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一章20話 異世界四日目 ルティナと魔術店にて


 困惑しているこちらを見てルティナはさらに赤い瞳を尖らせた。


「私の話、聞いてなかったの……! 稼いだお金は装備に回せってあれほど……! それなのに、魔術店なんか来て!」


 なるほど? お怒りのポイントが何となくわかったぞ。でも、まあ、確かに、仰る通りだし、ルティナの視点から見るとそうなのだが……んー、一応、俺が魔術店を冷やかしに来ているって可能性はあると思うんだけど。


「あー、いや、あの、あんまり買うつもりはなくて、ただ魔術店ってどうなっているのか知りたくて来たんですよ」


「誤魔化そうとしても分かるんだから! スイから話は聞いたよ。お金借りたんでしょ。なら返すまで、魔術店なんかで冷やかしやってる場合じゃないでしょ!」


 それ言われると弱い。近いうちに返すので……


「ええっと、まあ、それも、そうですね。ああ、でも、一応、今日はちょっと遺跡に潜らない日なので、えっと、稼がない日なんですよ。つまり今は長期的視点に立って行動するという時間です、だから魔術店に来た、そしてその時間の使い方はスイさんに対する不実を意味しない……という感じでは駄目ですかね?」


「口ばっかり回して……! 才能があるからって鼻にかけて……! 確かに低層とはいえ4層を駆け回れるのは凄いけど……でもっ! なんか、ムカつく!」


 そう間違ったことを言っているつもりはなかったのだが、そうは思っては貰えないようだ。というより、火に油というか、なんか上手く意図が伝わらないようだ。中々難しいな。


「ああ、えっと、すみません……?」


「形だけ謝ったって、反省してないのはまるわかりなんだからねっ!」


 うーん、一理ある。俺は変に正直というか、変に感じが悪い人間なので、たぶん自分が心底悪いと思えないとちゃんと謝罪できないんだと思う。いや、でも言葉だけの謝罪なら一応できるか。できるけどやらないだけか……? とすると、俺はルティナには謝りたくないのかな? 

 はて? あれ、でも以前、話をしたときは謝った気もするな。あれ? 別に謝ってはいないか?


「いや、それはその、すみません。ただ、ちょっと魔術について知りたくて、この店に入ったんです。別に何かを買おうとは、思ってはいなかったはずです。ルティナさんとしては、『知ろう』という考えすら良くないですかね?」


「うぐぐ……確かに、それは、そうなんだけど……なんか、くやしい……本当に何かを買おうと思ってなかったの?」


「たぶんですが、買おうとは思っていなかったかと」


「たぶんって何っ!」


「いや、そこまで深く考えて店に入っていなかったといいますか、別の事を考えていたといいますか」


 俺が魔術について知りたいのは、単純に興味もあるが、大部分は『感覚』のことを知りたいからだ。『感覚』は魔術の仲間ではないかと、なんとなく思ったからにすぎない。そして『魔術』の基礎や扱いなどを学べる資料は少ない。ならば、お店で調べたり聞いたりするのが良いかと思ったのだ。

 まあ、冷やかしだけするのは悪いので、もしかしたら何か買っていた可能性もゼロでは無いのだが……でも、これ言ったら、また揉めそうだし、黙っておこう。


「それなら、まあ、仕方ないけど……でも何で魔術に興味があるの? まだ魔術を求めるのは早いんじゃないの?」


 さて、なんて答えるか。まあ、それっぽいこと言っておくか。


「探索者の方で魔術師っぽい方を結構見ますし、なんか便利って聞きますし、気になりますね。今は無理でも将来的に何か探索の役に立てたりできないかな、と思ってる感じですかね」


「まあ確かに便利だけど……でも気が早すぎるよ。カイはまだ探索者として一週間くらいでしょ。魔術はお金もかかるし、いくら才能があっても、あと数か月はかかるから、後でいいよ」


「一応知っておくだけでも知りたいなと思いまして」


「知っておくだけ……本当かな? なんか怪しいな……やっぱり買おうとしてたでしょ!」


 おっと、再び噴火した。


「いえ、買おうとは思ってはないですけど」


「じゃあ、なんで、そんなに知りたがるの?」


 いや、別に『知りたい事』と『買いたい事』はイコールではないだろ。


「好奇心とか、あと将来の事を考えるのが好きというのもあると思います。なんかワクワクしません? 未来の事って」


「それは、まあ、分からなくもないけど……本当に嘘吐いてないの?」


 疑われている……


「ついてないです」


「うぐぐ……嘘っぽいのに、証拠がない……いっその事、こうなったら……カイ! 魔術の事知りたいんだよね?」


「はい、そうですが……?」


「だったら、私が教えてあげるよ。私、光の魔術ならクリスクでも五指に入るから」


 ほう。


「あー、それは、有難いのですが、いいんですか?」


「だって教えなかったら、隙を見て魔術道具買いそうだし、それにカイはちゃんと教えれば言う事聞きそうだし」


「ああ、そういった信用は微妙にあるんですね」


 気になったことを言うと、ルティナは俺の腹のあたりを指差した。はて?


「それ。ちゃんと『ラッツの守護屋』で買ったでしょ。だから、魔術もちゃんと教えておこうって思ったんだよ。その代わり! 無理して魔術を学ぼうとしないこと! 分かった?」


 まあ、魔術の説明を受けられるならば願ったり叶ったりだ。それにルティナの紹介や説明は、俺から見て結構信用がある。実際、今着ている防具もルティナが紹介した店で買ったものだが、かなり使いやすいものだ。魔術の説明も期待できる。


「なるほど。了解です」


「長くなると思うから、一旦お店出るよ。カイ、付いてきて」


 ルティナはそう言うと、店の外へと歩き出した。俺もそれに従い付いて行く。うーん、結局大して店を見る事ができなかったな。まあ、専門家から魔術の説明を受けられるし、それを考えればプラスか。


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