三章12話 リーシア頑張る
話しているうちに例の屋敷にたどり着いた。やはりとても立派な外観だ。まあ外観だけではなく内観も立派なのだが……
ルミの後に続き門を潜り屋敷の中へ入る。
「リーシア様、戻りました! ロランさんも一緒です!」
元気あるルミの声が屋敷の中で響き、それに呼応するように奥から扉を開けるような音が聞こえる。それからすぐに足音のようなものが続き、数秒後にはリーシアが姿を現した。相変わらず独特の透明感を持った美少女だ。
「お邪魔します。リーシア、三日ぶりだね……」
彼女の目を見て話しかける。リーシアは少しだけ目線を逸らして頬を赤くして、それから小さく口を開いた。
「ロラン、久しぶりね……」
声色には不安や恐怖の色は無い気がする。表情からもそういった感情は読み取れない。どちらかと言うと照れているような、恥ずかしがっているような雰囲気を感じられる。ふむ。とりあえず、ルミの言うように良さそうな感じだ。うーん、恥ずかしがってるのは三日前の出来事を思い出している感じだろうか。俺も、もし逆の立場だったりしたら、少し恥ずかしく感じてしまうかもしれないから気持ちは分かる。
「外は寒いでしょう……二人とも広間の方に行きましょう。温かくしてあるわ」
「はい! リーシア様」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
リーシアの提案を、ルミとともに受け入れ、三人で広間へと入る。広間というのは、暖炉がある部屋のことで、先日ルミの料理を美味しく頂いた場所だ。
広間に入るとリーシアは前回と同じように暖炉のすぐ近くのソファーに腰かけた。俺もリーシアと同じように前回座った場所――リーシアの対面のソファーに腰かけた。しかし、すぐに視線を感じた。リーシアがじっとこちらを見ていた。少し気まずさを感じて口を開こうとしたが、それよりも早くリーシアは立ち上がると、俺の方へと近づいてきた。
「隣に座ってもいいかしら……?」
儚げな美少女が自然な態度で俺に問いかけた。一瞬、心臓の音が大きく響いた。なんか、リーシア特有の美しさのようなものを強く感じた。なぜだろうか、今更になって、リーシアのような美少女が自分に告白しようとしている状況を正しく認識したのだろうか。
それとも、ギャップだろうか。この弱弱しく、雪の中でひっそりと咲く花のような美少女が見せる自然な姿――特に、三日前に崩れてしまいそうな姿を見ているだけあって、こうして自然な仕草を見ると温度差のようなものを感じてしまい、こちらの心臓が揺れ動くのかもしれない。
……いや、というか、何でこんな自然なんだ? 俺の事を意識していると思うんだが……なんだか、これでは俺の方が彼女の事を意識してしまっているみたいだ。
「ど、どうぞ……」
「うん……」
リーシアは小さく呟くと俺の隣に座った。いや、近いな。思ったより隣だ。俺が座っているソファーは四人が座れるサイズのソファーなので、本来であれば、それこそ自然に座れば、人一人分は間隔が空くはずだ。しかし、リーシアはしっかりと詰めてきた。その為、リーシアとの距離は非常に近い。手を伸ばさなくても十分届く距離だ。こんなにリーシアと近づいたのは初めてかもしれない。
「ロラン、あのね……色々話したい事があるの……聞いてくれるかしら……?」
少し不安そうにしながらも自然体でリーシアが言葉を発する。三日前より遥かに安定している。
「もちろん」
「ありがとう……何から話そうかしら…………そうね。クッキー、とても美味しかったわ」
リーシアは、ぼんやりとしながらも言葉を紡ぎ始めた。
「そ、そう? それなら良かった」
ミトラ王国のお菓子はヒストガ王国では貴重品だ。渡すとき、ちょっとだけ悩んだが、気に入ってもらえたならば渡して正解だった。
「きっと、ロランがくれた、初めての贈り物だったから、だと思うわ……」
リーシアは言葉を少しずつ、大切なことを伝えるかのように話していく。
「そ、そう……? それは、えっと、気に入ってもらえて嬉しいよ……!」
「うん……」
そう言うとリーシアはどこか遠い目をした。俺ではなく何か別のものを見ているかのような目だ。そして数秒ほどして、リーシアは再び口を開く。
「ロランは好きな人がいるの……?」
ぶち込んできた……!
急な話題変更に驚きそうになるが、なんとか自分を落ち着かせる。
これは……ルミが話したか? いや、まあ話したにしろ、話していないにしろ、ここは正直に答えた方がいいだろう。
「そう、だね……実は、意識した――強く意識した人がいるよ。いや、たぶん、今もその人のことを、意識してしまっているんだと思う」
俺が答えると、リーシアは少しだけ悲しそうな顔をした。
「その人は恋人だったの……?」
「いや……残念ながら」
「……、ロランはその人のことをどうして好きになったの? 初めて好きになった時はどんな感じだった?」
リーシアがじっとこちらを見ながら問いかけて来た。
ん……? なぜそんな事を……?
「えっと、突然好きになったんだと思う。初めて会った時に惹きこまれて」
「突然好きになったのね…………」
なぜだろう。こちらを見るリーシアの圧が強くなったような気がしてしまった。いや、たぶん気のせいだろう。彼女の雰囲気はいつもと同じで儚く弱弱しい。圧のようなものは感じるはずがないし、そもそもリーシアは他人に圧をかける性格ではないだろうし。
「うん、まあ、その突然のことだったと思う」
些細な感覚の異常を気にしながらも相槌を打つ。
「ねぇ、ロラン…………ロランが好きになった相手って、もしかして――カテナ教の聖導師、ううん……聖女だったりするのかしら……?」
へ?!