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3章21話 定期市へ行ってみよう!


 結論から言うと、勝負は普通に負けた。

 どうしてか、勝てないのだ。

 何でだろう……?

 圧倒的に負けているわけではないのだ。いつもギリギリで負けるのだ。今回もそうだ。俺は少しは成長しているはずなのだが……? うーん、リーシアも俺と同じ成長速度で上達しているのか? 故に俺とリーシアの力量差が常に同じとか……?

 不思議な気分を味わいながらも感想戦を行った後、昼飯となった。

 相変わらずの美味しさに一通り喜んだ後、ゆっくりとハーブティーを飲んでいるリーシアにルミが声をかけた。


「リーシア様、せっかくですから定期市の方を見に行こうと思います。リーシア様は何か欲しいものはありますか?」


「欲しいもの…………」


 呟きながら、リーシアはこちらをじっと見た。

 な、なんだろう。俺だったり……?


「…………うん。ロラン、ちょっといいかしら」


「どうしたの? リーシア」


「えっとね……ルミちゃんと一緒に……三人で定期市に行きたいって思ったの。どうかしら?」


 なるほど。定期市か。少し興味があるが、朝の寒さを思い出すと、少々気が引けるな。あ、いや、でも、リーシアが一緒に行きたいようなら行くべきか。


「いいね。一緒に行こうか……あ、でも、ルミは大丈夫? 一緒に行っても大丈夫?」


「はい! 勿論です! 三人で行きましょう……!」


「三人でお出かけなんで初めてね……」


 リーシアは儚げながらも嬉しそうに微笑んだ。

 それから三人で準備を済ませて屋敷を出た。

 屋敷の外は朝と同じで非常に寒かった。本当に雪が降ってもおかしくない寒さだ。まあ、先ほどまで広間の暖炉で温まっていたから余計寒く感じているだけかもしれないが。


 道中、三人で横並びになり進んでいった。何度かリーシア寂しそうに、自身の手と手袋に覆われたこちらの手を、交互に見ていたことに、俺は気付いた。なんとなくその意味を察したが、勇気がない俺は気付いていないふりをして自分から声をかけることはしなかった。

 貴族街を少しすると、活気がある声が進行方向から聞こえてきた。さらに少し歩くと、多くの人で賑わう空間――定期市が開かれている広場にたどり着いた。活気の他にも熱気のようなものを感じる。寒さに負けじと、出店者や行き交う人たちが熱を発しているのかもしれない。


「今日も賑わってますね!」


 市場の入口近くで、ルミがにこやかな笑みを向けてきた。


「……そうね。ちょっとびっくりしちゃうけど……でも、たまにはこういう所に来るのもいいわね……」


 そう言ってリーシアはちらりとこちらを見た。


「そうだね。俺も寒い日は籠っちゃうタイプだけど、こういう賑わうところも良いよね」


 俺が同意の言葉を返すと、リーシアは少しだけ安心したような顔になった。そして、そんな俺たちをルミがにやにやとした笑みで見ていた。その笑みを見ると何だか気まずくなってしまい、急いで新しい話題を考える。


「それじゃあ、どういう風に回る? 結構広いよね。お店がたぶん複数の列みたいな感じで並んでるのかな? うーん、先の方が曲がってたりして複雑だ……あ、えっと、ルミは何か買いたいものがあるんだっけ?」


 とりあえず、行動計画について尋ねることにする。


「私はいくつか買いたいものがありますけど、それは後でも大丈夫です! それより、リーシア様やロランさんは何か見たい物とかありますか? 色々あるみたいですよ!」


「見たい物……うーん、なんだろう……」


 特に思いつかないが……魔道具の掘り出し物とかかな? 対ユリアは流石に望めないかもしれないが、それでも何か便利なものがあるかもしれない。


「私は、今は欲しいものは無いけど…………ロランとルミちゃんと一緒に、いろいろ見て回りたいわ」


「わかりました! いろいろ見ていきましょう!」


 にこにこと元気よくルミが歩き出し、俺とリーシアもそれに続く。

 そうして、しばらくの間、出店を見て回った。途中、ルミが出店で扱っているものを説明してくれた。なるほどな、と思い聞いていると、リーシアもあまりテチュカの市場に詳しくないのか、ルミの言葉に耳を傾けていた。三人で話しながら歩いていると、市場の奥深く――広場の中央付近に至った時、人だかりができていることに気付いた。見ると、出店で囲まれた中に少し開けた空間があり、そこに人が集まっている。集まりの中心には舞台のようなものができている。劇でもやっているのだろうか?

 俺とリーシアがぼけーっとそれを眺めているとルミが素早く人だかりの方へ向かい、少しだけ彼らと言葉を躱すと、こちらに戻って来た。行動が早い。


「カテナ教の聖史劇みたいです。見ていきますか?」


 ルミが俺とリーシアに問いかけた。

 ふむ。ちらりとリーシアの方を見る。リーシアもこちらをちらりと見たためか、目が合った。何となく恥ずかしくなり、視線を外す。

 うーん、どうするか。リーシアがこっちをチラ見したということは、この劇を見ていきたいといことだろうか。うーん。あんまりカテナ教とは関わりたくないけど……まあ、劇くらいならいいか。精々、信徒が数人いるくらいだろうし…………聖導師とかいないよな……? いや、まあ、聖導師は貴重だし、そもそもこの街にはいないと思う。というか、情報収集した感じ、この街にはいない。それどころか、ヒストガ王国全体でも、聖導師かなり珍しいみたいだ。


「あ、でも、ロランさんは好きじゃないんでしたっけ」


 悩んでいる俺から何かを察したのかルミが言葉を発した。

 好きじゃないというか、俺の生存のために距離を置いているというか……まあ、大丈夫だと思うし、リーシアが見たいようなら合わせるか……?


「いや、まあそこまで嫌いというわけじゃないけど……」


 俺が答えると、ルミはすぐにリーシアの方を見た。何となくだが、隣にいるリーシアが頷いたように俺には感じられた。


「それなら、見ていきましょう……!」


 ルミは気合の入ったような表情で俺を見た。

 最近時々見る表情だ。主にリーシアまわりで発揮される表情であり、これが発生した時のルミの言葉を断るのは少し難しい。


「……そうだね。見ていこっか。ええっと、これはもうすぐ開演するのかな?」


「そうみたいです。カテナ教の聖史劇は色々種類があって面白いですよ……! これは、確か……あ、さっき聞きそびれちゃいました。聞いてきますね!」


 ルミは、てへへと笑い再び人だかりの方に向かうが、それよりも先に俺は遠くの看板に気付くことができた。


「あ、いや、ルミ、なんか遠くに書いてあるみたい。ええっと、題目は『ヘルミーネの慈悲』かな……?」


 遠くで見えにくいので、自信がないが、たぶん『ヘルミーネの慈悲』というタイトルだ。ヘルミーネ……何度か聞いた名前だ。確か、カテナ教の聖女だったか……?


「え……」


 リーシアが困惑したような音を出した。

 それを不思議に思いリーシアを見る。リーシアは心配したようにルミの方へ視線を向けていた。視線の先のルミを見る。なんだ……? 上手く表現できない。ルミは複雑そうな表情を浮かべていた。


「…………ロランさんが大丈夫ならリーシア様と二人でどうですか?」


 リーシアの視線には応えず、ルミの方へ提案する。状況がよく読めない。


「え、でも――」

「――私は買い出しの方をやっておきますから……! 二人で楽しんじゃってください!」


 最後まで言葉を言い切る前にルミが動き出した。しかも、ちょうど複数人が近くを移動し、ルミはそれを縫うように動き、気付いた時には、視界から消えてしまった。人ごみを抜けるのが上手い。俺のいた世界の都会でもやっていけそうな回避力だ。


「いっちゃったわ……」


 リーシアが少し寂しそうに呟いた。


「いっちゃったね……えっと、どうしよっか、ルミの後を追う? それとも、見ていく……?」


 いまいち判断に迷う。ルミの言葉に従ってリーシアと聖史劇を見ていくべきか、それとも少し不審なルミを追うべきか。うーん、感情的には追った方が良いきがするが、直観的には追わない方が良い気がする。追う方が道徳的だが、追うことをルミは嫌うだろうし、たぶん追うことによりプラスなことはほとんどない。


「どうかしら…………ルミちゃんとロランと一緒に回りたかったけど…………ルミちゃんはこの劇が好きじゃないと思うから…………」


「好きじゃない……なるほど。それなら追いかけた方がいいかな? ああ、でも、ルミは素早いから、追っても追いつけないかな。ここで待つのも一応選択肢としてはある……?」


 俺とリーシアの鈍行組だと追いつけないだろう。いや、逆に一周遅れで追いつけたりするかもしれないけど。まあ、合流を考えると、ルミが動き、俺とリーシアがここで止まっているのが良い気がする。ルミの行先を俺は知らないが、俺とリーシアがここに留まる限り、ルミは俺とリーシアの居場所を知っていることになるのだから。


「…………うん、追いつけないと思うわ。そうね……ここでルミちゃんを待った方がいいかもしれないわね……少し寂しいけど……ロラン、一緒に見る……?」


 不安そうにリーシアが問いかけた。


「じゃあ、見ようか」


 そんなわけで、リーシアとカテナ教の聖史劇『ヘルミーネの慈悲』を見ることになった。

 ちょっと予想外の流れがあったが、せっかくなので、楽しむことにしよう。

 演劇とか、あまり見ないので、少しだけわくわくするな……

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― 新着の感想 ―
[良い点] リシアが僅差で勝利した理由には2つの説がある。1つは彼女が主人公を翻弄できるほど優秀であるということ。もう1つは彼女は彼の心を読むことができるので、彼女も彼と同程度にしか優秀ではないという…
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