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二章80話 ミーフェ無双


 そうして、現在、俺とホフナーは十四層にいる。十四層にて、戦闘中だ。


 十四層には大きなホールがある。数本の通路が合流して大部屋を形成しているのだ。中々広い部屋だ。そんな部屋の中でホフナーが一人戦っている。

 俺はホールに繋がる通路の一つに体を隠し、ホフナーから預かった彼女のバックパックを抱えつつ戦況を見守っている。何回かの戦闘により、俺に役割は既に決まっている。『少し離れたところから見ている』だ。まあ、役に立たないので足を引っ張らないようにということだ。一応、他の魔獣が近づかないかの警戒はしている。何かあったら戦闘中のホフナーに大声で知らせようと思っている。


 そのため、じっと体を縮めホフナーの戦闘経過を見ている。

 そう、ずっと見ているのだ。既に数分は戦っている。あのホフナーがだ。今までほとんどの戦いを数秒か、長くても十数秒で『処理』していたホフナーが数分近く『戦って』いる。つまり、相手が強いのだ。いや、強いだけでない。数も多い。


 今、ホフナーが戦っている魔獣は『ラヒゼカート』と呼ばれる鳥の魔獣だ。一羽、一羽のサイズは大きな鷹ぐらいだろうか。大きさだけならホフナーが瞬殺した魔獣『スコギウ』の方が大きい。

 しかし『ラヒゼカート』は素早く、何より空を飛ぶ、しかも近接攻撃手段だけではなく遠距離攻撃手段を持っている。おまけに数も多い。ホフナーは八羽いる『ラヒゼカート』に囲まれ、遠距離から攻撃されている。ホフナーも素早く『ラヒゼカート』の攻撃を避けるが、空を飛べないホフナーでは『ラヒゼカート』への攻撃手段が少ないため、いつものような速攻は決められないでいる。


 ただ、ホフナーは現在無傷だ。戦闘が始まってから、何度も『ラヒゼカート』が遠距離攻撃――なんと羽を弾丸のように飛ばすという攻撃を繰り返しているが、全然ホフナーには当たらない。超人的な動きで回避している。ホフナーに当たらなかった羽弾が遺跡の床面や壁面に突き刺さる。遺跡の床面や壁面は非常に頑丈なため壊れることはない。

 しかし、ホール内にあるオブジェクトのようなものは別だ。金属で作られているようなそれは『ラヒゼカート』の羽弾により所々穴が開いている。非常に貫通力がある攻撃だ。当たればひとたまりもないだろう。ホフナーは今の所、全ての攻撃を回避しているが、見ている方はどきどきしてしまう。


 一方で、『ラヒゼカート』側は徐々に数を減らしている。戦闘開始時には『ラヒゼカート』は十二羽いた。既にホフナーは四羽の『ラヒゼカート』を仕留めている。

 ホールでの戦闘はホフナーの奇襲から始まったのだ。この時、ホフナーは床面近くで休んでいた『ラヒゼカート』に急接近し二羽を仕留めた。そして、ホフナーに気付いた『ラヒゼカート』十羽は即座に散開して、ホフナーに襲い掛かった。何度か『ラヒゼカート』の攻撃を避けた後、ホフナーはホール内のオブジェクトをジャンプ台にして空を駆け、さらに一羽を仕留めた。その後はどちらも傷を負うことなく、数十秒間、『ラヒゼカート』はひたすら遠距離攻撃をホフナーに放った。しかし、ホフナーは全てを避けた。『ラヒゼカート』は遠距離攻撃が当たらないことで方針を一時変更したのか、数羽が一斉にホフナーに急接近し、鋭い爪で彼女を切り裂こうとした。しかし、近距離戦でホフナーに敵うはずがなく、逆に一羽が切り裂かれた。


 それからあとは、『ラヒゼカート』も学んだのか、ただただひたすら高高度から羽弾を飛ばし続けている。羽弾は一発もホフナーに当たることは無いが、高高度に逃げた以上、ジャンプによる奇襲も難しい。故に双方決め手に欠け、かれこれ二分以上、どちらも攻撃を当てられない状態が続いている。ホフナーの顔色を見るに、何とも余裕そうだ。特にピンチというわけではないみたいだが……これは決着がつかないのでは?


 どうする……? 何か援護の手段を打つべきか。いや、変に介入してホフナーの足を引っ張るのは大問題だ。それは避けねば。とりあえず、ホフナーは余裕そうだし、問題はないと思うが――あ!


 俺が考えていると戦場が大きく動いた。ホフナーが『ラヒゼカート』の攻撃を避けている最中に何かを投げたのだ。あまりにもモーションが早くて、そして投擲されたものの弾速も速すぎて何が投げられたのかは分からない。しかし、それは、いやそれらは『ラヒゼカート』に見事命中した。『ラヒゼカート』が二羽地上に()ちる。

 俺が驚いているうちにも気付けばホフナーが空中を飛んでいた。え? 何で? 


 そして驚く間もなく、『ラヒゼカート』の一羽を空中で切り裂き、そのままホフナーは天井に到達すると同時に天井を蹴り、跳ぶ方向を変え羽弾を避ける。そして跳んだ先にある壁を蹴り、また方向を変える。

 そうしてぴょんぴょんと壁と天井を行き来し、さらに二羽『ラヒゼカート』が切り裂かれる。残るは三羽。生き残った『ラヒゼカート』がバラバラの方向に逃げるように散る。

 できるだけ直線的にホフナーから逃れようとした『ラヒゼカート』はホフナーが投げたナイフにより仕留められ、曲線的に逃れようとした『ラヒゼカート』は跳躍しながら接近するホフナーにより切り裂かれた。最後の一匹は跳躍するホフナーを恐れたのか床面ギリギリを飛び逃れようとするが、普通に地上に戻り急接近したホフナーによって切り裂かれた。


 今、十数秒だろうか。苦戦していると思ったら、結局、十数秒で、ホフナーは全ての『ラヒゼカート』を打ち取った。いや、本当に凄いな。というか床だけでなく壁や天井を蹴って跳躍するとか、もはや人間の動きじゃない。


 地上に戻ったホフナーはホール内に散らばる『ラヒゼカート』の死骸のうちの一つの近づくと、ナイフを死骸に突き刺した。刺された死骸がピクリと跳ねて動かなくなった。……生きててトドメを刺したのか。よく生きているって分かったな。


「よし。カイ、全部殺した。来ていいよ」


 ホフナーは通路に隠れている俺に向かって声をかけた。なんか、出て行くの怖いな……いや、まあその、出て行かないわけにはいかないから行くけど。




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