二章83話 さらば!
ギルドの方から冒険者たちの話声が聞こえる、なんでも迷惑探索者のホフナーが大量の素材を持ち込みギルド中を賑わせているようだ。おお、凄いことが起こっているようだ。
そうしてしばらく持っていると、バックパックを背負ったホフナーがやってきた。両手は空いている。素材は全部売れたようだ。いやー、良かった、良かった。俺も少しは『おこぼれ』が貰えると嬉しいな……二割くらい貰えたりしないかな? ダメかな? 一割でもいいんだけど。
「ミーフェさん。お疲れさまです!」
「ん。戻った。まあ、結構売れたよ。ギルドの連中が無駄にビビってたかな。ミーフェ的には三割くらいの力しか出してないんだけどな。はぁー。レベルの低いヤツに合わせるのも楽じゃないんだけどな」
平然とした風を装っているが、顔がニコニコし過ぎている。遺跡を出てからずっとこんな感じの顔だ。緩みきっている。
「本当にお疲れさまでした……!」
「ん。あと、今日の取り分だけど、とりあえず半々ね。本当はリーダーのミーフェが七割貰うとこだけど、まあカイも頑張ったから今回は半々でいいよ」
……え、五割貰っていいのか。嬉しいぞ。いや、流石に少し気まずいぞ。俺は殆ど何もやって無いし、化物能力で無双したホフナーと同額貰うのは申し訳ない。いや、まあ、売却益の半分以上は俺の『感覚』由来だろうけど。でも、ホフナーがいなかったら成立しなかったと思うし、五割は貰いにくい。
「いえ……! 流石にそんなには貰えません。自分は探索ルートの選定や採取しかしていませんし、ミーフェさんと同額貰うわけには……」
「ミーフェは……まあ、いいか。じゃあ何割欲しい?」
ホフナーは何か言いかけたが途中で止めると、質問を投げかけた。
……自分で言うのは中々難しいな。うーん? 二割くらい? うーん?
「えっと、その自分はミーフェさんに比べると全然できていないので、多くても三割が限界で、実際の働きを考えると欲張って二割――」
「――じゃあ三割」
全て言い終わる前に、ホフナーが俺の言葉を遮った。そしてバックパックから幾つか袋を取り出し、俺に押し付けてきた。
「あ、えっと……」
思わず受け取ってしまう。ずっしりとした重みを感じた。流れからして報酬の金貨の三割だろう。なかなか重い。金貨数百枚はありそうだな……
「残り二割はクランの保管にしておくから。カイは好きな時に使っていいよ。カイのことは信じてるから」
俺が狼狽えているとホフナーがさらに言葉をかけてきた。真っすぐな瞳が俺を捉えた。何だか、凄く気まずく思った。
「それは……とてもありがたいです。大変高く評価して下さって、ありがとうございます」
「ん。ミーフェは優秀なヤツはちゃんと評価するから」
「ありがとうございます……!」
それからホフナーを讃えたり、バックパックに貰った金貨を隠したりして十数分ほど時間を浪費させた。ホフナーはずっとにこにこしている。上機嫌だ。
……よし。時間も良い感じになってきたし、そろそろ終わらせるか。
「ミーフェさん。今日は本当にありがとうございました。ミーフェさんと組めたこと、これまでの自分では経験できないような体験でした」
「うん」
素直に頷くホフナーが少し可愛く見えてしまった。それを気にしないようにしつつ、別れの言葉を放つ。
「本当にありがとうございます。では、明日も早くなりそうですし、今日は、こんな感じで……!」
さらば……!
「?」
きょとんとした顔でホフナーが俺を見た。俺はそれに頷き、ホフナーの下を立ち去る。しかし、数歩と歩かぬうちにホフナーに捕まった。
「ちょっと、どこ行くの?」
見ると半笑いのような半不機嫌のような顔のホフナーが俺の腕を掴んでいた。
「いえ、まあ、明日も早くなりそうですし、今日は、こんな感じで、一旦別れようかと思いまして……」
「は? 探索したら反省会でしょ。はー、常識無いなー」
ホフナーは急に不機嫌全開の顔をした。お怒りのようだ。
「えっと、すみません。今日はもう結構疲れてしまってますし、それに、あんなにミーフェさんが注目された後で反省会をやるのは、難しいかと思いますが……」
「ミーフェが反省会やりたいって言ってるんだけど?」
ホフナーの表情が徐々に怒りに変わっていく。
ここまで言われたら本来の俺であればホフナーに合わせるが……もう今日以降会わないし、ホフナーの機嫌は取らなくていいかと思っている。というか『反省会』とやらのせいで馬車に乗り遅れたら嫌だ。
もう高飛びするし、嘘を吐くのもありか……馬車の出発時間も近いしな。できるだけ嘘は吐きたくなかったが仕方がない。
「いえ、その、今回ばかりは。先程も申し上げましたが、今の自分がミーフェさんのお傍にいると迷惑をかけてしまうと思ったのです。ですから、少なくとも今日は止めましょう。本当は、今こうして一緒にいるだけでも不味いかと思っています……ああ、そのつまり、すみません、変な言い回しになってしまいましたが、自分はミーフェさんとの反省会は今ではなく後日やりたいと思っています。後日に」
何時やるとは言っていない……! 百年後、二百年後といったことも可能……!
「ミーフェは今やりたいんだけど」
……禁じ手を使うか。
「――ミーフェさん!」
俺の腕を掴むホフナーの腕を両手で握る。勿論、力は弱く。握るというか支える感じだ。祈るような感じで軽く握る。
「何?」
「今だけは、今回だけは、お願いを聞いて頂けませんか。ミーフェさんのことはとても尊敬しています。いつかミーフェさんのような偉大な探索者になりたいと、もしなれなくても足元に届くくらいにはなりたいと思っています……! ですから、できる限りはミーフェさんのお言葉に従いたいです。今までも、そうしてきました……! ただ、今回はお願いします。自分のような者と一緒にいるせいで、ミーフェさんが不要に侮られたり、低く見られたり、そう思うだけで苦しいという思いが、自分の中で出ていくような、そんな感じを感じてしまいます。ですかから今日だけは。後日、また……!」
禁じ手であるゴリ押しを使う。正直自分で喋ってて色々と意味が分からない。『感じを感じてしまいます』とか何だよ。何を感じているんだよ、と自分でツッコミそうになる。嘘を言わないように努力しようとして結果、意味不明の勢いだけの言葉を並べてしまった。でもホフナーには、これがある程度効果がある。
チラリとバレないようにホフナーを見る。怒りの気配が薄れたな。不機嫌そうだが、許してもらえそうな感じだ。
「は~、普通は首領であるミーフェに意見するとか、ボコボコにして立場分からせるところだよな~。はー、まあミーフェ器デカいから特別に許してあげてもいいよ」
よし! これで終わりだな! 感想戦に入ろう。
「ありがとうございます……!」
ホフナーは色々と問題はあるかもしれないが、総合的に見れば探索者パーティーのリーダーとして十分な人だと思った。類稀な戦闘力、割と幅広い知識、意外にメンバーを気遣う精神と魅力的な能力を持っている。最初に転移結晶を十層のものにすり替えた事以外は大きな問題点は無かったと思う。いや、まあ、それが重大過ぎる問題だけど。でも、結局、問題なく探索も終わったので、結果的には問題でもないのか……?
「あんまり調子のいいこと言ってもダメだから。今日は特別に許すっていうか。いつも許してもらえるとか考えたらダメだから。その辺りも反省会の時、話すから、ちゃんと準備しておくんだよ」
ともかく、ホフナーは意外にリーダー適性がある人だと思う。資金さえ準備できれば、彼女は、『クラン作りという夢』を成し遂げることができるかもしれない。アストリッドも、『時間が経てばホフナーは優れた探索者になる』みたいなことを言っていた気がするし、十年くらいすれば、本当に一流クランのリーダーになってるかもしれないな。
「はい! ありがとうございます!」
まあ、俺は忙しいので、参加はできない。けど、一流のホフナーにはきっと俺よりも相応しいクランメンバーがいるだろう。そのメンバーとともに栄光を勝ち取って欲しいものだ。
「ん。じゃあ、明日やるから。しっかり準備してからミーフェの部屋に来て」
感想戦おしまい。
「頑張ります!」
よし。これで、本当にお別れだ。さらばホフナー。君ならばきっと偉大なクランを作れるだろう。俺もいつかまったりと生活するため……今は東の国へ逃げよう!
そう決意を新たにして、俺はホフナーと別れ、予約した馬車に乗り込みリデッサス遺跡街から旅立った。さらば富の集約点……! さらば偉大な探索者たち……! そしてようこそ富! ようこそ逃走生活!
これにて二章完結です。
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あと少しだけ幕間をやった後は三章に入ります。
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