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二章79話 相互わからせ


 それからホフナーと共に探索を継続した。十一層に着くまでの間に何度か戦闘があったものの、全てホフナーが敵対する魔獣を瞬殺した。本当に毎回瞬殺だ。そして魔獣に気付き接近して対処するという流れが非常に速いので、俺は十一層突入までホフナーの戦うところを見ることができなかった。

 転機が訪れたのは十一層だ。十一層に降りると、いつも通り『感覚』が発動した。そして地図を見ながらそちらにホフナーを案内している時、二度目の戦闘で、初めてホフナーの戦っている所を目撃した。


 何というか、凄かった。本当に凄かった。

 人間では到底出せなそうな速度でホフナーが、魔獣に接近していた。

 接近方法も色々あり、単純に遺跡の床面を走ることもあれば、壁を垂直に走るみたいな曲芸をやることもあり、狭い通路などでは壁を次々と蹴って跳躍しながら魔獣に接近することもあった。

 そして接近してからも凄かった。直線的に接近し、奇襲するようにナイフで魔獣の急所部分を貫くこともあれば、接近後にフェイントをかけて急旋回してから魔獣を切り裂くこともあった。なんか凄かった。凄かったとしか言えなかった。速度も凄いし、変態的な旋回性も凄いし硬い魔獣の皮をナイフ一本で貫くのも凄い。急接近、急旋回ができる上に凄まじい攻撃力だ。まだ防御面はよく分からないが、これだけ、ぴょんぴょん動き回るならば、概ね『防御』と呼ばれる行為をする機会がないかもしれない。


 総じてまとめると、ホフナーも間違いなく超人だ。人間辞めてる。クリスクの聖堂図書館でユリアの超人的な力の一端を見た事があったが、ホフナーの力も凄まじかった。少なくとも、派手さではこちらの方が上だろう。ホフナーがあんなに自身の力の強さを吹聴するのも理解できるものだ。


 俺はもう本当に凄くホフナーを褒め称えた。いつもは適当だが、今回は本気で褒め称えた。いや、だって、本当に凄いから。


 なお、『感覚』の成果はいまいちだった。『感覚』によって導かれた部屋にはニ十数層の素材が少量あるだけだ。さっきのが三十層相当のものが大量だったので、なんか寂しい感じだ。

 しかし、ホフナーはそうは思わなかったようで、驚いた表情で目を見開き固まっていた。そして俺の方を恐る恐る見る。

 ……あ、やべ。

 俺は急いで、驚いている表情を作ろうとして、途中で止め、茫然としているような表情を作る。


「こんなことが起こるなんて……」


 そして、ホフナーが何かを言う前に、独り言のように呟く。


「カイも、初めて……? いや、まあ、別にミーフェは初めてじゃないっていうか。この位、普通によく見るっていうか。まあ、この階層だと珍しいかな。うん。まあ、珍しいだけっていうか。いや、別にミーフェ驚いてないから」


 珍しかったようだ。あー、駄目だ。『感覚』産の素材が当たり前すぎて、忘れていたが、普通にニ十層帯の素材とかかなり珍しいし貴重だ。それが十一層にあるなど有り得ない。本来ホフナーの態度が普通の反応なのだろう。

 やはり『感覚』の効果は人に見せるべきではないな。今回は非常時のため、効果を見せることになってしまったが、今後は控えよう。あ、いや、今は今後のことではなく、現状のケアをしよう。


「そうでしたか……! やはりミーフェさんは凄い!」


 まずはホフナーをとりあえず上げておく。しかし、今回は効き目は薄く、ホフナーは複雑な表情を浮かべた。いつもならこれで満足してくれるはずなんだが……うーむ。


「いや、うん、まあ、そうだけど……あのさ、カイは、いつもこんな感じだったりする……? いや、まあミーフェもいつもこんな感じだけど。一応言っとくけど、ミーフェ、ビビッてないから。まあ、カイがいつもこんな感じだったら、ミーフェと同格くらいには認めてやってもいいっていうか。いや、同格でもミーフェの方が上だけど」


 ホフナーの表情には僅かに怯えが含まれているように俺には思えた。

 ……疑われている? いや、いや、いや、大丈夫だ。ホフナーを信じろ。


「まさか! 初めて見るものばかりです。それより、ミーフェさんはこれが『いつも』なんですか……信じられません! あ、いえ、失礼しました。首領であるミーフェさんのことを仮にでも『信じられない』など言うなどクランメンバー失格でした。すみませんでした、ミーフェさん。ただ、本当に自分には分からないことが多くて、驚いてしまいまって。その、きっと、ミーフェさんを神が祝福しているとしか思えません……!」


 ゴリ押しだ……ホフナーならいける……!

 チラリとホフナーを観察する。少し前までは自信無さげな顔をしていたホフナーだったが、俺の話を言葉を聞いていくと段々と自信を取り戻したような顔になり、最後には得意げな表情を浮かべた。


「まあミーフェ超一流だから」


 よし! 誤魔化せた! ホフナーならいけると思った! この少女、やっぱゴリ押しに弱いぞ……!


 素材を一通り回収し、さらに何度かの戦闘をホフナーがこなした後、十一層を抜け、そして、十二層でも同じように進んだ。俺がホフナーの尋常じゃない戦闘技術に驚き、一方で、ホフナーは入手できる素材に感動していた。

 まあ、俺はずっとホフナーの超人的な動きに対して常に新鮮さを感じていたが、ホフナーの方は慣れるのが早く十二層では怯えた表情を見せることは無かった。むしろ得意げな表情で俺を見ていた。良かった。良かった。


 それから十二層のある下層に繋がる通路――比較的、魔獣の出現が少ないとされる通路で、ホフナーと一緒に昼飯を摂取した。昼飯はホフナーが用意すると言い張っていたので、彼女が用意してくれたビスケット、干し肉を食べた。昨日もホフナーの部屋で貰ったものだ。味は、変わらず普通だった。

 正直に言うと、探索中に食べるものは士気が上がるような物がいいと思った。たぶん贅沢な願い事だろうけど……まあ、いいや次があれば俺が用意しよう。いや、ホフナーとはもう二度と一緒に探索しない予定なので、次などは無いけど。


 昼飯を食べた後、探索を再開した。十三層は概ね十二層と同じように進行した。

 ただ違う点としては『感覚』産の素材が中々良かった点だ。三十層産のものだ。結構深い。三十層の素材は個人的にはレアな気がするので嬉しい。ギルドの資料でギリギリ見たやつだ。

 なお、ホフナーは難しそうな顔で素材を見ていた。あまり喜んでなかったことから察するに、知らない素材だったのかもしれない。

 何となくホフナーの活動層が分かってきた。たぶんニ十層前半くらいまでがメイン活動層なのだろう。『感覚』を持ってる俺からすると、『そんな感じか―』と軽く流しそうになるが、冷静に考えて、ソロでニ十層超えている人とか聞いたこと無いのでホフナーは本当に凄い人物なのだろう。



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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり探索に関しては相性良さそうですね 教会組はなんかきなくさいし
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