……景品を直接買うのは駄目ですか? たとえば、あの兎。30点は自分にはとても難しそうなので……もしできれば、直接買いたいんですけど……勿論、その分手数料は払います。金貨三枚でどうですか?」


 禁じ手、『金貨で殴る!』だ……! 正直金貨三枚を切る場面ではない気もするが、いや、俺にはホフナーマネーがある。逃走用に大事な資金ではあるが、仕方がない。


「あー、兄ちゃん。彼女の前でかっこつけたいのは分かるが……そういうのはナシだ。景品は、達成者への報酬だ。ここでの達成は輪をピンに入れる事だ。だから、金を積むのは無しだ。あとついでに言うと、この兎は俺は金貨五枚で買ったから、取引になってないぞ」


 え。この兎、金貨五枚もするの……! 高い……! 正直三枚ですら、かなり奮発した値段だったのに。これはもうペットの値段じゃないだろ。いや、俺が知らないだけで、ペットの値段ってこんなもんなのか……?


「それはすみません。ちょっと相場を知らなくて……ああ、でも金貨六枚って言っても駄目なんですよね」


「駄目だ。さっきも言ったが、ここは金を積む場所じゃない。輪を投げる場所だ」


 店主さんは鋭い目で俺を見た。強い意志を感じる。こだわりのようなものがあるのだろう。説得は難しいみたいだ。 

 すまない、リーシア……俺には無理だ。

 ん?

 俺には……?

 はっ――! 閃いた! いや、というか、閃く以前の問題だ。こんなの得意そうな人にやってもらえばいいじゃん。俺はルミの方を見た。

 ルミはきょとんとした顔で俺を見返した。ルミ先生、お願いします……! 貴女の器用さと見た目に反する力の強さを持ってすれば、俺よりも遥かに偉大な戦果を得ることができるでしょう……!


「ルミ、どうやら――」

「――私もやってみていいかしら……」


 俺がルミに頼むよりも早くリーシアが店主さんに話しかけた。


「ん? やってみるか。嬢ちゃん」


 リーシアはこくりと小さく頷いた。


「そうか。兄ちゃん、銅貨五枚」


 店主さんが俺に徴収しに来た。正直、リーシアには難しいと思うので、ここは効率重視でルミにやって貰った方がいいが……いや、リーシアがやってみたいと思っているならば、その気持ちを尊重するべきか。俺は銅貨五枚を差し出した。


「よし、じゃあ、嬢ちゃん、この輪を、さっき兄ちゃんがやったみたいに投げろ。その線から後ろな。あと、結構難しいから慎重にな。さっき兄ちゃんは1点取ったけど、これ0点のやつも多いから。駄目でも凹むなよ」


 店主さんのアドバイスを受けてリーシアは無言で頷いた。喋らないな……緊張してるのかも。いや、店主さんが怖そうな見た目だから喋りにくいのかもしれない。まあ、話した感じ、怖そうなのは見た目だけで、良い人っぽいけど。

 リーシアが線の外側に立った。

 そして、たいした構えもせずに、まるでぼんやりと、端から見ると狙いもつけずに投げた。

 いや、狙いどころではない。一射、二射、三射と、次々と輪を投げてしまった。あまりに間隔が短すぎる。狙う暇すらない。というか、あのぼんやりしたようなモーションでよく高速三連射できたな。

 ああ、いや、感心している場合じゃない。リーシアは一瞬で銅貨五枚を溶かしてしまったのだから。別に0点でも全然良いのだけど、もう少し気迫というか、やる気を持って取り組んで欲しいのだが……


「――は?」


 まあ、終わったものはしょうがない、とりあえずルミに頼むかと思っていると、驚きに満ちた音が耳に入った。なんだろうと思いその方角を見る。店主さんが驚愕の顔でピンがある方を見ている。ふむ、と思い、店主さんの視線の先を追う。一番奥の三つある10点のピン。それぞれのピンに輪がしっかりと入っていた。


「え?」


 俺も店主さんと同じような音を漏らしてしまう。


「嘘だろ。いや、これは、入ってるな。三つとも。いや、いや、こんなの初めてだ。どうなってんだ? いや、まあ、成功には違いないな。嬢ちゃん、30点だ。好きなやつを30点分まで持ってっていいぞ」


 店主さんは驚きを隠しきれないまま、リーシアへと言葉をかけた。

 リーシアはこくりと頷くと、一直線に兎が入った檻を手に取った。やはりお目当てはそれだったようだ。

 目的は達成だが…………まさかリーシアがこんなに器用だったとは。凄まじい投擲精度だ。信じられない。これはいったい……? いや、待てよ。リーシアは元々職人のようだし手先がかなり器用なのだろう。その器用さから放たれる輪の精度が高いのは、ありえない話ではないのかもしれない。

 たとえとして適切でないかもしれないが、野球のコントロールが良いピッチャーみたいなものだろうか? 輪だし、野球選手ほど筋力も必要ないはずだ。まあ、その分、ピッチャー以上の器用さが要求されると思うが……リーシアが精巧なもの、たとえば精巧な魔道具を作る職人ならばありえるかもしれない。


「やっぱり兎か。ああ、嬢ちゃん、檻ごと持って行っていいぞ」


 リーシアは頷くと、檻を抱えた。中にいる兎が嬉しそうに小さく跳ねた。


「兄ちゃん、お前の彼女、有り得ない程上手いな。俺はこんなに上手い嬢ちゃんは見たことがない。ずっとヒストガでこの商売やってるけど、今までで一番点数を取れたやつでも20点が最高だ。30点取ったやつなんて初めてだ」


 まだ少し驚きを隠せていない店主さんが俺に話しかけてきた。


「自分も驚いてます。あ、というより、30点って初めてなんですね」


 ということは、この兎は実質非売品みたいな感じだったのか。


「だいぶ難しく作ったからな。いつか30点取るやつが現れるとは思ってたけど、まさかこんな嬢ちゃんが取ってくとはな。しかもあんな投げ方で……お前の彼女、何かやってんのか?」


 正直、俺もリーシアが何をやってるのかはよく知らないが……推測だと、精巧な魔道具職人だと思ってるが、それを言うのは少し違う気がするし。


「いや、まあ、ほどほどに色々やってるみたいで」


「そうか。まあ言いたくないならそれでいいが、……あんまり落ち込むなよ」


 ん……?


「兄ちゃんが1点で、嬢ちゃんが30点だから、ショック受けるかもしれないが、これ結構難しいから、1点取れるだけでも兄ちゃんは上手い方だぞ」


 どうやら、慰めてくれたようだ。俺は特にリーシア以下の技量であることを悲しんでいたわけではないが、善意からのものっぽいのでありがたく受け取っておこう。


「それは、ありがとうございます。今度、知り合いに会ったら輪投げ入れたって自慢しときます」


「おう! 自慢しとけ。俺の輪投げは難しいからな! ついでに客も呼んどいてくれ。春頃まではテチュカにいるからな」


 それから二三言葉を交わして輪投げ屋をあとにした。銅貨10枚で高級兎一匹とハーブの小瓶一つを手に入れたのであった。

 ……これだけ抽出すると、まるで兎鍋でもするのかと思ってしまう。勿論、リーシアがそんなことを絶対に許さないだろうし、檻の中でちらちらと見える小柄な兎の可愛さを思えば、俺も『兎鍋にしよう』などとは決して言えないのだが。

 




 輪投げ屋の後は市場から離れてほぼほぼ一直線にリーシア屋敷へ帰還した。

 これには理由があって、リーシアが早く兎と触れ合いたそうにしていたからだ。市場にいる最中、彼女は何度もうずうずと小さな檻を開けたそうにしていた。しかし、ルミが何度も説得することにより市場で開封するのは堪えたようだった。


 屋敷の玄関に入ると、リーシアはいそいそと檻を抱えて暖炉がある広間へと早足に向かった。俺とルミもリーシアの後を追い広間へと入る。広間の中では、ちょうどリーシアが檻を開けたところだった。開かれた檻から勢いよく小柄な兎が飛び出した。そして、嬉しそうに跳ねながらリーシアの肩へとよじ登る。肩にたどり着くと、そのまま、ぺたりと動きを止めた。リーシアは優しく微笑むと、兎をゆっくりと撫で始めた。撫でられた兎は嬉しそうに体を震わせた。

 檻の中にいたときは、何となく可愛い感じに見えたが、改めて見ると結構特徴的な見た目をしている。小柄で綺麗な毛皮をしていて、つぶらな瞳、そして何より特徴的な垂れ耳を持っている。恐らくだが、元の世界でいうと、ホーランドロップとかに近い気がする。

 リーシアは数十秒ほど兎を撫でると、片手を兎の前に差し出した。兎はぴょんとリーシアの肩から片手に飛び乗った。リーシアはソファーに座ると、両手を使い兎をゆっくりと兎を自身の胸元に抱き寄せた。


「うふふ」


 リーシアは兎と触れ合えてご満悦のようだ。ただ、兎と触れ合っているだけなのに、ちょっと色っぽく見えてしまう。今日のリーシアは不思議とそんな風に見える。

 何でだろう。いや、これはどちらかというと俺の認識の問題か。今日のリーシアは何というか、偶に、本当に偶にだが、リュドミラっぽく見えるのだ。勿論、そう見えるのは一瞬で、たぶん笑う時が、ほんの少しだけ似ている時があるのだ。それでリュドミラのことになると頭がおかしくなる俺は、色っぽいと誤認してしまうのだろう。

 なお、この日は一日、リーシアは兎と触れ合っていた。兎もリーシアにとてもよく懐いていた。俺も少し触ってみたかったが、リーシアのご満悦タイムを邪魔するのも悪い気がしたので、黙って見るだけにしておいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ということで、今では 1 つの部屋に 3 匹の非常にかわいい生き物がいます (主人公は傍らにいますが……) リシアはマジック、チェス、ストールゲームで勝利しました。3-0です このゲー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ