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3章22話 『ヘルミーネの慈悲』


 簡易的に作られた野外ベンチにリーシアとともに座り、『ヘルミーネの慈悲』を鑑賞する。

 人気な題材なのか、カテナ教の影響力が強いのか、それとも単に演劇というジャンルが人を惹くのか、多数ある野外ベンチは全て満席だ。

 周りの観客たちの中には、出店で入手した酒や食べ物を手に持つ者もいた。この簡易劇場の近くの出店は飲食物を扱っているものが多かったので、納得だ。

 隣にいるリーシアは少しぼんやりとしながらも舞台へと視線を向けている。この感じは、まあまあ集中している感じだろう。予想外の流れで鑑賞することになってしまったが、少しはリーシアに楽しいと思って貰えれば上出来だ。あ、いや、俺もリーシアのこと見てないで、演劇の内容に集中しよう。一応、ルミが気を遣ってくれたみたいなものなのだし……


 えーっと内容としては、カテナ教の聖女の『ヘルミーネ』という人が主人公で、この人の活躍を追っていく感じのストーリーだ。『ヘルミーネ』は『聖女リリアナ』の弟子であり、特に『癒し』の術に優れていた人物のようだ。『癒し』の力で多くの人の怪我や病を治していく、優しい感じの流れだ。

 ちなみに悪魔憑きは出てこない。俺は最初、カテナ教の演劇だから、悪い悪魔が出て来てそれを『ヘルミーネ』がぶっ殺していくみたいな殺伐としたストーリーを想像したが、そういった内容ではないようだ。少しだけ安心といった感じだ。たとえ演劇でも、自分と似た特徴を持った人物がぽんぽん死んでいくのを見るのは苦しくなりそうだからだ。

 ああ、それと、もし、ぽんぽん悪魔憑きを殺していく内容だと心優しいリーシアが傷付いてしまうと思うので、そういう意味でも、ハートフルなストーリーは助かる感じだ。

 まあ、よくよく考えたら、悪魔憑きは秘密の存在みたいなところがあるみたいなので、こういった大衆演劇の内容に入れなかっただけかもしれないが。つまり、史実の『ヘルミーネ』は……あ、いや、そもそも『ヘルミーネ』って実在の人なんだろうか? 架空の人ってこともあるよな…………うーん、でもまあとりあえず実在の人と仮定するか。話を戻すが、史実の『ヘルミーネ』も、悪魔憑きをぽんぽん殺している可能性もあるな。というか、俺の記憶違いでなければ、リュドミラがそんな感じのことを言っていたような、言っていなかったような……いや、まあリュドミラが言及した『ヘルミーネ』と、目の前の劇のモデルとなった『ヘルミーネ』は違う人かもしれないけど。


 あ、ちょうど今、劇中で『聖女リリアナ』が死んだ。聖女って死んだりするんだ……演劇の雰囲気的に病死みたいな感じか? ああ、いや老衰かな? 病気だと癒せばいいんだから、寿命とかだろう。んで、弟子の『ヘルミーネ』がなんか冠みたいなものを貰ったみたいだ。これは雰囲気的に『聖女リリアナ』が所持していたものを継承した感じかな? 結構省略されているような台詞やシーンが多くて、いまいち内容を掴めない。たぶん、基本となる宗教的知識が俺には欠けているんだろうな。

 ……ん? あれ? でも、ヒストガ王国って南部以外はカテナ教の影響力が低いから、テチュカのようなヒストガ王国中部の都市だと信者じゃない人も多いんじゃないだろうか。つまり、この劇の演出だと、内容を掴めてない人も多いんじゃ……? ちらりと周りを見る。うーん、結構皆真面目に見てる…………全員信者なのかな……? まあ、わざわざカテナ教の演劇を見に来るのだから、数少ない信者がここに集まったって可能性もあるか……? あ、でも、それはそれで変か。この簡易劇場は定期市が開かれる広場の中央部に位置している。つまりかなり良い位置だ。色々な人が行き来しているのだから、きっと普通の人も足を止めるはずで……というか、そもそも、影響力が強くない宗教なのに、定期市の中心部を陣取れるなんて凄いな……カテナ教恐るべし。


 ああ、余計なことを考えて、どんどん頭の中で思考が脱線していく。とりあえず劇に視点を戻そう。謎の冠を師匠から継承したと思われる『ヘルミーネ』は以後それを被り、医療活動に従事した。師匠が亡くなっても、めげずに人々を癒す姿は立派そのものだろう。

 あ、ちょっと、どうでも良い情報だけど、『ヘルミーネ』役の女の子可愛いな……実際の『ヘルミーネ』も可愛かったのかな? 聖女だからな……別に顔面は関係ないか。一瞬、俺が今まで見た聖女の見た目の平均と標準偏差を取れば概ね予想できるのではないかと、とち狂った事を考えたが、よくよく考えなくても俺の知る聖女はリュドミラただ一人なので、平均もなにもないことに気付いた。あとリュドミラは尋常でなく可愛い。つまりこの時点で比較の話は意味がない。恐らくリュドミラは例外的存在だからだ。まあ、聖女全員がリュドミラクラスという可能性もゼロではないが……聖女はそもそも聖導師の延長だから、聖導師の平均を取るという手があるか。俺の知る聖導師は三人。ユリア、スイ、リュドミラだ。あ、結構平均出せそうだな。

 あれ、でも全員可愛いぞ……というか、俺はある程度可愛い以上の存在を定量的に分析する能力に欠けるから、『平均』とか『標準偏差』なんていう概念を使うのは難しい気がしてきた。まあ、色々としょうもない事を考えたが、聖導師は可愛いという結論を導くことができたな。つまり『ヘルミーネ』もたぶん可愛い。いや、確信はないけど。あれ? でもそうすると、今、舞台で『ヘルミーネ』役をやってる女の子は可愛いから、聖導師という可能性も……? あ、いや、さすがにそんなことはないか、聖導師は本来珍しい存在だし、ぽこじゃか現れたりしないだろう。たぶん『ヘルミーネ』役の子は、信者とか、聖職者の親族とかだろう。そうであってくれ……!


 ああ、ああ、ああ、また余計なことを考えてしまった。いや、言い訳になるけど、ちょっとこの演劇は中身が単調なのだ。『ヘルミーネ』は良い人です、というのが永遠に続く感じだ。

 それでいて、時々、解釈に微妙に困るシーンがあったりするのだ。どう読み取るんだ? みたいな。

 例えばだが、亡き師匠『リリアナ』だけど、この人あんまり出番ないから、そもそもいる意味がよく分からないというか。そして継承した冠の方も謎だ。特に意味はない。一応継承後、『ヘルミーネ』役の子が常に頭の上に乗っけているが、それだけだ。そこに意味が無さそうなのだ。まあ、俺が気付いていないだけで、なにか伏線があって、最後に回収されるという可能性もあるが、現状では、『ヘルミーネ』役の子が動く時に落ちたりしないか心配になる程度の要素しかない。


 あ、なんか、もう終盤臭いぞ。『ヘルミーネ』がなんか偉い人に掛け合って『治療院』と呼ばれるものを作るようだ。えっと、これは、あれかな? カテナ教の聖堂に併設されている『治療院』の原型は『ヘルミーネ』が作ったよーっていう流れかな。珍しく俺でも分かるネタがきた。

 へ~、あれって『ヘルミーネ』が作ったんだ。なるほど、確かに立派な人な感じがするな。この劇で何度も『良い人』だとアピールされるのも分かるような気がする。

 お、治療院できた。早いな……あ、終わった。最後は駆け足だったな……まあ、物語ってそういうものか。


 うん、どうやら、『自分一人でも傷や病を癒せる人が、さらに多くの人を治療できるように、治療院という施設を作った』っていうのがこの物語のストーリーだったようだ。

 なるほど。単純明快だ。ひたすら『癒し』を使っていたヘルミーネだが、それでも癒す対象が多すぎて、癒す側を増やすために『治療院』を作った。ああ、あとまあ、『ヘルミーネ』にも寿命があるだろうから、自分の死後も人を癒し続ける機構が欲しかったのかもしれないな。

 まあ、劇ではヘルミーネの死までやってないし、これだけ『癒し』ができるなら、案外まだ生きてるって可能性もゼロではないか? いや、さすがに死んでるか。何年前の人か分からないけど、かなり前の人みたいだし。それにもし、寿命を伸ばせるなら、師匠を老衰で死なせてはいないだろう。


 個人的な感想を言うと、普通の良い話なんだと思う。師匠が途中で死んじゃったりしたけど、まあハッピーエンドみたいな終わり方だし、『ヘルミーネ』は常に良い人として描かれていたから、不快になる要素はないと思う。良い人が毎日頑張って、みんなそれで助かって、最後に未来のために凄く良いことをするみたいな話だ。うん、良い話だな。

 あ、余談になるが、『ヘルミーネ』が継承した冠は最後まで特に意味がなかった。ずっと頭の上に乗っかってただけだ。まあ、こういうこともあるだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] スイちゃんが一番かわいい。競争はない 王冠はおそらく聖遺物である 脇役(悪魔になった聖女、悪魔憑きの人を拷問した聖女、ユリアの師匠など)の名前がだんだん忘れてきてます…。
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