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3章16話 ほのぼのボードゲーム

 相変わらず非常に美味しいルミの手料理を食べ終えた後は、いつものように食後のハーブティーを三人で飲んだ。今は暖炉の近くのソファーでまったりとしている。俺とルミはハーブティーを飲み終えたが、リーシアはまだゆっくりとハーブティーを楽しんでいた。

 ちなみに最近分かったことだが、以前リーシアが言っていたことは本当だった。つまり、リーシアは食事をゆっくり楽しむタイプだということだ。初めてルミの料理を食べた時は、なんとなく食べるのが早く見えたが、あれは、当時リーシアが言っていたように久しぶりの美味しい手料理で手が早くなってしまったのだろう。


 リーシアはハーブティーを飲み終わると、いそいそとカードの束を広げ始めた。先程説明を受けて動物繁栄ゲームをさっそく遊ぶつもりのようだ。


「あ! リーシア様、今日は三人でやりますか?」


「そうしようと思ってるわ」


「それならロランさんにルールを教えないといけませんね!」


「大丈夫よ。さっき説明したもの」


 リーシアが得意げな顔をした。上手く説明できたと思っているようだ。少々異論があるが、黙っておこう。


「それなら大丈夫ですね」


 にこにことリーシアを見るルミに動物カードが三枚配られる。そして同じ数だけ俺もリーシアからカードを受け取り、最後にリーシアは自分の分の動物の山札からカードを引いた。これがこのゲームのセッティングだ。各プレイヤーは三枚の動物カードを貰える。そして、さらに、住処のカードを一枚貰えるのだが……ここで、このゲームの少し複雑なルールが現れる。


「並び順はどうしようかしら……? …………私が真ん中でもいい……?」


 リーシアが俺とルミに問いかけた。

 そう、このゲームはプレイヤーが一列に並んで行うゲームだ。そして並び順が戦略にも関わってくる。


「初めてだからなんとも……でも、三人でやるなら真ん中の人が一番難しそうだから、俺は避けたいかも……」


「私はリーシア様が真ん中でいいと思います。ロランさんは暖炉側に行ってください。私はこっち側に座りますね……!」


 ルミは謎のアイコンタクトをリーシアに送ると、ソファーの座る位置を変えた。元々、ルミはリーシアと同じソファーに座っていたが、その距離を一気に詰めたのだ。ちなみに俺は今リーシアの対面のソファーに座っている。俺から見た位置関係を並べると、暖炉、ソファーの端、一人分の空き、リーシア、今移動したルミ、二人分の空き、ソファーの端だ。五人くらい座れる大きなソファーだから本来は三人座ってもスペースに余裕があり、三人の間にそれぞれ一人分の空きができるはずなのだが、リーシアのポジションとルミの行動のより、俺が座る予定の場所はリーシアと接する真横になる。

 ふむ……

 ……

 少し悩んだが、俺は大人しく指示通りにルミと反対側のリーシアの隣に座る。右側からは暖炉の温度を、左側から人の温度を感じた。左側から感じる温度は、普通の人の温度よりも高いように感じられた。チラリとリーシアを見る。彼女の頬はいつも以上に赤かった。


「あ、あのね……ロラン、これは、こういうルールなの……だから、仕方ないの……」


 緊張しながらリーシアが声を漏らす。


「うん、えっと、そうだね。ええっと、確か、端の人から住処のカードを引いて、次の人はサイコロを振ってから住処のカードを引くんだよね?」


「……そうよ。ルミちゃん、住処のカードを引いてちょうだい」


「はい! リーシア様。引きました……! 『上が山地の森林』です!」


「『森林』ね……それじゃあ、サイコロを振るわね……いつも、この瞬間がどきどきするわ…………、あら……? でも、いつも以上に手が震えるわね……」


 そう言ってリーシアが振ったサイコロは3の目が出た。


「ルミちゃんとの距離は三つね……良い距離ね。ルミちゃんが『森林』なら、私の住処は『草原』か『森林』が良いわね…………」


 そしてリーシアは住処の山札から一枚カードを引く。それを表にして、リーシアの手が止まった。そして困ったような顔をした。


「どうしよう……『洞窟』が出たわ…………あ、でも、左側は森ね……」


 そしてルミの前にある『森林』のカードから距離を置いて『洞窟』のカードを置いた。二つのカードの間には三枚のカードが置けるくらいの幅をもたせている。


「えっと、俺も、サイコロ振るね……あ、6だ。だいぶ遠い……カードは……『川と草原』、『左側が川の草原』か」


 俺は手にした『川と草原』の住処をリーシアの『洞窟』からだいぶ離れたところに置いた。これで配置は、『森林』、3マス、『(森)洞窟』、6マス、『(川)草原』となった。ゲームセット完了だ。ここから三人で少しずつ動物を配置していくことになる。


「それじゃあ、私の番から始めますね。一枚引いて……うーん、『湖と草原』ですね。繋げられないので、場に残りますね。でもせっかくなので、動物を置きます。『熊』です……!」


 ルミが引いたカードは湖の絵が描かれている草原だった。これはルミの所持している地形である『森林』とは絵が繋がらない。そのため、ルミはこの『湖と草原』――より正確に言うと、『湖が中央に描かれた草原』は使用できず場に残る。そして、今ルミが宣言した通り、地形には動物を配置することができる。熊は森に住んでいるので、森のカードの上に置くことができる。これでルミの動物カードは2枚になった。勝利に一歩近づいた形だ。

 このゲームは終了時に動物カードが少ないほど優位になるゲームだ。というか、基本的に減点式のゲームで終了時の手札の枚数が一番少ない人が勝ちだ。同数の場合は勝者複数という形になる。勝利条件は結構単純なのだが……ただし、このゲームには一つ恐ろしい条件があり、それが満たされると全員が敗北するが……まあ、それは後で説明しよう。というか、この初期配置だと全員敗北がありそうだ。リーシアと俺との距離が遠すぎるからだ。


「私の番ね……まずは一枚表にして……『森林と草原』ね。向きが悪いわね……逆なら使えたのに……洞窟に住んでる子はいないわ……一枚貰うわね……」


 リーシアが今引いたカードは『森林』の要素があるので、なんとなく、『森林と洞窟』を持つリーシアには繋がりそうだが……これが繋がらないのだ。

 理由はリーシアが口にしたように左右が逆だからだ。左が森林で右が草原の絵なので、左に森林を持つリーシアの洞窟とは繋がらない。そして、場に残っている『湖と草原』もまたリーシアは活用することができない。リーシアが今欲しいカードは右に森林の絵があるカードか、または左か上下に山地のカードだ。そして、洞窟に住む動物をリーシアは持っていないようで、動物の配置もできなかった。動物の配置も行わなかった場合は動物の山札から一枚引かなければいけない。こうして勝利から遠ざかるのだ。


「よし……じゃあ、緊張しつつ、一枚めくって……ただの『草原』だ」


 うーん、どうしよう。これは絵的には右側、つまりリーシアがいない方に接続可能だ。でもどっちかというとルミが場に残した、『湖と草原』の方がいいな。接続の仕方は同じだが、湖がある分生態系の幅が広がるし、そっちをもらっちゃおう。


「じゃあ、この草原は貰わないで、こっちの湖付きを貰おう。動物の配置は……ちょっともったいない気もするけど、初めてだし、ここは気楽に……『兎』を水辺の方に、あ、いや、どっちも水辺か。どっちがいいんだろ……まあ川辺にしよう。川付きの草原に置くね」


 これで住処は二枚、手札の動物カードは二枚。よし……1ターン目は俺が勝利に一番近いな……!


「それじゃあ、私の番ですね。一枚めくって……『左側に川がある草原』、むむむ……! またロランさんに良いカードですね……! でも今回はせっかくなので、リーシア様が開いてくれたカードを貰っちゃいますね」


 そう言ってルミは場に出されている、先程リーシアがめくった『森林と草原』を回収してルミが元々持っていた『上が山地の森林』の右側に繋げた。これで現在の並びは、『森林』、『森林と草原』、2マスの空き、『森林と洞窟』、6マスの空き、『川と草原』、『湖と草原』だ。


「貰われちゃったわ……」


 リーシアは悲しそうに呟いた。一方でルミは今置ける動物がなかったのか、動物山札からカードを一枚引いていた。


「私の番ね……山地か森林…………出たわね、さっきの逆よ。『草原と森林』だわ。それに馬もいるわよ……」


 リーシアも繋げられるカードが出たようだ。そして、リーシアの手札には草原に対応した動物である馬がいたようだ。嬉しそうな顔でリーシアは『草原と森林』を初期の洞窟の右側に繋げ、さらにそこに馬を配置した。

 よし俺のターンだな。


「じゃあ、一枚引いて……『左が森林の山地』か。じゃあ、さっきルミが開いてくれた『左側に川がある草原』を……上下どっちがいいかな……うーん、下に繋げよう。最初のカードの下に置いて……それで、今置いたカードにまた兎を……」


 実は、俺の初期の動物カードには兎が二枚あったのだ。このターン新たに土地が繋げられなかったら、先程の『湖と草原』に兎を設置しようと思っていたが、ルミが『川と草原』を出してくれたのでそちらに設置することにした。あ、ちなみに、もう動物が置いてある地形に動物を新たに設置することはできない。

 これで俺の手札は一枚。リーシアとルミの手札は三枚ずつだ。場にある動物は、熊、馬、兎、兎だ。

 そして、これで再びルミの手番になるのだが……このターンでゲームの方針が変わる可能性がある。ルミとリーシアが持っている住処が繋がりそうだからだ。


「私の番ですね……! この草原を使って――」


「ルミちゃん、山札を引いてないわ」


「あ! そうでした……! 忘れてました。まず山札を引いてー、『山地と川』ですね。この地形は使えないですし……リーシア様、繋げてもいいですか?」


「うん、いいわよ」


「それなら! 場に出てる『草原』を使って、リーシア様の住処と繋げちゃいますね……! リーシア様、一緒に頑張りましょうね」


「ええ、一緒に動物を育てましょう…………、ロランとも、早く繋がりたいわね」


 寂しそうにリーシアは俺の方を見た。俺は少し緊張感を持って頷いた。それは、このゲームにとって重要なことだから。

 このゲームでは進行中にプレイヤー同士の地形が繋がることがある。地形が繋がった場合、以後、繋がったもの同士のプレイヤーは、ターン毎に自分の地形ではなく相手の地形を拡張することもでき、さらに言うと、相手の地形にも動物を設置できるようになる。

 そのため戦略が一気に変わるのだ。動物の配置に制限があり、そして、動物カードをできる限り処理しなくてはならないというゲーム設定上、相手と繋がることは互いの競争に繋がる――お互いに土地を取り合うことになるからだ。まあ、地形の拡張速度が単純に考えて二倍以上にはなるので、繋げることが損というわけではないが。

 というか、実は最終的には必ず繋がらなくてはならないのだ。先程、提示した、『全員が敗北する条件』、それは、誰か一人でもプレイヤーが繋がっていないことだ。つまり、このゲームは手札をできる限り少なくするという要素と、地形を一つなぎにするいう要素を持つゲームだ。

 おそらく戦略としては序盤は自身の持っている動物の住処を拡張し、そこに動物を配置する。中盤以降は『全員が敗北する』ことを避けるため他のプレイヤーとの接続を目指し、接続後は協力しながら住処を拡張しつつも、一方で動物の配置の面では競争する。そういうゲームだ。手札の動物カードが他のプレイヤーに公開されないというのも重要な点だろう。自分の手持ちの動物を協力する仲間に悟られないようにしながら、一方で相手の手札にある動物の対応環境を予想して足を引っ張る。結構読み合いが重要になるゲームだ。

 なので、接続後はより緊張感を持って取り組む必要があるだろう。『一緒に動物を育てる』などと甘い言葉に騙されてはいけない……! 幸い、俺はまだリーシアと接続していないので、ぬくぬく内政できるが……いや、まあ俺の場合は、リーシアとの距離が離れすぎてるから、ぬくぬく内政ではなく、もう少し急いでリーシアとの合流を目指す必要があるかもしれないな。


「私の番ね……一枚引いて……あら? ただの『草原』ね。これも使えるけど――」


 まあ、問題になりそうな川は今回ルミが出してくれた『山地と川』で解決できるだろう。これを俺の『川と草原』に繋げる。そして、リーシアと俺で交互に山地カードを並べていき合体を図る。中盤までにはリーシアの地形との接続が――


「――ロランと早く合流したいし、こっちの『山地と川』を使おうかしら」


 そう言って、リーシアは『山地と川』を初期の山地と森に囲まれた洞窟に右に置いてしまった。


「え?」


 俺がリーシアを見る。リーシアが俺を不思議そうに見返した。


「どうしたの……ロラン……?」


「え、えっと、いや……その……まあ、そっか、後でもいいよね……あれ、でも今早く合流したいって……」


「そうよ……ロランとはまだ6マスもあったし……早く合流するなら右に伸ばした方がいいでしょ……」


「いや、まあ、確かにそうなんだけど……川があるから。川って絵柄的に繋げるのが難しいし、そうすると俺の方で、今のカードを使えば、川も処理できるし。というか、リーシアがそれ使っちゃうと、リーシアも俺と同じように川の処理をする必要が出るから……難易度が上がっちゃうんじゃないのかなって……」


 リーシアは俺の方をじっと見ながら説明を聞いていた。ぼんやりとして顔に見えるが、たぶん真剣に聞いているような気がする。俺が話し終えてから数秒ほどリーシアは固まった。


「………………そうね」


 言葉を小さく漏らして、リーシアは目を伏せた。後悔しているような雰囲気が伝わってくる。


「あ、でも、その、全然悪くないと思うよ……川辺の動物が手札にあるなら、その方が手札も使えるし……!」


 言ってて気づいたが、そういう可能性だって十分あったな。俺は早めに合流した方がいいのかな、と思ったが、このゲームの熟練者であるリーシアは先を見据えて、合流だけではなく自分の手札を素早く処理することも考えていたのかもしれない。川辺や山地の動物を持っていれば、そちらの処理も考えていたという可能性も十分にある。俺は、少し自分中心に考えすぎたみたいだ。


「持ってないわ……」


「うん……?」


「川辺の動物、手札にないの……」


 …………

 ……

 な、なるほど。

 まあ、でも、うん、まあ、川辺を俺とリーシアで一回ずつ引けばいいわけだし……なんとかなるか……? 


「まあ、その、距離も重要だしね……6マスもあったから、1マス分だけでも詰めるのは大事だよね……」


「うん…………あのね、ロラン……、わざとじゃないのよ……、こうすれば早く合流できると思ったの……、本当よ……」


 リーシアはとても悲しそうな顔をした。

 あああああ……


「勿論、分かってるよ。というか、なんかごめん。俺、変な事を色々気にしちゃって、ごめん。昔から、よく、友達に和マンチ――ああ、まあその、効率的……? いや、まあいいか……効率的に考えすぎて良くないって言われてて……久々にこういうゲームで遊んだから悪い癖が出ちゃって、本当にごめん。たぶん、ここが凄く居心地の良い場所だから、気が抜けちゃったのかも」


 必死に舌を回して、リーシアの復帰を願う。


「……ううん、いいのよ……ロランは悪くないもの…………」


「ああ、えっと、ありがとう……あ、その勿論、リーシアも悪くないよ」


「うん……ありがとう……、えっとね、それじゃあ、イタチを『草原』に置くわね……」


 なんとか、気を取り直してゲーム再開となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] このゲームを理解するには、脳の力を 100000% 使う必要がありました... それほど複雑ではないルールのグランド ストラテジー ゲームを見たことがあります... … そうは言っても、リ…
[良い点] 他の二人はほのぼのやりたいのに一人だけガチで勝ちに行った挙げ句リーシアちゃんを悲しませるなー!
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