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一章18話 異世界四日目 昇級審査②


「まず、17層はここからスタートして、確か、こんな感じに進んで、このあたり魔獣が多そうな雰囲気を感じましたので、避けながら進みました。結構18層の入口まで一直線って感じですかね」


 指で適当に地図をなぞっていく。その際、できるだけ戦闘を避け最短距離でいけるルートを選んだ。俺が選んだルートが不思議だったのか、クレーデルがまた口を挟んだ。


「地図をお持ちだったんですか?」


 このようなルートを使った以上、持っている方が自然だ。地図の購入は現金で行えば足はつかない。俺は地図は1層のものしか持っていないが、それは彼らには分からないはず。この場で出せと言われる少し困るが……まあ、その辺りの言い訳はいくらでも作れるか。

 むしろ金欠って言ってたのに地図を買っていた方が不自然か。ああ、いや、金欠の定義は人によるし、『ルカシャ』の件もあるから、俺の言うスケールはたぶん大きく捉えられるはずだ。だから、地図を買うくらいの金を持っていても『金が足りない』というのはそうおかしくはないか。よし、持っていることにしよう。


「ええ、まあ、一応」


「そうなりますと、18層以降も戦闘は避けたという形になりますか?」


「まあ、極力そうですね。一人ですし、避けるものは避けている感じですね」


 話しながらも、地図をチラチラと読み取り20層までの内容を頭に入れていく。


「それでは初めての戦闘は何層になりますか?」


 戦闘を一度もしなかったと言うのは無理そうかな……一応、今テーブルの上にある19層までは無戦闘でいけそうだ。20層は入り組んでいる上に、地図におびただしいほどの×マークがあり、それには注釈に『レム・アガルスト』と書かれている。たぶん魔獣だろう。これは避けようがないな。


「20層です」


 俺が答えると、クレーデルは20層の地図を俺の前に置き、口を開いた。


「やはり『レム・アガルスト』でしたか。ギルドとしても掃討に力を入れているつもりでしたが……まだまだ数が多いようですね。戦闘の内容をお伺いしても?」


 知らん。見た目すら知らないのに、どう語れと……こうなるならば、魔獣に関しても調べておくべきだったか? まあ、自分は採取物だけで魔獣は関係ないと思っていたので、仕方ないと言えば仕方ないが。


「まあ、一人で戦える範囲で戦ってます。具体的な戦闘方法は独自の技術も含まれるので、詳細にというのは、ちょっと……」


「お話して下さる範囲で結構ですので、できない範囲に関しましてはギルドの方で無理に聞いたりいたしませんので、ご安心ください」


 よしよしよし、今までのクレーデルの話口からいけると思っていたが、実際に何とかなると安心するものだ。


「いや、すみません。とりあえず先をお話しますね。20層は、入った後、この細い道を抜けました。地図的に最短コースだったので。『アガルスト』が多少障害になりましたが、それは、まあ、なんとかやりつつ、21層へと向かいました」


 そこまで話したところで、クレーデルが追加の地図を5枚出した。21から25層のものだ。しかし、出された地図は今までのものよりも質が大きく下がっていた。特に25層のものは荒い手書きで、地図のほとんどが空白だ。んんん、これは……


「25層までのものになります。少々荒いですが、御容赦下さい」


 クレーデルの言葉に耳を傾けながらも、5つの素早く地図を頭の中に詰め込む。比較的安全かつ素早く行動できそうなルートはこのあたりかな。


「はい、大丈夫です。えっと、21層も……やっぱり『レム・アガルスト』が多くて、中々大変でした。まあ、ここはこの辺りの広めのところを無理やり突っ切って22層へと向かいました」


 俺が答えると、ここで初めてクレーデルは驚いた表情を浮かべた。少し間違えたかもしれないと思い、他の二人にも目を向ける。若手のベルガウは驚いたクレーデルを不思議そうに見ていて、聖導師のユリアはじっと俺の方を見つめていた。淡い赤色の瞳――彼女の髪色よりも濃いピンク色の瞳からは、謎の圧力を感じる。なんか怖いな。説明を間違えたかな。


「『死のホール』を支援無しで、ですか……いや、流石はフジガサキ様。『ルカシャ』の発見――クリスク遺跡初の快挙を遂げられた方ゆえでしょうか。ユリアさん、これは技術的に他の上位の探索者の方でも再現は可能でしょうか?」


 おっと、説明間違えたな。どうフォローしよう。


「えっと、……その、一応、できないことは無いと思います……ただ、危険です。なので、中々やる人はいないかと……一応、フジガサキさんは両手を空けるタイプの……あ、いえ、何でもないです」


 ユリアは何かを言いかけていたが、途中で止めた。そういう風に途中で止められると気になるな。


「ちなみにユリアさんには可能でしょうか」


 ここで初めて、若手のベルガウが口を開いた。クレーデルも気になっていたのか、視線がユリアの方を向いている。俺も何となく気になるので、ユリアを見た。みんなの視線がユリアを向く。


「え、ええっと……その、私だったらですか…………パーティー全員でなら突破できると思います。ソロだと……少し厳しいですが、できると思います」


「ユリアさんで『少し厳しい』となると、クリスクの大半の探索者には難しいですね」


 少し笑いながら、クレーデルが言った。どうやら、このユリアという少女は上位の中でもかなり強い部類のようだ。うーん、不味いな、俺の評価が良くない事になりそうだ。


「失礼しましたフジガサキ様、話を戻します。22層以降はどのようなルートを取りましたか?」


 クレーデルの言葉に対し、俺は22層から24層の地図を適当になぞり説明した。この辺りの用意された地図が曖昧に書かれているということは、たぶん、殆ど探索されていないのだろう。なので、かなりぼかしても大丈夫なはずだ。

 実際説明はかなりぼかしたが、クレーデルたちが口を挟むことはなかった。


「24層はこんな感じで、えっと25層ですが、この地図は……?」


 25層は地図が殆ど空白なのだ。というか、これはもう地図と言えないのではないかと俺は思っている。


「ご存知かと思いますが、25層は出現魔獣がどれも厄介です。殆どの、と言ってもここまで来れるのは一握りの探索者たちですが、その中の殆どの探索者が25層は引き返すか、素通りするかです。幸い26層までの入口が近いので、そこまでは書けています。フジガサキ様は25層はどうでしたでしょうか? やはり素通りでしょうか、それとも……?」


 クレーデルの声音は若干期待しているようだった。さて、どうしたものか。25層は空白で殆ど人が来ないというのは個人的にとても良い情報だ。チャンスと言っていい。この波に乗ってみるべきか……


「25層は見ました。お宝の匂いがしたので……ああ、思い出しました。確か『ルカシャ』もここだったような気がします。なんか探ってたら出たんですよ。25層くらいだったような……あんまり人がいなかったですね」


「…………なるほど。25層でしたか。確かにあそこでしたら発見は難しいですね。ただ『ルカシャ』の希少性から考えて27層由来の物かと思っていましたが……フジガサキ様は何層まで潜られたんですか?」


 時間的に25層くらいが限界だし、話の上では『ルカシャ』もちゃんと回収できたし、25層ってことにしちゃおう。


「確か25層ですね。『ルカシャ』を回収して抜けたので」


「帰りは25層から転移結晶ですか?」


 やっぱり帰りもワープできるんだ。まあ、時間的に厳しいので、その流れに乗ろう。


「そんな感じです」


「そうでしたか。採取物の方は当日は『ルカシャ』のみを納品されていましたが、他には採取されなかったのでしょうか?」


 これはどう答えるべきか。まあ、無いものは無いのでそう答えるしかないが……いや、一応『ルカシャの灰』『ジキラルド結晶』『トーライト鉱石』の三つがあったな。一応まだ持ってはいる。うーん、どうしようか。


「他にも少量入手はしましたが、とりあえずその日は『ルカシャ』のみを売却しましたね。それで一応ある程度の金は得られると思ったので」


 実際は『ルカシャ』のインパクトが強すぎて、他の三つは忘れていたのだが。


「承知いたしました。では『リィド』の案件に関しましてもご説明をお願い致します」


 そう言って今度は1層からの地図を前に出してきた。俺は今までと同じように地図で進みやすいルートを選び、比較的戦闘は避けて行動したと説明した。合間合間、クレーデルから質問が入ったが、慣れてきたので、そこまで不審な回答にはならなかったと思う。

 全体として、クレーデルとの会話であったが、彼は冷静なタイプなのか、会話中も表情を変えることは少なかった。そういう意味では、残りの二人、ベルガウとユリアの方が表情を変える機会が多かった。

 ベルガウは俺とは相性が悪いのか、俺の説明を聞いている最中、若干不快気な表情をしていることが多かった。まあ、単に体調が悪いだけかもしれないが。一方でユリアはときどき驚くような表情を見せていたが、始終俺の方をじっと見ており、なんだか緊張した。理由は分からない事も無いのだが……

 話が一段落ついたところでクレーデルが口を開いた。


「ギルドの方からの質問は以上になります。フジガサキ様からギルドの方へは何かご要望はありますでしょうか?」


 あんまりないな。というか、これって昇級の調査だよね。何で俺の要望を聞くんだろう……? それも昇級の一環なのか? よく分からないな。まあ、一応、これを機に気になっていた事を聞くか。


「ええっと、情報の扱いはどうなるのでしょうか? 何と言いますか、ソロで活動する探索者はあまりいませんよね。結構、自分は戦い方も独特なので、あまり自分の戦果や採取物なんかの情報は出回って欲しくはないと考えているのですが、その辺りの扱いはギルドではどのようにされているのでしょうか?」


 俺の質問に対して、クレーデルは表情を変えることなく答えた。


「その点に関しましては、ギルドとしては過度な不公平が探索者の方々の中で発生しないように努めております」


 ん? それはどういう意味だ……? えっと情報を保護してくれるってニュアンスでいいのか?


「つまり、ある程度、情報に関しては保護されているという認識で大丈夫でしょうか?」


「特定の探索者の情報を、理由なく広めることも、またその他の探索者に提供することもありません」


 んんん……? 一応保護されるというニュアンスに聞こえるんだが、さっきから言い換えが多いな。うーん、単純に考えて『理由があれば』色々することはあるって事なのかな。まあ、地球でも個人情報の扱いは第三者に提供することは結構あるみたいだし、それはしょうがないか。最低限、必要以上に言いふらさないという事が知れただけでも満足としておくべきだろう。あとは、一応指摘するか……?


「……少し細かい指摘になってしまいますが、『リィド』を売却したときに、ソロの私を見て、買い取り担当の方が『噂の』と言っていたんですが、職員の方たちの間では情報はどのくらい共有されるのでしょうか」


 いや、まあ、これはイチャモンっぽいんだけど、あんな感じの表現を使うところの情報保護意識はどうなんだろうっていう。いや、これ本当にイチャモンっぽいな。ちょっと言わない方が良かったかも。


「探索者の方を支援するのもギルドの役割の一つですので、パーティー構成などの情報は共有しています」


 それはそうなんだけど……なんだろう、『噂の』って響き怖いんだよ。いや、まあ、そこは俺も上手く説明できないから、しょうがないか。納得しよう。


「ああ、なるほど。わかりました」


「その他には、ご質問、ご要望とうございますか?」


「いえ、大丈夫です」


「ありがとうございます。ではユリアさんからは何かございますか?」


 声をかけられたユリアは一瞬びくりと体を震わせて、クレーデルを一度見たあと、再び俺の方へと視線を合わせた。淡い赤色の瞳はどこか悩まし気に見える。


「……私は、………………いえ、大丈夫です」


 その返事は随分と時間がかかったものだった。何か言いたい事があったけれど、悩んだ末に言わなかったって感じだ。なんで俺がそう思ったかというと、俺もよくそういう事があるからだ。さっきの反応の仕方と言い、若干このユリアという少女にはシンパシーを感じるな……


「ありがとうございます。それでは、これで昇級審査の方を終了とさせていただきます。本日はありがとうございました。フジガサキ様には後日、昇級結果をお伝えいたします。どうぞ、ご退出お願い致します」


 言葉に従い、立ち上がった後、一応、三人に礼をして、部屋から退出した。

 うーん、嘘を吐きまくったな……これで良かったのだろうか。一応、面接って嘘つき合戦って言うし、そんなに悪くもないのか……? いやでも、地球にいた頃は面接で嘘吐いたりしなかったか。まあ、そもそも、これは面接と言えるのか……?


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