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二章幕間 追撃戦のはじまり


 ミーフェが逃げ去った後、ユリアとルティナは、一度アーホルンの受付に寄りドアの修理代を払い、それから大聖堂へと向かった。素早く移動した後、大聖堂の奥まった一室に五人が集まる。

 ユリア、ルティナ、アストリッド、マリエッタのフェムトホープの四人の他に、リデッサス大聖堂の聖女であるリュドミラの出席も願ったのだ。


「何かあったようですね」


 微笑むリュドミラに対して、ユリアは悪寒のようなものを感じるが、すぐに気を取り直して口を開く。


「はい。フジガサキさんの件で大きな問題が起きました。さっきあった事を今から話します」


 そうして、ユリアは朝起こった事――藤ヶ崎戒の部屋に押し入ったこと、ミーフェ・ホフナーと出会った事、事情を知っていそうな彼女を捕まえて尋問したことを話した。またそれらの内容から予想される事態、つまり、藤ヶ崎戒が現在おそらくリデッサス遺跡街にいないこと、そしてそのことを隠しながら行動していることを口にする。

 ユリアの話を、アストリッドは冷静な態度で、マリエッタは不思議そうに、そしてリュドミラは少しだけ驚いたような顔で聞いていた。ルティナはそんなリュドミラを不審そうに見えていた。


「あと他にもミーフェちゃんが教えてくれたことで気になることがあって……ミーフェちゃんは、昨日はポドロサクリス遺跡の十層から十五層までしか潜ってないみたいです。それなのに大量の希少素材を入手してて。それが、どうもフジガサキさんが原因みたいなんです」


「十五層!? ミーフェが嘘吐いてるんじゃない! 探索者やギルド周りの情報だと、ミーフェが納めた素材は三十層クラスらしいよ!」


 ユリアの言葉にマリエッタが反応した。


「ええっと、マリエッタさんたちの情報を疑ってるわけではなくて、それはたぶん正しいんだと思います。でもミーフェちゃんも嘘は言ってないと思います。ミーフェちゃんが言うには、探索は全部フジガサキさん任せで、フジガサキさんの言う通りに探索したら色々見つかったみたいです。実際の探索ルートも聞きましたけど、結構変な所を調べてたりして……私は、これがフジガサキさんの持ってる悪魔の術に関わってるんだと思います」


 悪魔の術――それは、悪魔憑きが持つと言われている特殊な力だ。禍をもたらすと言われるそれが社会に拡散するのを防ぐのが聖導師の役目の一つだ。


「悪魔の術について、私は詳しくは無いけど、随分変わった能力に聞こえるわ。探索した時に良い素材を見つける能力ってことかしら?」


 アストリッドは元々教会と関りがあっただけの探索者にすぎない。故に悪魔憑きと悪魔の術に関して、ユリアから聞いた程度の情報しか持っていなかった。アストリッドにとって悪魔の術のイメージはコストが発生しない魔術であり、かつ教会から敵視されているというものだ。勿論、ある程度は教会に関係しているアストリッドとしては、悪魔の術は倫理的に邪悪な要素を持っているのかもしれないと考えてはいた。

 しかし、そんな彼女からしてもユリアの言葉は少し不思議に思えた。能力が漠然としているのだ。それは悪魔の術というのだろうか。それはむしろ――


「なにそれ! 運がよくなる能力?」


 アストリッドが感じたことと同じようなことをマリエッタが口にした。


「私は、自信は無いですけど、魔力を弄る能力なんじゃないかと思ってます。遺跡の中にある大きな魔力を弄ってるんだと思います。根拠は無いですし、もしそうだとしても仕組みは分からないですけど、そんな気がします」


 ユリアの主張に対して、アストリッドとマリエッタの二人は納得がいかないような表情をした。一方でリュドミラは先程とは違い興味が薄そうな顔をして、そしてルティナはそんなリュドミラに対して不審感を強めた。


「……それで、えっと、纏めると、今の状況とミーフェちゃんの証言から考えてフジガサキさんは私たちの動きに気付いて逃げたんだと思います。たぶんフジガサキさんは自分が悪魔憑きだと知ってるんだと思います」


 話が逸れそうになったため、ユリアは結論を述べた。


「導師ユリア、話はよく分かりました。このタイミングで何も言わずに(・・・・・・)リデッサス遺跡街を離れたということは、導師ユリアに言うように逃げたと考えて良いでしょう。ミーフェ様を使ったことや導師ユリアたちを上手く欺いたことを考えると、計画的で、逃亡の意志が強いと言えます。悪魔の術らしきものを持っているようですし、悪魔憑きであると考えていいでしょう。導師ユリアはどうされますか?」


 ユリアの話が結論に達すると、リュドミラは急に興味を取り戻したかのように言葉を紡いだ。そして、好奇の目でユリアを見た。そんなリュドミラをルティナは奇異の目で見る。


「えっと……そうですね。逃げたのなら、捕まえようと思います。この後、逃亡先を調べます。目星がつき次第、追いかけるつもりです」


 その回答を聞き、リュドミラは笑みを深めた。


「そうですか。捕まえるのですね。それは構いませんが……一人で追いかけることは許しません。悪魔憑きは危険な存在です。悪魔憑きを専門に狩る聖導師ならばまだしも、導師ユリアは悪魔憑きとの戦闘経験はないと聞いています。ですから、必ず他の聖導師を伴って追わなくてはいけません」


「それは……でも、すぐに追いかけないと……!」


 強い意志を持ったユリアの瞳を見て、リュドミラの口元が僅かに緩んだ。


「……でしたら、私が同行いたしましょう。最下級とはいえ聖女の端くれ。悪魔憑きに対抗する『力』になれるでしょう。それに、私がいればリデッサス大聖堂の判定具を持ち出すこともできます。念のため彼が本当に悪魔憑きかどうか確認することもできるでしょう」


「……! ありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらないでください。悪魔憑きを捕まえるのは聖導師の役目です。ふふっ、必ず彼を地下牢に繋いでみせましょう」


 リュドミラの宣言のような言葉を聞き、ルティナは顔をしかめた。


「ありがとうございます、リュドミラ様。そう言ってもらえると、心強いです…………でも、一つ聞いていいですか」


「ええ、勿論です。何か気になる事でもありましたか?」


「どうして、今になって……? あの、リュドミラ様は前は一人で当たるように言ってましたよね。今回も聖具を私に預けて、大聖堂までフジガサキさんを連行するように言いました。それはどうしてですか?」


 ユリアはリュドミラから借りた聖具を懐から取り出しながら、彼女に問いを投げかけた。


「あの時は状況が違います。ふふっ、そうですね。では正直に申し上げます。私は導師ユリアと違い、彼が悪魔憑きかどうかなど、そもそも疑っていなかったのです。もし疑っていたのならば、悠長に連行などせずに、聖具を使い彼を拘束し、大聖堂の外であっても判定具を使ったことでしょう。ですが疑ってなかったのです。その事はお詫びしましょう。導師ユリア、あなたの疑いが正しかったということなのですから」


 リュドミラの言葉を聞き、ユリアに疑問の一部は解消された。ユリアは、まだ疑問を感じていたものの、リュドミラが謝罪したため、この件に関してのこれ以上の追求は一旦は諦めることにした。


「あ、いえ。その、そういうことでしたら、しょうがないと思いますし……えっと、その、ありがとうございます。一緒に来てくれて。あと、その大丈夫ですか? 私は、凄く助かりますけど……リュドミラ様はフジガサキさんのことが……」


 ユリアはそこで言葉を止めた。


――好きだったのではないのか。それも能力を使用してしまうほどに。


 そんな風に思い浮かんだ言葉を言えなかったのだ。

 もし、藤ヶ崎戒が悪魔憑きであるならば、聖導師として厳しい扱いをしなくてはならない。それは彼に好意を寄せているリュドミラには酷なことではないのだろうか。そうユリアは感じていた。

 ただ同時に指摘するのは躊躇われた。そんなことはリュドミラ自身分かっていることのはずなのだから。つまり、リュドミラは感情よりも使命を優先させたのだろう。ならば、わざわざ自分がリュドミラの気持ちを声高に叫ぶ必要はない。それに、もし指摘してしまえば、その言葉は自身にも刺さるということにユリアは気付いていた。

 そう、ユリア自身にも刺さる言葉だったのだ。


「彼のことが、なんでしょうか?」


 リュドミラの問いかけてで、ユリアははっとした。


「いえ……えっと、とにかく、ありがとうございます」


「いえいえ、お構いなく。では、早速、彼を捕まえる計画を立てましょうか」


 言葉を飲み込むユリアに対して、リュドミラは特に気にすることなどないような態度で応じた。ユリアにはリュドミラのことがよく分からなかった。しかし、そればかりを気にするわけにはいかず、リュドミラの言葉に従い藤ヶ崎戒を捕まえる計画を考え始めた。


 そうして、しばらくの間、五人は作戦を練った。リデッサス遺跡街を離れたと思われる彼を追いかけ捕まえるための作戦を。

 ユリアは作戦を考えているときに、おかしなことに気付いた。胸の中にあった不快感は薄れていたのだ。そして、その理由に気付いてしまい、顔を強張らせた。しかし、すぐに表情を掻き消し、藤ヶ崎戒捕獲作戦をリュドミラたちと共に詰めるのであった。



これにて本当に二章終了……と言いたいところですが、ハーメルンの人気投票結果一位記念の話を次回UPしようと思っていますので、もう少しだけ二章が続きます。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] おめでとう! 第3章を楽しみにしています ^_^
[気になる点] カイの能力って遺跡にいいアイテムをプレゼントされる能力だと変に捻って考えていたけど、ユリアの考えみたいなシンプルな能力なのかな? [一言] 前話あたりまではもうラブコメ無理ではと思って…
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