一章19話 異世界四日目 魔術店での再会
さて、これからどうしよう。お昼までまだ時間はあるし、少し探し物でもするか。何と言っても、先ほど知った『転移結晶』というのが気になる。話から察するに、遺跡への突入・脱出両方をこなすことができる物のようだ。使用条件など色々と勉強しておきたい。これを探してみよう。丁度、現在の俺の課題の一つである『感覚』を知るために使えるかもしれない。
『感覚』は俺が持っている最大のアドバンテージであり、唯一のアドバンテージでもある。
これを知るために今、俺が考えている計画の一つは2層への突入だ。2層に入ったとき『感覚』はどうなるのか、というのを知っておきたいのだ。しかし、2層以降は魔獣がいるため危険だ。だから何か対策、例えば防具で守りを固めたり、魔道具などを使い魔獣を無力化したりなどを考えていたが、ここで、『転移結晶』という新たなツールが出てきた。これを上手く使えば、安全に遺跡から脱出できそうだ。
その上、もしかしたら、将来的には、さらに深く3層以降での活動も視野に入れることができるかもしれない。色々と夢が広がるツールだ。
広いギルドの中を目を皿のようにして確認したところ、1時間ほどで『転移結晶』を発見した。売り場はギルドの3階だった。ここにあったのか……3階は今まで足を運ぶ機会があまりなかったので、『転移結晶』に気付けなかったのだ。
気を取り直して店に張り出されている説明文を読みながら、2つほど購入した。どうも転移には条件があるらしく、その条件により『転移結晶』も様々な種類があるようだった。
大きく分けて、突入用と帰還用があり、突入用は予め行先となる転移先が登録されていて、遺跡入口で転移結晶を使用することで、その転移先へとワープするようだ。帰還用は遺跡内で使用することで、遺跡入口へと戻ってくるものだ。
ただし、こちらは跳躍距離という縛りがある。例えば『跳躍距離5層』となっているものは5層まででしか使用できない。そして、値段も跳躍距離が長いものはそれに応じて高くなっている。あと基本的に『転移結晶』は全て使い捨てだ。そして結構コストが重い。俺が買ったのは『跳躍距離10層』の帰還用を2つだが、それでも2つ合わせて金貨6枚もした。高価だ。
ただ、2層以降に踏み込むならば、魔獣に襲われたときのための脱出手段として持っておくのが賢明だろう。
無事『転移結晶』の入手に成功した俺は、満足した気持ちでギルドの併設された店で昼飯を食べた。比較的順調に予定を消化している。
あとは探索への備えとして、便利そうな魔道具でもないかの確認と、『感覚』のための情報収集だ。
前者は魔道具店に行けばいいだろう。後者に関してはいまいち思いつかないが、図書館みたいな場所があれば、そこから情報を集められるかもしれない。それと、あとは魔術方面から調べてみると言うのも手だ。魔術方面については、大通りで見かけた魔術店というところに行ってみれば色々と分かるかもしれない。
うーん、どっちから行くか……まだ、行ったことのない魔術店に行ってみるか。何か新しい情報やひらめきを得られるかもしれない。
ギルドから出た後、大通りを西に進み魔術店を目指す。10分程度歩いた辺りで、魔術店を見つけた。以前入った魔道具店と同じ規模の大きさだ。つまり大きい。
店内に入ると独特の空気感を感じた。全体的に光が少ない。窓にカーテンで覆われていて、間接照明の光量も小さく、さらに店の壁は暗い色の木材でできている。シックで落ち着いているとも言えるし、ちょっと薄暗いとも言える。このあたりは好みが出るが、俺はどちらかと言うと好きな方だ。
ゆっくりと店内を見回り目に入ったものの名前や説明などを読んでいく。触媒やら補助器やら起動鍵やら色々あるな。うーん、やっぱり専門用語が多いな。魔道具店のときは何となく見ていたが、魔術については仕組みなどを知っておきたいし、ここは店員さんとかに聞けば分かるかな?
辺りを見回し、暇そうにしている店員さんに聞こうとしたところで、別方向から声をかけられた。
「あ! あのときの駆け出し! 確か名前は……カイ! 何やってるの!」
声の方を見ると、茜色の髪の美少女、ルティナがいた。なぜか俺の方を咎めるように睨んでいる。赤い瞳からは怒っているオーラを感じる。うーん、この少女とはお店でよく会うな。
「ルティナさん。お久しぶりです。どうしたんですか?」
俺の返事を聞くと、ルティナはますます怒ったような表情を浮かべた。はて? 心当たりがあまり無いぞ……? 以前紹介してもらった『ラッツの守護屋』の件だろうか? でもスイは口裏――あ、いや口表だったか? 口表を合わせてくれるという話だったので、その辺りは問題はなかったはずだが……
うーん?