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三章1話 ヒストガ大陸横断計画


 馬車に揺られながら目を覚ました。夜にしては周囲は明るい。夜明け前みたいな感じだろうか。

 リデッサス遺跡街でホフナーと別れた後、馬車に乗り、しばらく走ったところで眠ってしまったようだ。最近、色々と緊張していたし、無事リデッサス遺跡街を脱出できて気が抜けたのかもしれない。


 念のため不審にならないように自然な仕草で自分の手荷物やポケットの感触を確かめる。特に何かを抜き取られているような感じはしない。まあ、俺以外の乗客も寝てる人が殆どだから何かあるということもないか。


 どうしようか。この馬車は予定では早朝にはミトラ王国を抜けて隣国であるヒストガ王国に入り、リミタリウスという遺跡街に到着する。俺はそこで降りる予定だ。たぶんもう少し寝ていても大丈夫だと思うが……うーん、少し目が覚めてしまったし、今後の戦略について考えるか。


 まずリミタリウスで降りた後のことだが……実は細かな計画はない。ただ、別の馬車に乗ってヒストガ王国の東側に抜けたいと思っている。また、その際はヒストガ王国に存在する二つの街道のうちの一つである中央街道を使おうと考えている。

 以前も考察したが、ヒストガ王国の南部はカテナ教の影響力が強めだ。そのため南部を避け中央部の街道を使い一気に東に進みユリア一味を撒きたいと考えている。

 この馬車は国境の街であるリミタリウスを抜けた後さらに東に二つほど町を通るので、この馬車に乗り続けるという考えも一応あるのだが……ちょっと問題があって、リミタリウスで一度降りて別の馬車に乗ろうと思っている。

 その問題が何かというと、実はこの馬車を予約するとき、俺は本名で予約したのだ。本当は偽名で予約したかった。しかし、昨日……いや、もう一昨日か、一昨日の状況だとホフナーを使いフェムトホープを避けながら馬車を予約する必要があり、そうするとギルドでの予約が精一杯だ。そしてギルドを使うときはギルド証を使わざるを得ないので、偽名は困難だ。

 故に仕方がないのだが、たぶん近いうちにはユリアにバレるだろう。なので、この馬車に乗り続けるのは良くないと思ったのだ。故にリミタリウス遺跡街で乗り換える。またその時は偽名を使おうと思っている。

 そして、この偽名案と併用して本名で別の馬車の予約をしようと考えている。具体的に言うと、リミタリウス遺跡街で偽名を使い東側に行く馬車に乗る。またそれとは別に『藤ヶ崎戒』の名前で北に向かう馬車を確保する。こうすることで、『藤ヶ崎戒』を追っているユリアを北側に誘引することができるかもしれない。欠点としては、馬車代が倍必要なことだ。まあ、こんな時の為のお金だ。幸い、ホフナーのおかげで金はある。上手く活用していこう。


 またこの作戦には続きがあり……あ! 朝だ! 馬車の幌の隙間から光が差し込む。外の景色も明るくなっていく。なんか綺麗だな……


 朝の光や、それに照らされる風景に心奪われていると、馬車の速度は落ちていき、ついには止まった。そして御者がリミタリウス遺跡街に到着したことを告げた。一部の乗客とともに、御者に感謝と僅かながらの心付け(チップ)を渡した後に、馬車を降りた。

 リデッサスより少し寒い、つまり結構寒い。天候や時間帯も関係しているとは思うが、やはりミトラ王国よりもヒストガ王国の方が寒いのだろう。寒いのがやや苦手な俺としては、先が思いやられるな。


 さて、到着したら最初にやることは商会に行く事だ。乗り換える馬車を探すためだ。今まではギルド経由で馬車を確保していたが、ギルド経由だとギルド証が必要だ。なので偽名で馬車を確保する場合は商会で直接交渉する必要がある。あんまり自信が無いが、逃亡生活――それも命がかかっているかもしれないのだ。頑張ろう。


 最初の商会で、両替をしていなかったことに気づき慌てて両替商へ向かい、無事手持ちのデリウス金貨をヒストガ王国の通貨であるロスティ金貨に交換した後、三軒ほど商会を回り、東側へ行く馬車を『ライク』という名前を使い、一つ確保できた。シュトラセラという街まで行けるようだ。結構東にある街なので、これを使えば追って来るであろうユリアとの距離を開けるだろう。昼にはリミタリウス遺跡街を発車するようなので、それまでに工作を済ませなくてはいけない。そのために今度はギルドへと向かう。

 荷物を持って忙しなく遺跡街を動いている。こういう時、『軽量化』の効果が付与されているバックパックを持っていて良かったと思う。『軽量化』がなかったら、たぶんかなり疲れていた。やはり金は偉大だ。

 そして今からすることも金の活用だ。俺は、ギルド証を使い北部にあるフリギダムの街に向かう馬車を『藤ヶ崎戒』の名前で適当に確保する。一応、東行きの馬車と同じころに発車する馬車の中でできるだけ長距離に行くものを選んだ。長距離にした理由は、ユリアが北側を追ってくれたら、より時間が稼げると思ったからだ。


 そのほか、食料品や消耗品などを買い、昼を迎えた。


 非常に短い間だったが、さらばだ、リミタリウス遺跡街。もしかしたら、平和になったら、この遺跡街に戻って来て遺跡に潜るかもしれない……! いや、まあ百に一つもないだろうが……とにかく、さらばだ! そして一時のお別れだ『藤ヶ崎戒』! 結構気に入ってる名前だったが仕方がない。君は北側へ行きたまえ……!

 そして待っていてくれシュトラセラの街。今行こう。そして今から俺は『ライク』だ。その辺によくいた名前だったから使わせてもらった。しばらくの間お世話になります。





 馬車で一日半ほど移動して、この俺『ライク』はシュトラセラの街にたどり着いた。時刻は夜。もう一度馬車を乗り換えても良かったが、流石に疲れたので、この日はシュトラセラの街で宿を取った。

 そして翌朝、俺は『ライク』の名前を使い、今度は南側に向かう馬車を確保した。そしてそれとは別に今度は『リヒャルト』という名前を使い、さらに東の街であるヴィアダクタの街へ向かう馬車を確保した。当然俺は、ヴィアダクタの街へ向かう方へ乗り込んだ。

 これが考えていた偽名作戦の続きだ。俺はこの後、馬車を乗り換える毎に偽名を変えていく。そして前に使った偽名で別の方向の馬車を確保する。次々、俺は分身していく。ユリアがどこか一つでも間違えてくれれば儲けものだ。いや、俺の馬車代は二倍になってるので、儲けてないけど……


 まあいいや。

 非常に短い間だったが、さらばだシュトラセラの街。もしかしたら、平和になったら、この街に戻って来て観光するかもしれない……! いや、まあ百に一つもないだろうが……とにかく、さらばだ! そして永遠のお別れだ『ライク』! お気に入り度は普通の名前だった。君は南側へ行きたまえ……!

 そして待っていてくれヴィアダクタの街。今行こう。そして今から俺は『リヒャルト』だ。その辺によくいた名前だったから使わせてもらった。しばらくの間お世話になります。





 そうして俺はヒストガ王国の中央街道を東へ進んで行った。ヴィアダクタの街の後は、ヴィアテラの街、ヴィアルムの街とヴィアシリーズの名前が続いた。


 ちなみに偽名は『リヒャルト』の後は、『ルッツ』と『レオ』を経由して現在は『ロラン』という名前を使っている。これもその辺でよく見かけた名前だ。一応、偽名は全部、よく使われている名前にしている。

 あと何となくだが、最初が『ライク』だったので、以降は『らりるれろ』順に進めている。これは後で偽名を思い出す時に、どの街でどの名前を使っていたか思い出しやすいようにだ。何か役に立つタイミングがあるかもしれない。いや……それなら、『ら』スタートじゃなくて『あ』とか『か』からスタートしろっていう話だけど……『ライク』の偽名を使った時は特に考えていなかったから仕方がない。まあ次は順当に行くと……『わ』だから、その次は『あ』にしよう。『を』と『ん』はスキップだ。『ンジャメナ』とかは禁止だ。


 名前について適当に考察しながらも、なんとなく現在の状況にも思考を巡らす。現在は『ロラン』という名前でヴィアルムの街から発車した馬車に乗っている。ミトラ王国の国境の街であったリミタリウス遺跡街からは、だいぶ離れた。

 この間、ユリアから追撃されているような気配はない。結構距離を稼げているのかもしれない。とりあえず順調か……? まあ、俺が勝手に警戒してるだけで、ユリアは追いかけてきていないという可能性もあるか。

 うーん、まあユリアが追いかけてるにしろ、そうでないにしろ、念のため、ヒストガ王国を東に抜けるまでは、このまま偽名移動生活を続けよう。東まで抜けきったら、その時の状況に応じて行動を決めるかな……? まあ、ヒストガ王国は東西に長いので、まだ時間がかかりそうではあるが……

 あと考えることは……あれ、なんか空が暗いな。急に暗くなったような……ん……?


 パラパラと白い粉のようなものが見えた。え? もしかして、雪……?


 俺が気付いて少しすると、近くに居た乗客も驚いたように辺りを見ていた。御者も少し驚いているように見える。

 何というか、ちょっと早い気がする。雪が降る季節はもう少し後のはずだ。というか計画を立てた時点では、雪の到来は一か月くらい先だと考えていた。こうも早く雪が降ると計画が狂うぞ……俺の予定では雪が降る前にヒストガ王国の横断を考えていた。

 実際、今のところのはかなり順調にノルマをこなして距離を稼いでいる。このまま東に進みたい。雪が来たら、たぶんどこかの都市に閉じ込められる。それまでにユリアと距離を広げたい。広げたい……! 

 あ、いや、落ち着け。この雪はかなり薄っすらしている。季節外れ……とまでは言わないが、それでも一か月も前倒しの雪だ。そこまで積もったりはしないだろう。恐らく少しだけ降って、それで終わりだ。交通には影響を与えたりはしないだろう。いや、影響を与えないでくれ……! 頼むぞ……!


 俺が願っているのに、何故だが、雪は少しずつ少しずつ強くなってきた。周囲の乗客も驚きから困惑、そして不安そうにし始めた。御者も少し不安そうに見えるし、馬車の速度も上がってる気がする。

 そして馬車の速度が上がったのを見計らったのか、雪がかなり強くなってきた。あれ? これは不味くないか? 計画がどうのとか、それ以前に、この雪は普通に危険では……? まだ目標の街まで距離があったはずだ。これは危ないのでは、と思っている間にも雪が強くなってきた。というか吹雪みたいになってきた。寒いし、幌を貫通して雪がどんどん当たる。


 俺は追加の防寒着を急いで取り出し身に着けた。そして同時に馬車も加速した。乗客が慌てるような声を出し、馬車の中が混乱で包まれる。

 御者が声を上げた。曰く、もうすぐテチュカの街に着く、それまでの辛抱だ、と。御者の声により、乗客は少しは落ち着きを取り戻した。ただ、それでも馬車の中は不安に包まれている。馬車は加速し、吹雪も強くなる。

 

 視界が雪で見えなくなっていき、またしても馬車内が騒がしくなってきた時、「見えた!」と御者が今までで一番大きな声を上げた。


 吹雪の中、前方に光が見えた。そしてそれは段々と近づいていき、ついには大きな城壁が見えた。テチュカの城壁だ! 良かった……!

 歓喜の声が馬車の中で流れる。馬車は速度を落とし城門で一度止まった後、御者と守衛がいくらか話をして、無事テチュカへの入場を果たした。


 街の中に入ると、馬車は契約していると思われる商会へと一目散に向かった。商会の敷地内に入ると、乗客たちはすぐに下車し、建物へと入っていく。俺もそれに続き商会の中へと入る。幸いにして、とても親切な商会だったためか、追い出されたりはせず、手すきの職員がタオルと温かい飲み物を出してくれた。とても助かる……ライゼハンデ商会か、うん、良い商会だ。覚えておこう……


 タオルで濡れたところを拭きながら暖炉の傍で他の乗客たちとともに温まる。危なかった。何とか助かったが、遭難一歩手前……一歩手前はさすがに言い過ぎか? 七歩手前くらいだった気がする。でも、とりあえずテチュカの街に着けてよかった。こんな大雪だと直ぐには動けないだろうから、しばらくはこの街で英気を養うとするか。

 東への逃亡計画が少し崩れてしまったのが怖いが……まあ、これまでユリアの影は一切見ていない。ならば大丈夫なはずだ。それにユリアもこの雪では、移動できないはずだ……たぶん……


 ふと脳内で、クリスク遺跡街にいた時の事――超人的なユリアの姿や、鉄をも溶かすことができると豪語していたスイを思い出した。


 ………………


 …………


 ……


 移動できない状態であってくれ……!



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― 新着の感想 ―
[一言] 私は現在イギリスに住んでいます。冬はかなり寒いですが、雪はあまり降りません(スウェーデンやフィンランドのような北の国とは違います)。 (ちなみに、私は日本語が話せないので、読んだり書いたりす…
[良い点] 私たちの主人公は天才です! また、私が住んでいるイギリスでも同じように雪が降ればいいのにと思います。
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