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三章11話 いざリーシアのもとへ!

 リーシアの告白未遂事件から三日が経過した。


 その間、俺は一応、テチュカの街のことを調べたりもしたが、あまり上手く活動できなかった。まあ、何というか、普通にリーシアのことを三日間ずっと考えていたからだ。しょうがない。あんな儚げな少女が懸命に告白しようとしていたのだ。告白される側として気持ちや考え方の整理をするだけで、いっぱいいっぱいだ。

 ただ、三日間考えたが、結論は変わらない。俺は危険な目に遭う可能性を増やしたくないし、リーシアにも危険な目に遭って欲しくない。そして、リュドミラのことをまだ意識しているというのもある。リーシアには悪いが……ああ、いや、リーシアだけではなく、期待してくれていると思われるルミにも悪いな。なんか、今、一瞬、もうあんな美味しい料理を食べる機会は無いだろうなと思ってしまった。こういう変な時に自分の欲望が出てしまう所が俺の悪いところだ。

 うーん、リーシアをできるだけ悲しませないように話したいが、難しそうだ。どう話せば傷付けないだろうか。


 そんなことを考えながら『ウスタレゴ』の宿の入口付近で待ってるいると、白と黒の二色髪の少女――ルミの姿が見えた。ルミの方も俺の姿を捉えたのか、大きく手を振りながら、小走りでこちらに近づいてきた。相変わらず健気で可愛らしい少女だ。


「おはようございます。ロランさん」


「おはよう、ルミ。今日も寒いね」


「そうですね。これだけ寒いと素材が……あっ! えーっと、ところで、ロランさんは朝ご飯はもう食べちゃいましたか?」


 ルミは何かを言いかけるが、途中で止めてから、俺に問いかけてきた。


「あ、うん、もう食べた感じかな。ルミとリーシアは?」


「私とリーシア様も食べ終わってます。ロランさんも食べたなら……どっちにしても、今日は寒いですし、お昼は温かくなる物にしますね……!」


 ルミは両手で握りこぶしを作り、気合の入った顔を作った。頑張るぞ! って感じの顔だ。

 俺も、これから起こるであろうリーシアへの対応に関して頑張らなくては……





 ルミと共に貴族街へ向かい移動していく。道中、都市内を見ていると、やはり未だに雪が所々に残っている。しかし一方で雪かきが一通り終わった場所もある。西の広場がその一つだ。この広場は都市内ではいくつかの用途で使われるらしく、それもあってか雪かきの優先順位も高かったのだろう。ちなみに近いうちに市場を開催する告知が出されていた。少し興味があるので、余裕があったら見に行ってもいいだろう。なお、本日の広場は白い雪こそ無くなっていたが、とても寒いせいか、人の数は少なかった。

 寒さに耐えながらもルミと雑談をしつつ歩いていくと、一般街と貴族街の境界――つまり城壁が見えて来た。前回と同じ失敗をしないようにルミとほぼ並ぶように歩く。ルミは城門を見張る数人の衛兵に気にすることなく速度を維持して進んでいく。俺もルミに速度を合わせて進む。そして城門を潜る……! 

 呼び止められるか、呼び止められるか、と少し緊張しながら門を潜り始めると、隣のルミが声を上げた。


「お疲れ様です!」


 そう言いながらルミは周りの衛兵に笑顔を振りまいた。

 突然の事で一瞬、頭が真っ白になるが、すぐに衛兵に挨拶したのだと気付き、俺も慌てて口を動かす。


「お疲れ様です……!」


 俺は緊張しながらもルミとともに門を潜っていく。

 見える範囲にいた四人の衛兵は、それぞれの反応を見せた。

 特に反応をしない者、欠伸を噛み殺しながら面倒臭そうにルミと俺を見る者、ルミの方を少し恥ずかしそうに見ながら小さく手を振る者、真剣な顔で片手を自身の胸に当てお辞儀をする者、いろいろだ。

 いや、本当に色々だ。まあ、とりあえず取り押さえようとしてくる者はいないようで安心だ。ちなみに俺の記憶違いでなければ三日前に俺の肩を掴んだ人もいる。彼は特に反応しない派のようだ。


 貴族職人さん(仮)であるリーシアの弟子のルミ、彼女の都市内での立場はリーシアと同じように分かりにくい。まあ、衛兵の反応だけで立場を考えるわけではないが、それでも一つの目安にはなるだろう。嫌だと思われてる一方で、敬意を払われてもいる。

 うーん。なんでだろう。衛兵っていうのは、ある程度均一化されている必要があると思う。まあ、これは俺のイメージだが……でも、衛兵というのはバラバラな集団ではなく統一化されている集団のはずだ。ならば似たような方向で育成されるはずだ。特に、特定の地位や立場に対する態度に関しては、統一される方向性にあるはずだ。

 おそらくだが、理想とするような態度があり、個々の衛兵の態度はそれぞれ違ったとしても、ある程度収束先が存在するのではないだろうか。つまり、偉い人には敬意を払う。逆にそうでない人には敬意を払わない。例えば、怪しい人には警戒する、とかだ。

 さて、ここでルミに戻る。今の四人の態度は無関心、嫌、まるで可愛い女の子を相手するような態度、敬意、みたいな感じだ。バラバラだ。何でだ……? いや、待て……もしかして、理想とされている態度が複数ある状態か? つまり、何らかの事情で指揮系統が一本化されていなかったり、組織内に複数の派閥がある状態なのだろうか。それ故、理想とされる態度が複数存在し、それぞれの衛兵がどこに所属しているかで、態度に差が出ているのだろうか。

 例えば、貴族職人さん(仮)応援派閥と、貴族職人さん(仮)アンチ派閥があるみたいな。いや、まあそこまで露骨な分類ではないと思うが……ん? そういえば、このテチュカの上流階級が今、後継者問題を抱えていたか。それに関係してたり……? いや、ちょっと発想が飛躍し過ぎているか。というか、そもそも、この四人が特殊な存在で、参考にならない集団という可能性も十分あるのだから、あまり考察しても意味無いか。


 考えている間に門を潜り終え貴族街へと突入する。さて、そろそろ聞きにくいことを聞かなくては……ただ、その前に会話の流れを作りたいから……ええっと、そうだな、あ、そうだ、ついでにこれを聞いておこう。


「ルミは、今日はもしかして結構忙しかった?」


「いえ、そんなに忙しくなかったですよ」


 ルミは不思議そうにしながら俺の質問に答えた。

 ふむ。


「あ、そうだった? なんか、さっき、会った時、『気温が低くて、素材が』みたいなことを言ってたと思うから、何か、本業の――職人さんとしてやるべきことがあって、忙しいのかなと思ったけど、違った?」


 それとなく、とくに気にしていない雑談のような感じで適当に言葉を作って口にする。

 ルミは少し困ったような顔をした。


「え、えーっと、その……ちょっと、せ――工房っ! 工房の方で、保管してる素材が、その、えっと、寒さに弱いので……ええっと、それで整える必要があって。でも大丈夫です。昨日の夕方には熱くしておいたので……! だから大丈夫です……!」


 ルミは最初の方は迷い気味に、不安そうであったが、話しているうちに自信が出てきたのか、少しだけ自信を取り戻したような表情で言い切った。

 ふむふむ。工房か。何となく芸術品とか高級品を作っているのだと思ったけど、思ったより『ごつい』物を作ってるのだろうか?


「ああ、そうだったんだ。工房に……あれ? 工房っていうのは、今から行く屋敷、ではないよね。工房はどのあたりにあるの? 結構遠い?」


「え……!? ど、どうでしょ~?」


 ルミは露骨に目を逸らした。

 はて?

 工房の場所は秘密なのだろうか。あー、待て、そっか。たぶん作ってる物が秘密なのだろう。というか、製法が秘密なのかな? そうすると、寡占産業みたいな感じなのかな? それなら上流階級と繋がりがあるのも分かる。でも、何を作ってるんだ? 二人で作れる物……ん? いや、待て。二人とは限らないか。特にリーシアもルミも二人だけで作ってるとは言ってないし、もしかしたら工房には数百人が詰め込んでるかもしれない。それだと、もうリーシア職人というより、リーシア社長って感じだけど……まあ、百人は無くても、十数人はいてもおかしくないな。十数人規模で継続的に生産できる大きさと量……生活必需品とかではないよな。というか、たぶん高級品だと思うから……うーん、魔力関係かな? 魔道具屋さん、特に質の良い魔道具を扱うというのはどうだろうか。あ、結構良い線な気がする。魔道具は便利だし、様々な効果がある。中には行政において役立つものもあるだろう。それを専属で作っている存在――それがリーシア工房集団なのだろうか。そして、そんな工房は秘密だから一般人には教えられない。

 うん、しっくりくる…………いやいや、待て待て。リーシアは旅人だぞ。なんで工房持ってるんだよ……工房も屋敷と同じように借りてるのか? 旅する職人集団がいて、都市ごとに工房を借りて活動する……? うーん、旅する職人って何か違うような気がする。しっくりこないと言うか……というか何で旅してるんだ……? 特殊な技術を持った職人さんなら安定した場所で製品を作り続けた方が効率が良さそうに思えるが……うーん、同じ場所で連続して生産できないとかだろうか。田畑で言うと連作障害みたいな……いや、製品の素材が季節に影響されるって可能性もあるか、移牧みたいな感じで周期的に移動してるとかか? うーん、情報が少ないから分からないな。


「工房の場所は秘密みたいな感じ?」


「えっと、ロランさんが悪いわけじゃないですけど……ちょっと言いにくくて……」


 ルミは少し困った顔をしている。困らせてしまったのなら、あんまり突っつくのは良くないか。


「まあ、その秘密だったら全然。ただ、もし遠いところだったら、忙しくて大変そうだと思って」


「いえ! 近くですから、大丈夫です……!」


 キリリとした表情でルミが答えた。

 近くにあるのか……ふむ。屋敷がある貴族街にあるのか、それとも貴族街に近い一般街にあるのか。工房という言葉から想像されるイメージだと貴族街には似つかわしくない。なので一般街にある気がする。しかし、例えばだが、煙や臭いを出さず、普通の屋敷と同じ見た目をしているならば貴族街にあっても問題は無いだろう。

 まあ、製品を作るとすると、煙や臭いなどは出てしまうから、たぶん一般街にあるだろう。貴族街は地価も高そうだし。あ、いや、上級階級から直接物件を借りていると思われるリーシアには地価など関係無い話か。


「あ、それなら、良かった。ルミには、リーシアのことも任せちゃったから、工房のこともあるとすると、なんか色々と悪い気がして……」


「そんなことないですよ。どっちも私がやらないといけない事ですし、それにどっちも私がやりたい事ですから」


 可愛らしく笑うルミからは無理をしているような感じは無い。自然に出た言葉のようだ。なかなか立派な志を持っているようだ。


「とてもリーシアのことを慕っているんだね」


「はい!」


 ルミは満面の笑顔で肯定した。


「きっとリーシアも誇らしい……あ、いや、どっちかというと、嬉しいかな、リーシアも嬉しいだろうね。……ところで、今更になっちゃうんだけど、リーシアは、どんな感じ? 俺が聞くのも図々しいけど、リーシアは元気? 悲しんでたりする……?」


 会話の流れで聞かなくてはいけないことを聞く。リーシアの状態チェックだ。


「――っ! リーシア様は……結構、悪くも無い感じです。いえ、良い方だと、思います……」


 少し歯切れ悪くルミが答えた。


「元気ではない、けど、凄く悲しんでるわけでも、不安そうでもないように見える……みたいな?」


「そ、そんな感じです……!」


 ふむ……それは確かに『良い方』と表現できる気がする。ちょっと予想外だな。いや、まあその方が俺としても良いのだが……うーん、何でだろう。リーシアはどちらかと言うと不安で苦しむタイプに見えた。確信がない状況だし……ん? あれ、もしかして、リーシアは『告白が成功するという確信』を持ったのだろうか。だとすると確かに不安はないかもしれない。

 でも、そうすると不味いな。断った時のダメージがより大きい物になりそうだ……うーん、これはリーシアに会ってみないと分からないな。なんか今日は考えても分からないことだらけだ。

 難しいな……

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[良い点] ああ、本当に長い間! この章のスタイルは本当に気に入りました 主人公は、推理と推理の末にシャーロック・ホームズと名乗るべきである。 ロシアは私の好きなキャラクターではありませんが、彼…
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